繰越欠損金は赤字を翌年以降の黒字と相殺することで節税効果を得られる重要な制度です。しかし適用するにはいくつかの条件があり、青色申告の実施や連続した確定申告、帳簿書類の適切な保存などが求められます。白色申告でも一定条件を満たせば繰越欠損金が利用可能ですが、税務管理の観点からは青色申告が有利です。本記事では、繰越欠損金を正しく活用するための3つの条件や、青色申告と白色申告の違いや注意点を解説します。
目次
繰越欠損金を適用するための3つの条件
繰越欠損金を適用するための3つの条件について、以下の表にまとめました。
条件 | 内容 | 注意点・補足 |
欠損金が生じた事業年度に青色申告している | 欠損金が発生した年に青色申告で確定申告していることが必須 | 赤字であっても、青色申告をしていないと繰越不可 事業年度開始日前日までに「青色申告承認申請書」の提出が必要 |
欠損金発生年度以降も連続して確定申告している | 欠損金がある年以降、毎年確定申告を続けていること | 一度でも申告を怠ると、繰越欠損金の適用ができなくなる可能性あり |
帳簿書類を適切に保存している | 対象年度の帳簿書類等を原則として7年間保存する必要がある | 保存が必要な書類:仕訳帳、総勘定元帳、売上帳、損益計算書、領収書など 保存期間は「申告書の提出期限の翌日から起算」 法人は会社法上も10年保存が必要 |
これらの条件を満たせば繰越欠損金の制度を適切に活用でき、税負担の軽減につなげられます。条件に当てはまっているかどうかの判断に悩む場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
関連記事:繰越欠損金とは?適用条件や繰越期限・税効果会計や繰戻し還付制度も解説
白色申告でも繰越欠損金は可能?

繰越欠損金は損失が発生した年度に青色申告をしているのが前提ですが、その後の年度で白色申告に変更した場合でも適用可能です。
つまり、赤字を出した年度に青色申告の承認を受けていれば、その欠損金を翌年度以降に繰り越すことが可能です。たとえ翌年度以降が白色申告であっても、繰り越した欠損金を使って黒字と相殺できます。
なお白色申告とは、単式簿記による比較的簡易な記帳方法が認められる申告形式です。複式簿記が求められる青色申告より記帳負担が軽いという特徴があります。
ただし、税務管理や損失の正確な把握の観点からも、引き続き青色申告を選択することが望ましいといえるでしょう。
青色申告から白色申告に変更する方法

青色申告から白色申告に戻す場合は、青色申告をやめる手続きをしなくてはいけません。青色申告をやめたい場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。
提出期限はその年の翌年3月15日までと定められ、この期限は確定申告の締切日と同じです。
もし青色申告の準備が間に合わなければ、白色申告の申告書類を作成し、届出書と一緒に提出して問題ありません。
届出書は税務署へ直接持参するか郵送で提出できます。郵送する際は届出書を2部記入し、郵送日などを記載して1部は保管しましょう。
なお、やめる理由が廃業や法人化(法人成り)であれば「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出も必要です。
今年度のみ白色申告にすることも可能
これまで青色申告をしていて今年度分のみ白色申告に切り替える場合「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出は必要ありません。以下のように白色申告で必要な書類を用意して、確定申告の際に提出しましょう。
- 確定申告書
- 収支内訳書
- 各種控除証明書など
ただし、白色申告であっても帳簿の作成と保存は義務です。収入や経費を記載した「法定帳簿」は7年間、それ以外の帳簿・決算関係書類・請求書・領収書などは5年間の保存が求められます。
青色申告と比べて控除や特典が少なくなる点も踏まえ、申告方法の選択は慎重に行いましょう。
白色申告より青色申告の方がお得な理由

