土地を交換した場合でも、内容によっては所得税がかかることがあります。土地の入れ替えにすぎないと思っていても、税務上は譲渡とみなされ、譲渡益に対して課税されるケースがあるので注意が必要ですが、一定の条件を満たせば「交換特例」が適用され、その時点での課税を将来に繰り延べることができます。本記事では、交換特例の仕組みや適用条件、通常の交換との税負担の違い、具体例や注意点までをわかりやすく解説します。
目次
土地交換は通常所得税がかかる
土地を交換した場合でも、通常は所得税がかかります。これは、税務上「交換=譲渡」とみなされ、土地を現金で売却した場合と同様に譲渡益が発生するためです。
たとえ現金の授受がなくても、時価ベースでの資産移転と判断され、譲渡所得に対して課税が行われるのが原則であるため、単なる土地の入れ替えであっても、交換により生じた譲渡益に対して税負担が発生する点に注意しましょう。
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土地交換で所得税がかからない「交換特例」とは?
交換特例を適用すれば、土地交換による所得税を繰り延べることが可能です。
項目 | 内容 |
制度名 | 土地等の交換に係る課税の特例(所得税法第58条) |
対象資産 | 固定資産(土地や建物) |
主な効果 | 譲渡所得の課税を将来に繰り延べ可能 |
手続き | 確定申告で適用を申請する必要あり |
この制度は、土地・建物といった固定資産を交換する際、一定の条件を満たすことで、その時点の譲渡益に対して課税を受けずに済むという仕組みです。
将来的に譲渡が行われるまで課税を先送りできるため、現時点での税負担を回避しながら資産の再配置が行えるメリットがあります。
参考:法第58条《固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例》関係|国税庁
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交換特例を利用するための5つの要件
交換特例は、譲渡所得の課税を将来に繰り延べできる有利な制度ですが、無条件で適用されるわけではありません。適用を受けるには、交換する土地が一定の厳しい条件を満たす必要があります。
特例が認められるための以下5つの要件について解説します。
- 同じ用途で使用される土地であること
- 所有期間が1年以上あること
- 固定資産であること
- 差額の授受が一定以下であること
- 交換直後の利用目的が同一であること
同じ用途で使用される土地であること
交換特例を適用するには、交換する土地がいずれも同じ用途で使用されている必要があります。これは、制度の趣旨が「資産の性質や利用目的が変わらない入れ替え」に限って課税を繰り延べようとするものであるためです。
例えば、宅地を渡したのであれば、取得した資産も宅地として使用しなければなりません。用途に差異があると、実質的に別の資産への転換とみなされ、特例は認められません。交換時点でも交換後の使用予定でも、用途が一致していることが必要です。
所有期間が1年以上あること
交換する土地は、どちらも1年以上継続して所有されている必要があります。仮に取得から1年未満の場合は、特例の適用はできません。
登記簿謄本などで取得年月日が確認されるため、所有期間は明確に判断されます。交換前には、双方の所有期間が1年以上であることを必ず確認しましょう。
固定資産であること
交換される土地は、いずれも固定資産でなければ特例の適用は認められません。
固定資産とは、一般的には土地や建物を指します。一方で、販売を目的とした棚卸資産などは固定資産とはみなされず、交換特例の対象外です。
差額の授受が一定以下であること
交換時に発生する差額の授受は、原則として時価の20%以内でなければなりません。この制限は、交換特例が「等価に近い交換」であることを前提としているためです。
仮に価値差が大きく、一方が多額の現金を受け取るような場合には、実質的には売買とみなされ、課税の繰り延べ対象にはなりません。
土地の評価額に偏りがある場合は、交換契約前に専門家による適正評価を行い、差額が基準内に収まるよう調整する必要があります。
