損金算入は、法人税負担を軽減するための有効な節税手法として多くの企業に活用されています。しかし、損金と経費の違いや、正しい算入方法を理解していないと、税務調査で否認されるリスクもあります。本記事では、損金算入の基本的な仕組みから、節税効果を高める具体的な方法、活用時の注意点まで詳しく解説します。賢く活用して、無理のない税負担軽減を実現しましょう。
目次
そもそも「損金」とは?

損金とは、法人が事業活動を行う上で必要とされる支出のうち、税務上、課税所得の計算上、差し引くことが認められるものを指します。
適正に損金として計上すれば、法人の所得額が減少し、その結果として法人税などの税負担を軽減できます。
経費との違い
「経費」は会社の会計上、事業にかかったすべての費用を指します。一方「損金」は、税金を計算するうえで、税務上認められた経費だけに限られます。
つまり、帳簿上は経費にできても、税法のルールに合っていないと税金を減らす対象(損金)にはできません。会計と税務で扱いが異なる点に注意しましょう。
関連記事:損金と経費の違いとは?損金算入・不算入の考え方も解説
節税効果の仕組み
損金を適切に算入すると、法人の所得が圧縮され、その分課税所得が少なくなります。これにより法人税や事業税などの負担が軽減され、節税効果が得られます。
節税によって確保された資金は、事業の再投資や設備投資、内部留保などに活用でき、財務面でも好影響をもたらすでしょう。
個人事業主と法人での損金の扱いの違い
法人のほうが、節税に使える経費の範囲が広いという点が最大の違いです。個人事業主の場合、経費は「必要経費」として扱われますが、対象が限られており、代表者の報酬などは認められません。
一方、法人ではこうした支出も「損金」として認められるため、より多くの経費を節税に活用できます。
節税効果を高める損金算入の具体例
税務上のルールに沿って認められる支出を上手に活用すれば、節税効果を高められます。特に実務でよく使われる損金算入の代表的な例を紹介します。
減価償却費の活用
減価償却費を活用すれば、固定資産の取得費用を一括ではなく、耐用年数に応じて分割して損金算入できます。
これにより一度に大きな利益を圧縮せず、長期的かつ計画的に節税が可能となります。特に高額な設備投資に対しては、キャッシュフローの安定にも繋がる重要な手法です。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
役員報酬・賞与の計画的な支給
適正に設定された役員報酬や賞与は損金算入が可能で、法人税の節税に直結します。
特に、期末の利益調整やインセンティブ設計において効果的で、企業の財務戦略と人材マネジメントの両面から有効に機能します。事前の株主総会決議や支給時期には注意しましょう。
関連記事:役員退職金(役員退職慰労金)の損金算入時期は?計算方法や税金における注意点を解説
退職金の活用
退職金は条件を満たせば損金算入が可能であり、多額の支出である分、法人税への影響も大きくなります。
計画的に積立を行い、退職時に適正額を支給すれば、一時的に大きな節税効果を得られます。ただし、役員退職金には、支給額の算定方法や支給時期などに関して厳密なルールがあるため、事前の検討が重要です。
福利厚生費の適正計上
福利厚生費は、従業員の健康やモチベーション向上を目的とした支出であり、税務上も損金算入が認められます。
健康診断や社員旅行、社内イベントなどが対象となり、従業員満足度の向上と同時に節税にも寄与する点が大きなメリットです。
寄附金の活用
寄附金は、税法上の限度額内であれば損金算入が認められているため、節税効果が得られます。
特定公益増進法人などへの寄附であれば、損金算入限度額が拡大される場合もあります。企業の社会貢献活動としての位置づけとあわせて、戦略的に活用したい手法と言えるでしょう。
関連記事:寄付金が税金対策になる?寄付金控除の仕組みや対象について解説
損金算入を活用する際の5つの注意点
損金算入には節税効果がありますが、使い方を誤るとリスクも伴います。損金算入を行う際に見落とされがちな5つの注意点について解説します。
- 節税目的だけの支出は認められない
- 相場を超える支出は否認リスクがある
- 書類不備があると損金算入できない
- 限度額を超えると損金算入できない
- 短期的な節税で資金繰りを悪化させない
節税目的のみの支出は否認される
損金算入の前提は「事業に必要な支出」であることです。税負担を下げたい一心で無理に経費を捻出すると、税務調査で「事業性なし」と判断され、損金不算入とされるリスクがあります。
事業目的を客観的に説明できるよう、証拠書類などを整備しておきましょう。
相場を超える支出は否認リスクがある
役員報酬や寄附金などの金額が著しく高い場合、適正な範囲を超えていると判断され、損金として認められない場合があります。
節税を目的とした過大な支出は、追徴課税や加算税の対象となる恐れもあるため、相場や根拠に基づいた金額設定が必要です。
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
証拠書類の保存が必須
原則として契約書や領収書など、支出の正当性を証明する書類が整っていないと、損金として認められません。
特に、金額が大きい支出や継続性のある契約は、記録の有無が税務調査時の判断材料となります。日頃から証憑書類の保管と整理を徹底しましょう。
限度額を超えると損金算入できない
交際費や寄附金には、税法で明確な損金算入限度額が定められています。超過した分は損金にできず、損金不算入されてしまうため、事前に自社の上限額を把握しておきましょう。特に中小企業向けの特例もあるため、正確な確認が必要です。
短期的な節税で資金繰りを悪化させない
損金算入によって税額を減らすために、無理な支出を増やしてしまうと、手元資金が不足し、将来的な資金繰りを圧迫する場合があります。
一時的な節税効果にとらわれず、資金の流れや投資計画を考慮したうえでの損金算入が重要です。
損金算入を効果的に活用する5つのポイント

