歯科医師の道を選んだ方であれば、いつかは自分も開業したいと考えたことがあるのではないでしょうか。自分の歯科医院を開業すれば、治療方針も自分で決定することができ、勤務医よりも高い収入を得られる可能性があります。しかし、歯科医として開業を目指すにはさまざまな準備が必要であるため、早めに行動していくことが大切です。そこで、この記事では歯科医が開業するまでの流れや必要資金、開業医の年収などについて詳しく解説していきます。
目次
歯科医を開業する動機
これから歯科医として開業を検討している方のなかには、どうして開業を決意したのか気になるという方も多いのではないでしょうか。歯科医が開業する動機としては、主に以下のような内容が考えられます。
- 歯科医として開業し、もっと収入を得たい
- 勤務先の方針にしばられることなく、理想の治療を追求したい
- 自分好みの医療機器を使用したい
- 立地からすべて自分好みの歯科医院を作り上げたい
- 親が開業医で、自分が後継者になりたい
全国にはおよそ55,000軒のコンビニがありますが、歯科医院はそれを上回る約68,000軒となっており、競争が激化しています。しかし、歯科医の開業には大きな魅力やメリットがあることも事実です。ここからは、歯科医が開業した場合の実態や開業までの流れなどを見ていきましょう。
歯科医を開業する場合の自己資金の目安
一般的に、歯科医の開業には5,000万円以上の資金が必要とされていますが、そのすべてを自己資金で用意する必要はありません。金融機関からの融資や、国や地方自治体が実施している補助金・助成金を活用することで資金調達を行っていきます。
しかし、ある程度の自己資金を用意しておいたほうが、融資を受ける際の審査で有利になります。歯科医を開業する際には、目安として1,000万円程度の自己資金を用意しておくのが無難です。とはいえ、勤務医として働きながら1,000万円という大きな資金を貯めるには、かなりの時間がかかります。開業するタイミングを逃さないよう、自分の年齢なども踏まえた現実的な額を貯めておくようにしましょう。
歯科医を経営する場合の平均収益の目安
歯科医の平均収益について、厚生労働省が2021年に実施した「医療経済実態調査」を参照すると、個人医院と医療法人の平均収益は以下の結果となっています。
個人医院 | 4,574万円 |
医療法人 | 1億430万円 |
収益を構成する割合が最も大きいのは保険診療収益であり、両者とも70~80%の割合を占めています。
また、歯科経営情報レポート「2020年決算データからみる歯科診療所経営実績分析」では、年間売上ごとの歯科医院の割合も集計されており、以下の結果となっています。なお、こちらの結果は個人開業の歯科医院を対象としたデータです。
5,000万円未満 | 62.7% | 138件 |
5,000万円以上1億円未満 | 34.5% | 76件 |
1億円以上 | 2.7% | 6件 |
このように、個人開業の歯科医院では、60%以上が5,000万円未満の年間売上であることがわかります。これらのデータは、あくまでも平均収益の目安として参考にしてみてください。
開業した歯科医の平均年収
歯科医が開業した場合の平均年収について、2021年に厚生労働省が実施した「医療経済実態調査」によると、以下の結果となっています。
個人医院 | 約646万円 |
医療法人(院長) | 約1,475万円 |
この数字だけを見ると平均年収は低いように感じるかもしれませんが、厚生労働省の調査には内部資金が含まれていません。自分が受け取る給与を抑え、歯科医院の経営に回している歯科医も多いことからこのような数字になっていると考えられます。
また、歯科医の開業には多額の資金が必要になるため、融資を受ける方がほとんどです。開業後は借入金の返済などもあるため、手元に残る利益が少なくなることもあるでしょう。
歯科医を開業する適齢期とは
歯科医として開業する方は、40代あたりから多くなっています。歯科医の開業には、一般的に5,000万円以上の資金が必要になることを述べましたが、こういった資金の問題もあって歯科医の開業年齢は比較的高い傾向にあります。また、歯科医としての技術を向上させる期間も必要です。よって、20~30代で開業する歯科医は少ないといえるでしょう。
実際に、厚生労働省が集計した歯科医師数を確認すると、年齢が上がるにつれて開業する歯科医も増加しています。30歳で歯科医を開業している方は全体の2%しかいませんが、39歳では37%にまで上昇しているのです。将来的に開業も視野に入れている方は、なるべく早いうちから開業準備を進めておくべきだといえるでしょう。
歯科医が開業する割合とは
40代あたりかた開業する歯科医が増加することは既に述べましたが、ここでは年代別に歯科医が開業する割合を見ていきましょう。2018年のデータでは以下のとおりとなっています。
20代 | 1% |
30代 | 17% |
40代 | 53% |
50代 | 73% |
60代 | 81% |
70代 | 73% |
