資産に課される税金をできるだけ軽くしたいと考える方の中には、資産管理会社について関心を抱いている方も多いのではないでしょうか。この記事では、資産管理会社の概要をはじめ、節税に使うメリット・デメリット、注意点について解説します。資産管理会社をどう活用すれば良いのかを押さえ、適切な方法で節税につなげましょう。
目次
資産管理会社とは?
資産管理会社とは、個人の資産を管理するために設立される会社のことです。特に、不動産や有価証券・株式などをはじめとした金融資産を、管理・運用する目的で設立されます。和製英語として「プライベートカンパニー」と呼ばれることもあるようです。
資産管理会社を設立することで、個人資産は会社名義に移り、収入や利益を法人として処理することが可能です。最終的に、個人の所得税率を引き下げることにつながり、節税効果を得られます。
法人格を持たせることで、資産管理や運用が効率的かつ組織的に行えるため、資産保護の観点でも有効です。さらに、資産管理会社の存在によって財産管理が明確になり、資産における透明性が向上します。個人の負荷が軽減されると同時に、これまで以上の信頼を築くことにつながるのは、資産管理会社の最大の特徴と言えるでしょう。
関連記事:投資家が法人化する目安とは?手続き方法や必要な費用を解説
資産管理会社を設立するメリット

資産管理会社の設立によって、節税効果に加えてさまざまなメリットを得ることが可能です。ここでは、以下5つのメリットについて解説します。
- 所得の分散が実現する
- 相続税の節税
- 経費範囲が広がる
- 繰越控除の期間を延ばすことができる
- 社会保険に加入することができる
具体的にどのようなことなのか、内容を見ていきましょう。
所得の分散が実現する
家族や親族を役員として迎え、役員報酬を支払うことで、代表者一人に集中していた所得を家族に分散できます。
家族や親族を役員として迎え入れた場合、役員報酬は給与所得に該当し、給与所得控除の利用が可能です。
相続税を節税できる
不動産を法人名義に移すことで、相続時の課税対象額を削減可能です。また、相続税の負担を軽減できるほか、次世代へ相続する際の手続きの簡素化にもつなげられます。
たとえば、資産として不動産を保有している場合です。この場合、資産を管理会社に移行(売却)し、資産管理会社の株式に一本化することで、相続が生じても資産分割を円滑に進められるでしょう。本来であれば、持ち分での分割や不動産登記、煩雑な手続きを経なければなりません。分割が伴う相続は、相続争いも珍しくなく、管理や処分が難航することもあります。
しかし、資産を資産管理会社の株式に一本化してしまえば、スムーズな相続が可能です。不動産に比べて株式は低く評価されやすい特徴もあるので、より一層の相続税対策に期待できるでしょう。
経費範囲が広がる
資産管理会社の活用によって、個人事業主と比べて経費計上できる範囲が広がれば、その分だけ節税効果を得られます。たとえば以下の項目は、個人事業主では認められない一方、資産管理会社では認められる費目に該当します。
- 健康診断費用
- 生命保険費用
- 役員報酬
- 出張時の日当
- 社宅の家賃
生命保険費用は、資産管理会社が契約者である場合に有効です。これらの経費を適切に計上することで、より効率的な資産管理を実現できます。
関連記事:個人投資家が法人設立するメリットは?節税の観点からも詳しく解説
繰越控除の期間を伸ばせる
繰越控除の期間が伸びることから、万が一、経営が頓挫しても立て直しやすいのもメリットです。繰越控除は、事業活動において生じた損失を次年度以降に繰り越し、所得と相殺できる制度です。個人事業主の繰越控除期間は最長で3年ですが、法人に該当する資産管理会社の場合10年まで認められています。
たとえば、過去10年の毎年度に赤字が500万円発生したとしましょう。本年度の黒字が5,000万円だった場合、個人事業主の所得だと課税対象額は3,500万円になります。
5,000万円-500万円×3年=3,500万円 |
一方、資産管理会社は、たとえ本年度に5,000万円の所得があっても、その年の課税対象額は0円です。
