複数の所得がある場合、どのように税金がかかるのかは意外と複雑です。「総合課税」や「損益通算」という言葉を見聞きしても、具体的な違いや影響がわからないという方も多いのではないでしょうか。実はこれらの制度は、税負担に大きく関わる重要なポイントです。本記事では、総合課税の概要と損益通算の基本、通算できる所得・できない所得、そして制度を正しく使うための注意点について、わかりやすく解説します。
目次
総合課税とは
総合課税とは、給与所得、事業所得、不動産所得、雑所得など、複数の所得を合算してひとつの課税所得として税金を計算する仕組みです。
この方式では、所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税(5%〜45%)」が適用されます。確定申告や年末調整の際に、これらの所得をまとめて申告するのが特徴です。
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分離課税との違い
所得税には、総合課税のほかに「分離課税」という仕組みもあります。分離課税は、一定の所得を他の所得と切り離して、個別に税率を適用する制度です。
どちらの課税方式が適用されるかによって、納税額や控除の取り扱いが異なるため、違いを理解しておくことが重要です。
項目 | 総合課税 | 分離課税 |
対象となる所得 | 給与、事業、不動産、雑所得など | 株式譲渡所得、不動産譲渡所得、 退職所得など |
税率の仕組み | 累進課税(5%〜45%) | 一律税率 |
損益通算の可否 | 所得区分によって可能 | 原則不可 |
所得の合算 | 他の所得と合算される | 他の所得と合算されない |
申告方式 | 所得を合算して申告 | 所得ごとに個別に計算・申告 |
分離課税は、特定の所得に限定して課税される仕組みであり、他の所得と組み合わせて税額を調整することができません。
一方、総合課税は複数の所得を合算することで税額が決まるため、通算による節税ができる可能性があります。申告の際は、それぞれの課税方式に応じた申告内容や手続きに注意しましょう。
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総合課税の所得と損益通算の関係
損益通算とは、赤字となった所得と黒字の所得を相殺し、課税される所得を減らすことができる制度です。
ただし、すべての所得で通算できるわけではなく、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得に限って損益通算が認められます。つまり、所得の種類によって通算の可否が異なるため、事前に正しく把握しておきましょう。
総合課税の所得 | 損益通算の可否 |
事業所得 | 〇 ※青色申告であれば、繰越控除も可能 |
不動産所得 | 〇 ※ただし、一部制限あり |
給与所得 | × |
雑所得 | × ※一部例外あり |
一時所得 | × |
配当所得 | × |
総合課税に該当する所得であっても、すべてが損益通算できるわけではありません。
事業所得や不動産所得は基本的に通算可能ですが、給与所得は対象外です。また、一時所得や配当所得は総合課税に含まれますが、他の所得と損益通算することはできません。
雑所得は収入の性質によって扱いが分かれ、事業性が認められれば事業所得として通算できる場合があります。山林所得は申告分離課税に分類されますが、一定の場合に損益通算や繰越控除の対象となることがあります。
損益通算を適切に活用するには、各所得の課税方式や損益通算の対象範囲を正確に理解し、申告前に整理しておくことが重要です。
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総合課税でも損益通算できないケース
総合課税に該当するからといって、すべての所得が損益通算できるわけではありません。以下のようなケースでは通算が制限されるため、申告前に正確に判定しましょう。
給与所得との通算はできない
給与所得そのものが赤字になることはないため、給与を他の所得と通算することはできません。ただし、副業による事業所得や不動産所得で赤字が生じた場合には、給与所得と損益通算することが可能です。
赤字を活かすには、どの所得が通算対象になるかを正しく理解することが重要です。
一時所得は損益通算できない
保険金や懸賞金、ふるさと納税の返礼品などで得られる一時所得は、総合課税の対象であっても、他の所得と損益通算することはできません。
これらは偶発的・一時的に発生する性質のため、恒常的な赤字所得とは異なり、税法上も通算の対象から除外されています。たとえ赤字の年であっても、こうした所得は課税対象となる点に注意しましょう。
雑所得でも内容により通算不可
雑所得の赤字は、原則として他の所得と損益通算することはできません。継続性や営利性のある活動であれば「事業所得」として認められる可能性があり、その場合に初めて通算の対象となります。
雑所得として申告したままでは、赤字を給与や不動産所得と相殺することはできない点に注意が必要です。
山林所得は特別控除後に制限あり
山林所得は申告分離課税に分類されますが、経常所得の黒字と通算されます。ただし、赤字が生じた場合には「純損失の繰越控除」などの制度を通じて他の所得と通算できる場合があります。
控除の対象や計算方法が複雑なため、専門家への確認が望ましいでしょう。
赤字でも内容次第で通算できない
赤字であっても、すべてが損益通算できるわけではありません。
例えば、土地取得にかかる借入金の利子は、不動産所得に分類されていても通算が制限されており、他の所得と相殺できません。
このように、費用の性質や使用目的により通算が認められないケースもあるため、赤字の内容ごとに慎重な判断が必要です。
生活に通常必要でない資産の損失は通算不可
美術品や宝石、別荘など、生活に通常必要と認められない資産の売却損は、損益通算の対象外です。
