マイクロ法人は、基本的に社長一人で設立・登記・運営・経理・税務・社会保険といった業務をすべて担う必要があります。一方で、誰にも相談できず判断を一人で抱えたままでいると、小さなミスが思わぬ出費につながるケースも。この記事では、マイクロ法人に関する不安について相談を検討したいタイミングや、適切な相談先を解説します。
目次
マイクロ法人で専門家に相談が必要になるタイミング3つ
マイクロ法人は節税や社会保険対策として注目されていますが、自己判断だけに頼るとかえって損をしてしまう場合もあります。
ここでは、マイクロ法人を活用するうえで「このタイミングで迷ったら専門家への相談を検討したい」という3つのシーンを解説します。
設立前:そもそもマイクロ法人を設立するか迷っているとき
マイクロ法人の設立を検討している場合、専門家に相談して「自分にとって本当に必要か」を見極めましょう。
マイクロ法人には節税などのメリットがある一方で、設立・維持にはコストや手間がかかるというデメリットがあります。収入額や家族構成、扶養の状況によっては、かえって損をしてしまうケースも。
例えば以下のような悩みを抱えている場合は、専門家に相談を検討しましょう。
- フリーランスや個人事業での所得が増え、税金や国保が高く感じてきた
- 法人化すれば節税になると聞いたけど、どれくらい得なのか計算できない
- マイクロ法人をやった方が有利と聞いたけど、自分に合ってるか判断できない
総合的に得になるかどうかは人によって異なるため、専門家と一緒に事前にシミュレーションして判断するのが確実です。設立後に後悔しないよう、設立前に税理士などに相談し、自分にとってマイクロ法人が本当に適しているかどうか確認しましょう。
関連記事:マイクロ法人で節約できるのは収入いくらから?社会保険料最安を狙おう
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関連記事:マイクロ法人の設立費用はいくらかかる?設立後に後悔しないための注意点も紹介
設立時:書類や登記手続きに不安があるとき
法人設立は、専門家に手続きを相談・依頼すると正確に進められます。設立に必要な定款の作成や法務局への登記などは専門性が高いためです。法律や制度に沿って進めなければならず、ミスがあると登記できなかったり、後から修正が必要になったりする場合があります。
例えば誤った内容で登記してしまった場合、更正登記が必要となり、登録免許税として20,000円の費用が掛かります。
具体的には、以下のような悩みがあるなら、専門家に相談するのがおすすめです。
- 定款の書き方や内容がよく分からない
- インターネットで調べた情報で登記する予定だが、合っているか自信がない
- 設立後に何をどこに届け出るか、税務署や年金事務所などの提出先が分からない
- 会社設立だけでなく、建設業許可や飲食店営業許可も取りたいが手が回らない
ミスによる手間や出費をなくすには、設立時の手続きを司法書士や行政書士などの専門家に相談・依頼するとスムーズです。
法人の設立に必要な書類や登記について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:会社設立の必要書類一覧|株式と合同での違いや提出先まとめ
関連記事:会社設立登記(法人登記)とは?申請の方法や必要な費用などをご紹介
設立後:運営しながらつまづいたとき
マイクロ法人の運営中に不安や疑問が出てきたら、早めに専門家に相談するのがおすすめです。税務の知識不足や処理のミスがあると、税務調査や追徴課税につながるリスクがあるためです。
例えば以下のような悩みを抱えている場合は、専門家に相談してもいいタイミングと言えるでしょう。
- 帳簿を正確につけられているか不安
- 経費をどこまで入れていいか迷っている
- 決算が近づいているけど必要な書類が分からず申告が不安
リスクが発生してから慌てる前に、不安を感じた時点で税理士などの専門家に相談しておきましょう。
関連記事:法人の決算を自分でするリスクは?判断基準や法人決算の手順などを解説
マイクロ法人の相談は誰にすればいい?専門家の役割を解説
マイクロ法人の設立や運営について悩んだ場合、内容によって相談先が変わります。専門家には得意分野や、その士業にしかできない「独占業務」があるためです。ここでは、税理士・司法書士・行政書士・社労士といった各専門家の役割を解説します。
