累進課税制度とは、所得が上がるにつれて税率が高くなる税金制度のことです。累進課税には単純累進課税制度と超過累進課税制度の2種類あり、所得に対して適用される税率が違います。とはいえ、単純累進課税は、現在の日本では取り扱われていません。そこでこの記事では、累進課税制度にフォーカスして仕組みや概要、メリット・デメリットについて解説します。
なお、小谷野税理士法人では企業・個人事業主の各種税金や起業相談に応じています。お気軽にご相談ください。
目次
累進課税制度の仕組み・種類
累進課税制度は、所得に対して段階的に税率が適用されるという制度です。適用される税金は、所得税、相続税、贈与税の3種類があります。日本では課税対象額が高いほど税率が高く設定されているので、所得や取得した財産が多いほど納税額が増える仕組みです。
累進課税制度には「単純累進課税制度」と「超過累進課税制度」の2つあり、それぞれで特徴が違います。
単純累進課税制度 | 超過累進課税制度 |
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単純累進課税制度は、一定額を超えた場合、所得全体に高い税率が適用される制度です。一方、超過累進課税制度は、一定額を超えた部分にのみ高い税率が適用される制度で、所得に対して複数の税率が適用されます。なお、累進課税制度は所得に限らず、資産にも適用される制度です。相続などを理由に資産を多く得た人や、すでに多くの保有する人に対しても同様の制度が適用されます。
累進課税制度の目的や税種類における税率については、以下の記事をご覧ください。
累進課税制度のメリット
累進課税制度にはメリットとデメリットがあります。具体的には以下の通りです。
メリット |
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各メリットについて、以下で詳しく解説していきます。
所得格差の是正が可能
累進課税は、納税者の所得・経済的能力に応じて負担額を決定する応能負担という考え方です。所得が多い人ほど税負担は大きく少ない人ほど税負担が減るので、国民の公平性に繋がるのはメリットと言えるでしょう。また、事業所得などは事業に必要な設備などを購入して経費を増やせば課税所得が減るので、税負担の軽減に期待できます。
消費の促進につながる
累進課税は、消費の促進が期待できます。中低所得者層は比較的低い税率が適用されるため、可処分所得が増加しやすくなるのです。その結果、生活必需品や娯楽に対する支出が増え、市場全体の活性化が期待されます。
また、高所得者層にとっては税負担が大きくなることで、所得を貯蓄するよりも設備投資や寄付、個人消費に充てる傾向が強まります。特に、消費意欲の高い中間層の購買力が向上することで、企業の売上増加にもつながり、経済全体の好循環を生み出せるでしょう。
贈与税で節税ができる
贈与税限定ではあるものの、贈与するタイミングを見計らうことで税率の調整ができ、節税に繋げられます。例えば、相続税の最高税率が高い場合、高所得者の方が資産を保持し続けるよりも、贈与を活用してご家族や次世代へ資産を分散させたほうが、税負担を抑えやすいものです。
贈与税には年間110万円の基礎控除が設けられており、この範囲内であれば非課税で資産を移転できます。そのため、計画的に贈与を行うことで、税負担を軽減しながら資産を効率的に活用できます。
また、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与に関する特例制度を活用することで、さらに税負担を軽減しつつ、家族の支援が可能となります。このように、累進課税制度の特性を生かすことで、節税と資産の有効活用を同時に実現することができるのです。
小谷野税理士法人では税金や起業、税理士変更のご相談を承っております。
関連記事:単純累進課税と超過累進課税との違いとは?所得税の税率や計算方法を解説
累進課税制度のデメリット
累進課税制度には魅力的なメリットがありますが、その一方でデメリットも存在します。具体的には、以下が該当します。
デメリット |
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ここからは、デメリットについて、詳しく見ていきましょう。
所得税の課税最低限が引き上げられる可能性がある
累進課税制度のデメリットであるのが、物価上昇の影響を受けやすい点です。
物価上昇の度に課税最低限が引き上げられ、税負担が増えるブラケットクリープ現象が起きる点はデメリットと言えるでしょう。
ブラケットクリープ現象とは、インフレや所得増加などに伴い、高い税率の適用範囲に入ってしまうことです。購買力が変わらないにも関わらず、高い税率を負担しなければならず、手取り収入が現象してしまいます。
こうした課税最低限の引き上げは、所得が少ない人も対象です。そのため、働いても働いても税負担だけが増える、と感じることで、労働意欲の低下を招く可能性があります。
関連記事:超過累進課税と単純累進課税の違いは?それぞれの仕組みについて解説
所得額が多いと手元に残るお金が少なくなる
累進課税制度では、所得が増えるほど税率が高くなるため、給与や事業収益が多い人ほど手元に残るお金が少なくなります。
例えば、課税所得が高い人は最大45%もの税金を所得税として支払う必要があります。さらに、住民税や社会保険料を加味すると、実際の手取り額は想像以上に減ってしまうのです。
この影響により、働くほど税負担が増えるため、「高収入を目指しても実質的な利益が少ない」と感じる人もいるでしょう。加えて、企業経営者や投資家の中には、高い税負担を避けるために節税対策や海外移住を検討するケースもあります。
税制が公平であることは重要ですが、経済の活性化や労働意欲の低下を防ぐためには、税率設定の見直しや控除の工夫も求められるかもしれません。
日本経済新聞|ブラケットクリープとは 賃上げで所得税率が急上昇
まとめ
累進課税制度は、納税者の応能負担により、国民一人ひとりの所得に応じて課税される制度です。
累進課税制度の影響に伴い、資金繰りや納税面などで悩む方は多いでしょう。とくに、起業家やスタートアップとしては、成長スピード・成長率などの影響があるかもしれません。
資金面に悩んだときには、ぜひ一度小谷野税理士法人へぜひご相談ください。正しい節税や納税額の算出など、積極的に支援します。