個人事業主が自己破産をした場合、確定申告をしなくてはいけないのでしょうか?自己破産をしても確定申告の義務は消えず、自己破産前後の所得や負債を適切に申告する必要があります。この記事では、自己破産をした場合の確定申告の必要性、税務処理のポイントを詳しく解説します。万が一に備え、自己破産時の確定申告について理解しておきましょう。
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目次
個人事業主が負債を整理する手段

個人事業主が事業活動やプライベートで多額の負債が生じ、返済が困難となったとき、どうするべきか頭を悩ませるのではないでしょうか。ここでは、負債を整理する主な方法について紹介します。
任意整理
裁判所を通さずに、債権者(金融機関など)と直接交渉し、負債を減額・調整する方法です。負債の元本は減りませんが、未払い利息の支払いを免除してもらう、長期分割払いを認めてもらうなどして、返済総額を抑えられます。
任意整理は、下記の方に適しています。
- 元本の返済は可能である
- 自己破産や個人再生を避けたい
- 車や住宅などの財産を手放したくない
裁判所を介さないことから比較的手続きが簡単で、専門家に依頼すれば短期間での解決が見込めます。また、財産を手放す必要もありません。
ただし、負債の元本は減額されないため、負債総額が大きい場合は根本的な解決にならない可能性が高いこと、債権者が交渉に応じない場合もあることに注意が必要です。
個人再生
裁判所通じて、借金を大幅に減額し、3〜5年間の分割払いで負債を返済する手続きです。自己破産とは異なり、住宅ローン特則を利用すればマイホームを残せることが、個人再生を選択するメリットの一つです。また、借金が大幅に減額(最大で90%)されるため、完済の目途を立てやすくなるでしょう。
個人再生は、以下の方に適しています。
- 借金を大幅に減額すれば3〜5年で完済できる見込みがある
- 住宅を維持しながら借金問題を解決したい
- 自己破産を避けたいが、任意整理では借金が減らせない
ただし、裁判所を介して手続きをするため、手続きが複雑で時間がかかることがデメリットです。また、安定した収入がなければ、再生計画を遂行できず、申請が認められないことにも注意が必要です。
さらに、全ての負債が減額対象になるわけではなく、住宅ローンや税金などは通常通り支払わなくてはいけません。
自己破産
裁判所に申立てを行い、借金の支払い義務を全て免除してもらう手続きです。原則、全ての負債が対象ですが、税金や養育費、罰金などは免責されません。高価な財産(住宅や車など)は手放す必要がありますが、生活に必要な最低限の財産は残せます。
借金が全額免除されるため、多額の負債による経済的、精神的負担から立ち直るチャンスを得られ、新たなスタートを切れます。
自己破産は、任意整理や個人再生では借金が返済できない人を対象とした制度です。まずは、負債を整理する最適な方法を検討し、自己破産しか選択肢がない場合は、自己破産による手続きを検討しましょう。
個人事業主が自己破産したときの手続き
負債の返済が困難となり、自己破産を選択した場合、個人事業主は管財手続きを選択するのが一般的です。管財手続きとは、裁判所が任命した管財人が、自己破産を申し立てた個人事業主と、債権者(申立人に対してお金を貸している)の間に入り、債務を調整することです。
管財人が、申立人の財産と負債の状況を調査してから売却できる財産を現金化し、債権者に対して分配します。
個人事業主が自己破産するときの負債の扱い
自己破産を選択した個人事業主は、事業だけでなく個人的な負債も免責されます。ここでは、自己破産で免責される負債の詳細、免責されない負債について紹介します。
免責される負債
自己破産の手続きをした場合、事業だけでなく個人の負債も免責されます。免責される負債の一例を以下に紹介します。
- 金融機関からの借り入れ
- 未払い金(家賃、水道光熱費など)
- リース料
- 買掛金
- 自宅の住宅ローン
- 車のローン
- クレジットカードの残債
このように、プライベートと事業で発生した負債のほとんどが免責されるため、負債の返済義務がほとんどなくなるはずです。
ただし、破産しても担保権の行使は可能であるため、家や車を失う可能性がある点には注意しましょう。
免責されない負債
事業とプライベートのほとんどの負債が免責対象となりますが、免責されない負債もあります。
- 社会保険料
- 税金
- 罰金
- 従業員への未払い給料
- 養育費
- 婚姻費用
- 浪費
- ギャンブルを理由にした借金
原則、上記の負債は免責の対象とはなりません。そのため、返済が困難な状況でも支払い義務は残ります。自己破産をしても、全ての負債が免責対象とはならないことに注意しましょう。
個人事業主が自己破産するときの資産の扱い
事業とプライベートで築いた資産について、自己破産の手続き後は管財人が管理し、適切に処分したうえで、債権者に分配します。事業で発生した買掛金は、免責対象の負債ですが、売掛金は資産として扱います。
自己破産をした場合、原則、一部を除いて全ての資産が処分の対象です。ただし、最低限の生活を維持するための財産として、20万円までは処分対象とせず、手元に残すことが可能です。
関連記事:個人事業主で税務調査が入る金額の目安と確率は?どれだけ遡って調べられる?
