取引先や顧客、社員に渡す贈答品は、感謝や信頼構築の手段として欠かせないものですが、経費処理には思わぬ落とし穴が潜んでいます。金額や贈る相手次第で、経費として認められないケースもあるため注意しましょう。本記事では、贈答品の費用をどこまで経費として扱えるのか、実務上の判断基準や金額の目安、法人・個人で異なる取り扱いについて解説します。贈答費の取り扱いに迷っている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
贈答品は経費にできる?
贈答品とは、法人や個人事業主が取引先や顧客、関係先に対して感謝や関係維持を目的に贈る品物を指します。例えば、年末のカレンダーやお中元・お歳暮、創立記念品などがこれに該当します。
こうした贈答品は、事業に関連する支出であれば、原則として経費に計上することが可能ですが、金額や贈答先、目的によっては税務上、経費として認められないケースもあるため、処理には注意が必要です。
贈答品の経費は「いくらまで」認められるのか?
結論から言うと、贈答品に対して税法上の明確な上限金額は設けられていません。ただし、実務上は「常識的な範囲」、「金額の妥当性」、「事業との関連性」が強く意識され、これらが欠けると経費として否認される可能性があるでしょう。
特に法人か個人事業主かによって、交際費の取り扱いや損金算入の可否に違いがあるため、以下でそれぞれの立場ごとに詳しく解説します。
法人の場合
法人において贈答品は、原則として「交際費」として経費処理されますが、資本金の額に応じて損金算入の可否と制限が異なります。
資本金 | 損金算入枠 | 備考 |
1億円以下 | 年800万円まで損金算入 | 条件を満たせば交際費から除外される可能性あり |
1億円超~100億円未満 | 接待飲食費の50%を損金算入 | 交際費としては制限大、広告宣伝費等で処理検討 |
100億円以上 | 損金算入枠なし | 大法人扱いで交際費の損金性なし |
中小企業(資本金1億円以下)であれば、年間800万円までの交際費が損金として認められます。さらに、1人あたり10,000円以下の飲食等については、交際費から除外できる特例もあるため、税務上有利な扱いが可能です。
一方、大企業(資本金1億円超)になると、接待飲食費の50%を損金算入できますが、贈答品は「交際費」として処理すると損金になりません。そのため、広告宣伝費や販売促進費など他の勘定科目での処理が妥当かどうかを慎重に判断する必要があります。
特に資本金100億円以上の「大法人」では、交際費の損金算入が完全に認められないため、贈答品の金額・相手・目的などについて、社内規定や証憑の厳格な管理が必須となります。
関連記事:【税理士監修】接待交際費はいくらまで経費になる?具体的な上限額や個人事業主・中小企業・大企業のルール
参考:No.5432 措置法上の中小法人及び中小企業者|国税庁
個人の場合
個人事業主の場合、法人のような交際費に関する損金算入の上限は存在しません。事業に必要な支出であれば、原則として全額を経費として計上することが可能です。
ただし、個人の場合は生活費や私的支出との線引きが極めて重要です。たとえ事業に関係があるつもりでも、贈答先・金額・理由・時期などが明確でないと、税務調査で経費性を否認される可能性があるでしょう。
特に高額な贈答品については、相手や目的、事業との関係性を証明できる帳簿・メモ・請求書などの記録を残しておくことが不可欠です。口頭説明のみでは、経費として認められないリスクが高まります。
贈答品が経費にならないケースとは?
