自社株買いとは株主から自社株を買い戻すことで、節税効果や経営の安定などのメリットがあります。一方で、正しく適用するには資金繰りの悪化リスクや源泉徴収の必要性など、デメリットや注意点も知っておくのは重要です。今回は、自社株買いの特徴や節税方法と節税効果、メリットとデメリットなどを解説します。最後まで読めば、自社株買いに関する疑問点を解消できるでしょう。
目次
自社株買いとは
自社株買いとは、株主から自社株を買い戻し、株主などへの利益還元や株価対策、資本効率の向上などの効果が期待できます。
全体的な株式の量が減ると、1株あたりの株価が上昇しやすくなり、配当金の総額も抑えられるため、増配につなげやすくなるのが特徴です。
一方で、自己資本比率が低下したり、資金繰りが悪化したりするリスクもある点は押さえておく必要があります。オーナー社長が企業運営のために自己資金を投じている場合、個人の財産がほぼ自社株のみのケースもあります。
自社株の評価額が高すぎると、後継者は贈与税などの納税を負担に感じる可能性が高いです。状況によっては、利益がでていても廃業せざるを得ないケースもあるため、自社株買いによる対策が有効です。
株式市場がある上場企業とは異なり、非上場企業の場合、以下の評価方法によって株価を求める必要があります。
類似業種比準価額方式 |
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純資産価額方式 |
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自社株買いをするときは、株主総会や取締役会を開いたうえで決定する必要があります。非上場企業の場合、特別決議で議決権を有する出席株主の3分の2以上の賛成を得られると、可決されます。
自社株買いの節税方法と節税効果

自社株買いで効果的な節税方法として、以下の3つがあげられます。
- 自社株の評価額をさげる
- ホールディングス化する
- 事業承継税制を活用する
節税効果を含め、以下で詳しく見ていきましょう。
自社株の評価額をさげる
自社株買いによって自社株評価額をさげられると、相続税の課税価格も減るため、節税につなげられる可能性があります。評価額引き下げの具体的な方法は、以下の表にまとめました。
節税方法 | 節税効果 |
役員報酬の引上げ |
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役員退職金の支払い |
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株式配当金の低い設定 | 株価評価の要素の1つで、低くすると株価も低くなる |
生命保険への加入 | 損金算入できる生命保険を活用すると、株価評価額をさげられる |
不動産の購入 |
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高収益部門の切り離し |
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オペレーティングリース |
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ホールディングス化する
ホールディングスとは持株会社のことで、他会社の株式所有により、事業活動をコントロールするのが特徴です。中小企業の場合、既存会社を分社化し、新たに設立した会社が株式を保有することで、ホールディングス化を行う傾向にあります。
節税方法としてホールディングス化が優れている点として、以下の2つがあげられます。
節税方法 | 節税効果 |
株価の抑制 |
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グループ通算制度の適用 | 状況によって異なるものの、損益通算によって納税額をさげられる可能性がある |
ホールディングスの場合、先代経営者がなくなったとき、株式は相続人へ相続されます。株価が下がれば後継者に株式を贈与する場合に比べ、節税面での効果を得られるのがメリットです。
後継者の高額な納税負担を避ける方法として、ホールディングス化を検討するのが1つの方法です。
関連記事:ホールディングスとは?ホールディングス化のメリットやデメリット、方法をわかりやすく解説!
事業承継税制を活用する
本税制の特徴は、贈与税や相続税の猶予を受けられることで、自社株の相続時の税金の負担を避けられる点です。本税制のポイントは以下の通りです。
特例承継計画を提出する |
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一定の要件を満たす | 猶予税額が免除される |
事業用資産にかかる贈与税と相続税が対象 |
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本税制の適用はメリットがある一方、後継者が自社株を所有するなど要件を満たすことが求められます。要件から外れると猶予が打ち切られるだけでなく、利息の支払いも発生するため注意が必要です。
事業承継で重要な特例のため、疑問点や不安などがある場合は、税理士などの専門家へ相談するのをおすすめします。
自社株買いのメリット

自社株買いのメリットは以下の通りです。
経営権を集中させられる |
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相続税の納税負担を軽減させられる | 後継者の株式取得の負担を軽減しつつ、経営権を移行できる |
従業員のモチベーションを高められる |
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買取分の株式の配当金が不要である | 株主に分配する配当金は市場に流通している株式の数に影響される |
会社が成熟段階に入ったあと、自社株買いによる株主還元によって、会社の市場価値を高める戦略が有用なケースもあります。
自社株買いのデメリット
自社株買いのデメリットは以下の表にまとめました。
資金が減る |
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源泉徴収が必要である |
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会社の発展に影響を与える |
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関連記事:源泉徴収する・しないの基準とは?対象の報酬・給与や計算法を解説!
自社株買いの注意点
自社株買いをするときは、以下の点に注意が必要です。
法規制について知っておく |
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適正な買取価額を設定する |
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取得割合について配慮する |
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自社株買いに関するよくある質問

自社株買いに関してよくある質問をまとめました。以下で詳しく解説します。
非上場企業の社長が自社株買いするメリットは?
相続税を納めるための資金確保や、経営の安定などがあげられます。株式の売却市場がある上場企業とは異なるため、非上場企業の場合、株式売却が難しいケースもあります。
自社株買いにより資金を得られると、相続税の納税に対応しやすいでしょう。自社株買いで後継者以外の株主から株式を買い戻すと、経営権を集中させられるため、重要な意思決定を統一させやすい点などがメリットです。
自社株買いで法人に税金がかかる?
対価のうち、利益積立金に対応する部分は配当とみなされるため、株主側に税金がかかるケースもあると知っておく必要があります。配当とみなされると、原則として法人側で源泉徴収する必要があります。
自社株買いで生じるみなし配当とは?
自社株買いを通して得た資金の一部について、配当金を得たとみなされるものを示します。
株式の売却によって得た資金より、株式の売却に対する資本金などの金額を引くことで、みなし配当の金額を算出できます。
参考:自己株式の「みなし配当」とは?発生するケースや算出方法、注意点を解説!
自社株買いすると源泉徴収が必要?
はい。利益積立金額より減額する部分は配当とみなされるため、原則として必要です。源泉徴収の手続きを怠ると、不納付加算税を課されるリスクがあるため、適切な対処が求められます。
事業承継についての相談は税理士へ
今回は、自社株買いの特徴や節税方法と節税効果、メリットとデメリットなどを解説しました。経営権を集中させられたり、後継者の相続税の納税負担を軽減させられたりと、自社株買いには多くのメリットがあります。
一方で、手続きや経営への影響などを含め、節税効果を得るには高度な知識や経験が求められます。不安な点がある場合、税理士へ相談するのが賢明です。
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