5,000万円-500万円×10年=0円 |
万が一、資産管理会社において損失が生じても、控除期間が10年認められていれば、長期的な視点で事業の立て直しができるでしょう。
社会保険に加入することができる
資産管理会社を含む全ての法人には、社会保険の加入が義務づけられています。そのため、役員報酬を支払う家族や親族に加えて、役員が扶養する家族についても、社会保険に加入することが可能です。
個人事業主の場合、一般的には国民健康保険や国民年金なので、資産管理会社の設立にあたってはこれらを切り替える必要があります。とはいえ、国民年金と合わせて厚生年金にも加入することになるので、将来的に受け取れる年金額が増えるのはメリットと言えるでしょう。
なお、個人投資家が法人を設立するメリットは他にもあります。個人投資家の方で、資産管理会社を設立する予定のある方は、こちらの記事もぜひご覧ください。
資産管理会社を設立するデメリット
資産管理会社の設立には、いくつかのデメリットも存在します。たとえば、法人を設立する際、法務局へ登記費用が必要であることや、各種手数料を含む設立費用が初期投資として掛かるなどです。ここでは、以下4つのデメリットについて解説します。
- コストが掛かる
- 会社保有にあたる資産は自由に使うことができない
- 相続税において小規模宅地等の特例が利用できない
- 節税メリットが受けられなくなる可能性がある
メリットとデメリットの双方に目を通し、それぞれに理解を深めた上で資産管理会社の設立を目指しましょう。
コストが掛かる
資産管理会社の設立には、法人登記などが必要になり、合同会社であれば約15万円、株式会社であれば約30万円の費用が掛かります。場合によっては予想を上回るケースもあるため、初期費用は念入りに調査し、資金調達をしておきましょう。
一例としては、登記に関する手数料や司法書士・税理士など専門家への依頼費用が挙げられます。全てを合計すると、初期コストとして大きな出費となることがあるので、設立の際は念頭に置きましょう。
また、この設立費用は、管理する資産の規模や会社形態によっても変動します。設立の前に詳細な見積もりを立てることが重要と言えるでしょう。
さらに、設立後や廃業時にもコストが掛かります。資産管理会社を設立後、たとえ毎年度に赤字が生じたとしても、住民税の均等割は免除されない点にも注意しましょう。
関連記事:【税理士監修】一人で会社を作る際の費用と維持費について
会社保有にあたる資産は自由に使うことができない
資産管理会社の設立により、資産が自由に利用できなくなる場合もあります。法人名義で保有する資産は、法人の経営資源とみなされ、個人の私的使用が制限されるのです。
たとえば、不動産を法人の資産として管理している場合、法人の承認がなければ、その不動産を自由に利用することができません。
また、法人の資産として管理することにより、維持費や税金の計算、申告が複雑になるケースもあります。特に、不動産管理会社を介した運用だと、税制上の特例や優遇措置を利用できるものの、運用に一定の制約が生じることもあるでしょう。
制限については資産の流動性を低下させる要因になることもあります。資産管理会社の設立を検討する際には、デメリットを十分に考慮した上での計画が不可欠と言えるでしょう。
場合によっては小規模宅地等の特例が利用できない
被相続人が株式を有する資産管理会社で該当する土地を所有しても、小規模宅地等の特例を使用することはできないので注意しましょう。小規模宅地等の特例は、例えば被相続人の居住用・事業用に使用していた宅地等について、低い評価をしてもらえる制度です。一定の条件を満たせば、最大8割も低い評価が受けられ、大きな節税効果に期待できます。
しかし、小規模宅地等の特例は、あくまで被相続人が個人所有した土地に対するものです。小規模宅地等の特例の利用にあたっては、必ず条件等に目を通すことをおすすめします。
節税効果がなくなる可能性がある
将来的な話ではありますが、将来的に税制が改正され、節税効果がなくなる可能性があることもデメリットです。特に、実態がないのにも関わらず、大きな節税効果を伴う制度の場合、課税逃れを減らす目的から改正される可能性があります。