交換直後の利用目的が同一であること
交換後の土地も、引き続き同じ用途で使用することが求められます。これは、制度が資産の「継続利用」を前提としており、形式的な交換を通じた実質的な売却を防ぐことを目的としているためです。
例えば、交換後すぐに譲渡したり、賃貸用から自用地に転用したりすると、制度趣旨に反すると判断され、特例の取消対象になる恐れがあるでしょう。交換後も用途を変えず、同様の事業目的などで使用を続けることが重要です。
交換特例の適用により得られるメリット
交換特例を活用することで、土地交換に伴う税負担を抑えながら、資産の組み替えや整理をスムーズに進めることができます。交換特例を適用することで得られる代表的なメリットを解説します。
譲渡益への課税を繰り延べできる
交換特例を使えば、土地交換で生じた譲渡益に対する課税を、その時点では受けず将来に繰り延べることが可能です。
これは、交換後も資産の性質や用途が継続する取引であれば、税務上「実質的な譲渡」とはみなさないという制度設計によるものです。
本来なら発生する所得税・住民税の支払いを先送りできるため、納税資金の準備が不要になり、手元資金を温存したまま資産の再配置が実現できるでしょう。
将来の資産整理に有利になる
交換特例を利用することで、課税リスクを抑えながら将来の資産整理や事業承継を進めやすくなります。
譲渡益に対する課税を回避できるため、立地や形状が不利な土地を、将来的な活用を見据えた形で条件の良い土地と交換することが可能になります。
これにより、将来の売却・相続・承継時に活用しやすい資産構成へと整理を進めることができ、資産の流動性や収益性を高める戦略的な土地活用が可能でしょう。
節税しながら土地の有効活用ができる
交換特例を活用すれば、節税しながら土地の有効活用が図れます。
税負担を軽減しつつ、不採算地や使い勝手の悪い土地を交換により再構成できるため、収益性や利用効率の高い土地に切り替えることができます。
通常の売却では譲渡益に対する課税がネックとなりますが、特例を活用すればこの課税を回避できるため、資産の最適化を進めつつ、税務面でのコストも抑えることが可能になります。
土地交換の具体例で見る所得税の違い
土地交換における課税の有無は、交換特例の適用によって大きく変わります。以下で、通常の交換・特例適用について、譲渡益や税額の違いを比較してみましょう。
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通常の土地交換を行った場合
土地交換でも、譲渡益が生じた場合は通常通り課税されます。
税務上、土地の交換は「譲渡」とみなされるため、現物同士の交換であっても、時価ベースで譲渡所得が計算されます。
取得価格よりも高い時価で譲渡したとみなされる場合には、その差額が譲渡益とされ、所得税や住民税の対象になります。現金の授受がなくても課税される点に注意しましょう。
例)所有期間が5年超の1,000万円で取得した土地を2,000万円の土地と交換
→ 差額1,000万円が譲渡益として扱われ、約203万円超の課税が発生
交換特例を適用した場合
交換特例を適用すれば、譲渡益があってもその時点での課税を回避できます。
納税資金を用意せずに資産を入れ替えることができ、キャッシュフローへの影響を避けつつ土地の有効活用が可能になります。
例)1,000万円で取得した土地を2,000万円の土地と交換
→ 譲渡益1,000万円に対する納税は発生せず、将来の売却時に課税
土地交換で交換特例を使う際の5つの注意点
交換特例は、土地交換にかかる所得税を繰り延べられる有利な制度ですが、適用には厳格な条件と実務上の注意点があります。制度を確実に活用するために押さえておきたい以下5つの注意点を確認しておきましょう。
- 不動産評価額の妥当性を確認する
- 書類不備による適用漏れに注意する
- 適用には確定申告が必要
- 交換後すぐに売却すると特例取消の可能性もある
- 専門家に相談せずに進めるのはリスクが高い
不動産評価額の妥当性を確認する
交換特例を適用するには、不動産の評価額が適正であることが不可欠です。交換資産の価値に大きな差がある場合、税務署から「売買」と判断されるリスクが高まるためです。