以下では、白色申告より青色申告の方がお得な6つの理由について解説します。
最大65万円の青色申告特別控除が受けられる
青色申告を選択する最大のメリットは、最大65万円の青色申告特別控除を受けられることです。この控除により、課税所得を大幅に減らせる可能性があります。
この特典を受けるには、複式簿記による記帳に加えて、貸借対照表と損益計算書の提出が求められます。さらに「電子申告」または「優良な電子帳簿の保存」のいずれかを実施することが必要です。
青色申告の承認を受けていても、複式簿記で記帳していない場合は控除額が10万円に減額されます。「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出を忘れないことが前提です。
赤字を3年間繰り越しできる
青色申告をしていれば、赤字を最大3年間繰り越すことができ、翌年以降の黒字と相殺して節税が可能になります。この控除を「純損失の繰越控除」と呼びます。
さらに、前年に黒字で当年が赤字の場合は、「繰戻還付」によって前年に納めた税金の一部を取り戻すことも可能です。
青色申告専従者給与を必要経費にできる
青色申告では、家族に支払った給与を経費として計上できる点も大きなメリットです。「青色事業専従者給与」といい、節税につなげられます。
この制度を利用するには給与を支払う年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります。開業後の初年度であれば、事業開始から2カ月以内であれば提出が可能です。
家事関連費を必要経費にできる
青色申告者であれば、自宅兼事務所の光熱費や通信費などを家事関連費として経費計上することができます。白色申告よりも柔軟に対応できる点が特長です。
原則として、白色申告では業務使用が全体の50%超でないと経費にできません。しかし青色申告では事業に使った部分が明らかであれば、按分して経費にできる点が有利となります。
貸倒引当金を設定できる
青色申告では、回収不能が見込まれる売掛金に対して「貸倒引当金」を設定し、将来の損失に備えて経費処理できます。
この手続きをすることで今期の所得から事前に控除できて、翌期に実際に貸倒れが発生した際にもスムーズな会計処理が可能です。回収できた場合は、翌期の所得に戻す処理を行います。
減価償却の特例が受けられる
青色申告をしていれば高額な備品の購入時に一括で経費処理できる「少額減価償却資産の特例」を活用できます。30万円未満の資産であれば、その年に一括で経費にでき、年間合計で最大300万円まで計上可能です。
通常は数年にわたって減価償却が必要な資産でも、初年度から経費にできることでキャッシュフローにゆとりが生まれやすいです。
関連記事:青色申告のメリット5つ|デメリットや適用をおすすめできる人とは?
白色申告でもできる繰越控除
被災事業用資産の損失がある場合、白色申告でも損失を翌年以降3年間繰り越して控除できます。ただし、損失が生じた年以降、連続して申告を続けていることが条件です。この控除は、震災や風水害、火災などによる事業用資産の損失に適用されます。
繰越欠損金を活用する際の注意点

繰越欠損金は便利な制度ですが、適用には細かなルールがあり、誤って適用すると損をする可能性もあります。ここでは、制度を活用する際に見落としがちな3つの注意点を解説します。事前に理解しておき、適切な税務対応ができるように準備しておきましょう。
繰越欠損金は最も古い年度から利用する
繰越欠損金を使用する際は、最も古い年度の欠損金から順番に控除する必要があります。たとえ新しい年度の欠損金の方が金額が大きくても、任意に選んで使用することはできません。
繰越控除の対象となるのは、各事業年度開始の日以前3年間)に発生した欠損金です。より古い欠損金から順に使うというルールを把握しておきましょう。
繰越欠損金の利用はスキップできない
繰越欠損金は翌期から順に控除していくルールがあります。そのため、繰越欠損金の利用をスキップすることはできません。節税を目的に繰越欠損金のタイミングは操作できないため、申告時の所得状況を正確に把握しておきましょう。
まとめ
繰越欠損金を適用するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。これらの条件を満たせば繰越欠損金を活用して効果的に税負担を軽減できます。また白色申告の場合でも、一定の条件で繰越欠損金を利用できる制度があります。
ただし、制度の細かなルールや保存義務を怠ると、適用が認められなくなるリスクがあるため注意が必要です。
特に合併時の繰越欠損金の取り扱いや申告方法の選択など、税務上の判断は専門的な知識が求められます。繰越欠損金の活用や申告について不安がある場合は、税理士などの専門家に相談し、正確かつ最適な対応を進めることをおすすめします。