損金算入を節税に活かすためには、単にルールを守るだけでなく、戦略的かつ継続的な運用が欠かせません。損金算入を有効に活用するために意識しておきたい5つのポイントについて解説します。
- 税理士への事前相談
- 中長期的な利益計画の策定
- 書類管理の徹底
- 定期的な内容の見直し
- 支出計画のバランス確保
税理士への事前相談
損金算入の計画は、税務知識に基づいた判断が必要です。事前に税理士へ相談すれば、誤った処理や過大な損金計上を防ぎつつ、企業の実情に即した最適な節税プランを立てられるでしょう。
また、最新の税制改正や業種ごとの判断基準も把握でき、安心して実行に移せる点も大きなメリットです。
中長期的な利益計画の策定
損金算入は単年度の節税に留めず、将来の利益変動や投資計画も見据えて行いましょう。
利益が出る年に集中させるだけでなく、赤字や設備投資が見込まれる年を含めて、中長期の損益計画に沿った配分をすることで、より安定した経営と節税効果を両立できます。
書類管理の徹底
損金算入が認められるかどうかは、書類の有無や整備状況に左右されます。契約書、領収書、証憑資料などはすべて正確に保管し、内容に不備がないよう点検しましょう。
特に高額取引や役員関連費用は税務調査の対象になりやすいため、書類管理は日常的に徹底するべき作業です。
定期的な内容の見直し
税制は頻繁に改正されるため、過去に通用していた損金処理が現在では認められない場合もあります。
損金算入の方法や金額、適用対象については、定期的に内容を見直し、最新の制度に合致しているかを確認しましょう。見直しを怠ると、節税どころか否認リスクが高まる恐れもあります。
支出計画のバランス確保
損金算入ばかりを優先して支出を決めると、手元資金や将来の経営戦略に悪影響を及ぼす可能性があります。
節税効果は重要ですが、同時に事業の持続性や成長に向けた投資、資金繰りとのバランスを考慮した支出計画を立てましょう。税務と経営の両面から判断する視点が求められます。
損金算入による節税に関してよくある質問

損金算入は節税に有効な手段ですが、実際の適用に際しては多くの疑問や不安がつきものです。特に初めて損金算入を活用する企業や、税務処理に慣れていない担当者にとっては、判断に迷う場面も少なくありません。
よくある質問をご紹介しますので、参考にしてください。
すべての支出を損金算入できますか?
すべての支出が損金算入できるわけではなく、税法で定められた要件を満たした支出のみが対象となります。
たとえ事業に関連する支出であっても、私的な性質が強いものや、形式的な証拠がない支出は否認される可能性があります。損金に計上する際は、支出の性質・目的・証拠の3点を必ず確認しましょう。
赤字でも損金算入は意味がありますか?
赤字の年度に損金算入をしても即時の節税効果はありませんが、欠損金として翌期以降に繰り越して活用できます。
そのため、将来的に黒字化が見込まれる場合は、赤字年度でも正しく損金算入を行う意義があります。ただし、繰越には年数制限があるため、制度内容の把握も重要です。
小規模法人でも損金算入の効果はあるのか
法人の規模にかかわらず、損金算入の基本的な仕組みは同じであり、正しく活用すれば小規模法人でも十分に節税効果を得られます。
特に、交際費や役員報酬などの支出については中小企業向けの優遇制度もあるため、自社の状況に応じて戦略的に活用しましょう。
損金算入による節税でお悩みの方は専門家に相談
損金算入は正しく活用することで大きな節税効果が期待できますが、誤った運用や過度な節税は税務調査で否認され、追徴課税などのリスクが発生します。これらのリスクを避け、最大限の効果を発揮するには、専門家への相談が不可欠です。
小谷野税理士法人では、損金算入や法人税の節税対策に関する豊富な実績を活かし、企業の状況に応じた最適な提案を行っています。損金算入を活用して税負担を軽減したい方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。