税理士:設立の可否・設立後の税務・申告・節税を総合的にサポート
マイクロ法人についてまず誰かに相談したいなら、最初の窓口としては税理士が最適です。
法人設立による節税効果や社会保険の影響などは、収入や扶養状況、役員報酬の設計によって個別に異なります。
設立すべきかどうかのシミュレーションは、税理士でなければ正確に行えません。所得税・住民税・法人税・消費税・社会保険料といった複数の制度を横断した知識が必要になるためです。
また、記帳や申告、経費処理などの実務もサポートできるため、税理士は設立前から設立後まで一貫して頼りになる存在です。必要に応じて司法書士や社労士に引き継いでくれる税理士も多くいます。
【税理士に相談するのはこんなとき】
- マイクロ法人を設立するかどうか判断に迷っている
- 法人化による節税や社会保険の影響をシミュレーションしたい
- 扶養を維持したまま法人設立できるか知りたい
- 設立後の記帳や経費処理をどうすればいいか不安
- 税務申告の手順が分からない
- 自分だけで進めるのが不安であるため全体的に相談したい
税理士への単発相談は、1回30分〜1時間ほどで、料金相場は5,000〜20,000円が相場です。マイクロ法人についての不安は、まずは税理士に相談することで、安心して次のステップに進めるでしょう。
関連記事:税理士の相談料について知っておくべきこととは?料金相場と選び方のポイント
行政書士:定款作成や許認可が必要な業種の開業をサポート
行政書士は、定款作成や許認可の申請など、法人設立の準備をサポートしてくれる専門家です。
会社設立の際には、まず「定款」と呼ばれる会社のルールを文書で作成し、公証人の認証を受ける必要があります。なお、合同会社を設立する場合は、定款の認証は不要です。
また、建設業や飲食業など一部の業種では、営業を始める前に行政からの許可や認可が求められるケースもあります。
行政書士は、上記のような定款の作成や認証の代行、行政への手続きに特化した国家資格者です。許認可が関わる業種では、設立前に一度行政書士に相談するのが良いでしょう。許可要件を満たさない形で設立してしまうと、後から修正が必要になるリスクもあります。
一方、法務局での登記申請は、設立者本人か司法書士にしか認められていないため、行政書士では対応できません。そのため、許認可が関係ない場合は、定款作成から登記までを一括で司法書士に任せるケースが一般的です。
【行政書士に相談するのはこんなとき】
- 設立に必要な定款をミスなく作りたい
- 定款だけ知人の行政書士に依頼し、登記は司法書士に任せたい
- 許可取得が必要な業種である
- 外国人スタッフのビザ取得や在留資格手続きが必要である
- 役所に提出する申請書類の書き方や添付書類の準備方法が分からない
行政書士への単発相談は、1回30分〜1時間ほどで、3,000〜10,000円ほどが相場です。定款作成や許可申請の実務が加わると別途料金が発生します。
参考:株式会社の設立手続(発起設立)について|法務省
参考:行政書士制度|総務省
司法書士:定款作成から設立登記まで一括でサポート
司法書士は、法務局での登記申請を代行できる唯一の専門家です。定款の作成・認証のサポートも行えるため、法人の設立に必要な手続きは司法書士にまとめて依頼するとスムーズでしょう。
登記は自力でも可能ですが、手間がかかる上、ミスがあると追加費用が発生するケースもあります。司法書士に依頼すれば、失敗なく最短で設立を完了できるでしょう。
【司法書士に相談するのはこんなとき】
- 設立に関する手続きを1人の専門家に一括で任せたい
- 自分で登記申請をする自信がない
- 設立までの時間や手間を最小限にしたい
- 記載ミスによる更正登記などの二度手間を避けたい
司法書士への単発相談は、1回30分〜1時間ほどで、5,000〜10,000円ほどが相場です。登記申請まで依頼する場合は、別途費用がかかります。
参考:司法書士の業務|法務省
社会保険労務士(社労士):社会保険や報酬の決め方をサポート
社労士(社会保険労務士)は、社会保険に関する手続きの専門家です。マイクロ法人の代表者報酬をいくらにするか迷ったら、社労士へ相談しましょう。判断を誤ると想定外の負担が生じるリスクがあるためです。
