iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金の準備をしながら節税もできる制度です。所得控除や運用益の非課税など複数の税制優遇があり、年収や職業によって節税額に大きな差が生まれます。本記事では、iDeCoの節税効果の仕組みや年収別シミュレーション、節税を最大化するためのポイントや注意点をわかりやすく解説します。節税目的でiDeCoを検討している方は、最後までご覧ください。
目次
iDeCoの節税効果とは?
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、資産形成をしながら税負担を軽減できる制度として注目されています。一般的な貯蓄や投資とは異なり、ある特定の仕組みを通じて節税効果が得られるのが特徴です。
iDeCoにおける節税の仕組みやメリットについて解説します。
iDeCoは老後資金を自分で準備する私的年金制度
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、国の年金に加えて自分で資産形成するための制度です。毎月の掛金を自ら設定し、投資信託などで長期運用を行い、原則60歳以降に受け取る仕組みとなっています。
加入対象者は自営業者や会社員、公務員、主婦など多岐にわたり、ライフスタイルに応じて活用できる点が特徴です。
節税効果は拠出・運用・受取の3段階で発揮される
iDeCoは老後資金を積み立てるだけでなく、税制面でも大きなメリットがある制度で、節税効果は「掛金の支払い時」、「運用中」、「受け取り時」の3段階で発揮されます。
iDeCoは毎月の掛金が全額控除され、運用で得た利益にも税金がかかりません。将来の受け取り時も控除が使えるため、トータルで税負担を大きく減らせます。
このように、3つのタイミングすべてで税優遇が受けられる制度は他にほとんどなく、iDeCoは長期的な資産形成を目指す上で非常に有効な手段です。
参考:iDeCo(イデコ)のメリット|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
iDeCoの節税効果を計算する方法
iDeCoは掛金が所得控除されることで税負担を軽くできる制度ですが、実際にどれくらい節税できるのでしょう。節税額の計算方法や注意すべきポイントについて解説します。
掛金×税率で節税額の概算がわかる
iDeCoの節税額は、「年間掛金 ×(所得税率+住民税率)」というシンプルな式でおおまかに算出できます。
例えば、年間掛金が24万円、税率が30%であれば、節税額は約72,000円になります。実際の税率は所得に応じて異なりますが、手軽に試算できるため、iDeCoを検討する際はまず概算額を確認してみましょう。
参考:かんたん税制優遇シミュレーション|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
税率は課税所得に応じて変わる
iDeCoの節税効果を正確に把握するには、「課税所得」に応じた税率を確認する必要があります。
所得税は課税所得により5〜45%で変動し、住民税はほとんどの自治体で一律10%です。例えば、課税所得が330万円超〜695万円以下の人は、所得税率20%+住民税10%で合計30%の税率となり、iDeCoによる控除の効果が大きくなります。
掛金上限は職業や企業年金制度によって異なる
iDeCoの掛金の上限は、職業だけでなく、勤務先に企業年金制度があるかどうかによっても異なります。
例えば、企業型DCに加入している会社員は月額20,000円まで、企業年金がない会社員は月額23,000円までなど、細かく区分されています。
勤務先の制度によって掛金の上限が異なるため、自身の加入区分を確認し、最大の節税効果を見込める掛金額を把握しましょう。
参考:iDeCo(イデコ)をはじめるまでの4つのステップ|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
【年収別】iDeCoの節税効果シミュレーション
iDeCoの節税効果は年収や拠出金額、適用される税率によって異なります。ここでは加入年齢30歳・年収別でiDeCoに拠出した場合の節税額を試算し、どの程度のメリットが得られるのかを具体的に見ていきましょう。
年収200万円・月額5,000円拠出のケース
- 年間掛金:60,000円
- 想定税率:15%(所得税5%+住民税10%)
- 節税額:約9,000円/年
