個人事業主が複数人で共同経営を行う場合、どのような形で事業を始めるのかによって、提出すべき書類や必要な手続きが変わることをご存じでしょうか?本記事では、個人事業主が共同経営を始める際に考えられる各パターンについて、必要な届出や注意点を分かりやすく解説します。共同経営を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
個人事業主が共同経営する場合、開業届は必要?
個人事業主が共同経営を行う場合、開業届の提出が必要かどうかは、どのような形態で経営するかによって異なります。
例えば、共同経営者それぞれが独立した個人事業主として活動するのであれば、それぞれが自分の名義で税務署に開業届を提出する必要があります。各個人が個別に事業所得を申告することになるためです。
また、代表者と外注といった形になる場合も、それぞれで開業届を提出します。一方で、代表者一人が個人事業主として開業し、他のメンバーが従業員として雇用される形であれば、開業届を提出するのは代表者のみとなります。
次の見出しで、それぞれの形態について詳しくまとめました。
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個人事業主が共同経営を行うパターン
個人事業主が2人以上で共同経営を行う場合、選択できる形態はいくつかあります。それぞれの形態によって、責任の範囲や税務処理、手続きが異なります。あらかじめ違いを理解し、目的にあった形を選びましょう。それぞれの特徴は下記の通りです。
共同経営の形態 | 開業届 | その他の届出・手続き |
全員が個人事業主 | 各自が開業届を提出 | 青色申告を希望する場合は「青色申告承認申請書」も各自提出 |
代表者1名+業務委託(外注) | 代表者だけでなく、外注側も個人事業主であれば別途開業届を提出 | |
代表者1名+従業員 | 代表者のみが開業届を提出 | 従業員に対しては雇用保険や労働保険などの手続きが必要な場合あり |
有限責任事業組合(LLP) | 開業届は不要 | ・組合契約書の作成 ・法務局での組合設立登記 ・税務署への届出など |
ここでは、代表的な4つのパターンの紹介と、それぞれのメリットと注意点を解説します。
全員が個人事業主として開業する
複数の個人事業主が、各自独立した立場で協力しながら事業を行う形態です。この場合、全員が個別で税務署に開業届を提出し、売上や経費も個々で管理を行います。合弁やコラボレーションに近い形と言えるでしょう。
メリット:
- 対等な立場で協力し合える
- 各自が自分の裁量で事業を進められる
注意点:
- 売上や経費の分配、役割分担のルールが曖昧だとトラブルに発展しやすい
- 青色申告を行う場合は、各自が青色申告承認申請書を提出する必要がある
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1人が代表、その他が外注となる
一方が代表者として個人事業主となり、他のメンバーは個人事業主や法人として業務を請け負う(外注)という立場で関与するケースもあります。この場合、メインとなる個人事業主だけでなく、外注となる側も個人事業主という立場で請け負うのであれば、各自で開業届を提出します。
メリット
- 元請け・下請けといった関係性が明確になるため、経理や納税の手続きが比較的シンプルになる
- 契約関係が明確になるため、金銭面のトラブルを防ぎやすい
注意点:
- 対等な関係ではなく、上下の関係になりやすい
- 共同経営という形でも、対外的には「元請けと下請け」と見なされる場合がある
1人が代表、その他が従業員となる
代表者が個人事業主として事業を運営し、他のメンバーがその個人事業主と雇用契約を結び従業員として働く方法です。この場合、開業届を提出するのは代表者となる個人事業主のみです。従業員となるメンバーは雇用関係を結び、給与を受け取る形になります。
メリット:
- 指揮命令系統が明確で運営しやすい
- 雇用される側にとっては安定した収入を得やすい
注意点:
- 雇用保険や労働保険など、事業主側に法的義務が発生する
- 共同経営というより「雇用関係」に近い性質となる
- 生計を一にする配偶者などを雇用する場合は「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」の提出が必要
有限責任事業組合(LLP)を設立する
個人事業主が共同経営を行う方法では、有限責任事業組合(LLP:Limited Liability Partnership)の設立も選択肢の1つです。
LLPは、出資者全員が有限責任となる点が特徴で、万が一事業がうまくいかなかった場合でも、出資額の範囲で責任を負えばよく、個人資産まで責任を問われるリスクはありません。
この形態は、共同で事業を行いたいが、それぞれが個人事業主としての性質も残したい場合などに検討されることが多いケースです。設立には組合契約書の作成や登記が必要です。
メリット:
- 損益分配のルールを柔軟に設定できる
- 法人とは異なり、組織自体には課税されず、構成員個人に課税される(パススルー課税)
注意点:
- 法人格を持たないため、取引先によっては信用面で不利になる場合がある
- 設立には「組合契約書」の作成と登記が必要
個人事業主が共同経営するメリット・デメリット
個人事業主が複数人で共同経営を行う場合、一人で事業を運営する場合には得られないさまざまなメリットがあります。
その一方で、複数人で経営するからこそ発生するリスクや課題も存在します。共同経営を検討する際には、これらの点を十分に理解しておくことが重要です。
個人事業主が共同経営するメリット
まず大きなメリットとして挙げられるのは、資金の確保がしやすくなる点です。複数人で資金を出し合えば、開業資金や設備投資、運転資金などまとまった資金を用意しやすくなります。これにより、より大きな規模の事業も運営しやすくなるでしょう。
また、それぞれが異なる知識やスキル、人脈を持っていることで、得意分野を分担しながら効率よく事業を進められます。
例えば、1人が技術に強く、他のメンバーが営業やマーケティングに強いといった場合、各自の強みを活かして事業の成長を加速させることができるでしょう。
さらに、経営上のリスクや精神的な負担を分担できる点もメリットの一つです。一人で抱えるよりも相談・協力できる相手がいることで、困難な状況にも柔軟に対応しやすくなります。
相談したり助け合ったりできる環境は、事業を継続していく上で重要な支えとなるものです。また、多角的な視点で経営判断ができるのも、共同経営の魅力と言えるでしょう。
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個人事業主が共同経営するデメリット
一方で、共同経営ならではの課題も存在します。意思決定に時間がかかりやすい点は主な課題と言えるでしょう。
重要な判断には共同での合意が必要となるため、スピーディな対応が難しくなることがあります。意見が対立すれば、事業の進行に支障をきたす可能性もあります。
また、報酬や経費の分配、仕事量の分担において、不公平感が生まれやすい点にも注意が必要です。貢献度に対する認識の違いが原因で、金銭面のトラブルや人間関係の悪化に発展するケースも考えられます。
さらに、責任の所在が曖昧になりやすいという問題も無視できません。ミスやトラブルが発生した際、誰がどこまで責任を負うのかが不明確だと、対応の遅れや信頼関係の崩壊を招く恐れがあるでしょう。
加えて、共同経営を解消する際にも慎重な対応が求められます。事業の引き継ぎや財産の清算などを巡ってトラブルになる可能性があるため、解消時のルールもあらかじめ取り決めておくことが重要です。
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まとめ
個人事業主が共同経営を行う際は、その形態によって必要な手続きや提出書類が異なります。全員が個人事業主として活動する場合は、各自が税務署に開業届を提出し、法人や有限責任事業組合(LLP)を設立する場合は別途所定の手続きが必要です。
共同経営には、資金や知識、人脈を共有できるといったメリットがある一方で、意思決定の遅延や金銭トラブル、責任の所在の不明確化などの課題も存在します。
トラブルを防ぐためには、契約書で出資割合や利益配分、責任範囲などを明確に定めておくことが大切です。必要に応じて税理士などの専門家に相談しましょう。
共同経営についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。