予定納税は年収いくらから必要なのかご存じでしょうか?予定納税とは、原則として前年の納付すべき所得税額が15万円以上の人を対象とした所得税を前払いする制度で、主に個人事業主や副業収入がある会社員が対象となり得ます。予定納税について理解していないと、予想外の税負担が生じるかもしれません。この記事では、予定納税が必要となる年収の目途、計算方法、納付までのスケジュールについて分かりやすく解説します。
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目次
所得税を先払いする予定納税の概要

所定の条件を満たす対象者が、確定申告時に納付する所得税額の一部を事前に納める制度が予定納税です。
一定額以上の所得税を納めている人は、今期以降も同程度の所得税を納めることが見込まれます。しかし、確定申告のときに一括で所得税を納めなくてはいけなくなると、税負担が重すぎて支払いが困難となるかもしれません。
また、資金繰りが苦しくても、義務を果たすために納税することで、業務や日常生活に支障が出ることもあるでしょう。
所得税を何度かに分けて支払えば、税負担を軽減でき、予定納税の主な目的といえます。また、税金を分割して納付してもらうことは、計画的かつ効率的に税金を回収することにもつながり、国にとってのメリットも大きいのです。
関連記事:予定納税とは?払い過ぎた税金が返ってくるケースと手続きを徹底解説
予定納税の対象となるのは年収いくらから?
予定納税は、年収いくらからが対象なのでしょうか。ここでは、予定納税の対象となる人の年収と、対象者かどうかを知る方法について紹介します。
対象者の年収に明確なラインはない
控除額に個人差があることから、予定納税の対象となる年収額について明示するのは困難です。
原則、前年分の確定申告において、所得税額が15万円を超えた人が予定納税の対象者です。課税所得が195万円以上となると、所得税率が10%となり所得税額が15万円を超えます。
個人事業主や副業収入がある会社員で課税所得が195万円以上ある人は、予定納税の対象となる可能性があります。しかし、予定納税対象者の年収については、一概にいくらからとは言い切れません。
それは、扶養家族の有無、控除の内容や金額など、年収から控除される金額が人によって異なるからです。そのため、年収額が同じであっても、予定納税額まで同じになるとは限りません。
また、副業をしていない会社員でも、年収が2,000万円を超える場合は、勤務先で年末調整をせず、自身で確定申告をしなくてはいけません。予定納税額が15万円以上となる可能性があります。
参考:国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
対象であれば税務署からの通知が届く
予定納税の対象者となった場合、6月頃に税務署から通知が届きます。5月15日時点の情報を基に納税額(仮)を計算し、対象者に対して分割払いで所得税を支払うように通知します。
ただし、令和5年の1月以降、希望者に対しては予定納税の通知書が送付されなくなりました。e-Taxにて納税をしている人は、予定納税の通知をe-Taxにて受け取る選択が可能です。
6月頃に予定納税の通知書が送付されなかった場合は、対象者ではない可能性が高いため、確定申告時に所得税を納めます。ただし、過去の確定申告や予定納税で、下記の手段で納税した場合は、納付書が送付されません。
- 振替納税
- ダイレクト納付
- インターネットバンキング
- クレジットカード
- コンビニ
- スマホアプリ
また、e-Taxで納付書の通知をしない選択をした可能性もあるため、念のためe-Taxの通知をチェックしましょう。
関連記事:予定納税の通知書が届かない?令和5年以降の予定納税額の確認方法・納付方法
予定納税から確定申告までの納税スケジュール

複数回に分けて所得税を支払う予定納税では、いつのタイミングでどの程度の額を支払うかが気になるところです。ここでは、予定納税から確定申告までの納税スケジュールと納税額について紹介します。
予定納税の納税時期
予定納税の納付は確定申告を除き、7月1日~7月31日の第1期、11月1日~11月30日の第2期に分けて行い、残りの税額を確定申告時に支払います。
納税時期を過ぎると、ペナルティの対象となり得るため、納税時期を守り期限までに納めることが大切です。
予定納税の納付額
第1期、第2期、確定申告時に、それぞれ所定の予定納税額の1/3の額を納めます。納税額は、税務署が計算するため、自身で計算する必要はありません。