所得が比較的低い方でも、iDeCoによって年間9,000円程度の節税が可能です。月5,000円という少額から無理なく始められるため、これから資産形成を考える方にもおすすめです。
年収400万円・月額15,000円拠出の場合
- 年間掛金:18万円
- 想定税率:15%(所得税5%+住民税10%)
- 節税額:約27,000円/年
中堅所得層であれば、月15,000円の拠出により、年間約27,000円の節税が見込めます。将来の老後資金を着実に準備しつつ、今の家計にも優しい制度と言えるでしょう。
年収500万円・月額20,000円拠出の場合
- 年間掛金:24万円
- 想定税率:20%(所得税10%+住民税10%)
- 節税額:約48,000円/年
税率が高くなる分、節税効果も大きくなります。例えば35年継続すれば、約168万円もの節税に繋がる計算です。働き盛りの方にとって、効率よく資産を蓄える手段として非常に有効です。
年収700万円・月額23,000円拠出の場合
- 年間掛金:27万6,000円
- 想定税率:30%(所得税20%+住民税10%)
- 節税額:約82,800円/年
高所得層の方は、月額の拠出上限まで活用すれば、毎年80,000円以上の節税が可能になります。老後資金の形成に加え、現役時代の税負担軽減にも繋がる賢い資産運用方法です。
iDeCoの節税効果を最大化するための3つのポイント
iDeCoは「節税」と「資産形成」を同時にかなえる制度ですが、その効果を十分に引き出すには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。iDeCoの節税メリットを最大限に活かすための3つのポイントについて解説します。
- 自分の職業と企業年金の有無に応じた掛金上限を確認する
- 所得控除の対象となる所得区分を確認する
- 配偶者や扶養家族の有無も考慮する
自分の職業と企業年金の有無に応じた掛金上限を確認する
iDeCoの掛金には、職業や勤務先の年金制度の有無に応じた上限額が定められています。
現行制度では、自営業(第1号被保険者)は月額68,000円(現行)、企業年金なしの会社員は月額23,000円、企業年金ありの会社員や公務員は月額20,000円が上限です 。
さらに、2027年以降には制度変更により、掛金上限が全面的に見直される見通しがあります。具体的には、企業年金なしの会社員が月62,000円、自営業者は月75,000円まで拠出できるよう引き上げられる予定です
この上限を知らずに拠出額を低く設定していると、得られる節税効果が限定的になるため、まずは自身の「加入区分」とその上限額を正確に把握し、最大限の節税メリットを享受できるようにしましょう。
所得控除の対象となる所得区分を確認する
iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象となりますが、税金が計算されるのは「課税所得」に対してです。
医療費控除や配偶者控除など、ほかの控除が重なって課税所得が少なくなると、iDeCoによる節税効果も小さくなってしまうため、年収ではなく「課税所得」を基準に節税額を試算するようにしましょう。
配偶者や扶養家族の有無も考慮する
配偶者控除や扶養控除を受けている場合、控除が重なることで課税所得が少なくなり、iDeCoによる節税メリットが限定的になる場合があります。
世帯単位で考えたときに、誰が拠出するのが最も効果的かを見極めるのが重要です。ご家庭の状況に応じて、節税効果の最適化を図りましょう。
iDeCoの節税における5つの注意点
iDeCoは大きな節税効果を期待できる一方で、活用にあたっては注意点も存在します。制度の特徴をよく理解せずに始めてしまうと、思わぬ不便さや損失に繋がるため、以下5つの注意点を確認しておきましょう。
- 原則60歳まで資金を引き出せない
- 掛金の停止・変更にタイムラグがある
- 掛金の支払い方法によっては確定申告が必要になる
- 受け取り時に課税される可能性がある
- 収入が低すぎると節税効果が薄い
原則60歳まで資金を引き出せない
iDeCoは老後資金を目的とした制度であり、原則として60歳まで中途引き出しができません。
急な出費に備える生活費としての利用は不向きで、資金の流動性が制限される点に注意が必要です。無理のない範囲で拠出額を設定し、日常生活に支障をきたさない計画的な資産形成を心がけましょう。
参考:iDeCoの特徴|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