個人事業主が自己破産した場合の確定申告の必要性

負債を抱えて自己破産した個人事業主は、確定申告が必要なのでしょうか。自己破産を理由に廃業しても、確定申告が必要となることがあります。ここでは、個人事業主が自己破産した場合の確定申告の必要性について紹介します。
事業が黒字なら必要
原則、事業が黒字であれば確定申告が必要です。自己破産を理由に廃業した場合、確定申告の必要性は事業で利益が出ているかどうかで判断します。
自己破産をするのは、負債が返済できないからであるため、事業でも赤字が出ていると捉えがちです。しかし、負債を抱えていても、事業で赤字が出ているとは限りません。事業や個人で返済困難な負債を抱えていても、事業で黒字が出ていれば確定申告が必要です。
確定申告を忘れると、後日修正申告やペナルティ受ける危険性が高まるため、忘れずに手続きをしましょう。
青色申告特別控除の適用に注意
青色申告特別控除を適用後、所得が20万円以下となる場合でも確定申告は必要です。原則、20万円以下の所得は確定申告が不要です。
しかし、青色申告特別控除は確定申告をすることで適用される控除であるため、確定申告をしなければ控除は適用されません。そのため、確定申告をしなければ、20万円超の所得があるにもかかわらず申告しなかったとみなされるのです。
関連記事:個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
個人事業主が自己破産後の確定申告で利用可能か必要経費の特例
自己破産による廃業後に確定申告をするときに、必要経費の特例を適用することで節税が期待できます。ここでは、必要経費の特例の概要、対象となる費用、適用時の注意点について紹介します。
必要経費の特例の概要
事業を廃業した際にかかる費用を経費として扱うのが、必要経費の特例です。事業を廃業後は、事業自体を行っていないとみなされ、経費を計上できません。とはいえ、事業を廃業した後は、下記の費用が発生することがあります。
- 賃貸オフィスの修復やクリーニング
- 在庫の処分
- 廃業に伴う手続き
費用の特例を適用することで、計上できる費用を増やし、税金の負担を軽減できます。そこで、廃業後にかかった経費についても、支払いを証明できる領収書などの帳票書類を適切に保管しましょう。
関連記事:個人事業主は経費をどこまで切れる?経費にできるものや上限・メリットなどぶっちゃけ紹介!
必要経費の特例を適用するための条件
廃業後にかかった費用を経費として認めてもらうためには、所定の条件を満たさなくてはいけません。また、個人事業主の事業内容によっては、特例の適用対象外となることもあります。特例を適用できるのは、下記の所得を得ていた個人事業主です。
事業所得 山林所得や不動産所得 |
上記に該当する事業は、廃業後の片付けにそれなりの費用や手間がかかることから、特例が認められています。個人事業主が廃業をする際は、自身の事業が特例の対象となるのかを確認することが先決です。
さらに、特例を適用する費用についても、下記の要件を満たすことが求められます。
廃業しなければ必要経費として計上できた費用 事業に関連する必要経費 |
特例の対象である事業か、事業に必要な経費であるか否かが特例の対象となるかを見極めるポイントです。廃業後に発生した経費について、特例を適用できるか否かの判断が困難なときは、税理士にアドバイスを仰ぎましょう。
必要経費の特例を適用する際の注意点
廃業後の確定申告で必要経費の特例を適用する際は、適用可否の判断を税務署が行うことに注意が必要です。
必要経費の特例を適用し、経費を計上しても、経費として認めるか否かは税務署に委ねられています。経費として認めてもらうためには、経費の妥当性を税務署から問われたときに、納得できる説明を用意しておくことが大切です。
また、管轄の税務署によって、廃業後の必要経費として認定する基準に違いが出ることもあり得ます。そこで、事前に管轄の税務署の担当者もしくは税理士に、必要経費の特例を適用するための基準について確認しておくと安心です。
個人事業主が自己破産後に行う確定申告のポイント

自己破産後に確定申告を行う際は、いくつかのポイントを抑えることが、正しい納税と節税に結びつきます。ここでは、自己破産後の確定申告における減価償却、在庫、個人事業税への対応について紹介します。
減価償却費の扱い
事業で使用していた資産を減価償却する際、廃業日までの減価償却費を計上します。減価償却後も資産が残っている場合は、資産の扱いに応じて適切に対応します。
廃業する年度における減価償却費は、廃業した日までの減価償却費を計算し、経費として計上しましょう。減価償却をしても減価償却分残っている資産は、廃棄もしくは売却するのが一般的です。
該当する資産を廃棄する場合は「固定資産除去損」として計上し、経費に算入可能です。一方で、資産を売却する場合は「譲渡所得の取得費」として、減価償却の残価分を計上します。
在庫の扱い
廃業後に在庫が残ってしまったときは、これまでの会計処理に従いましょう。在庫は、資産もしくは費用として会計処理するのが一般的です。
