「2025年問題」とは、団塊の世代の全員が75歳を迎え、超高齢化社会となった日本に生じる諸問題のことです。特に、中小企業では経営者の高齢化や後継者の不在に直面し、廃業を余儀なくされる企業が急増すると見込まれています。この記事では、2025年問題が企業に及ぼす影響や、M&Aをはじめとする事業承継対策について解説します。
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目次
2025年問題とは

「2025年問題」とは、1947〜1949年に生まれた団塊の世代が75歳以上となり、日本が迎える超高齢化社会に関連する諸問題のことを指します。この世代は約800万人とされ、2025年にはその全員が後期高齢者(75歳以上)となります。つまり、国民の約5人に1人が後期高齢者となるのです。
日本の人口は2008年にピークを迎え、それ以降は減少傾向にあります。特に、若年層の非婚化・晩婚化が少子化を加速させ、この傾向は続くと見られています。

参照:中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題|中小企業庁
中小企業庁によると、このまま適切な対策が取られない場合、「約650万人の雇用が失われ、約22兆円のGDPが消失する」という大変な経済的損失を被ることが予測されています。
また、「事業承継問題」も2025年問題の一部です。多くの中小企業や小規模事業者が後継者不足に直面しています。経営者が高齢化する中、適切な事業承継が行われなければ、多くの企業が廃業や倒産の危機に陥る可能性があるのです。
似たような言葉に「2025年の崖」があります。これは、経済産業省がDXレポートで指摘した「デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れがもたらす経済的損失」を示すものです。
2025年までに国内企業がDXを推進しなければ、業務効率や競争力の低下が避けられず、年間の経済損失は約12兆円にも上ると予測されています。この背景には、古い基幹システム(レガシーシステム)の問題や、デジタル技術に精通した人材不足が挙げられます。
これらの問題は、どちらも事業の持続的な発展に対する大きな脅威です。「2025年問題」では、企業が高齢化社会に対応した経営戦略を立てる必要があり、「2025年の崖」では、デジタル技術を活用して競争力を維持・向上させるための改革が求められます。いずれにしても、2025年がターンポイントとなる企業が多いことが伺えます。
参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
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2025年問題が企業に与える影響
2025年問題は、企業にどのような影響をもたらすのでしょうか。ここでは、特に中小企業にとって問題となるポイントについて解説します。
人材不足が深刻化する
高齢化が進むにつれて、労働力人口の減少が加速し、多くの業界で人材不足が顕在化しています。特に、介護や医療の分野では顕著です。高齢化による労働力の減少が業務の遂行に支障をきたす可能性があり、多くの業界で今後も厳しい状況が続くとされます。
これに伴い、労働コストの増加やサービスの質の低下といった影響が企業の競争力にも波及すると見られます。企業の成長や維持を図るためには、人材の確保と育成が今後ますます重要となるでしょう。
後継者不在により倒産する企業が増える
経営者の高齢化が進む中で、後継者が見つからないために、多くの企業が廃業に追い込まれる「大廃業時代」が到来すると予測されています。廃業の余波はあらゆる企業に及ぶとされ、中小企業庁は「127万社の中小企業が後継者不足により廃業・倒産の危機に直面する」と報告しています。
経営が順調であっても例外ではありません。黒字にもかかわらず廃業を余儀なくされる「黒字廃業」も増加するとされています。また、一つの企業が廃業すると、それに連鎖して取引先の企業も影響を受ける「廃業ドミノ」が発生する可能性も懸念されているのです。
このような状況が続けば、地域経済や日本全体の経済にも深刻な影響を与えかねません。
社会保険料の負担額が増大する
高齢者の医療費や介護費用は、現役世代が支える仕組みが基本となっています。そのため、労働力人口の減少と高齢者の増加が同時に進行することで、社会保険料の負担はさらに増大するでしょう。
