経費の2重計上は、見落とされがちなミスの1つですが、税務調査や決算時に大きなトラブルへ発展する恐れがあります。重複して経費を記帳してしまうと、利益が過少に計上され、結果として追徴課税などの税務リスクを招くこともあるでしょう。本記事では、2重計上が発生する原因や具体的なリスク、防止策、さらには万が一発生した場合の対処法までを解説します。経費処理に不安がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
経費の2重計上とは
経費の2重計上とは、同じ取引について複数回経費として記録してしまうミスを指します。
例えば、1枚の領収書を経理担当者が手入力で仕訳したあと、同じデータが会計ソフトに自動連携され、結果として2重に計上されてしまったり、同一の請求書を異なる日付で2回仕訳してしまったりなどが典型的な例でしょう。
こうしたミスは、手作業や複数の処理フローが混在している環境で起こりやすく、正確な帳簿管理が求められる会計・税務上において大きなトラブルに繋がるため、日頃から注意深く処理することが重要です。
記帳漏れとの違い
記帳漏れは、本来記録すべき経費を登録し忘れるミスであり、2重計上とは性質がまったく異なります。
記帳漏れは経費が少なくなるため、利益が多く計上され、結果として納税額が増える方向に働きますが、2重計上は経費が過剰に記録され、利益が本来より少なくなることで納税額が不当に減少するというリスクを招きます。
特に2重計上は、税務署から「意図的な不正」とみなされる可能性もあり、追徴課税や加算税の対象になるケースもあるため、単なるミスで済まない点に注意しましょう。
関連記事:領収書なしでも経費計上は可能?代替書類と具体的な対処法を解説!
経費が2重計上されてしまう主な原因
経費の2重計上は、処理体制や運用ルールの不備など、さまざまな要因で発生します。見落とされがちなミスではありますが、税務上のリスクにも繋がるため注意が必要です。以下では、主な原因を整理して解説します。
領収書・請求書の管理が不十分
証憑の管理が曖昧だと、同じ取引を複数回記帳してしまうリスクがあるでしょう。紙・PDF・写真など、形式の異なるデータがバラバラに保管されていると、誰かが既に処理したものと気づかずに再度登録してしまうことが多く、2重計上に繋がります。
手動入力と自動連携の重複
手入力と自動連携を併用していると、同じ取引が重複して記帳される恐れがあります。本来はどちらか一方での処理に統一すべきですが、運用が不明確な場合、手入力の後にシステム連携が自動で作動し、結果的に重複した仕訳が発生することがあります。
経費精算と会計記帳の2重処理
経費精算後に、会計側でもう一度仕訳処理を行ってしまうことで重複が起こるケースもあります。
特に、申請と記帳の担当者が異なる場合、精算済みであることに気づかずに会計上の仕訳を新たに入力してしまうケースが多く見られます。
複数の担当者による処理ミス
経費処理に複数の担当者が関与すると、同一の取引が複数人により登録される可能性があります。
共有体制が不十分な場合、処理状況の確認が行われず、担当者ごとに同じ取引を別々に仕訳してしまい、2重計上が発生する原因となります。
日付の誤認による再計上
取引日や請求日、処理日を誤って認識すると、同一の取引が異なる月で重複記帳されることがあります。
特に月末や期末をまたぐ請求では、処理日だけを見て新たな経費として登録されてしまうケースがあるため、日付確認が重要です。
システム設定ミス・連携不具合
会計ソフトと経費精算システムの連携設定が不完全だと、1件の申請が複数の仕訳に変換されることがあります。
API連携や自動同期の設定が正しく行われていない場合、同一データが重複登録されてしまうことがあるため、システム面もしっかり確認しましょう。
経費の2重計上によって生じる3つのリスク
経費を重複して計上してしまうと、税務・会計の両面で重大な問題を引き起こす可能性があります。2重計上によって実際に起こり得る3つのリスクについて解説します。
- 利益の過少計上による税務リスク
- 帳簿の不整合と監査対応の煩雑化
- 社内不正や内部統制の問題とみなされる恐れ
利益の過少計上による税務リスク
経費が本来より多く計上されると利益が少なくなり、課税所得も過小に算出されます。その結果、納税額が本来より少なくなり、税務調査で不正計上と判断されれば、追徴課税や加算税の対象となる恐れがあります。
たとえ意図的な操作でなくとも、処理ミスによる誤りであっても税務上は厳しく扱われるため注意しましょう。
関連記事:税務調査とは?どこまで・何を調べる?流れや個人・法人の対応方法などについて詳しく解説
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帳簿の不整合と監査対応の煩雑化
二重計上が発生すると、帳簿と証憑の整合性が取れず、会計記録の信頼性が損なわれます。
