個人事業主としてこれから仲間や家族と共同で事業を始めたいと考えている方にとって、「そもそも個人事業主でも共同経営は可能?」「確定申告はどうする?」といった疑問は避けて通れないポイントでしょう。本記事では、個人事業主が共同経営で事業を行う場合の経営形態や税務上の扱い、トラブルを防ぐためのポイントまで、押さえておくべき情報を解説します。
目次
個人事業主でも共同経営はできる?
「個人事業主=1人で仕事をする」というイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、実は個人事業主でも他の人と協力して事業を進める、いわゆる「共同経営」が可能です。
例えば、家族や知人と一緒にカフェを開業したり、異なるスキルを持つ仲間同士で事業を立ち上げたりといった形が考えられるでしょう。
共同経営には全員が個人事業主になる方法や、代表者を1人に決める方法などいくつかの形態があります。事業の内容に応じて最適な方法を選択することが重要です。
関連記事:個人事業主の共同経営は可能?主な形態や親子・友人・夫婦との経営について
個人事業主が共同経営するときの主なスタイル
個人事業主として活動している人同士で協力して1つの事業を進める「共同経営」では、形態によって運営方法や税務処理、責任のあり方が変わってきます。ここでは、個人事業主が共同で事業を行う際に考えられる代表的な4つのスタイルをご紹介します。
全員が個人事業主として活動する
共同経営者それぞれが個人事業主として登録し、1つの事業を共同で運営する形態です。この場合、共同経営者全員が対等な立場で事業を進められるのがメリットと言えるでしょう。
ただし、売上や経費の分配方法については、事前にしっかりと話し合い、明確なルールを定める必要があるでしょう。
特に、売上の入金先が1つになる場合は、代表者がまとめて受け取った上で、他のメンバーに按分して支払うなどの工夫が求められます。確定申告は、それぞれが自身の所得として行います。
代表者以外の共同経営者を外注とする
1人の個人事業主が代表として全体の売上を受け取り、他のメンバーを「業務委託(外注)」という形で関与させるスタイルです。業務に携わる立場としては対等ではありませんが、収入や支出が整理しやすく、税務上の処理も比較的簡単です。
代表者となる個人事業主は、他の共同経営者に対して業務委託先として扱い、業務内容に応じた報酬を支払います。代表者は「外注費」として経費に計上可能です。
確定申告では、代表者は売上全体から外注費などの経費を差し引いた上で、自身の事業所得として申告します。一方、外注先である共同経営者も、受け取った業務委託費を自分の事業所得として申告する必要があるため注意しましょう。
代表者以外の共同経営者を従業員とする
代表者以外の共同経営者を従業員として雇用する形態では、1人が個人事業主として代表を務め、他の共同経営者はその事業に従業員として関わります。経験やスキルに差がある場合や、明確な役割分担をしたい場合に選ばれることが多い方法です。
この場合、代表者は従業員に対して給与を支払うとともに、源泉徴収や年末調整など、雇用主としての税務手続きが発生する点に注意が必要です。従業員となった共同経営者は、給与所得者として確定申告、または年末調整を行います。
立場は対等ではありませんが、従業員側は安定した収入を得られるというメリットがあります。ただし、個人事業主と給与所得者では税金の計算方法や控除制度が異なるため、それぞれの税負担についても理解しておかなければなりません。
法人を設立して共同経営を行う
共同経営者全員が出資をし、株式会社や合同会社といった法人を設立して事業を行う方法です。将来的に事業の規模拡大を見込んでいる場合や、取引先や金融機関からの信頼性を高めたい場合に適しています。
法人として事業を行うため、個人事業主とは異なり、法人税の申告が必要になります。共同経営者は、出資比率に応じて株式や持分を保有し、役員報酬や配当という形で利益を受け取るのが一般的です。
法人設立には登記手続きや設立費用がかかりますが、責任の範囲や役割分担を明確にしやすく、トラブルを未然に防ぎやすいというメリットがあります。長期的かつ安定的な経営を目指す場合に、検討すべき選択肢と言えるでしょう。
関連記事:法人化して後悔するケースとは?後悔しないための対処法を解説
個人事業主が共同経営をするメリット・デメリット
個人事業主として共同経営を選ぶ場合、単独での経営にはないメリットがある一方で、さまざまな課題も生じます。双方の特徴を十分に理解したうえで、自身やパートナーにとって適した経営スタイルを選択することが、共同経営を成功させるためには欠かせません。
個人事業主が共同経営をするメリット
共同経営の最大のメリットは、「力を合わせることで1人では難しいことを実現できる」という点です。具体的には、以下のようなことが考えられるでしょう。
- 資金面の負担が分担される
- スキルや経験を補完し合える
- 受注のチャンスが広がる
- 人脈・ネットワークが広がる
- リスクを分担できる
その他、経営に関わる意思決定においても、複数の視点から検討できるため、より多角的な判断ができるというメリットが考えられます。
関連記事:個人事業主の節税・税金対策を解説!ポイントや法人の方がお得なケースとは?