法人事業所は社会保険の強制適用事業所であるため、原則として、代表者のみでも社会保険の加入が必要となります。一方、無報酬役員等のみで被保険者がいない場合には、社会保険に加入する必要はありません。
損しないためには、個人の収入や配偶者の扶養状況、他の収入との兼ね合いも踏まえて、報酬額を設定しなければなりません。
社会保険と税金の両面を踏まえた判断が求められるため、税理士と社労士の連携が必要になる場面もあります。ミスなく設定したい場合は両者に相談すると確実です。
【社労士に相談するのはこんなとき】
- 社会保険の加入義務があるかどうか確認したい
- 社会保険に入る手続きが分からない
- 扶養内で働きたいので報酬額の上限が不安
- 法人の保険料負担がどれくらいかかるか事前に把握したい
- 配偶者の働き方とのバランスを取りたい
- 社会保険と節税のバランスを相談したい
社労士への単発相談は、1回30分〜1時間ほどで、5,000〜15,000円ほどが相場です。実務には別途費用がかかります。
関連記事:税理士と社労士の違いとは?メリットや費用相場、依頼時の注意点を解説
関連記事:会社設立時にする社会保険の加入手続き|費用は?いつから支払う?
その他の相談先:商工会議所・中小企業診断士・FPなど
マイクロ法人について漠然と悩んでいる場合、商工会議所やファイナンシャルプランナー(FP)などに相談するのも手です。
例えば、商工会議所では無料で起業相談ができる場合があり、ざっくばらんな悩みを話す場として活用できます。中小企業診断士は、事業計画や資金繰りなど経営全体を見た上で、法人設立が妥当かどうか相談に乗ってくれます。
また、FPやコンサルタントは、意思決定や全体像の把握をサポートしてくれる場合があります。士業への相談にハードルを感じる場合は、相談しやすい相手に話すことで考えを整理するのも有効でしょう。
【その他に相談するのはこんなとき】
- マイクロ法人についてまず誰かに聞いてみたい
- 収入や働き方の方向性を整理したい
- 家計やライフプランと法人設立をどう結びつけるか相談したい
- 無料・低価格でざっくばらんに話せる場を探している
- 本格的に動く前に、自分の考えを言語化して整理したい
ただし、法的手続きや制度判断は税理士や司法書士などの専門領域です。最終的な確認と実務は、専門の士業に任せましょう。
関連記事:【無料有り】会社設立の相談先一覧|失敗しないための選び方も解説
専門家に相談する前に準備しておくことリスト
マイクロ法人について専門家に相談する前に、最低限の情報を整理しておくとスムーズです。収入や家族構成によって最適な設計が変わるため、ある程度の見通しを持って臨みましょう。
以下は、事前に考えておきたい項目の一例です。
項目 | 具体例 |
法人化の目的 |
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年間売上や利益の見込み |
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報酬の考え方 |
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家族構成 |
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開始時期の目安 |
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事前に考えをまとめておくと、単発相談の時間が有効に使え、より的確なアドバイスが受けられるでしょう。
関連記事:節税・税務に関する相談はどこがベスト?無料の相談先や注意点も徹底解説
マイクロ法人の不安は早めに相談して解消しましょう
この記事では、マイクロ法人に関する不安を、どのタイミングで誰に相談したらいいかを解説しました。
設立前なら税理士・行政書士・社労士、設立に関する手続きは司法書士、設立後の運営は税理士に相談しましょう。早めに専門家へ相談すればリスクや手間を防げるため、法人事業に集中できます。
当税理士法人では、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁護士、中小企業診断士などのご紹介も行っています。