個人事業主の経費は、プライベートな支出と曖昧になりやすいため「どの程度計上して良いのか」と迷う方も多いのではないでしょうか。売上に対して経費が多いほど節税につながりますが、経費の割合が高すぎると不正を疑われるリスクも生じます。この記事では、個人事業主の経費の目安や計上する際の注意点、節税のポイントを解説します。
目次
個人事業主が計上する経費の平均・上限は?

個人事業主が事業を行う上で、業務に必要な費用は経費に該当します。しかし、自己判断である程度コントロールできてしまうため、経費の割合に個人差が出ることも珍しくありません。ここでは、経費の平均や上限について詳しく見ていきましょう。
売上の50〜60%が一般的
個人事業主が計上する経費の目安として、一般的に売上の50〜60%が適正範囲とされています。例えば、売上が500万円の場合、250〜300万円の範囲で経費として計上する人が多いでしょう。経費は事業の運営に必要な費用でなければならず、例えば仕入れ費用・人件費・交通費・消耗品費などが含まれます。
ただし、この比率はあくまで目安であり、実際のところは事業内容や状況によって異なることがあります。適切な経費を計上することで、節税効果を最大限に引き出せますが、合理的な範囲内で行うことが大切です。
業種によって目安の経費率が異なる
経費率の目安は、業種によっても大きく異なります。例えば、小売業や製造業では経費率が比較的高くなる傾向がありますが、サービス業や通信業などは経費率が低くなることが一般的です。
業種ごとの経費率の目安として、簡易課税制度で定められる「みなし仕入率」が参考になります。主な業種のみなし仕入率は、以下の通りです。
- サービス業:50%
- 飲食業:60%
- 製造業:70%
- 小売業:80%
- 卸売業:90%
例えば、サービス業に該当するWebデザイナーやエンジニアとして活動する個人事業主の場合、経費率が60%を超えると不正を疑われる可能性があり、税務調査に入られやすくなるとも言われています。業種ごとの適正な経費率を超える場合は、事業の実態に即しているか見直してみると良いでしょう。
事業に必要な費用であれば上限なく経費にできる
経費率の目安はあるものの、事業に必要な費用であれば上限なく経費として認められます。例えば、高額な機器やソフトウェアの購入費用も、事業に必要であると証明できれば経費になるのです。
ただし、売上や事業の規模に対して不自然に高額な経費を計上すると、税務署から調査の対象となる可能性があるため注意が必要です。例えば、売上が100万円の個人事業主が、年に100万円の接待交際費を計上した場合、不自然な経費として税務署に疑われる可能性が高いでしょう。
また、青色申告の場合は30万円以上、白色申告の場合は10万円以上の備品は一括で計上できず、耐用年数に応じて数年間に分割して計上する必要があります。
青色申告と白色申告で経費にできる費用に違いがある
青色申告と白色申告では、一度に経費として計上できる費用に違いがあります。ここでは、それぞれの経費計上の特例についてご紹介します。
青色申告では30万円未満の資産を一括計上できる
青色申告を選択することで、少額減価償却資産の特例を活用できます。この特例では、購入した資産の取得価額が30万円未満であれば、使用開始した年度に一括で経費計上することが可能です。
例えば、パソコンやオフィス家具、ソフトウェアなどが該当します。一括計上することで、その年度の税負担を軽減できます。必ずしも一括計上しなければならないということではなく、個人の判断で減価償却を選択することも可能です。
ただし、取得額の合計が年額で300万円を超える部分には適用されません。例えば、29万円の機器を11台購入した場合、10台目まではその年の経費として計上可能ですが、少なくとも残りの1台分は通常の固定資産として計上する必要があります。
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
白色申告では10万円以上の備品は一括計上できない
白色申告では、10万円以上の備品は一括で経費計上することが認められません。10万円以上の資産は固定資産として計上し、法定耐用年数にわたって減価償却を行う必要があります。
一方で、取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産の特例により3年で減価償却できます。このため、白色申告の場合、経費計上の柔軟性が青色申告に比べて制限されてしまうのです。事業の成長を考えるなら、青色申告の検討も一案でしょう。
参考:少額の減価償却資産及び一括償却資産(令第138条及び第139条関係)|国税庁
経費率が高すぎる場合に注意すべきこと

経費率が高すぎると、節税どころか不利益を被る可能性があります。税務調査や金融機関の審査に悪影響を及ぼすこともあるため、経費の見直しや適切な管理が重要です。
税務調査に入られやすくなる
