起業後、経営陣に支払う役員報酬は、労働の対価として従業員に支払われる給与や賞与とは異なり、雇用関係とは無関係です。そのため、役員報酬は給与や賞与との決め方や支払うタイミングに違いがあります。経営者本人も受け取ることとなる役員報酬は、いつから支給すべきなのでしょうか。役員報酬の決め方と期日、注意点などを詳しく説明します。
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目次
役員報酬の特徴

従業員への報酬を決めるのは、会社の上司や人事部、経営陣などです。一方の役員報酬は一般的な給与とは異なる部分があり、独自の特徴と決定方法を持っています。
役員報酬は定款や株主総会で決定する
役員報酬は会社法に基づき、定款または株主総会で決定され、その内容に従って経営陣に支払われる報酬です。
どちらの方法で決定するかは会社ごとに異なりますが、特に中小企業では定款で役員報酬を定めていない場合が多く見られます。
株主総会で報酬の総額が決定された場合、その後に取締役会、または代表取締役が各役員の具体的な報酬額を決めるのが一般的です。
一度決定した役員報酬を増額、または減額する際も、株主総会で決定されます。
役員報酬は経費として計上できる
役員報酬は、従業員に支払う給与と同様に、全額を損金として経費計上が可能です。
ただし、従業員への給与とは勘定科目が異なります。
一般的に従業員への給与は給料手当ですが、役員報酬の勘定科目はそのまま役員報酬です。
また、全額を経費として計上できると言え、根拠のない高額な報酬額は損金として認められない可能性があります。
役員報酬の支払い方法は3種類ある
経費として認められる役員報酬の支払い方法は限定されています。定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3種類から選ばなくてはなりません。
定期同額給与は、毎月同額の役員報酬を支払う方法です。
事前確定届出給与は、前もって税務署に届け出ることで、役員賞与を経費計上できる支払い方法を指します。
従業員に支払う賞与は経費の対象となる一方で、役員賞与は損金算入できません。
そこで、事前確定届出給与を活用し、税務署へ前もって役員賞与の金額を申請すれば、損金算入できます。
業績連動給与は、会社の利益や業績に合わせ、役員報酬を決める方法です。
ただし、業績連動給与を損金算入するためには、同族会社に該当しないことや、利益・株価など、業績に基づいた報酬の算出を有価証券報告書に開示していることなどが求められています。
関連記事:役員報酬は節税対策できる?損しない方法と注意点を解説
役員報酬の支払いはいつからが適切?
会社設立後に役員報酬を支給する際は、具体的にいつ頃から始めれば良いのでしょうか。役員報酬を決めるタイミングと支払いを開始するタイミングは、次の通りです。
設立3ヵ月以内に決めて支給
役員報酬の金額は会社設立の3ヵ月以内に決め、支給を開始しましょう。
事業年度の開始日から3ヵ月以内に決定しない場合、役員報酬が損金として認められません。
同様に、役員報酬を変更する際にも、事業年度の開始日から3ヵ月以内とされています。
このようなルールがある理由は、会社が決算日に役員報酬の金額を調整し、不正に税額を抑えようとする行為を防ぐためです。
支払いのタイミングは株主総会後
役員報酬は、会社設立後の3ヵ月以内に定款や株主総会により決定されるため、以降が支払いタイミングです。
また、役員自体も株主総会で選任されることから、株主総会の開催日から役員の職務が始まります。
そのため、定期同額給与で毎月同額の役員報酬を支払う場合、役員を選任した株主総会の開催月からがスタートです。
役員報酬の金額の決め方
役員報酬は、相場や売上、税金などを考慮した上での決定が必要です。役員報酬の金額を決める際の目安について、詳しく解説します。
設定額は自由だが役員報酬にも相場がある
役員報酬には明確な基準が存在していないため、経営者の一存で決定できますが、実際には相場に合わせて支給することをおすすめします。
同業他社、もしくは事業規模が類似している会社と比較することで、おおよその相場を把握可能です。
他社と比較し、役員報酬が極端に高いと、税務署から不相当であると判断され、損金計上を認められない可能性があります。
役員報酬を決定する際は、同業他社や事業規模が類似している会社をリサーチし、相場の確認が必要です。
売上を予測して役員報酬を算出する
役員報酬の決め方の1つとして、起業後の事業売上を予測し、金額を算出する方法もあります。
1年間の売上予測から、仕入れや固定費などを差し引いた収益を算出し、役員報酬の金額を決定するのです。
その際は、役員報酬を高額に設定しすぎることを避けなければなりません。
特に、定期同額給与の場合、役員報酬は毎月固定された支払いとなるため、高額に設定しすぎると会社の資金繰りに悪影響を与えます。
もしも、売上の予測が難しい場合には、役員報酬の決定期間が3ヵ月あることを利用しましょう。
1ヵ月目と2ヵ月目の役員報酬を0円にすることで、そもそも損金とも無関係です。
その1ヵ月から2ヵ月の間の売上を参考に、3ヵ月目に役員報酬を決定することも可能です。
会社と個人の税金を考えて決める
役員報酬を決める際には、会社と個人の税金を両方考慮する必要があります。
起業した際に法人に課せられるのが、法人税・法人住民税・法人事業税といった複数の税金です。
その際の納税額は、事業から生じた所得金額に応じて増えます。例えば法人税の税率は、15%から23.20%です。
一方、経費として計上できる役員報酬を高く設定すれば、会社の課税所得が減るために節税が実現します。
ただし、その分、役員の所得が増えるため、所得税・住民税のほか、社会保険料も増額するのです。
役員報酬を決定する際には、法人と個人の税金に対し、バランス良く配慮することが必要があります。
関連記事:一人社長の給与(役員報酬)はいくらが正解?決め方と注意点を徹底解説
役員報酬に関する注意点

