共同経営とは、複数の経営者が対等な立場で力を合わせ、資金やリスクを分散しながら事業成長を目指す経営形態です。技術力や営業力など各々の強みを持ち寄ることで、事業の相乗効果が期待できます。しかし個人事業主が共同経営を目指す場合、青色申告ができるのか、控除を受けられるのか分からない方も多いはず。そこで本記事では共同経営で青色申告が可能かどうか、さらに共同経営を成功させるポイントまで徹底解説します。
目次
そもそも共同経営とは?
夫婦でマイクロ法人を設立・法人化をするイメージ
共同経営とは、複数の経営者が対等な立場で経営を行う形態です。資金負担やリスクを分散しながら、それぞれの知識やスキルを持ち寄って事業成長を目指します。
例えば技術力を持つ企業と販売力を持つ企業が組めば、新商品の開発や販路拡大が可能になります。このように共同経営を成功させるためには、お互いの強みを活かしつつ、役割やルールを明確にして信頼関係を築くことが大切です。
関連記事:個人事業主の共同経営は可能?主な形態や親子・友人・夫婦との経営について
共同経営のメリット・デメリット
共同経営のメリット・デメリットを以下の表にまとめました。
メリット |
|
デメリット |
|
共同経営は資金や人脈、ノウハウなど多くの面でメリットがありますが、その一方で意思決定や利益配分、責任の明確化といった課題も伴います。双方の利点とリスクを十分に理解したうえで、事前にルールや役割を明文化することが、安定した共同経営の鍵となります。
個人事業主が共同経営を始める方法
個人事業主が共同経営を始めるためには、主に以下の方法が挙げられます。
方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
全員が個人事業主 | 全員が対等な立場で共同経営 | 上下関係がない 自由度が高い | 売上・経費の配分が難しくトラブルになりやすい |
代表者のみ個人事業主+他は下請け | 代表者に業務委託する形 | 売上・経費の計算がしやすい | 対等な関係ではなくなる |
代表者のみ個人事業主+他は従業員 | 代表者と雇用契約を結ぶ | 安定した給与が得られる | 雇用側・被雇用側という関係になる |
法人格を持つ会社を設立 | 株式会社などを共同で設立 | 信用力が高く融資を受けやすい | 設立費用や決算・株主総会などの義務がある |
有限責任事業組合(LLP)を設立 | 法人格はないが自由な利益配分が可能 | 設立が早く費用が安い 資本金不要 | 法人格がないため信用面で劣る場合がある |
このように個人事業主が共同経営を行う方法は複数あり、それぞれ立場や資金、リスク、信用力に違いがあります。対等な関係を重視するなら全員個人事業主や有限責任事業組合、資金管理や信用力重視なら法人設立や代表者制が向いています。目的や関係性に応じて、最適な形態を選びましょう。
関連記事:夫婦で起業するなら個人事業主?法人?それぞれの節税対策を解説
個人事業主が共同経営する場合は青色申告が可能
個人事業主が共同経営をする場合、経営者それぞれが青色申告をする必要があります。共同経営では経営者それぞれが事業所得を得ることになります。そのため、青色申告特別控除を受けたい場合は、個人事業主として税務署に申請書を提出しなくてはいけません。
青色申告を適用するには複式簿記による帳簿付けなど、一定の要件を満たす必要があります。各共同経営者がこれらの要件を満たせば、それぞれが青色申告特別控除(最大65万円、55万円、10万円)を受けられます。
帳簿について
組合事業の帳簿は事業全体の総収入金額と必要経費を計算することが前提です。この計算を行うためには、事業全体の取引を網羅的に記録した共通の帳簿が必要です。
また各経営者は自分の申告用に、共通帳簿から自分の持分に応じた数値を抽出して、自分の申告書を作成します。つまり各人がまったく別に帳簿を作るのではなく、ひとつの事業についての帳簿は基本的に一元管理されるのが望ましいです。
売上や経費の分配について
売上と経費は、共同経営者間で締結した共同経営契約に基づいて分配します。共同経営契約とは、事業の目的や役割分担、利益配分、経営ルールなどを明文化し、経営者同士が合意して取り交わす契約書です。
複数人で事業を行うことには業務負担の軽減や相乗効果といったメリットがあります。しかし一方で、分担の不公平感や責任の曖昧さなどからトラブルが起きるリスクもあります。会社設立や開業時に作成は義務ではありません。しかし後々のトラブル防止のために共同経営契約を結び、売上や経費の分配方法を明確にしておくことが望ましいです。
共同経営をする前に知っておきたい!青色申告のやり方
共同経営で青色申告をする際の流れや提出書類、期限について確認していきましょう。
申告の流れ
申告までの簡単な流れをまとめました。
- 取引発生
- 日々の記帳(仕訳帳・総勘定元帳・補助簿)
- 年末の決算処理(試算表や貸借対照表の作成)
- 確定申告
決算では、年末に棚卸資産の棚卸しと棚卸表の作成を行います。帳簿を整理・確認して試算表を作成した後、貸借対照表や損益計算書(青色申告決算書)を作成します。
帳簿類は定められた期間保存が必要で、貸借対照表の作成などを満たした場合の青色申告特別控除は55万円です。電子帳簿などの要件を満たし、届出をした場合は最大65万円まで控除を受けられます。
提出書類
提出する書類は以下の通りです。
事業を始めるとき |
|
青色申告で申告したいとき |
|
これらの書類を正しく揃えることで青色申告の特典を活用し、スムーズな税務申告ができるようになります。
提出期限
青色申告を始めるには、原則としてその年の3月15日までに申請が必要です。もし1月16日以降に事業開始・不動産貸付を開始する際は開始日から2ヵ月以内となります。また期限が土日祝の場合は、翌平日が期限となるので注意しましょう。
関連記事:個人事業主から法人成り後も小規模企業共済の継続は可能!