そのため、これまで資産として処理していた場合は、廃棄するものとして費用計上が可能です。一方で、費用として扱っていたなら、確定申告時の対応は不要です。ただし、在庫を転売して利益を得た場合、売上高として申告しなくてはいけません。
個人事業税の扱い
業種や所得額に応じて支払い義務が生じる個人事業税は、廃業から1カ月以内に申告と納税を忘れずに行いましょう。
期限内に手続きをすることでペナルティを回避できるだけでなく、確定申告時に費用計上でき、節税にもつながるからです。税金は自己破産でも免責されないため、期限内に納めることが大切です。
参考:東京都主税局 個人事業税
自己破産による廃業後も税務調査対策が必要
自己破産で事業を廃業した場合も、税務調査が入る可能性は十分にあり得ます。ここでは、廃業後の税務調査への備えについて詳しく紹介します。
合法的に手続きを進めること
廃業後の確定申告は、法律に従って正しく行うことが大切です。廃業後や倒産後にも税務調査を行うのは、正しい納税が行われているかを確認するためです。
脱税がバレにくいと考え、廃業前に意図的な脱税をする事態が起こり得ます。そこで、税務署は法律違反を見逃さないようにするために、廃業や倒産後に税務調査を行っています。
脱税が発覚してペナルティを受けた場合、税金の支払い義務が重くのしかかるでしょう。正しく納税できていれば払う必要がない税負担を避けるためにも、合法的かつ正しい納税が求められます。
帳簿を5年もしくは7年間保管しておく
廃業後に税務調査に入ったときに、帳簿の提出を求められるため、5年もしくは7年間は帳簿類を保管しておきましょう。保存が必要な帳簿の種類は以下の通りです。
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
- 売掛帳
- 買掛帳
- 現金出納帳
- 固定資産台帳
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 試算表
- 棚卸表
- 領収書
- 請求書
- 見積書
- 納品書
- 契約書
- 預金通帳
帳簿や書類によって保存期間が定められているため、法律に従って書類を保管しておきます。また、インボイス制度の導入により課税事業者となっている場合は、適格請求書についても7年間の保存が必要です。
税理士に相談しておく
廃業後の確定申告について、税理士に相談や依頼をすることで、税務調査にも対応してもらえるはずです。
廃業後の確定申告では、減価償却費や在庫など例年とは異なる処理や注意点があるため、ミスや漏れが起こるリスクが高まります。
ミスが発覚すると、税務調査が入る確率を高めてしまうことがあるため、最初から税理士に依頼することで、正しい納税をサポートしてもらえます。また、後日税務調査が入ったときも、代わりに対応してもらえるため安心です。
関連記事:税務調査は個人にいくらからくる?個人に及ぶケースとその対策とは?調査対象となる金額の目安
個人事業主が自己破産した場合の事業継続の可能性
返済できないほどの負債を抱えても、何とか事業を継続させたいと願う個人事業主もいるでしょう。しかし、自己破産をした場合、事業の継続は極めて困難です。ここでは、個人事業主が自己破産後に事業を継続させることが困難な理由と、事業の継続が期待できる要件について紹介します。
自己破産後は事業継続が極めて困難な理由
自己破産後の事業継続が難しい主な理由は、以下のとおりです。
- 事業に必要な財産は処分対象となる
- 融資を受けにくい
- 事業関連の契約を解除される
自己破産をした場合、信用情報機関つまりブラックリストに掲載され、数年間は新規でのクレジットカード作成や、融資を受けることが困難です。また、オフィスとして使用していた物件、リース契約の備品などの契約も解除されます。
自己破産により事業を継続させるための資金、設備もなくなることから、事業を続けること自体が難しくなるのです。
自己破産後も事業を継続するための対策
自己破産後にも事業を継続させるためには、最低限の範囲でできる事業、設備や従業員を必要としない事業を営むことです。
自己破産時に、資産のほぼ全てを手放さなくてはいけませんが、最低限の生活を維持するための資金として20万円を手元に残せます。
例えば、フリーランスのWebデザイナーやカメラマンのように、20万円の範囲内で行える事業であれば、事業継続できる可能性が高まります。
他にも、出張マッサージや出張エステのように、事務所を持たずに行える事業についても、継続できる可能性が高いでしょう。
関連記事:税務調査に税理士の立会は必要?どこまで調べる?税理士に任せるメリット・デメリットや費用相場について解説!
まとめ|個人事業主の自己破産後の確定申告は適切な対応が必要を!
返済困難な負債を抱えた個人事業主が自己破産を選択した場合、事業で黒字が出ていれば確定申告が必要です。ただし、通常の確定申告とは異なり、減価償却や在庫などの適切な処理が求められます。また、廃業後にも税務調査が入る可能性が十分にあり得えるため、税務調査対策も求められます。正しく納税するためにも、税理士の専門的なサポートを活用しましょう。