役員報酬は、損金算入や未払いなど、複数の点で注意が必要です。役員報酬の決定や支払いの際、特に重要となるポイントを紹介します。
損金算入(経費計上)のルールをしっかり守る
役員報酬には明確な制限が設けられていないものの、適切な金額で損金算入(経費計上)することが大切です。
同業他社や事業規模が類似している他社と比べ、極端に高い金額を設定すると、税務署から損金算入は不適切であると受けとめられます。
また、実際に支払われた役員報酬が、定款や株主総会で定められた総額以上だった場合も、超過した部分は損金不算入です。
役員報酬を支払う際は、定款や株主総会で決定した金額を守り、適切に支給しましょう。
ルールを守らず、損金不算入が発覚した場合は、追徴課税の対象となる可能性があります。
役員報酬の未払いは早めに解消する
起業後、役員報酬が未払いの状態になった場合は、早めに解消することをおすすめします。
会社を設立したばかりの頃は特に、事業がなかなか軌道に乗らず、予測していたよりも売上が伸びないこともあるでしょう。
そのような際、役員報酬が未払いの状態になったとしても、短期間で解消して支払いをスタートさせることが大切です。
仮に、長期間にわたって未払いの状態が続くと、税務署から役員報酬を支払う意思がないと判断され、損金算入が認められない可能性があります。
短期間で未払い金を解消する方法の1つが、役員から一旦借り入れをし、その借入金で未払い金を支払うことです。
また、事業年度の開始日が近い場合は、役員報酬額の変更して未払い金を解消できます。
関連記事:役員報酬にかかる税金とは?計算方法とその節税の秘訣
役員報酬を変更したい場合の手続き方法

1度決定した役員報酬は、その後に金額の変更が可能です。ただし、役員報酬の変更は、ルールに沿った手続きを必要とします。
役員報酬は株主総会で変更できる
役員報酬は株主総会で変更できます。
その際に開催されるのは、議決権を持つ株主の過半数が出席し、さらに出席した株主の過半数が賛成することで成立する普通決議による株主総会です。
また、役員報酬は定款による変更も可能ですが、普通決議よりも厳格な特別決議を行わなければなりません。
そのため、役員報酬の変更は、一般的に株主総会で決議されます。
事業年度開始日から3ヵ月以内に変更できる
役員報酬を変更できるタイミングは、事業年度の開始日から3ヵ月以内です。
例えば、事業年度開始日が4月1日の場合、役員報酬の変更手続きは6月30日までに完了させる必要があります。また、変更は、その事業年度において1回限りです。
3ヵ月以内であったとしても、事業年度開始から1ヵ月経って変更したものを、2ヵ月後に再変更はできません。
役員報酬の金額を何回も変更可能になると、会社の収益を不正に調整できてしまうためです。
役員報酬の変更には、昇格や降格、業績向上や経営不振などの適切な理由が必要とされます。
ただし、例外的に事業年度中でも、やむを得ない正当な理由であれば役員報酬を変更可能です。
例えば災害や緊急事態宣言があった場合や、著しい業績の悪化があった場合なども事業年度中の変更が認められています。
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起業の際は、数多くの手続きや決定事項が重なります。
そのような手続きや決定事項を経営者が一人ですべて把握し進めるのは容易ではなく、負担が増すこともしばしばです。
このようなことから、起業の際は、負担軽減のためにも税理士の手を借りてみてはいかがでしょうか。
私たち小谷野税理士法人では、会社設立サービスを提供し、起業時の手続き全般をサポートしています。
役員報酬の金額や支払いに関するアドバイスもさせていただきますので、お気軽にご相談ください。




