繰越欠損金は、過去の赤字を将来の黒字と相殺できる制度で、法人税の節税に大きな効果があります。ただし、使い方を誤ると適用できなかったり、効果を十分に得られない場合もあります。本記事では、繰越欠損金の仕組みや節税効果の具体的な内容、使えないケース、適用手続き、そして効果を最大化するためのポイントまでをわかりやすく解説します。繰越欠損金の活用で損をしたくない方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
繰越欠損金とは?

繰越欠損金とは、ある年度に生じた赤字を、翌年度以降の黒字と相殺し、課税所得を減らすことができる制度です。これにより、法人税等の負担を軽減する効果が得られます。
ただし、適用にはいくつかの要件があり、青色申告の承認や帳簿管理、期限内申告などが必要とされます。
関連記事:繰越欠損金とは?適用条件や繰越期限・税効果会計や繰戻し還付制度も解説
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繰越欠損金の節税効果とは?
繰越欠損金は、正しく活用すれば、税負担を大きく軽減できます。繰越欠損金によって得られる主な節税効果について解説します。
黒字と相殺することで法人税を軽減できる
繰越欠損金は、翌期以降の黒字と相殺できるため、法人税の負担を軽減できます。税金は所得に応じて発生するため、課税所得が減ればその分だけ税額も減ります。例えば、赤字1,000万円を翌年の黒字1,000万円と相殺すれば、課税所得はゼロになります。
利益が多く出た年度ほど節税効果も大きくなるため、業績好調な年こそ繰越欠損金の活用が有効でしょう。
最長10年間にわたって節税効果が持続する
繰越欠損金は、最長10年間繰り越して使えるため、長期的に節税効果を維持できます。
平成30年4月1日以降に開始する事業年度からは、欠損金の控除可能期間が10年に延長されました。赤字が出た年からすぐに黒字化しなくても、数年後の利益と相殺できるのが強みです。
安定的に利益が出るまで時間がかかる企業でも、繰越欠損金によって将来の法人税を軽減できるでしょう。
繰越欠損金が節税効果を発揮できないケースとは?
繰越欠損金は節税手段になり得ますが、要件を満たさなければ適用されません。特に申告方法や手続きに不備があると、せっかくの赤字が活かせなくなってしまいます。
繰越欠損金が使えなくなるケースについて紹介します。
青色申告の承認がない場合
青色申告の承認を受けていない場合、繰越欠損金は適用できません。制度上、白色申告は対象外とされています。
節税効果を得るには、あらかじめ青色申告の承認を受けておきましょう。
繰越期間を超えてしまった場合
繰越欠損金は最長10年間しか使えないため、それを超えると無効になります。控除可能期間は赤字が発生した年度からカウントされるため、適用タイミングを見誤ると使いきれずに消滅します。
例えば、10年間連続で赤字だった企業が、11年目に黒字になっても、最初の赤字分はもう使えません。計画的に利益と相殺できるように管理しましょう。
組織再編による制限がある場合
合併や会社分割、事業譲渡などを行うと、繰越欠損金の適用に制限がかかる可能性があります。これは、欠損金を節税目的で引き継ぐ行為を防ぐために設けられた制度上の制限です。
例えば、赤字企業を吸収した法人が赤字企業の欠損金を活用しようとしても、事業継続などの要件を満たさなければ認められません。組織再編を進める際には、事前に専門家と連携し、適用可否を確認する姿勢が重要です。
繰越欠損金で節税効果を得るための適用手続き
繰越欠損金を適用するには、一定の手続きを正確に行う必要があります。要件を満たさなければ、せっかくの赤字が活かせず節税できません。制度を確実に活用するための基本的な手続きを紹介します。
適切な帳簿と書類を備えた上で青色申告を行う
繰越欠損金を使うには、青色申告の承認を受けている必要があります。さらに、帳簿の記帳や保存が正確に行われているのが条件となります。収支や取引の記録が不十分だと、税務署から適用を認められない可能性があるでしょう。
節税効果を得るには、帳簿の整備と青色申告の申請を事前に済ませておきましょう。
欠損金が生じた年度の確定申告を期限内に行う
赤字が出た年度に確定申告を行わないと、繰越欠損金は適用できません。
制度の適用には、損失の発生を税務署に正式に報告する必要があります。
各年度の申告書に繰越欠損金の明細を記載する
繰越欠損金を使う年には、申告書に明細を正確に記載する必要があります。
法人税申告書では、別表七(一)などの書類に繰越金額と当期控除額を明示します。前年度の繰越額や、今回どれだけ相殺するかを記入していないと、税務署に認められない恐れがあるので注意しましょう。
繰越欠損金の節税効果を最大限に活かすための4つのポイント