個人事業主が共同経営をするデメリット
一方で、共同経営には注意すべきデメリットが存在することを覚えておきましょう。
- 意見の対立
- 事業の意思決定に時間がかかる
- 責任の所在が曖昧になることがある
- 共同経営解消時のトラブル
また、共同経営者のどちらか一方に経営に関する知識や経験が偏っている場合、もう一方に不公平感が生じたり、依存関係になったりすることもあります。
これらのデメリットを回避するには、共同経営を開始する前に起こりうるさまざまなリスクを想定し、対処法を十分に話し合っておくことが重要です。
共同経営する個人事業主が確定申告するときの取り扱い
個人事業主として共同経営を行う場合、確定申告も単独の場合とは異なる注意が必要です。特に売上や経費の計上方法、消費税の取り扱いについては、共同経営の形態によって処理が異なります。
共同経営の形態による申告の違い
共同経営にはいくつかのパターンがあり、それぞれ申告方法が異なります。
- 共同経営者全員が個人事業主として事業を行う場合
事業で得た売上や支出を、各自が合意した割合で分け、自分の事業所得として確定申告します。売上や経費をどのように按分するかを明確にしておくのがポイントです。 - 代表者以外の共同経営者を外注とする場合
代表者が事業全体の売上と経費を計上し、外注先である共同経営者に支払った報酬を「外注費」として経費処理します。外注先である共同経営者は、受け取った業務委託費を自身の事業所得として申告します。 - 代表者以外の共同経営者を従業員とする場合
代表者が従業員に給与を支払い、源泉徴収や年末調整などの手続きを行いましょう。代表者はその給与を経費として計上し、従業員側は「給与所得者」として確定申告をします。 - 法人を設立した場合
個人ではなく法人として確定申告(法人税申告)を行う必要があり、消費税についても法人としての納税義務が発生します。共同経営者は出資比率に応じた役員報酬や配当を受け取るのが一般的です。
売上や経費を分ける場合の注意点
共同経営者がそれぞれ個人事業主として売上や経費を分ける場合、実務上のトラブルを防ぐため、以下の点に留意しましょう。
- 入金処理の対応
取引先が売上を個々の共同経営者へ分けて振り込むパターンは稀で、代表者がまとめて受け取るのが基本です。そのため、あらかじめルールを定めたうえで、内部で適切に精算する必要があります。 - 経費と領収書の管理
どの支出を誰が負担するか、領収書の保管・共有方法、按分ルールを明確にしておきましょう。 - 消費税の取り扱い
基準期間の課税売上高1,000万円超を基準に消費税の納税義務が発生しますが、これは各個人事業主ごとに判定される点に注意が必要です。事業全体の売上が課税売上高の基準を超えていても、按分後の売上が基準以下であれば、消費税の納税義務が発生しない場合があります。
ただし、これらの取り扱いは複雑になりやすいため、必要に応じて税理士など専門家のサポートを受けましょう。
トラブルを避けるためにも、売上や経費の按分方法については、共同経営者間で取り決めをしっかり行い、可能であれば合意内容を文書で残すことをおすすめします。
個人事業主が共同経営を成功させるためのポイント
個人事業主の共同経営を成功させるためには、信頼関係だけでなく、事業運営における明確なルールや対策が必要です。以下のポイントを押さえることで、トラブルになるリスクを減らし、安定した共同経営を実現しやすくなるでしょう。
共同経営に関する契約書を作成する
共同経営を始める際は、共同経営に関する契約書の作成が重要です。口約束だけでは、後々の認識のずれや意見の対立を招く恐れがあります。契約書には、以下の内容を明確に記載しましょう。
- 事業の目的と共同経営の形態
- 出資金額とその割合
- 各共同経営者の業務範囲や責任・権限
- 利益や費用の配分方法
- 報酬金額の取り決め
- 共同経営を解消する場合の条件や清算方法 など
お互いの役割や義務を明確にしておくことで、トラブル発生時にも、契約書に基づいた冷静な対処が可能です。契約書の作成は、弁護士や行政書士への相談がおすすめです。
関連記事:夫婦で起業するなら個人事業主?法人?それぞれの節税対策を解説
専門家からのサポートを受ける
税金や法務、経営管理に関する知識が不十分なまま共同経営を始めると、思わぬトラブルにつながることがあります。特に以下のような場面では、税理士や弁護士などの専門家からサポートを受けることでリスクを回避しやすくなるでしょう。
- 確定申告や会計処理の相談(税理士)
- 売上・経費の分配や税務リスクの確認(税理士)
- 契約書のチェックやトラブル対応(弁護士)
専門家からの客観的な視点は、当事者だけでは見落としがちなリスクに気がつかせてくれます。
特に、報酬の配分など金銭に関わる取り決めは、トラブルになりやすいポイントです。税理士や弁護士に相談すれば、実践的なアドバイスを得られ、スムーズな共同経営につながるでしょう。
まとめ
個人事業主でも共同経営は可能であり、資金や知識の共有、業務効率の向上といった多くのメリットがあります。ただし、共同経営の形態によって確定申告の方法や責任の所在が異なる点には注意が必要です。また、意見の対立や金銭的なトラブルが起こる可能性も考慮しておきましょう。
共同経営を成功させるには、役割や責任の所在を明確にし、利益や経費の分配方法に関する事前の話し合いが必要です。また、その際には契約書の作成は必須とも言えます。税務・法務に関する専門家のサポートを受けることでリスクを抑え、安心して事業を運営できるでしょう。