たとえ総合課税の所得として扱われていても、税法上は趣味的・投機的な資産とみなされ、赤字が出ても他の所得と相殺できません。
資産の取得目的や使用実態により判定されるため、高額資産の売却時には慎重な確認が必要です。
雑損控除の対象となる損失は通算できない
災害、盗難、横領などによって生じた損失は、「雑損控除」として所得控除に分類されるため、損益通算の対象にはなりません。
これらは別制度として控除されるため、たとえば事業所得や不動産所得といった他の黒字所得と相殺することはできません。損失の種類に応じて、損益通算と雑損控除を混同しないよう注意しましょう。
総合課税で損益通算を行う際の5つの注意点
損益通算を正しく活用するには、通算できるかどうかの判定や手続きのルールを理解しておくことが不可欠です。以下の5つのポイントに注意しましょう。
- 所得の種類と通算可否を事前に確認する
- 雑所得や山林所得は内容に応じて制限される
- 青色申告でなければ繰越控除は不可
- 通算できない所得と混同しない
- 損益通算を行うには帳簿・書類の保存が必須
所得の種類と通算可否を事前に確認する
損益通算ができるかどうかは、所得の種類によって明確に分かれています。事業所得や不動産所得は原則通算可能ですが、給与所得は対象外です。
知らずに通算してしまうと、後から申告内容の修正や追徴課税が発生するおそれがあるので注意しましょう。国税庁の情報や税理士の確認を通じて、申告前にしっかり判定することが重要です。
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雑所得や山林所得は内容に応じて制限される
雑所得は総合課税に含まれますが、公的年金や講演料などは損益通算できません。一方、山林所得は申告分離課税に分類されますが、損益通算が認められます。
このように「総合課税だから通算できる」と単純に判断せず、所得の区分と内容を確認することが大切です。
青色申告でなければ繰越控除は使えない
事業所得・不動産所得・山林所得で赤字が出た場合、その赤字を翌年以降に繰り越して控除できる「純損失の繰越控除」という制度があります。ただし、対象は青色申告者に限られ、雑所得や一時所得などには適用されません。
通算できない所得と混同しない
分離課税に該当する株式や不動産の譲渡所得、退職所得などは、総合課税とは課税方法が異なり、損益通算の対象外です。また、一時所得は総合課税に含まれますが、性質上、他の所得と損益通算することは認められていません。
これらの所得と赤字を誤って通算してしまうと、税務署から申告内容を否認されるリスクがあります。所得の区分と課税方式を混同しないよう、正確な理解が不可欠です。
損益通算には帳簿や証拠書類の保存が不可欠
損益通算を適用するためには、赤字となった原因や経費を客観的に証明する必要があります。
帳簿の整備や領収書の保管が不十分だと、通算自体が否認されることもあります。青色申告であれば複式簿記による記録が求められるため、日常的な帳簿管理と証拠書類の整理は欠かせません。
総合課税の損益通算に関してよくある質問
総合課税や損益通算は制度が複雑で、誤解されやすい点も多くあります。以下で、実務上よく寄せられる質問をご紹介します。
損益通算と繰越控除は同時に使えますか?
はい、同じ年に損益通算を行っても、通算しきれなかった赤字は、事業所得・不動産所得・山林所得であれば翌年以降に繰越控除できます。
ただし、繰越控除を受けるには青色申告をしている必要があり、かつ毎年の申告が必須です。1年でも申告を忘れると控除の権利が消えるため、継続的な管理が求められます。
副業収入が赤字でも申告しないといけませんか?
赤字でも確定申告を行うことで損益通算や繰越控除の対象にできます。
収入が少ない場合でも、経費が上回れば赤字となり、他の所得と通算できる可能性があります。申告しなければ制度は適用されないため、「申告不要」と思い込まず確認しましょう。
専業主婦でも損益通算は使えますか?
専業主婦やパート収入がある方でも、不動産所得や副業による事業所得などが赤字になった場合は、損益通算できる場合があります。ただし給与所得や雑所得の多くは通算対象外です。
例えば、不動産収入や副業で赤字が出た場合、他の所得(配偶者控除の範囲を超える収入)と通算できることがあります。家庭内の収支でも、申告要否を見落とさないよう注意しましょう。
雑所得が20万円以下でも損益通算できますか?
所得が20万円以下でも、損益通算や繰越控除を受けたい場合は確定申告が必要です。
「20万円以下なら申告不要」という特例は納税義務を免除するものであり、控除や通算を希望する場合には適用されません。
関連記事:家賃収入があるサラリーマンは確定申告が義務?必要書類も解説
赤字になった年の医療費控除やふるさと納税はどうなりますか?
損益通算により課税所得がゼロ以下になると、これらの控除は実質的な節税効果を発揮しなくなります。
所得控除は「課税される所得があること」が前提です。赤字の年に控除を使っても減税に繋がらないため、控除のタイミングや使い方は慎重に判断しましょう。
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総合課税の損益通算にお悩みの方は専門家に相談
損益通算は適切に活用すれば節税に有効ですが、通算できる所得・できない所得の判定を誤ると、申告ミスや税務調査、追徴課税といったリスクに繋がります。特に複数の所得がある場合は、判断が複雑になるため注意しましょう。
こうした不安を感じたら、早めに専門家へ相談するのが安心です。
小谷野税理士法人では、総合課税や損益通算の判断、申告書の作成、青色申告の導入支援まで幅広く対応しています。制度を正しく活用し、無駄な税負担を防ぐためにも、お困りの際はぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。