負担の増加は、企業にも影響を与えかねません。企業は従業員の社会保険料の半分を負担しているため、保険料が増加することで人件費が増大し、経営圧迫につながる可能性もあるのです。
また、介護分野などではサービスの需要が増加する一方で、介護労働者の不足が深刻化しています。施設の稼働率やサービスの質の低下も懸念され、介護労働者の賃金引き上げのための財源確保も課題です。
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2025年問題による影響が大きいとされる業界

2025年問題は、さまざまな企業への影響が予想されます。ここでは、その中でも特に影響が大きいとされる業界を紹介します。
医療・介護業界
2025年問題の影響が最も大きいとされているのが、医療業界と介護業界です。医療や介護の急激な需要増加に対して、医療従事者や施設のキャパシティが不足し、サービスの質が低下すると予想されています。特に地方では、医療施設や介護職員の不足が顕著で、地域間の格差が広がる恐れも示唆されています。
また、介護職員の不足は重要な問題です。すでに人手不足が目に見えており、2025年以降も状況はさらに悪化すると予想されています。このため、給与引き上げや労働環境の改善が緊急の課題であり、これに対応するための投資コストが介護利用料の増加につながる可能性があります。
運送業界
運送業界は慢性的なドライバー不足を抱えており、高齢化が進むことでさらに運転手の確保が難しくなることが予想されています。中でもトラック運転手の平均年齢が上昇しており、若年層のドライバー不足が課題です。
状況は2025年以降も改善の兆しがなく、物流効率の悪化や配送料金のさらなる値上げにもつながると見られています。EC市場の拡大に伴い、物流需要のさらなる増加が見込まれる中、配送が追いつかず、サービスの質が低下すると懸念されています。
2024年には、働き方改革関連法の施行により、ドライバーの時間外労働時間が制限され、対応できる配送時間が限定的になったことも話題になりました。労働環境の改善が図られた一方で、新たな人材が必要となりましたが、その確保も難しい状況です。自動運転技術やドローン配送といった新たな技術の導入が進んでいるものの、十分な労働力の補完には達していません。
建設業界
建設業界では、技術者などの高齢化が進んでおり、若い働き手が不足しています。2025年以降、インフラや建物の老朽化により建設業界の需要は増えていく一方で、労働力の確保が難航すると予測されています。
こうした状況の中、建設業界では技術継承や若手人材の育成が喫緊の課題です。そのためにも、労働環境の改善や給与体系の見直し、技能教育プログラムの充実が求められます。若年層への魅力を高め、建設業界の持続可能な発展を図ることが重要です。
また、ITや自動化技術の導入が進められていますが、人手不足を完全に解決できるわけではありません。特に地方の建設業者は、資金面の制約によりIT導入や設備投資が遅れがちで、地域格差の拡大も懸念されています。
IT・システム業界
若手が活躍しているイメージの強いIT・システム業界も、例外ではありません。人材不足が深刻であり、セキュリティ人材やサイバーセキュリティエンジニアの確保が困難になっています。帝国データバンクの調査によると、IT業界では正社員不足が他の業界を上回っており、特にITエンジニアの不足が顕著です。
2025年には、多くの企業が導入している基幹システムが老朽化し、導入から20年以上が経過しているケースも増えます。特に金融業界や小売業など、ITに依存しがちな業界では、システムの刷新やクラウド化、セキュリティ強化が急務となります。しかし、セキュリティリスクや運用効率の低下に対応できる人員が不足しており、サービスの質の低下が懸念されているのです。
参考:人手不足に対する企業の動向調査(2024 年 7 月)|帝国データバンク
飲食業界
飲食業界でも既に人手不足が深刻であり、今後も人材が確保しづらい状況が続くと予測されています。特に地方のレストランや小規模店舗では、オーナーの高齢化と後継者がいない問題が生じており、店をたたむ企業も後を絶ちません。
配膳ロボットの導入など、IT技術による効率化が進んでいますが、多くの業務が労働集約型であるため完全自動化は困難です。したがって、人材の確保や働きやすい環境の整備が求められます。外国人労働者の積極的な雇用や、パートタイム従業員の待遇改善も重要視されています。
関連記事:M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)とは?目的や種類、費用について解説