掛金の停止・変更にタイムラグがある
iDeCoの掛金額を増減したり、一時的に拠出を停止したりする場合、申請から反映までに数週間〜1ヵ月程度の時間を要する可能性があります。
運営管理機関によって期間は異なるため、変更を予定している場合は早めの手続きを心がけると安心です。急な収入変動や支出増加に柔軟に対応するには、余裕を持った設計が求められます。
参考:iDeCo手続き関連|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
掛金の支払い方法によっては手続きが必要になる
iDeCo掛金の控除は、支払い方法によって年末調整で処理できるかどうかが変わります。勤務先経由での「事業主払込型」であれば別途手続きが不要です。自分で支払う「個人払込型」の場合は、年末調整や確定申告で手続きをしなければ控除が受けられません。
加入時にどちらの形式かを確認し、必要に応じて申告準備を行いましょう。
受け取り時に課税される可能性がある
iDeCoの節税メリットは拠出・運用段階で得られますが、受取時には注意が必要です。年金形式で受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金で受け取る場合は「退職所得控除」の対象ですが、他の年金や退職金と重なると課税対象額が増える可能性があります。
将来の受取額と控除枠を考慮した設計が重要です。
関連記事:iDeCo・確定拠出年金の受取時にかかる税金の計算方法|節税効果はある?
収入が低すぎると節税効果が薄い
iDeCoの節税効果は、課税所得があって初めて実感できる仕組みのため、専業主婦や収入が少ない方など、もともとの所得税・住民税の負担が低い場合は、iDeCoによる控除を受けてもメリットが限定的となる場合があります。
将来的な資産形成としての意義はありますが、節税目的で利用する際は注意しましょう。
関連記事:確定拠出年金は節税にならない?知っておきたいiDeCoや企業型DCの節税効果を徹底解説!
iDeCoの節税効果に関するよくある質問
iDeCoの節税効果については、制度の複雑さから多くの疑問を持つ方が少なくありません。以下によく寄せられる質問を取り上げるので、参考にしてください。
確定申告をしないと節税効果はないですか?
必ずしもそうとは限りません。勤務先を通じてiDeCoの掛金を給与天引きで拠出している場合(事業主払込)は、年末調整で控除が自動的に反映されるため、確定申告は不要です。
一方、金融機関に自分で掛金を振り込む「個人払込」の場合は、年末調整で申告書と払込証明書を提出すれば反映されますが、提出が間に合わなかった場合などは確定申告が必要になるため注意しましょう。
参考:事業主の方へ|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
iDeCoで住民税も自動で安くなりますか?
はい。
iDeCoの掛金は所得控除の対象となるため、年末調整または確定申告で適切に申告すれば、翌年度の住民税が自動的に軽減されます。控除が反映されるのは翌年6月以降に通知される住民税の金額に反映される形です。
参考:iDeCo(イデコ)のメリット|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
専業主婦でもiDeCoで節税できますか?
所得税や住民税が発生していない場合、iDeCoの掛金による所得控除の節税効果は基本的にありません。
ただし、iDeCoは運用益が非課税で再投資でき、受け取り時にも退職所得控除や公的年金等控除が適用されるため、将来の資産形成という観点では一定のメリットがあります。
iDeCoの節税効果に不安がある方は専門家に相談を
iDeCoは節税効果の高い制度ですが、収入や職業、退職時期、他の控除との関係によって、実際の節税効果は大きく変わるため、想定より節税できなかったり、受取時に課税負担が増えるケースも少なくありません。
こうしたリスクを回避し、iDeCoを効果的に活用するには、税制やライフプランを踏まえた戦略的な設計が重要です。制度を正しく理解し、最適な活用方法を見極めるためにも、税務の専門家への相談をおすすめします。
小谷野税理士法人では、iDeCoの仕組みや節税メリットを最大限活かすためのアドバイスを行っています。拠出額の決め方や確定申告の対応など、不安や疑問がある方は、ぜひ一度ご小谷野税理士法人にご相談ください。