とくに一方に不自然な価値偏りがあると、交換取引として認められず、課税対象となる可能性があります。必ず専門家に依頼して時価を客観的に評価し、契約書や評価報告書で根拠を明確に示しておきましょう。
書類不備による適用漏れに注意する
交換特例を受けるには、必要書類を漏れなく整備し、確定申告時に正しく提出することが必要です。
契約書や譲渡所得の内訳書などが不十分だった場合、要件を満たしていたとしても形式要件を欠いているとして特例が否認される恐れがあります。
とくに書類の不備や内容の不一致は税務調査時に大きな問題となるため、事前に税理士等と連携し、抜け漏れのない準備を行いましょう。
適用には確定申告が必要
交換特例を利用するには、確定申告での適正な申請が不可欠です。この制度は自動的に適用されるものではなく、申告書に必要事項を記載し、添付書類を含めて正式に申請する必要があります。
申告を怠ったり、記載ミスがあったりすると、制度を利用できないばかりか、申告漏れとして税務リスクを招く恐れがあります。制度を活用したい場合は、必ず確定申告を前提に行動しましょう。
交換後すぐに売却すると特例取消の可能性もある
交換した土地をすぐに売却すると、特例の適用が取り消される可能性があります。
交換特例は、継続的な使用を前提にした制度であるため、取得後短期間で売却や転用が行われると「形式的な交換」とみなされ、制度の趣旨に反すると判断されかねません。
こうした場合には、遡って課税されるリスクもあるため、交換後はしばらくの間、同一用途での保有・使用を継続する姿勢が求められます。
専門家に相談せずに進めるのはリスクが高い
交換特例は制度上の要件だけでなく、実務的な判断や手続きも複雑であるため、専門家に相談せずに進めるのは高リスクでしょう。
ひとつでも要件を満たしていなければ課税対象となるうえ、申告や評価の方法を誤ると意図せず制度が使えなくなる可能性もあります。
税法や不動産取引に関する専門知識が必要なため、事前に税理士や不動産の専門家に相談しながら進めることで、制度を最大限に活用し、リスクも最小限に抑えることができます。
土地の交換でよくある質問
交換特例の適用には細かな条件があるため、実務では判断に迷うケースが多く見られます。以下で、制度を検討する際によく寄せられる代表的な質問をご紹介します。
自己使用地と賃貸地でも交換特例は使えますか?
用途が異なるため、自己使用地と賃貸地の交換には原則として特例は使えません。交換特例は、交換される土地の用途が同一であることが要件の一つです。
例えば、自社工場用地と賃貸アパート用地のように、利用目的に違いがあると「同一の用途で使用される資産」とはみなされず、制度の適用外となります。交換前後の用途が一致しているかどうか事前にしっかり確認しましょう。
差額を現金で支払った場合はどうなりますか?
交換差金に対しては譲渡所得として所得税がかかることになります。
20%を超えると「売買」と判断される可能性が高く、譲渡益に対して通常通り課税されます。
市街化調整区域の土地は対象になりますか?
市街化調整区域の土地でも、一定の条件を満たせば交換特例の対象になります。
この質問は「用途制限がある土地でも特例が使えるのか?」という不安からよく寄せられます。市街化調整区域だからという理由だけで特例が否定されることはありませんが、用途変更が難しいため、実際の利用目的や継続性が問われます。
交換後も同じ用途で使う前提が明確なら、特例が認められる余地は十分あるでしょう。
土地交換と所得税の処理に不安がある方は専門家に相談
土地交換による所得税の取扱いは非常に複雑で、ひとつでも条件を誤ると本来の特例が使えず、大きな税負担が生じる可能性があります。
また、交換後の使用実態や帳簿処理の整合性も問われるため、税務署とのトラブルに繋がる恐れもあるでしょう。
こうしたリスクを回避するためにも、交換前から税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
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