税金や社会保険料の負担を考慮し、資産を残していくのは大切な経営課題と言えるでしょう。解決策として、配当の活用が選択肢に挙がるケースもありますが、配当と役員報酬は税務上の仕組みが異なり、安易な活用には注意が必要です。本記事では、配当を用いる際の注意点と役員報酬との根本的な違い、節税効果などを分かりやすく解説します。
関連記事:中小企業の配当金は損をする?節税になるか否か、配当金にかかる税金について
目次
配当による法人税の節税効果はある?

個人から考えると配当を活用した節税が有効なケースもありますが、多くのケースで役員報酬の方が税制上有利です。配当は社会保険料の対象外という利点があるものの、法人税の計算上、経費(損金)の算入不可のため、会社の節税効果はありません。
さらに、配当を受け取る経営者の所得が高額な場合、最大で55%近い税率が課され、手取りが減少するリスクがあります。配当による節税効果は、経営者の所得が低い場合や、社会保険料の負担を特に抑えたい場合など限定的です。
節税策として配当を検討するなら、会社と個人の財務状況を総合的に分析し、慎重に判断しましょう。
配当と役員報酬の違い
配当も役員報酬も、会社から個人へ資金が渡る点では同じです。しかし、税務上の取り扱いは根本的に異なります。資金の受け取り方の違いが、法人税や所得税・社会保険料の額を左右します。両者の特性を正しく把握し、節税対策に活かしましょう。
損金算入の可否
役員報酬は役員の働きに対する対価であり、毎月同額を支給するといった要件を満たせば、法人の経費(損金)に計上できます。経費計上は会社の利益を圧縮するため、法人税の負担を軽減する効果があります。
配当は、株主への利益還元という位置づけのため、経費とは見なされず損金算入はできません。そのため、いくら配当を支払っても法人税額は一定で、節税効果がない点はデメリットです。法人税を減らすには、配当以外の方法を選択する必要があるという基本を押さえておきましょう。
社会保険料の負担
役員報酬には、健康保険や厚生年金といった社会保険料が発生します。社会保険料は会社と役員が約15%ずつ負担する労使折半であり、双方にとって知っておきたいコストです。
社会保険料の軽減メリットと、法人税が増加するデメリットを比較し、会社と個人にとってどちらが有利かを検証する必要があります。
一方、配当金には社会保険料が一切かからない点がメリットです。ただし、配当は損金算入が不可のため、会社の節税効果はありません。配当は社会保険料の負担を抑えられる選択肢ですが、法人税の資金負担の増加も踏まえた総合的な判断が求められます。
所得区分
所得区分の性質によって、所得税の計算方法が異なります。役員報酬は給与所得に分類され、給与所得控除という形で一定額が所得から差し引かれます。
一方、配当は配当所得であり、非上場企業からの配当は総合課税の対象です。総合課税では、他の所得と合算して税額を計算するため、所得全体が多いほど高い税率が適用されます。高所得者が配当を受け取ると、税負担が重くなる可能性があるため注意が必要です。
関連記事:役員報酬は節税対策できる?損しない方法と注意点を解説
法人が配当を出すときの注意点
配当の仕組みを十分に理解せずに活用すると、節税どころか法人の負担が増える可能性があります。配当は法人税の節税にならないうえ、個人の所得税や住民税も増えるため、結果的に手取りが減るケースも多いです。ここでは、配当を活用する際の注意点を解説します。
法人の負担が増える
役員報酬は、一定のルールを守れば会社の経費として認められます。経費にすれば会社の利益を抑え、法人税負担を軽くできるのが大きな利点です。
それに対し配当は株主への利益分配であり、経費にはなりません。配当を支払っても、法人税の課税対象となる会社の利益が同じである点は、明確なデメリットでしょう。
配当の活用を考える際は、税制上の仕組みを理解し、役員報酬とのバランスを考えるのが大切です。
配当を受け取った経営者・役員の所得税の負担が増える
非上場会社の配当は総合課税の対象なので、経営者や役員の所得が高いと所得税の負担も大きくなります。日本の所得税は、所得が多いほど税率が上がる累進課税制度を採用しています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330〜695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695〜900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900〜1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800〜4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
※復興特別所得税は考慮していません。
例えば、課税所得が900万円を超える高所得者が配当を受け取ると、33%以上の高い税率が適用されます。
その結果、社会保険料の負担を抑えられるメリットよりも、所得税の増加額の方が大きくなり、手取りが減る恐れがあります。配当を利用する際は、自身の所得にどれだけの税率がかかるか計算しておきましょう。
みなし配当と判断されるおそれがある
通常の配当以外にも、想定外の形で税金が発生する「みなし配当」のリスクにも注意が必要です。配当の対象外として見られる取引でも、税務上、実質的な利益の分配と判断されると「みなし配当」として課税対象になります。
代表的な例が、会社による自己株式の取得です。株主から見れば株式の売却ですが、税務上はみなし配当と見なされ、課税される可能性があります。
予想に反して課税されるケースがあるため、不安な方は専門家への相談がおすすめです。
内部留保に対して税金が発生する
配当を行わずに会社の内部留保(資産)を増やし続ける場合にも、税務上の注意点があります。
一定の条件を満たす「特定同族会社」は、過大な内部留保に対して「留保金課税」という追加の税金が課されるケースがあります。
項目 | 特定同族会社に該当するケース |
株主の構成 | 上位3位までの株主で、発行済株式の50%超を保有している |
会社の性質 | 上位3位までの株主に、非同族会社が含まれていない |
オーナー社長と親族が株式の大部分を持つ多くの中小企業は、この条件に当てはまる可能性があります。ただし、資本金1億円以下の法人であれば、原則として留保金課税の対象外です。資本金が1億円を超える企業は、内部留保の扱いに注意が必要です。
法人が配当でメリットを得られるケース