2025年問題における「廃業リスクの高い企業」の特徴
2025年問題に伴い廃業を余儀なくされる企業には、いくつかの特徴があります。ここでは、2つのポイントに着目して、廃業リスクが高い企業の特徴を解説します。
後継者不足に陥っている
多くの中小企業では、経営者の高齢化により後継者不足が深刻化しています。後継者がいないと、事業の引継ぎが難しくなり、廃業のリスクが高まります。経営者の子供や従業員が後継者となる場合もありますが、それが難しい場合、第三者への事業承継が必要です。
しかし、後継者が見つからない場合や企業自体の魅力や価値が低いと、M&Aの実現も難しく、結果的に廃業に至るケースも少なくありません。経営者が元気なうちに、早めの対策が求められます。
経営層が高齢化している
かつては、経営者や従業員が高齢になり働けなくなった際、若い後継者が経営や技術を引き継ぎ、事業を存続させていました。しかし、現代の日本では少子高齢化が進み、若い人材を確保するのが難しくなっています。
経営層が高齢化している企業は、後継者不足という問題に直面しやすくなります。それだけにとどまらず、経営者が病気や体力の衰えで働けなくなった場合、若い世代が不足しているため、事業の継続が困難になるケースも多いです。
また、従業員の高齢化による生産性の低下も、廃業につながる可能性があります。早期から事業承継の計画を立て、人材確保の対策を進める姿勢が求められます。
廃業に追い込まれた中小企業の事例

経営者の高齢化や後継者不在の問題によって廃業した企業には、それぞれに事業を終える決断をした事情があります。ここでは、以下の3社の事例から、廃業に至った経緯や背景をご紹介します。
墨田区の町工場「岡野工業」
岡野工業は、「痛くない注射針」で一躍有名になった町工場です。その技術力の高さで注目を集め、中小企業の星とも呼ばれていました。しかし、惜しまれつつも2020年に後継者不足が理由で廃業しています。
岡野工業は、金属の深絞り技術や、ステンレスの板金を巻いて作る注射針の開発など、独自のアイデアと高精度の技術で世界に貢献しました。しかし、社長が高齢化する中、後継者問題が深刻化しました。娘さんが2人いましたが、どちらにも家業を引き継ぐ意思はなく、後継者を見つけられなかったのです。
経営が順調であったにもかかわらず、後継者の不在は廃業の決定打となりました。黒字が続いている状況でしたが、M&Aは行わず、数年かけて取引先の社員に技術を承継し、使用していた機械も譲り渡したと言います。
歌舞伎座前の弁当屋「木挽町辨松」
歌舞伎座前に位置し、長年愛され続けた弁当屋「木挽町辨松」は、2020年4月に152年の歴史に幕を下ろしました。作家池波正太郎のエッセイや俳人久保田万太郎の作品にも登場するほど有名で、役者や観劇用のお弁当として多くの人々に親しまれていました。
木挽町辨松は、後継者不足が深刻な問題でした。それに加え、設備の老朽化や新型コロナウイルスの影響もあり、経営を続けることが難しくなってしまったと言います。譲渡先を検討していたものの、新型コロナの影響で交渉が保留となり、最終的には廃業を余儀なくされました。
琉球泡盛の酒造所「千代泉酒造所」
千代泉酒造所は、琉球泡盛を製造していた宮古島の老舗酒造所です。1946年に創業し、日本全国で多くの人に愛され続けましたが、2018年3月に廃業しています。泡盛の製造には琉球石灰岩から湧き出る硬水を使用し、その豊かな味わいで多くの人々に親しまれていました。
廃業の主な理由は、経営者が亡くなり泡盛の製造ができなくなってしまったことです。会社は休業状態が続いていましたが、将来性が見えないため、後継者が現れることもありませんでした。
千代泉酒造所の泡盛は、その高い品質と独特の風味で知られていましたが、後継者不足という現実に直面し、長い歴史に幕を下ろすこととなりました。廃業後には、千代泉ファンによりファンドが設立され、酒蔵に残された最後の泡盛が販売されました。
2025年問題の解決策として注目されるM&A

2025年問題は、多くの企業に人材確保や市場戦略、労働環境の改善などさまざまな課題を突きつけています。特に経営者の高齢化による事業承継問題は深刻です。こうした課題に対処するため、M&A(企業の合併・買収)が注目されています。
M&Aを活用することで、後継者不在の問題を解決し、企業の存続を図ることが可能です。事業承継が難しい中小企業でも、適切な買収先が見つかれば、技術・人材・顧客基盤を引き継ぎ、企業成長や価値創出が期待できます。また、M&Aによって異なる業種や市場に進出することで、リスクの分散や新たなビジネスチャンスの獲得も可能です。