経費率が極端に高い場合、税務署の目に留まりやすくなります。経費が売上に対して不自然に多いと、不正経理や過剰な経費計上が疑われるためです。
税務調査が入ると、帳簿や領収書の詳細な確認が行われ、不正が発覚すれば追徴課税や罰則が科せられることもあります。日々の経費管理を徹底し、正確な記帳を心掛けることが大切です。不安な場合は、税理士に早めに相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
関連記事:税務調査は個人事業主も対象になる?疑われやすい人の特徴や対処法を解説
ローンやクレジットカードなどの審査に通りにくくなる
経費率が高すぎると所得額が少なくなるため、事業の収益性が低く見られる可能性があります。これに伴い、ローンやクレジットカードの審査に、悪影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。
金融機関やクレジットカード会社は、収益性の低い事業に対して貸し倒れリスクを警戒するため、審査が厳しくなることが少なくありません。
例えば、年間売上が300万円で経費がそのうちの290万円であれば、所得は10万円となり、返済能力が低いと判断される可能性が高いでしょう。
事業の健全性をアピールするためには、経費の見直しやコスト管理を徹底することが大切です。必要であれば税理士のサポートを受けながら、経費の最適化を図り、安定した事業運営を目指しましょう。
個人事業主が知っておくべき節税のポイント
経費を計上する際、経費率が高すぎるとリスクがありますが、必要以上に低すぎると納税額が増えてしまいます。個人事業主が経費を適切に計上して節税につなげるためには、以下に挙げる節税のポイントを抑えておくと安心です。
青色申告の65万円控除を利用する
青色申告を行うことで、特別控除として最大65万円の控除を受けられます。複式簿記で帳簿をつけ、電子申告(e-Tax)を行うことが条件ですが、課税所得を大幅に減らせるため納める税金が少なくなります。
白色申告の場合、控除額は0円です。青色申告と比べると帳簿の記載や申告手続きが簡単であるため、負担が軽いというメリットがあります。しかし、節税効果を考えると、青色申告の方が有利です。
また、青色申告では、赤字の繰越が最長3年間可能で、経営が厳しい年でも将来的な税負担を軽減できます。家族への給与も経費として計上できるため、家族を手伝ってもらっている場合も大きなメリットです。
関連記事:個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
家賃や光熱費などを按分する
自宅兼事務所として仕事をしている個人事業主は、家賃は全額ではなく、仕事で使用している部分の割合だけを経費に計上できます。例えば50㎡のマンションのうち10㎡を仕事で使っている場合、家賃の5分の1を経費として計上できます。
また、水道光熱費やインターネット代も同様に、事業での使用割合に応じて経費計上が可能です。例えば、光熱費が月に2万円で、そのうち30%を業務に使っているなら、6,000円を経費として計上できます。
合理的な基準に基づいて按分することで、税務署に否認されるリスクを避けられます。按分の根拠を明確に示せるよう、業務で使用する時間や面積の記録を保管しておくことが大切です。
関連記事:家事按分とは?家賃や光熱費を経費計上する際の条件やポイントを解説!
文房具や通信費など少額でも切り捨てない
小さな支出でも積み重なると大きな金額になります。例えば、毎月の文房具代や書籍の購入費など、細かい経費をすべて集計すると、予想以上に節税効果が大きくなることもあるのです。
そのため、たとえ数百円の出費であっても、事業に関連するものであればしっかりと経費として記帳しましょう。少額の備品や消耗品なども正確に計上することで、課税総所得が減り、所得税や住民税の節税につながります。
レシートや領収書の枚数は多くなるかもしれませんが、きちんと保管してこまめに記帳する習慣をつけることが、賢い節税の第一歩です。
開業前にかかった費用を開業費として計上する
個人事業主として開業する前にかかった費用は、「開業費」として経費に計上できます。例えば、広告宣伝費や備品購入費、オフィスや店舗の賃借料などが該当します。これらの費用は開業準備として必要な支出とみなされるため、事業開始後に経費として計上が可能です。
税法上、開業費は1年目の年に全額計上できます。しかし、開業したばかりのタイミングは利益が少ないことが多く、初年度に一括で計上するのはもったいない場合があります。税法上、開業費を繰り越し資産として、利益が出始めた2〜3年目に繰り越して計上することが認められており、より大きな節税効果を得られることもあるのです。
ただし、開業費の計上タイミングの調整は税務上のルールに従って行う必要があるため、計上方法や具体的な対象費用については、税理士に相談すると安心です。開業前の支出を適切に管理し、賢く節税を図りましょう。
関連記事:開業費とは?個人事業主の開業前に発生した費用を経費にするためのポイントを解説!