注意点の多い配当ですが、特定の条件を満たし戦略的に活用すれば、メリットを生むケースもあります。自社にとって配当が有効な手段となり得るか、事前に見極めておくのが大切です。ここでは、配当がメリットになる3つのケースを解説します。
社会保険料の負担が軽減される
役員報酬に課される約30%(労使合計)の社会保険料負担を、配当に切り替えればゼロにできます。例えば100万円の役員賞与なら約30万円の社会保険料がかかりますが、同額を配当で支払えば社会保険料は生じません。
ただし、配当は経費の対象外のため、会社の資金負担が増える点には注意が必要です。
社会保険料の軽減額と法人の負担増加額を比較し、どちらの節税効果が大きいかを慎重に検討するのが大切です。
定期同額給与の制約の影響を受けない
役員報酬を損金にするには、原則として毎月同じ額を支払う「定期同額給与」のルールを守る必要があります。年度の途中で業績が良くても、役員報酬を柔軟に増額はできません。
一方、配当は株主総会の決議を経れば、会社の業績に応じて支払時期や金額を柔軟に決められます。支払いの自由度の高さは、配当のメリットでしょう。
配当控除を適用すれば所得税額の軽減につながる場合がある
配当所得には、法人税と所得税の二重課税を調整するための配当控除の制度があります。
経営者個人の所得が比較的低い場合、配当控除により所得税の負担が軽くなり、役員報酬で受け取るよりも手取りが増えるケースがあります。
ただし、所得が高くなると総合課税により税率が上がるため、かえって税負担が増すことに注意が必要です。自身の所得がどの税率区分に該当するかを確認し、配当を活用すべきか判断しましょう。
配当の戦略的な活用法

短期的な節税目的だけではなく、会社の将来を見据えた長期的な視点を持つことで、配当は有効な経営戦略として役立ちます。ここでは、配当を経営戦略の一環として活用する際のポイントを紹介します。
後継者の相続税対策
事業承継において会社を引き継ぐ際、自社株式も相続や贈与の対象となるため、配当が有効に機能するケースがあります。
メリット | 内容 |
株価の上昇を抑制できる | 配当で会社の内部留保を計画的に個人資産へ移すことで、株価の上昇を抑えられる |
相続税・贈与税の軽減 | 株価が低く抑えられれば、相続や贈与の際の課税評価額も下がり、税負担が軽減される可能性がある |
リスク分散 | 利益を個人資産にすることで、倒産や訴訟時の差し押さえリスクを軽減できる |
配当を通じて会社の資産を計画的に減らしておくのは、株価をコントロールし、将来の相続税負担を軽減する有効な手段です。
また、法人と個人に資産を分散させれば、経営リスクから資産を守る効果も期待できます。経営承継を見据えた対策として、配当の活用は検討に値するでしょう。
ただし、所得額によっては節税にならない場合もあるため、具体的な対策は専門家のアドバイスを求めるのがおすすめです。
安定配当による信用力の向上
安定的に配当を実施するのは、金融機関からの信用力を高める要因になるケースがあります。株主への利益還元を継続する姿勢は、経営の安定性を示す指標と見なされるためです。
しかし、配当を優先するあまり、事業に必要な設備投資や運転資金が不足しては本末転倒です。過度な配当は将来の成長機会を損ない、資金繰りを圧迫するリスクも抱えています。
金融機関からの評価も大切ですが、常に会社の資金繰りを最優先し、できる範囲での配当を検討するのをおすすめします。
よくある質問

ここでは、配当の節税効果に関して寄せられる質問と回答をまとめました。
配当と役員報酬のシミュレーションは税理士に相談できる?
税理士によるシミュレーションは可能です。小谷野税理士法人であれば、お客様のケースに合わせた節税対策をさせていただきます。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
法人の配当は節税効果がある?
配当の支払いに、法人税を減らす節税効果はありません。配当は経費(損金)として認められず、会社の課税対象となる利益の圧縮が不可のため、節税対策としての活用は不向きです。
中小企業が配当を出すメリットは?
先述した通り、社会保険料の負担軽減や所得税額の軽減に期待できるケースがあります。ただし、配当がメリットになるのかは事業者によって異なるため、税理士への相談をおすすめします。
非上場企業の配当金の決め方は?
株主総会の決議によって、配当可能な剰余金の範囲内で自由に決定できます。ただし、配当可能な余剰金があっても、純資産が300万円を下回るケースでは、配当は出せません。
配当を使った節税効果の検証は税理士に相談しよう
配当には社会保険料の負担を抑えられるメリットがある一方、所得税の負担が増えるデメリットが存在します。多くの場合、配当を使った節税は役員報酬に比べて不利になるのが実情です。
安易に配当を活用すると、節税どころか税負担を増やしてしまう危険性があります。配当による節税効果を正確に検証するには、専門家である税理士への相談がおすすめです。
税理士との面談では、個々の状況に合わせた効果的な節税対策の提案が受けられます。小谷野税理士法人では無料相談を行っているため、まずはお気軽にご利用ください。