繰越欠損金は、適用要件を満たすだけでなく、活用方法によって節税効果が大きく変わります。無駄なく制度を使いこなすためには、戦略的な管理と事前の準備が不可欠です。
節税効果を最大化するための具体的な4つのポイントについて解説します。
- 欠損金の管理を年単位で正確に行う
- 税務調査に備えた証憑類を整備しておく
- 組織再編や合併を行う際は専門家と連携する
- 他の税制優遇制度との併用可能性を検討する
欠損金の管理を年単位で正確に行う
節税効果を確実に得るには、繰越欠損金の金額と年度を正確に管理する必要があります。適用期限は年度ごとに異なり、把握していないと消滅リスクが生じます。
例えば、5年前の赤字が繰越可能か把握していなければ、相殺機会を逃す場合もあります。年次ごとに管理台帳を作成するなどして、繰越状況を常に明確にしておきましょう。
税務調査に備えた証憑類を整備しておく
繰越欠損金の適用には、帳簿や申告書類の保存が必須です。
万が一税務調査が入った場合、損失の内容や申告の正確性を証明できなければ、適用を否認されるおそれがあります。当時の原始資料や会計帳簿、別表の控えが揃っていなければ問題になるでしょう。
調査に備えて、証憑類を整理し、必要に応じて確認できる体制を整えておいてください。
組織再編や合併を行う際は専門家と連携する
繰越欠損金は、組織再編を行うと制限が生じる可能性があります。制度上、節税目的の損失引継ぎを防ぐために厳しい条件が設けられています。
例えば、赤字法人を合併した場合でも、一定の事業継続要件を満たさなければ欠損金は使えません。M&Aや会社分割を行う前には、専門家に相談し、影響を事前に確認しましょう。
他の税制優遇制度との併用可能性を検討する
繰越欠損金は、他の税制優遇措置と併用することで、より大きな節税効果が得られます。ただし、制度によって控除順序や対象所得が異なる場合があるため注意しましょう。
例えば、中小企業投資促進税制や研究開発税制などと組み合わせると、税額控除と所得控除を同時に狙えます。制度全体を俯瞰し、最適な組み合わせを検討しましょう。
繰越欠損金の節税効果に関してよくある質問

繰越欠損金は制度として広く知られていますが、実際の適用や条件については誤解や疑問も多く見られます。よく寄せられる質問を取り上げますので、繰越欠損金の活用に不安がある方はぜひ参考にしてください。
白色申告でも適用できますか?
白色申告では欠損金を繰り越しできません。制度上、適用の前提として青色申告の承認を受けている必要があります。
帳簿付けに不安があるため白色申告を選んでいる場合、その年に発生した赤字は翌年以降に持ち越すことができません。繰越控除を活用したいなら、事前に青色申告の届出を済ませておきましょう
関連記事:白色申告の帳簿の付け方解説|手書きやエクセルは可?記載例も
繰越欠損金はどのタイミングで使うのが効果的ですか?
繰越欠損金は、利益が多く出る年度に使うことで最も大きな節税効果を発揮します。
税額は所得に比例して増えるため、黒字額が大きいほど控除による軽減幅が広がります。例えば、3年目に一時的な大幅黒字が見込まれるなら、その年に欠損金を充てることで法人税を大きく抑えられるでしょう。
繰越欠損金による節税効果に不安がある方は専門家に相談
繰越欠損金の扱いには、申告期限、帳簿の整備、制度の制限など複雑なルールが多く存在します。適切な処理ができないと、本来得られるはずの節税効果を逃したり、税務リスクにつながる恐れもあるでしょう。
制度を正しく活用し、将来的な税負担を軽減するためには、税務の専門家に相談するのが確実です。
小谷野税理士法人では、繰越欠損金の管理から節税シミュレーション、適用判断まで丁寧にサポートしています。繰越欠損金の適用にお悩みの方は、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。