原則、予定納税の額は前年度の所得税額に準じた額となるケースがほとんどです。そのため、前年度の所得税額を確認しておくと、おおよその納税額を把握できるでしょう。
ただし、今年度の予定納税額が、予定納税基準額(前年度の確定した申告納税額)とならないケースがあります。その事例を以下に紹介します。
- 前年の所得額に、山林所得や退職所得などの分離課税対象の所得、譲渡所得、一時所得、雑所得、または平均課税の対象となる臨時的な所得が含まれている
- 前年の所得に対して外国税額控除が適用されている
- 前年分の所得税について、災害減免法の適用を受けている
また、2024年の所得税については、定額減税が適用されることに注意が必要です。予定納税の通知書に、減税分(3万円)を差し引いた額が記載されています。
予定納税の額が、前年度の所得税額と同額程度だと認識していても、場合によっては納税額が変わることがあるため注意が必要です。
参考:国税庁 所得税及び復興特別所得税の予定納税(第1期分)の納税をお忘れなく
関連記事:法人税の予定納税とは?対象者や計算方法などについて幅広く解説
予定納税の納付方法
予定納税の納付手段はさまざまです。納付手段によって、手間や手数料が発生することもあり得るため、自身にとって最適な手段を選び納付しましょう。
直接納付
直接納付とは、送付されてきた通知書を使い、現金で納付する方法です。税務署の窓口だけでなく、金融機関でも対応してくれます。
直接納付は手数料も発生せず、その場で領収書を発行してもらえます。
振替納税
確定申告時に振替納税を選択している場合、予定納税も振替納税が可能です。振替納税は、指定の金融機関もしくは税務署の窓口にて初回のみ手続きが必要ですが、2回目以降は納税額が自動的に引き落としされます。
2回目以降は自動的に税金が引き落とされるため、納付を忘れるということも防げるはずです。振替納税の手数料は不要ですが、領収書は発行されません。
コンビニ納付
バーコード付きの予定納税納付書であれば、コンビニでの納税が可能です。バーコードが付いていない納付書が送付されてきたり、納付書を紛失したりしたときは、税務署に相談すれば、バーコード付きの納付書を発行してもらえます。
もしくは、国税庁のホームページから専用のQRコードを作成して出力したり、専用機器が設置されているコンビニで納付したりできます。
コンビニでの納税は手数料はかかりませんが、領収書の発行はなく、代わりに振込金受領証を受け取ることが可能です。
なお、コンビニ納付は、予定納税額が30万円以下の場合に利用可能であることに注意が必要です。予定納税額が30万円超のときは、別の手段での納付を検討しましょう。
ダイレクト納付
振替納付と同様に、銀行口座を介した納税手段です。税務署での手続き(初回のみ)と、e-Taxの利用開始手続きが必要ですが、2回目以降はオンラインで納付できます。ダイレクト納付も手数料なしで利用できますが、領収書は発行されません。
クレジットカードでの納付
国税クレジットカード支払いサイトを通じて、クレジットカードで納税できます。クレジットカードでの納付は、決済額に応じた手数料が発生します。また、予定納税額が1,000万円以上になると、クレジットカードの利用限度額を超える納税額では利用できません。
納税を証明する領収書は発行されないため、領収書が必要な場合は、納付完了ページを印刷して保管しておきましょう。
予定納税を支払わなかった場合のペナルティ

予定納税は義務であり、支払わなかった場合は、相当のペナルティが課されます。また、税金の滞納期間に応じてペナルティの額が異なります。ここでは、予定納税を支払わなかったときのペナルティについて詳しく紹介します。
納付期限の翌日から2カ月以内の延滞
本来納めるべき税額に加えて、以下のうち低額な方の延滞税が課されます。
- 年率7.3%
- 延滞税特例基準割合+1.0%
延滞税特例基準割合は、財務大臣が告示した割合に対して年1%の割合を加算したもので、2024年度は2.4%(年間)です。
予定納税額10万円を50日間延滞した場合の延滞税を計算してみます。
- 10万円×7.3%×50÷365=1,000
- 10万円×2.4%×50÷365=328(100円未満切り捨て)
2の方が低額となり328円の延滞税を支払いますが、100円未満は切り捨てのため、上記の例では実際に支払う税額は300円です。
納付期限の翌日から2カ月以降の延滞
本来納めるべき税額に加えて、以下の計算式に当てはめて低額な方の延滞税が課されます。
- 年率14.6%
