経費を立て替えた際の処理方法に迷ったことはないでしょうか。誰が何を立て替えたのか、どのタイミングでどう処理すべきかは、会計上明確にしておく必要があります。本記事では、経費立て替えに関する基本的な考え方から、ケース別の精算方法、処理に用いる勘定科目の考え方、帳簿への仕訳の仕方まで詳しく解説します。経費処理に不安がある方や、正しい手順を整理しておきたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
経費の立て替えとは?
経費の立て替えとは、従業員や外部の取引先が、会社の業務に関連する支出を一時的に自己負担することを指します。
こうした立替支出は、会社が本来負担すべき費用であるため、必ず後日、正確な精算処理を行い、帳簿に反映させなければなりません。
処理が遅れたり、証憑が整っていなかったりすると、費用の計上ミスや税務調査時の指摘といったリスクに繋がる可能性があります。
経費の立替処理は、証憑(領収書など)とともに、適切な手順で速やかに精算しましょう。
経費立て替えの精算方法
経費の立て替えは、誰が立て替えたか、どのような性質の支出かによって精算方法が異なります。
従業員が立て替えた場合
従業員が交通費や備品代などの経費を立て替えた場合は、通常は経費申請書に領収書などの証憑を添えて会社に提出し、内容確認のうえ精算されます。
精算のタイミングは「月末締め・翌月払い」など、企業ごとに定めた社内ルールに基づいて処理されます。
証憑不備や遅延があると精算できない場合もあるため、申請手続きと期限を周知しておくことが重要です。
社外の取引先が立て替えた場合
仕入先や業務委託先などの外部取引先が、会社の業務に関連する費用を立て替えた場合は、発行された請求書をもとに立替金として処理し、金額を支払います。
契約上に定めがない立替処理はトラブルの原因になるため、事前に「立替の可否」、「精算タイミング」、「請求書の形式」などについて合意を取り交わしておくことが望ましいでしょう。
仮払金と相殺する場合
あらかじめ出張費や備品購入費として仮払金を支給していた場合、立替支出があれば相殺処理が可能です。
精算時には、実際の使用金額と仮払金との差額を計算し、不足分の追加支給または余剰分の返金を行います。帳簿上では仮払金から該当費用勘定へ正しく振り替える必要があります。
経費立て替え時に使用する勘定科目
経費を立て替えた場合は、その内容やタイミングに応じて適切な勘定科目を使い分ける必要があります。以下が代表的な勘定科目です。
勘定科目 | 説明 |
立替金 | 従業員や外部が一時的に負担した費用を処理する資産勘定 |
仮払金 | 出張費や仕入代金などに備えて、事前に渡す一時的な前渡し金 |
旅費交通費 | 出張や移動にかかる交通費・宿泊費などの業務関連費用 |
消耗品費 | 文房具や少額備品など、業務で使用する消耗品にかかる費用 |
通信費 | 電話代やインターネット利用料など、通信に関する業務費用 |
立替金
立替金は、業務に関連する費用を従業員や取引先が一時的に立て替えた場合に用いる資産勘定です。
精算が完了するまでの間は資産として処理し、後日、内容に応じて交通費や消耗品費などの費用勘定へ振り替えます。
仮払金
仮払金は、出張や物品購入などのために、従業員へ事前に資金を渡す際に使用する資産勘定です。
費用の使途が確定していない段階で計上し、精算が済んだ時点で内容に応じた費用勘定へ振り替えます。
立替金との違いは「前渡しか、事後の立替か」という点にあり、混同すると帳簿処理に誤りが生じるため、明確に区別して運用しましょう。
関連記事:前渡金(前払金)と前払費用・仮払金の違いとは?仕訳例も解説!