贈答品は事業との関連性が認められる場合に限って経費として処理できますが、形式が贈答であっても、内容や相手によっては経費と認められないケースもあります。以下で、税務上注意が必要な代表的なケースを紹介します。
関連記事:交際費の税務調査で否認されるケースとは?注意点と対策を徹底解説
家族や友人への贈答
事業とは無関係な家族や友人に贈る品物は、たとえ会社の経費で購入していても、私的支出と見なされ経費にはなりません。
税務上、経費として認められるには、業務との明確な関連性が必要です。形式的に「お礼」や「記念」としていても、贈答先が事業と無関係であれば否認の対象となります。
社長・役員の私的な贈答
社長や役員が取引先以外に個人的な関係で贈答を行った場合、支出の名目が会社経費であっても、実質が私的であれば「役員賞与」とみなされる可能性があるでしょう。
役員賞与は損金に算入できないため、会社にとって不利益になるうえ、個人課税の対象にもなり得ます。贈答の目的や相手に注意が必要です。
宗教・政治団体への寄付
宗教法人や政治団体などへの贈答品であっても、実質的に寄付と判断される場合には、損金不算入とされる可能性があります。
事業目的との関連が説明できない場合は、形式にかかわらず贈答扱いにしないことが賢明でしょう。
社員の結婚祝いや弔慰金
社員の慶弔に伴う贈り物は、福利厚生費として経費にできる場合もありますが、贈答品として処理するのは適切ではありません。
全社員に対し社内規定に基づいて公平に支出している必要があります。個別判断や一部社員への偏った支出は、私的支出と疑われるリスクがあるため注意が必要です。
宣伝広告とみなせない贈答
広告目的での贈答品であっても、配布対象が限られている、宣伝効果が不明確である場合には、「広告宣伝費」や「販売促進費」としては認められない場合があるでしょう。
その場合は「交際費」として扱われるか、実態によっては経費全体が否認されるリスクもあります。支出目的の明確化が求められます。
贈答品を経費処理する際の勘定科目
贈答品は内容や贈る相手、目的に応じて適切な勘定科目を選ぶ必要があります。
勘定科目 | 説明 |
交際費 | 得意先や仕入先など、取引関係の維持・促進を目的とした贈答に使用する。金額や相手によって損金算入制限あり。 |
販売促進費 | 不特定多数への宣伝目的の贈答に使用する。展示会やイベントでのノベルティ配布などに適用する。 |
福利厚生費 | 社員に対する慶弔・記念品など社内向けの贈答に使用する。従業員全体の福利目的が要件になる。 |
仮払金 | 贈答品を発注・前払いしたが、請求書未着等で内容が未確定な場合に一時的に処理する際に使用する。 |
未払金 | 贈答品の受領済み・請求済みだが、まだ支払いが完了していない場合に使用する。 |
交際費
主に取引先に対する贈答が該当します。法人の場合は資本金や金額に応じて損金不算入となるケースがあるため、支出記録の明確化や対象先の管理が重要です。
販売促進費
展示会などで不特定多数に配布するノベルティや、広告効果を狙った配布物が対象です。宣伝目的が明確であることが前提となります。
福利厚生費
社員向けの贈答には福利厚生費を用います。ただし、社内規定に基づき、全従業員に公平な取り扱いがなされている必要があります。
仮払金
贈答品の費用を前払いした際に内容が確定していない場合、一時的にこの科目で処理します。後日、内容確定後に正しい科目に振り替えが必要です。
未払金
贈答品の納品や請求は済んでいるが、支払いが未完了の場合に使用します。後日支払時に消込処理(相殺)が必要です。
贈答品の仕訳例
贈答品の会計処理では、贈る相手や目的に応じて適切な勘定科目を選び、正しく仕訳することが重要です。以下で、具体的な仕訳例を紹介します。
自社で購入した贈答品を取引先へ贈ったとき
得意先や仕入先への贈答は、通常「交際費」で処理します。
業務関連の支出であれば交際費として処理可能です。
例)取引先へのお歳暮(10,000円)を現金で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
交際費 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 |
展示会でノベルティを配布したとき
不特定多数への贈答品やノベルティは、交際費ではなく「販売促進費」や「広告宣伝費」で処理するのが一般的です。
対象が特定の取引先ではない場合や、集客・認知拡大などの広告的な意味合いが強い場合に用いられます。税務上も交際費の制限を受けずに損金処理が可能です。