共同経営のパートナーを選ぶポイント
共同経営のパートナーを選ぶポイントを以下にまとめました。
経営ビジョンや価値観が一致しているか
経営の方向性や将来のビジョン、事業を通じて実現したい目的、顧客や従業員への考え方などが一致しているか確認しましょう。このような目には見えにくい「価値観」が共有できるかどうかは、長期的なパートナーシップにおいて重要なポイントです。
特にトラブル時に目先の利害よりも理念や信念を重視して判断できるかどうかが、共同経営の持続性を左右します。必ずこの経営ビジョンや価値観のすり合わせは行っておきましょう。
お互いの強みを補い合えるか
共同経営の大きなメリットは、自分にないリソースを補える点です。自分が製造に強く、相手が営業や販売に強いといった補完関係があると、事業全体の成長につながりやすくなります。経験や人材のバランスも含めて、相乗効果が期待できる相手を選ぶことが理想的です。
財務の健全性と経営の継続力があるか
相手の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などを確認し、財務状況に無理がないかを見極めましょう。過剰な借入や、特定の取引先への過度な依存がある場合は、将来的な経営リスクになりかねません。財務状況をしっかり把握し、健全な経営基盤を持つパートナーを選ぶことが、共同経営の安定と継続につながります。
円滑なコミュニケーションが取れるか
共同経営では、予期せぬ事態や意思決定の場面が多く発生します。そのため日常的なコミュニケーションの取り方やレスポンスの速さなど、業務レベルでの「相性」も非常に大切な判断材料です。柔軟に対応できる姿勢があるかどうかも確認しておきましょう。
共同経営を成功させるためのコツ
以下では、共同経営を成功させるためのコツを3つ解説します。
役割や出資ルールを事前にしっかり決める
共同経営は、1人での起業と比べて事業の拡大がしやすい一方で、意見の対立が経営に影響を及ぼすリスクも伴います。そのため、開始前に各自の役割や出資割合など、事業運営に関わるルールを明確に決めておきましょう。
出資額の設定、利益配分、報酬の基準、業務の分担、意思決定の方法など、細かい点まで話し合い、書面にしておくと安心です。また、引退時の取り決めや契約解除の手続きも、あらかじめ合意しておくことで将来的なトラブルを防げます。
共同経営契約書を必ず作成する
共同経営をスタートする際は「共同経営契約書」を作成し、関係者全員が内容を確認・保管しておきましょう。作成は義務ではありませんが、あらかじめ取り決めたルールを明文化しておくことで、認識のズレを防ぎやすくなります。
万が一トラブルが起きたときも、契約書があれば解決の手がかりになります。法人設立による共同経営では、株主総会や決算の流れなども記載しておくとよいでしょう。契約書は定期的に見直し、事業の成長に応じた内容に更新していくことが安定した経営につながります。
専門家のサポートを積極的に活用する
共同経営を成功させるには、信頼できるパートナーとの協力関係に加え、適切なタイミングで専門家の支援を受けるのが望ましいです。経理や税務に関しては税理士のサポートを受けることで正確かつ効率的に業務を進められます。
特に個人事業主は、自分で確定申告を行う必要があるため、経理や申告の経験が浅い場合は早めに専門家へ依頼するのが安心です。共同経営にともなう複雑な手続きや判断に不安がある方は、ぜひ税理士などの専門家に相談してみてください。
まとめ
共同経営は資金負担やリスクを分散できる一方、経営方針の違いや利益配分などでトラブルが生じやすい面もあります。個人事業主が共同経営を始める際は、青色申告の適用に必要な帳簿の管理や申告手続きを正しく理解することが大切です。
また、パートナー選びでは経営ビジョンの共有や相互補完できる強みのバランス、財務状況の健全性をしっかり確認しましょう。経理や税務の複雑な手続きには専門知識が求められるため、特に青色申告や契約書作成に不安がある場合は、早めに税理士へ相談してください。専門家のサポートを得ることで、円滑な事業運営と安定した共同経営の実現が期待できるでしょう。