- 延滞税特例基準割合+1.0%
2024年度の延滞税の割合は8.7%(年間)です。予定納税額10万円を90日間延滞した場合の延滞税を計算してみます。
- 10万円×7.3%×60÷365=1,200
10万円×14.6%×30÷365=1,200
1,200+1,200=2,400
- 10万円×2.4%×60÷365=394
10万円×8.7%×30÷365=715
394+715=1,109→1,100(100円未満切り捨て)
計算結果から、2の方が税額が低いため、1,100円を延滞税として支払います。延滞税は、納付期限翌日からの期間が長くなるほど額が増えることに注意が必要です。うっかりしていて納税を忘れたときは、できるだけ速やかに支払いましょう。
参考:国税庁 延滞税の計算方法
予定納税額を減額する減額申請とは
さまざまな事情で予定納税の支払いが困難な場合、条件を満たせば減額申請が可能です。ここでは、減額申請の条件と手続きについて解説します。
減額申請の対象者
減額申請の申請対象者となるには、下記の条件に該当する場合です。
- 廃業や休業をした人、または職を失った人
- 事業の業績悪化などにより、前年と比べて明らかに収入が減少する見込みのある人
- 災害や盗難、横領などにより、事業に関わる資産などに損害を受けた人
- 所得控除や税額控除の増加によって、所得税の負担が軽減される見込みのある人
上記の条件に該当しない場合でも、減額申請が認められることがあります。減額申請については、管轄の税務署もしくは税理士に相談してみることをおすすめします。
減額申請の手続き
国税庁のホームページから「予定納税額の減額申請書」をダウンロードし、必要事項を記入してから管轄の税務署に持ち込み、郵送、e-Taxのいずれかで提出します。申請書に従って、必要事項を記入しましょう。
また、申請書を提出する際には、申告納税見積額を導き出した根拠となる書類(損益計算書など)の添付を求められます。
参考:国税庁 A1-3 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続
減額申請手続きの期限
減額申請手続きには期限があります。また、予定納税は確定申告時を除き、年に2回あるため、1期分だけを減額するのか、1期と2期両方を減額するかによって、申請期限が異なります。
- 第1期分のみを減額 その年の7月15日
- 第1期と第2期の両方を減額 その年の7月15日
- 第2期分のみを減額 その年の11月15日
もし、提出期限が土日祝日だった場合は、次の平日が期限です。申込み手続きが完了すると、税務署から書類が届き、以下の結果が通知されます。
- 承認
- 一部承認
- 却下
申請条件を満たしていても、減額申請が認められるとは限りません。却下となった場合は、予定通りの税額を支払わなくてはいけないため、結果を確認したうえで納税しましょう。
支払い過ぎた税金は還付申告で戻ってくる

払い過ぎた税金は、確定申告もしくは還付申告により戻ってきます。減額申請の対象になっていても、予定納税額を支払い可能であれば、無理に減額申請をする必要はありません。
そのうえ、還付加算金が受け取れる可能性があるため、過払いした税金に少し加算されて戻ってきます。そのため、減額申請をするよりも手元の資金を増やせる可能性が高いです。
還付加算金の金利は、法廷納期限から実際に戻ってくるまでの期間によって異なります。
銀行預金よりも金利が高いことがあるため、可能であれば、減額申請をせずに還付加算金を受け取った方がお得な場合もあります。
減額申請か税金の還付かの判断が難しいときは、税理士に資金繰りなどを確認してもらい、適切なアドバイスを受けましょう。
もし、税金を払いすぎているにも拘らず、廃業したなどの理由で確定申告をしていなかった場合、5年前まで遡って還付申告が可能です。過去の納税額を調べ、還付申告に該当する場合は、忘れずに手続きをしましょう。
関連記事:還付申告のやり方は?書類や期間・対象者・確定申告との違いを解説!
まとめ|予定納税は前年度の課税所得で判断!制度を理解し正しい納税を実現しよう
予定納税は、原則として前年度の所得税額が15万円以上の人を対象とし、所得税を分割払いする制度です。予定納税の対象者となる年収の目安は、控除額などの条件が異なるため、一概に年収いくらからとは言い切れません。
しかし、課税所得が195万円以上となる人は、予定納税の対象として判断される可能性があります。予定納税について正しく理解し、期限を守り納税しましょう。