例)展示会用の粗品を100個計30,000円分を預金で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
販売促進費 | 30,000円 | 普通預金 | 30,000円 |
社員への記念品など社内贈答を行ったとき
社内向けの贈答は「福利厚生費」として処理します。従業員への永年勤続表彰や慶弔見舞など、福利目的が明確で社内規程に基づいていることが前提です。
個人への偏った贈与や私的な支出とみなされないよう、記録を残すことも重要です。
例)社員表彰の記念品(1人5,000円 × 3人分)を請求書払いで購入した場合
借方 | 貸方 | ||
福利厚生費 | 15,000円 | 未払金 | 15,000円 |
贈答品費用を事前に仮払していたとき
贈答品の費用を事前に支出し、内容が確定していない場合は「仮払金」で処理します。
後日、用途が明確になった時点で「交際費」や「販売促進費」など適切な勘定科目へ振り替える必要があります。仮払処理のままにせず、早めの精算を心がけましょう。
例)贈答品費用30,000円を事前に支出し、内容確定後に交際費へ振替えた場合
【前払時】
借方 | 貸方 | ||
仮払金 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
【内容確定後】
借方 | 貸方 | ||
交際費 | 30,000円 | 仮払金 | 30,000円 |
贈答品の請求書が未着で未払いの場合
仕入れや受領は済んでいるが、請求書がまだ届いていない場合は「未払金」で処理します。内容が確定している支出は、債務として計上しておく必要があります。
経費の発生と支払のタイミングがずれる場合でも、適切な処理を行うことで会計上の正確性が保たれます。
例)贈答品費用(交際費)を40,000円で計上、請求書未着のため未払金で処理した場合
借方 | 貸方 | ||
交際費 | 40,000円 | 未払金 | 40,000円 |
贈答品の経費処理における4つの注意点
贈答品を経費処理する際は、税務調査での否認を防ぐためにも、金額や目的、科目の選び方などに細心の注意が必要です。特に重要な以下4つのポイントについて解説します。
- 相手先・目的を明確に記録する
- 金額は常識的な範囲にとどめる
- 勘定科目は適切に選ぶ
- 消費税の課税区分にも注意する
相手先・目的を明確に記録する
贈答品の支出については、誰に・何のために贈ったのかを帳簿等に明記することが不可欠です。
記録が曖昧なままだと、税務調査時に事業関連性を証明できず、経費として否認される可能性があります。具体的には、贈答先の氏名・会社名、贈答の目的、贈った日付などを記録し、領収書とともに保管しておくと安心でしょう。
金額は常識的な範囲にとどめる
贈答品の金額は、高額になりすぎないよう注意しましょう。
あまりに高価な品物を贈ると、私的な贈与や寄付とみなされる可能性があり、経費として認められないことがあります。相手に過度な印象を与えず、社会通念上妥当とされる金額に抑えることで、税務上のリスクを避けられるでしょう。
勘定科目は適切に選ぶ
贈答品の費用は、内容や相手に応じて正しい勘定科目で処理することが重要です。
「交際費」とすべきものを誤って「販売促進費」や「福利厚生費」として処理した場合、税務上の誤認や否認に繋がるおそれがあります。勘定科目は支出目的ごとに使い分け、帳簿上も説明できる状態にしておくことが大切です。
消費税の課税区分にも注意する
贈答品の購入にかかる消費税は、仕入税額控除の対象になるかどうかを正確に判定する必要があります。
非課税取引や、交際費として損金不算入となる取引の消費税区分を誤ると、消費税の申告ミスや追徴課税のリスクが生じます。課税・非課税・不課税の区別を正しく理解し、仕訳時に正確に処理することが不可欠です。
贈答品の経費処理に不安がある方は専門家に相談
贈答品の経費処理は、「誰に・なぜ・いくらで贈ったか」によって判断が分かれる複雑な領域です。交際費や販売促進費などの勘定科目の使い分けや、損金算入の可否、帳簿への記録方法など、正確な処理には専門的な知識が欠かせません。
特に、「広告宣伝費として処理できるのか、それとも交際費に該当するのか」といった判断が分かれるケースなど、税務上の解釈を誤らないためにも専門家による的確な判断が求められます。
小谷野税理士法人では、贈答品を含む経費処理の実務対応や税務調査を見据えたアドバイスを多数行っており、法人・個人問わず安心してご相談いただけます。贈答品の処理に少しでも不安がある方は、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。