税理士に節税対策を提案してもらう
個人事業主の税務に詳しい税理士に依頼することで、事業内容や個別の状況に応じた最適な節税方法と経費計上のアドバイスが受けられます。経費として計上できる金額の範囲や、税法上の特例の活用など、プロの視点から節税できるポイントを見極めてくれるでしょう。
例えば、税法上の特例は条件を満たせば誰でも受けられますが、申告者が申し出ない限り適用されません。そのため、最新の税制や節税対策に詳しい税理士に相談することで、最も有利な形で確定申告を行うことができ、経営の安心感も高まります。
税理士は法人が依頼するイメージが強いかもしれませんが、個人事業主でも専門家のサポートを受けることで、正しく効果的な節税対策ができます。もちろん、税理士への費用も経費として計上可能です。
関連記事:個人事業主こそ節税対策は税理士に相談!依頼するメリット・デメリットも解説
個人事業主が経費にできるもの一覧

個人事業主が経費として計上できる項目は多岐にわたります。事業に関連する出費であれば、多くの費用が経費として認められます。以下は代表的な経費項目の一覧です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 租税公課 | 事業税・固定資産税・印紙税・消費税など |
| 修繕費 | 資産の維持管理や修理にかかる費用 |
| 荷造運賃 | 梱包費・発送費・輸送費など |
| 水道光熱費 | 水道料・電気代・ガス代(事業に使用した分のみ) |
| 保険料 | 損害保険料・地震保険料・自動車保険料など |
| 消耗品費 | 文房具・コピー用紙などの小額の消耗品 |
| 雑費 | 他の経費項目に該当しない費用(ごみ処理代など) |
| 法定福利費 | 従業員の社会保険料の事業主負担分 |
| 賃金給与 | 従業員への給与や賞与 |
| 地代家賃 | 事務所・店舗・駐車場などの家賃や使用料 |
| 外注費 | デザインやサイト構築などの外部委託費用 |
| 貸倒損失 | 債権の回収が不能になった場合の損失 |
| 新聞図書費 | 事業に必要な書籍や新聞の購入費 |
| 支払手数料 | 振込手数料や仲介手数料 |
| 減価償却費 | 固定資産の減価償却費用 |
| 旅費交通費 | 出張時の交通費や宿泊費 |
| 修繕積立金 | マンションの修繕積立金(一定条件下で) |
| 通信費 | 電話代・インターネット代など |
| 広告宣伝費 | 宣伝やプロモーションにかかる費用 |
| 接待交際費 | ビジネスに関する接待や交際の費用 |
| 専従者給与 | 配偶者や親族への給与(一定条件下で) |
これらの経費を適切に計上することで、所得税や住民税の節税につながります。経費として認められるか迷った場合は、税理士に相談することをおすすめします。賢く経費計上して、経営の安定を図りましょう。
個人事業主が経費を計上する際の注意点

個人事業主が必要な経費を計上することは、節税のためにも重要です。しかし、適切な方法で行わないと税務署からの指摘やペナルティの対象となることもあります。ここでは、経費を計上する際の注意点を解説します。
平均や目安ばかりに捉われないようにする
適切な経費の額は、事業の内容や規模、運営方法によっても異なります。他の事業者の平均値や目安を参考にすることも有効ですが、これだけに捉われないようにしましょう。
例えば、ある事業者が売上の50%を経費として計上しているからといって、自分の事業でも必ずしも同じ割合が正しいわけではありません。平均より低いと損に感じることもあるかもしれませんが、自分の事業の実態に合った経費計上を心掛けることが重要です。
経費の根拠や基準を把握しておく
経費として認められるためには、その根拠や基準を把握しておくことが重要です。例えば、自宅の家賃の一部を経費にする際には、家事按分の基準を明確にし、事業に関連することを合理的に証明する必要があります。
曖昧な根拠や基準では税務署に認められない可能性が高いため、経費計上の根拠や基準をしっかりと理解し、必要な書類や証拠を整えておきましょう。不安がある場合はそのまま申告せずに、税理士に相談することをおすすめします。
不正計上には重いペナルティがある
税務調査で経費の不正計上が発覚すると、厳しいペナルティが課されることがあります。不正が見つかった場合、過少申告加算税や延滞税が課せられ、追徴課税される可能性があるのです。故意の不正が認定されれば、重加算税も課されることもあります。
経費を計上する際は、正確かつ透明性のある帳簿管理を行い、不正が疑われるような行動は避けましょう。プライベートの支出と混同しないよう、適切な経費計上を心掛けることが大切です。
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
個人事業主の経費を正しく計上して賢く節税しよう
個人事業主が賢く節税する上でも、経費を適切に計上することは重要です。経費の管理は税務署からの信頼を得るためにも、そして経営の健全性を保つためにも欠かせません。売上の50〜60%が目安の経費率ではありますが、自身の事業に合った適切な経費計上を行いましょう。
個人事業主の節税には、税理士のサポートを受けることが有効です。最新の税制や特例を最大限に活用し、無駄なく節税を実現できます。
経費の計上に不安がある方や、日々の納税処理が煩わしい方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。





