通常、法人は法人税や法人住民税などの税金を納めなければなりませんが、赤字となってしまった場合でも税金を納めなくてはならないのでしょうか。
本記事では、法人が赤字になった場合の税金の有無や赤字決算について解説していきます。また、赤字から脱却するポイントも併せて紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
目次
法人が赤字になった際に納める税
法人が納めなければならない税金はいくつかありますが、赤字となってしまった場合に免除されるものと免除されないものがあります。
赤字の場合でも納めなければならない税金は以下の通りです。
- 法人住民税(均等割)
- 消費税
- 源泉所得税
- 個人住民税
- 固定資産税
- 登録免許税
- 印紙税
- 自動車税
以下ではそれぞれの税について詳しく解説していきます。
法人住民税(均等割り)
法人住民税には法人税割と均等割の2つに分けられます。これらのうち、均等割については赤字の場合でも納めなければなりません。法人住民税の税額は従業員数や資本金等の額といった企業の規模によって異なります。原則として、企業の規模が大きいほど税額も高くなります。
消費税
消費税は物やサービスを提供する際に消費者が支払う税金ですが、事業者は消費者から受け取った消費税を国に納めなくてはなりません。このように税金を支払う人と納める人が異なる税金を間接税と呼びます。
消費税は赤字の場合でも免除されませんが、すべての事業に課せられるものではありません。消費税の納税義務がある事業者を課税事業者、納税義務がない事業者を免税事業者と呼びます。一般的に、課税事業者になるのは以下の条件に当てはまる場合です。
- 基準期間の課税売上高が1,000万円超である
- 特定期間の課税売上高と給与等支払額が1,000万円超である
- 適格請求書発行事業者に登録している
上記のいずれかの条件に当てはまる場合は、赤字の場合でも消費税を納めることになります。法人における基準期間は前々期の事業年度、特定期間は前期の事業年度開始の日から6ヶ月間となっています。納める消費税額は、受け取った消費税額から仕入れなどで支払った消費税額を差し引いた金額です。
源泉所得税
源泉所得税は従業員が支払うものですが、企業側は給与や賞与から源泉所得税を徴収して国に納めることになっています。源泉所得税は企業に課されているものではなく、従業員の所得に対して課されているものなので、赤字の場合でも免除されることはありません。必ず納期限までに納めましょう。
個人住民税
個人住民税も源泉所得税と同様に従業員に課されている税金です。企業側は給与から個人住民税を徴収して、従業員の代わりに自治体に納めなければなりません。赤字だからといって免除されないため、納期限を守って納めてください。
固定資産税
地方税の1種である固定資産税は、所有している固有資産に対して課せられる税金です。企業の業績とは関係のない領域で発生する税金であるため、赤字の場合でも免除されません。具体的な税額は所有している固定資産の価値(評価額)によって決まります。
建物や土地だけではなく、会社が所有している機械なども固定資産税の対象です。
登録免許税
登録免許税は特許の申請や登記の際に課せられる国税で、登記の変更や建物の登記などでも課せられます。登録免許税は企業の業績とは関係のない税であるため、赤字の場合でも納める必要があります。
印紙税
課税文書の作成や発行をする際には、赤字の場合でも印紙税を支払わなければなりません。印紙税の金額は文書によって異なります。
自動車税
自動車税には、取得課税と保有課税の2種類があります。自動車を取得した際に課せられるのが取得課税、4月1日時点で自動車を保有している場合に課せられるのが保有課税です。社用車がある場合や新たに取得した場合は、赤字の場合でも納付しなくてはなりません。
法人が赤字になった際に免除される税
法人が赤字(損失)になった際に免除される税は以下の通りです。
- 法人税と地方法人税
- 法人事業税と特別法人事業税
- 法人住民税(法人税割)