旅費交通費
旅費交通費は、出張や営業などで発生した電車代、航空券代、宿泊費などを処理する費用勘定です。
精算時に、立替金または仮払金からこの勘定へ振り替えるのが一般的です。
使用目的が明確であれば税務上も問題ありませんが、私的利用と判断されると否認されるリスクがあるため、証憑の整備と内容の明示が不可欠です。
消耗品費
消耗品費は、業務で使用する文房具やUSBメモリ、清掃用品などの少額備品の購入時に使われる費用勘定です。
社員が立て替えた場合には、一旦立替金として処理し、精算時に消耗品費へ振り替えます。
単価が高い備品や長期使用目的のものは固定資産扱いとなる場合もあるため、金額や使用目的に応じて判断しましょう。
通信費
通信費は、業務に使用した電話代やインターネット接続料、クラウドサービスの通信料などを処理する費用勘定です。
従業員が立て替えた場合は一旦立替金で処理し、精算時に通信費へ振り替えます。
私用分と業務分が混在している場合には、業務分だけを対象にするなど、正確な区分と根拠の明示が重要です。
経費立て替えの仕訳例
経費の立て替えに関する仕訳処理は、立替時・仮払時・精算時などのタイミングによって異なります。実務でよく見られる仕訳ケースを紹介します。
従業員が交通費を立て替えた場合
従業員が業務に必要な交通費を立て替えた場合は、精算まで「立替金」として資産に計上します。
例)出張時に従業員が新幹線代10,000円を立て替えた場合
借方 | 貸方 | ||
立替金 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 |
仮払金を支給した場合
出張や物品購入などのために、従業員へ事前に資金を渡す場合は「仮払金」として処理します。仮払金の使途が確定した後は、内容に応じて費用勘定へ振り替えて処理します。
例)出張前に現金で5,000円を仮払いし、出張交通費として4,800円を使用した場合(残額は従業員が返金)
【仮払金の支給時(前渡し)】
借方 | 貸方 | ||
仮払金 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
【精算時(使用分を費用勘定へ振替)】
借方 | 貸方 | ||
旅費交通費 | 4,800円 | 仮払金 | 4,800円 |
【未使用分の返金処理(返金された金額を現金で受領)】
借方 | 貸方 | ||
現金 | 200円 | 仮払金 | 200円 |
消耗品を立て替え購入し精算した場合
従業員が文房具などを立て替えて購入した場合は、「消耗品費」として費用処理します。
例)文具を1,200円で立て替え購入した場合
借方 | 貸方 | ||
消耗品費 | 1,200円 | 未払金 | 1,200円 |
通信費の立て替えを精算した場合
業務用スマホなどの通信費を従業員が立て替えた場合は、「通信費」として処理します。
例)業務用スマホの通話料800円を立て替えた場合
借方 | 貸方 | ||
通信費 | 800円 | 未払金 | 800円 |
経費の立て替えに関する5つの注意点
経費の立て替え処理を誤ると、帳簿の不整合や税務上のリスクに繋がります。実務で見落としがちな、特に注意すべき以下5つのポイントを押さえましょう。
- 証憑(領収書)の保存は必須
- 精算期限を設けておく
- 勘定科目の選定ミスに注意する
- 仮払金と混同しない
- 社員への周知と教育が必要
証憑(領収書)の保存は必須
立替経費は、領収書やレシートなどの証憑があってはじめて経費として認められます。証憑がない支出は私的流用とみなされる可能性があり、税務調査でも否認されやすくなるので注意しましょう。社内監査の観点からも、支出の裏付けとなる書類の保管は必須です。
関連記事:領収書なしでも経費計上は可能?代替書類と具体的な対処法を解説!
精算期限を設けておく
立替金の精算には明確な期限を設けておく必要があります。
長期間未精算のまま放置すると、会計帳簿の整合性が崩れたり、貸付金とみなされ税務処理に影響することもあります。ルールを設けることで経理処理の遅延やミスを防ぐことができるでしょう。
勘定科目の選定ミスに注意する
立替経費は、実際の使途に応じた勘定科目で処理する必要があります。
内容と合わない科目を使うと帳簿が不正確になり、税務調査で指摘を受ける可能性があるでしょう。判断に迷う場合は、科目の使用基準を事前に社内で明確化しておくことが重要です。
仮払金と混同しない
仮払金は事前に支給する前渡し金、立替金は実際に支払った後の精算対象という違いがあります。
この2つを混同すると、会計処理に誤差が生じ、資産科目の金額が正しく把握できなくなります。処理ルールを明確に区別しておきましょう。
社員への周知と教育が必要
立替経費の申請方法や証憑の取り扱いを、全社員に周知しておくことが重要です。
知識不足により誤った申請や精算漏れが発生すると、経理部門に負担がかかり、税務調査でも不利になります。マニュアルや研修の整備が効果的でしょう。
経費の立て替えに関してよくある質問
経費の立て替え処理は、実務で多くの方が迷いやすいテーマです。よく寄せられる疑問についてご紹介します。
立て替えた経費が経費として認められないことはありますか?
はい、あります。たとえ立替えた費用であっても、業務に無関係な私的支出や、領収書などの証憑が不備の場合には、経費として処理することはできません。
税務上は「業務との関連性」と「証拠の明確性」が認定のポイントとなるため、内容と裏付けを必ず確認しましょう。
具体例は以下の関連記事をご確認ください。
関連記事:お土産代は経費になる?経費にできないものや仕訳・勘定科目を解説
領収書を紛失した場合はどうすれば良いですか?
やむを得ず領収書を紛失した場合でも、申立書や出金伝票などで代替処理を行うことは可能です。
とはいえ、証憑の欠落は税務署から否認されるリスクが高く、社内監査でも問題となる恐れがあるでしょう。再発行依頼や事情説明書の提出を含め、慎重な対応が求められます。
立替金が長期未精算になるとどうなりますか?
長期間精算されない立替金は、税務上「従業員への貸付金」とみなされる可能性があり、その分が損金として認められなくなり、結果として法人税の負担が増えることもあります。
帳簿の整合性も損なわれるため、決算前には必ず精算状況を確認し、未処理の立替金は早めに対応することが大切です。
経費の立て替え処理に不安がある方は専門家に相談
経費の立替処理を誤ると、税務署から否認されたり、内部管理上の混乱を招いたりするリスクがあります。勘定科目の誤用や証憑管理の不備は、企業の信頼性にも影響を与えかねません。
こうしたリスクを回避するためにも、会計処理や経費精算のルール整備には、専門家の支援を受けるのが有効でしょう。
小谷野税理士法人では、中小企業や個人事業主の経理実務に精通した税理士が、経費の立て替え処理に関するご相談を丁寧にサポートしています。正確で効率的な経費処理体制の構築をお考えの方は、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。