このような状況では、社内監査や外部監査、税務調査の際に不自然な仕訳や金額のズレを指摘され、調査対応や原因確認に多大な工数がかかります。結果として、本来の業務に支障をきたすことに繋がるでしょう。
社内不正や内部統制の問題とみなされる恐れ
経費の2重計上は、悪意がなくとも「意図的な不正」と誤解されるリスクがあります。特に頻発している場合や管理体制が不明確な場合には、内部統制が機能していないとみなされ、取引先や監査法人、税務当局から厳しい指摘を受ける可能性があるでしょう。
企業としての信頼を守るためにも、発生原因を明確にし、再発防止策を講じることが不可欠です。
経費の2重計上を防止するための5つの対策
経費の2重計上は、仕組みとルールの整備によって未然に防ぐことが可能です。実務で効果的に活用できる5つの防止策を紹介し、再発リスクの低減に繋がる対処法を解説します。
- 経費精算フローを明確にする
- 一元管理できるシステムを導入する
- 証憑原本と電子データの管理を統一する
- 入力ミス防止のためのチェック体制を構築する
- 月次レビューや仕訳一覧の見直しを行う
経費精算フローを明確にする
経費処理の流れを明文化し、誰が何をいつ行うのかを明確にすることが、2重計上防止の第一歩でしょう。
申請・承認・仕訳の各プロセスで役割があいまいなまま業務が進むと、同じ経費が複数回処理される恐れがあります。申請ルートや確認手順を文書化し、担当者ごとにルールを周知徹底することが重要です。
一元管理できるシステムを導入する
経費処理に関わる情報を一元管理できる仕組みを導入することで、重複登録のリスクを大幅に軽減できるでしょう。
申請・承認・仕訳・証憑保管までを一括で処理できるクラウド型経費精算システムを活用すれば、2重入力や登録漏れといったヒューマンエラーを防ぎやすくなります。
関連記事:クラウド会計の導入で業務効率化!メリットとデメリットを徹底解説
証憑原本と電子データの管理を統一する
証憑の管理形式を統一し、運用ルールを整備することで、重複登録を未然に防ぐことができます。
紙の領収書と電子データを併用していると、同じ取引が異なる形で2回登録されるおそれがあります。原本か電子か、どちらを基準に処理するかを定め、処理済みマークや保管ルールも徹底しましょう。
入力ミス防止のためのチェック体制を構築する
人的ミスによる2重計上を防ぐには、ダブルチェック体制の導入が有効です。
経理担当者による単独処理では見落としが生じやすいため、申請内容や仕訳結果を別の担当者が確認する仕組みを取り入れましょう。業務の属人化を防ぎ、処理の信頼性も向上します。
月次レビューや仕訳一覧の見直しを行う
月末ごとに仕訳内容を定期的に確認することで、2重計上の早期発見と是正が可能になります。
同一金額・取引先・摘要の重複を目視やシステムで確認し、異常値をチェックする体制を整えましょう。記帳後のレビューを習慣化することで、精度の高い経費処理を維持できます。
経費を2重計上してしまった場合の対処法
経費を誤って2重計上してしまった場合でも、冷静に対処すれば修正は可能です。重複仕訳の確認方法から訂正手続き、社内での対応まで、正しい対処法を解説します。
重複仕訳の発見方法と修正の流れ
重複計上に気づいたら、仕訳帳をもとに取引日・金額・摘要などを条件に絞り込み、類似仕訳の有無を確認します。
重複が判明した場合には、誤って記帳された仕訳を取消処理するか、逆仕訳で帳簿上から差し引く形で修正を行います。発見が早ければ決算や申告に影響が出る前に是正でき、税務上のリスクも抑えられるでしょう。
税務申告後に気づいた場合の修正申告
すでに確定申告や決算申告が済んでいる状態で誤りに気づいた場合は、修正申告を行う必要があります。
税務署への提出が必要となるため、内容や金額によっては追加納税や加算税の対象となることもあります。処理方法や判断に迷う場合は、税理士へ相談し、適切な手続きを踏むことが重要です。
関連記事:【税理士監修】確定申告が間違っていたときの修正申告のやり方・流れ
社内への報告と再発防止策の共有
2重計上が発覚した場合は、ミスを隠すのではなく、速やかに関係部署や上司に報告することが大切です。
そのうえで、原因を分析し、再発防止策を明文化・周知することで、同様のミスを防ぐ体制を整えられます。単なる修正で終わらせず、業務改善やフロー見直しの機会として捉えることが、組織全体の信頼性向上に繋がるでしょう。
経費の2重計上に不安がある方は専門家に相談
経費の二重計上は、追徴課税や帳簿の信頼性低下など、税務・会計上の重大なリスクに繋がります。特に経費精算や会計処理に複数の担当者が関与する場合や、手作業とシステムが混在している場合は注意が必要です。
これらのミスを未然に防ぎ、正確な経理処理を行うには、専門家のサポートを受けるのが有効でしょう。
小谷野税理士法人では、経費処理の見直しはもちろん、会計システムの導入支援や税務調査への対応まで、実務に即した総合的なサポートを提供しています。経理に関する不安や課題がある方は、まずは小谷野税理士法人へご相談ください。