上記の税はいずれも法人の所得金額を基に算出します。以下では、それぞれの税金について詳しく解説していきます。
法人税と地方法人税
法人税とは事業活動によって得た所得に対して課せられる国税で、所得に一定の税率を掛けて算出します。具体的な計算方法は以下の通りです。
益金-損金=課税所得 課税所得×法人税率-税額控除=法人税 |
上記からも分かるように、法人税の計算をする際にはまず課税所得を求めなければなりません。課税所得は益金から損金を差し引くため、赤字の場合は課税所得がゼロとなり法人税も発生しないのです。
地方法人税も法人税と同様に所得に対して課せられる税金です。名前に「地方」と付いていますが実体は国税で、以下の計算式で税額が決まります。
法人税額×10.3% |
地方法人税の税額は法人税額をベースとしています。そのため、赤字となった場合は法人税自体が課せられないため結果として地方法人税も課せられません。
関連記事:法人税の節税対策とは?税金を減らすには何をすればいい?注意点とは
法人事業税と特別法人事業税
法人事業税は法人が行っている事業そのものに課せられる地方税で、会社がある都道府県に対して納めます。資本金が1億円以下の法人の法人事業税は所得に応じて税額が決まるため、赤字の場合納付は必要ありません。
しかし、資本金が1億円を超える普通法人は税金が発生します。また、業種によっては資本金が1億円以下であったとしても法人事業税が課せられるケースがあるため注意しましょう。
特別法人事業税は地方同士の税収の格差をなくす目的で作られた国税で、法人事業税額を基に算出して法人事業税と一緒に納めます。そのため、法人事業税が課せられない場合は特別法人事業税も課せられません。
法人住民税(法人税割)
法人住民税の均等割は赤字の場合でも納付が必要ですが、法人税割については赤字の場合免除されることになっています。これは、法人住民税の法人税割が、法人税の税額を基に算出されるためです。法人住民税自体が免除される訳ではありませんが、税負担は黒字の場合よりも軽くなります。
赤字決算にはどんなメリット・デメリットがある?
赤字決算を聞くとマイナスイメージを持つ人も少なくありませんが、実際はデメリットだけではなくメリットもあります。以下では、赤字決算のメリットとデメリットを解説していきます。
メリット1:法人税の節税になる
赤字決算は最終的な利益がマイナスとなってしまうため基本的には避けたいですが、メリットとして法人税の節税に繋がるという点が挙げられます。法人税は課税所得に所定の税率を掛けることで金額を決めます。最終的な利益(所得)がマイナスになればその年の法人税は納めなくてよいため、結果として法人税の節税になるのです。
法人税の他にも法人住民税の法人税割や法人事業税も、赤字になれば納めなくて良いため大幅な節税になります。
メリット2:赤字の繰越ができる
青色申告を行っている法人の場合、最大10年間赤字(損失)を繰り越せます。この仕組みを欠損金の繰越と呼びます。繰り越した赤字は翌年以降の欠損金として扱えるため、翌年以降の税負担も軽くなるのです。欠損金の繰越の具体的なイメージは以下の通りです。
年度 | 赤字 | 所得 | 相殺後の赤字 | 相殺後の所得 |
2025年 | 500万円 | 0円 | 500万円 | 0円 |
2026年 | 500万円 | 120万円 | 380万円 | 0円 |
2027年 | 380万円 | 200万円 | 180万円 | 0円 |
2028年 | 180万円 | 250万円 | 0円 | 70万円 |
上記のイメージからも分かるように、赤字を繰り越すことで所得がなくなるため、この間は課税所得をベースとする税金は発生しません。ただし、資本金が1億円を超える場合は繰り越せる赤字に上限があります。
メリット3:法人税の還付が受けられる
青色申告を行っている法人は、赤字になった際に前年分が黒字であれば法人税の還付を受けることができます。これを繰戻しといいます。繰戻しでは、前年分の黒字から赤字を相殺できる制度で、前期の黒字から今期の赤字を差し引きます。その結果、前年の法人税が減額されるため納めすぎた分の還付が受けられるのです。この繰戻しも、赤字決算によるメリットと言えるでしょう。