「事業承継税制」や日本政策金融公庫の「事業承継マッチング支援」が展開されており、各都道府県には「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されています。ここでは、親族内承継や第三者への引継ぎなど、多様な選択肢を提供し、企業の持続可能性を高めるサポートが行われています。
一方で、M&Aに対してネガティブなイメージを持つ中小企業経営者も少なくありません。過去にはM&Aが大企業の専売特許と見なされ、「身売り」や「恥ずべきこと」と捉えられることもありました。2018年の調査では、約半数の経営者がM&Aについて「よくわからない」と答え、14%が「よい手段だと思わない」と感じていることが分かっています。こうした背景から、M&Aに対する抵抗感が根強いのも事実です。

しかし、国の取り組みによってM&Aの認知度は向上してきました。若い経営者ほどM&Aに対する抵抗感が薄いことも判明し、ポジティブなイメージが広がりつつあります。M&Aは事業を存続させる手段の一つであり、2025年問題の解決策としても活用されています。
関連記事:M&Aに活用できる補助金!事業承継・引継ぎ補助金について徹底解説
2025年問題におけるM&A以外の対策
M&A以外にも、2025年問題に向けて企業が取り組める対策があります。ここでは、廃業に追い込まれないための3つの対策について解説します。
人材確保と労働環境の見直し
2025年問題でさらに加速する人手不足の課題を克服するために、企業は労働環境の整備と人材確保に力を入れる必要があります。従業員にとって働きやすい環境を作ることが、企業の存続に直結するからです。
例えば、働きながら介護を行う「ビジネスケアラー」に対して、柔軟な勤務形態を導入することが有効です。従業員が介護を理由に退職せずに済み、仕事を続けられるようになります。また、女性や外国人労働者の採用を進め、給与水準の見直しや働きがいのある職場づくりを推進することも重要視されています。
ただし、労働環境の整備だけでは人手不足は解消されない場合が多いです。デジタル技術を活用した業務効率化(DX推進)により、人手を必要としない体制を築くことにも目を向けましょう。
後継者の育成
企業を存続させるためには、早期に後継者候補を選定し、適切な育成計画を立てることが必要です。中小企業や小規模事業者では、すでに後継者が決まっている場合もありますが、その育成には時間と労力がかかります。
後継者候補には、経営のノウハウを身につけさせるため、現場での実務経験やリーダーシップ研修が不可欠です。従業員や取引先との信頼関係を築き上げるためにも、長い時間をかけてさまざまな経験を積んでいくことが求められます。
また、後継者不在の場合には、社外から適任者を招へいするのも一つの手です。M&A仲介会社やヘッドハンティング会社を活用し、経験豊富な人材を見つける方法があります。
事業承継税制の活用
事業承継税制は、事業承継を円滑に進めるため、後継者が納める相続税や贈与税の負担を軽減する制度です。企業がスムーズに事業承継を行い、雇用や技術の維持、経済の活性化を図ることを目的としています。
贈与税や相続税の納税猶予制度を活用するためには、一定の要件を満たす必要があります。主な要件は「非上場会社の株式などを承継する」「承継後に一定期間事業を継続する」「雇用を維持する」の3つです。
事業承継税制を上手に活用することで、後継者問題を解決し、持続的な発展を目指しやすくなるでしょう。とはいえ、すべての企業が利用できるわけではない点にも注意が必要です。
専門家に相談しながら、自社のケースで事業承継税制を活用できるかを確認してみてください。
なお、事業承継に関するその他の支援制度については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:事業継承に活用したい!事業承継・引継ぎ補助金の全容について徹底解説
事業承継対策を行い「2025年問題」を乗り切ろう
2025年問題は、多くの企業が避けて通れない課題です。しかし、適切な事業承継対策を講じれば、乗り越えられないものではありません。後継者の育成やM&Aの活用、労働環境の見直し、人材確保の強化など、多角的な取り組みが求められます。
また、事業承継税制や国の支援制度を積極的に活用することで、経済的な負担を軽減し、スムーズな承継が可能となります。
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