資産管理会社を用いた節税は、現在であれば有効な手段の一つです。しかし、非上場株式の評価方法が改正されれば、効果が弱まることは必至と考えられます。
節税を第一の目的とした資産管理会社の設立の場合は、法や制度の改正に伴い、かえって負担になる可能性が潜むことを念頭に置きましょう。
資産管理会社の設立における注意点
資産管理会社の設立を目指す人の多くは、節税効果ではないでしょうか。結論からお話しすると、個人の所得を抑える効果を得られたとしても、自由に節税できるわけではありません。
たとえば、「法人から個人への役員報酬を適切な金額に設定する」など、法人の設立にあたってはさまざまなルールがあります。全てのルールを把握し遵守できなければ、税務署から節税効果を目論んだ設立とみなされ、ペナルティを科されるかもしれません。
資産管理会社の設立にあたっては、法人を設立する際のルールについて把握し、専門知識をもって対応することが大切です。資産管理会社による節税効果を享受したいのであれば、税理士や会計士など、専門家に相談することをおすすめします。
資産管理会社を設立|押さえておきたい3ステップ
資産管理会社を設立するには、いくつかのステップを踏まなければなりません。ここでは、以下3つの項目について解説します。
- 定款の作成(基本情報の設定)
- 設立に必要な書類・印鑑を作成する
- 税務署・法務局などへ書類を提出する
具体的にどのような手順でどのような書類が必要なのかを見ていきましょう。
ステップ1.定款の作成(基本情報の設定)
まずは、資産管理会社の設立に必要な定款の作成から始めます。定款には、資産管理会社であっても法人であるため、社名や事業目的などを記載しましょう。具体的には、以下のようなものを設定してください。
- 社名
- 事業目的
- 本店所在地
- 出資者
- 資本金
- 事業年度・決算月
個人事業主から資産管理会社を設立する場合、個人事業主の時に使用していた屋号でも問題ありません。ただし、既に使用されている商号や特殊記号は使用できないため、法務局のホームページに目を通しながら決めると良いでしょう。
参考:法務省:オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査について
ステップ2.設立に必要な書類・印鑑(社印)を作成する
資産管理会社を設立するためには、印鑑(社印)に加えて以下のような書類が必要です。
書類の種類 | 提出先 |
---|---|
法人設立登記 | 法務局 |
法人設立届出 | 市町村役場・県税事務所・税務署 |
青色申告申請書 | 税務署 |
資本金払い込みが確認できる通帳 | 法務局 |
なお、会社設立に際しては、役員候補者が役職に就任することを承諾する文書に該当する就任承諾書も必要です。ただし、役員候補者が設立に参加している場合は省略できる文書なので、必要に応じて作成の要不要を確認しておきましょう。
ステップ3.税務署・法務局などへ書類を提出する
必要書類の準備ができたら、次は各所へ提出しましょう。書類に不足や不備が生じた場合、税金関係の手続きや運営に影響を及ぼしかねません。手続きをスムーズに進めるためにも、書類作成にあたっては不備や漏れがないよう確認しながら進めましょう。
関連記事:プライベートカンパニーの作り方と節税に有効な複数の理由 – 【会社設立】小谷野税理士法人(東京都渋谷区)
資産管理会社の設立は専門家に相談してから決めよう
資産管理会社の設立は、節税に向けた合理的な手段として有効な方法の一つです。法人の設立により、個人の高い所得税率から解放されるので、法人税の軽減につながるでしょう。
しかし、設立にはさまざまなコストが必要であるほか、手続きが複雑といったデメリットがあります。特に資産を相続する場合では、資産管理会社の活用が適切かどうかを専門家に相談し、課題を明確にすることが大切です。自身の状況に見合った最善の選択をするためにも、この機会にぜひ小谷野税理士法人へご相談ください。