デメリット1:脱税の嫌疑を掛けられるリスクがある
赤字決算には多くのメリットがありますが、長期にわたって赤字決算を繰り返していると、意図的に赤字にして脱税を図っているのではないかと税務署から嫌疑をかけられる可能性があります。脱税を疑われ税務調査が入ると、過去の記録を洗いざらい調べられるため、故意ではないミスから追徴課税に発展するケースもあります。長期にわたる赤字決算は避けた方が良いでしょう。
関連記事:修正申告とは?税務調査で修正申告が発生するのはどんな時なのか詳しく解説
デメリット2:今後の資金調達に影響を与える可能性がある
赤字決算を繰り返していると、財政状況が不安定だとみなされ会社の信用が落ちてしまいます。その結果、いざという時に融資が受けられず、倒産の道をたどってしまうケースも少なくありません。赤字決算には様々なメリットがありますが、長期的にみると会社の首を絞める行為になりかねないため冷静な判断が必要です。
ただし、立ち上げたばかりの企業で財政が安定していない場合や、設備投資により一時的に赤字となっているだけで本業は順調である場合などについては、資金調達に影響を及ぼさないケースもあります。
関連記事:赤字決算の資金調達方法は?融資のデメリットとメリットを解説!
赤字でも法人税が発生するケースがある
決算書を作成する際には、会社の収益から費用を差し引いて利益を算出しますが、これは会計上の計算です。一方、法人税は益金か損金を差し引いた課税所得を基に算出します。この計算は税法上の計算です。
この時にポイントとなるのが、会計上は赤字でも税法上で黒字であれば税金は発生するということです。収益と益金、費用と損金は同じものではなく、会計上収益として扱えるものでも税法上益金として扱えなかったり、会計上は費用として扱えても税法上では損金にならなかったりする場合があるのです。
例えば、交際費は会計上費用に該当しますが、税務上で損金として扱えるのは一部分のみとなっています。交際費の他にも、役員給与や寄付金などは一部分のみ損金として扱えます。
関連記事:損金不算入・損金算入とは?法人税計算で知っておくべきポイントや項目について解説
赤字から脱却するために意識すべきポイントは?
赤字決算には節税などのメリットがある分、脱税を疑われたり最悪の場合倒産してしまうといったデメリットも多くあるため、なるべく早く赤字から脱却したいと考えるのは当然のことです。
赤字からなるべく早く脱却するためには、いくつかのポイントに意識を向ける必要があります。そのうちの1つが販管費です。会社の経営には様々な費用が発生します。その中でも、広告宣伝費などの販管費は見直しやすい項目でしょう。売上に対して費用が掛かりすぎていないか見直し、事業に掛かる費用を抑えられるように工夫しましょう。
販管費の見直しの他にも、在庫を整理することで保管コストの削減や売上に繋がっていない商品の把握ができます。また、現在販売している商品やサービスの価格が適正であるかを見直したり、商品やサービスの質を上げて単価を上げることでより多くの利益を得られるように改善することも黒字化に繋がります。
法人が赤字になった場合は一部の税金が免除される
原則として法人には法人税や法人事業税、法人住民税といった税金が課されます。しかし、赤字となってしまった場合については、法人税と地方法人税、法人事業税と特別法人事業税、法人住民税の法人税割が免除され税負担が軽くなります。これらの税金はどれも法人の所得を基に税額を決定しているため、赤字となった場合は税金が発生しないのです。
一方、消費税や源泉所得税といった法人の所得に左右されない税金については、赤字になったからと言って免除される訳ではありません。仮に赤字になっても、手元の経営資金が直ちにゼロになる訳ではないため、期日までに必ず納めるようにしましょう。
赤字決算になってしまった場合は、経営困難に陥る前に対策を練ることが大切です。コストの削減や価格の見直しなど安定した経営ができるように努めましょう。