この表からもわかるとおり、20~30代で開業する歯科医は少なく、40代になると半数以上が開業しているという結果になっています。やはり、高額な開業資金を準備する必要があることや、技術の習得に時間がかかることが要因として考えられます。30代のうちに開業したいと考えている方は、早い段階から開業を見据えた準備を進めていきましょう。
歯科医が開業するメリット
上限なく収入を得られる
歯科医が開業した場合、すべてが自分の売上になるため収入に上限がありません。勤務医の場合は毎月の収入が安定しているというメリットがありますが、一定額に達すると頭打ちとなってしまいます。また、歩合制の勤務医だったとしても売上の一部しか還元されません。
開業するとさまざまな経費や借入金の返済といった支出も増えますが、成果がそのまま収入に反映される点は大きな魅力といえるでしょう。
歯科医院を自分好みの空間にできる
当然のことながら、歯科医として開業した場合には立地や内装、導入する医療機器などをすべて自分好みにカスタマイズすることが可能です。ターゲットとなる患者さんの層に合わせた選択も必要ですが、自分好みの空間となることで自然とモチベーションアップにつながります。歯科医院をすべて自分がプロデュースできるという点は、勤務医にはない魅力です。
理想とする治療を追求できる
歯科医として開業することができれば、勤務医のように医院の方針に従う必要がなくなります。開業を検討している方のなかには、勤務先の方針に納得できずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。開業すれば自分で方針を決められるため、これまでできなかった理想の治療を追求することも可能です。これまで以上に大きな責任は伴いますが、理想の治療を追求できることは開業を目指す大きな理由になるでしょう。
歯科医が開業するデメリット
経営者としての責任を負わなければならない
開業した場合、歯科医であると同時に経営者でもあります。開業した歯科医の多くは、開業資金として多額の債務を抱えていることがほとんどです。歯科医になるために奨学金を借りていた方や、自宅を購入する際に融資を受けていた方は、毎月の返済額がさらに大きくなります。
また、院内で何か問題が発生した場合、最終的にはすべて自分が責任をとらなければなりません。勤務医の頃よりも自由になれますが、同時に責任も大きくなることを覚えておきましょう。
集客に費用や時間がかかる
地域の方々は通い慣れた歯科医院を選び続けることが多く、新規で開業した歯科医院が集客することは簡単ではありません。ホームページ制作費や広告宣伝費なども必要であり、内覧会を開くなど認知してもらうための施策が必要になります。これらの費用や手間がどうしても必要になることは、デメリットのひとつといえるでしょう。
歯科医が開業するまでの流れ
開業の検討
歯科医が開業するにあたり、まずはどのような患者さんをターゲットにしていくのか、どの診療内容をメインで打ち出していくのかなど、歯科医院のスタイルを検討してきましょう。具体的には、一般歯科以外にも口腔外科や矯正なども取り扱うのか、保険診療と自由診療のどちらを中心にするのかなど、検討すべき事項は多岐にわたります。また、歯科医師は自分以外にも雇う必要があるのか、歯科衛生士や歯科助手は何人雇うのか、歯科技工室も併設した医院にするのかといった問題も考えなければなりません。
これらは、歯科医として開業するうえでベースとなる重要な部分です。歯科医として開業を成功させるために、しっかり検討していきましょう。
開業エリアを選ぶ
開業の方針が決定したら、次は開業エリアの選定を行っていきます。エリアや立地は開業後の経営に大きな影響を及ぼすため、非常に重要な要素です。例えば、審美治療が中心であればショッピング街やビジネス街、小児歯科であればファミリー層が集まる地域などがおすすめといえるでしょう。メインとなる診療内容などを軸に、開業エリア・立地を検討してみてください。
テナントを契約する
開業場所を決めたら、次は物件を探していきましょう。開業する歯科医院に適した広さか、内装がイメージしやすいか、管理は行き渡っているかなどをチェックしていきます。またアクセスは便利か、看板が目立つか、郊外の場合は駐車スペースが確保されているのかなども重要なポイントです。気になる物件を見つけた際は、必ず現地に行って確認するようにしましょう。
事業計画書を作成する
開業場所が決まったら、次は開業を実現するための事業計画書を策定していきます。事業計画書には、テナントの賃料や内装工事費など各種経費の内訳や、それらの開業資金をどう調達するのかなどを記載していきます。事業計画書は開業後の経営方針にも大きく関わるものであり、金融機関から融資を受ける際にも提出するため、できる限り具体的な数字を書くことが重要です。事業計画書の策定に不安がある方は、専門家に相談することも検討してみてください。
歯科医療機器を選ぶ
開業する歯科医院の方針によって、さまざまな歯科医療機器が必要になります。バキュームやユニット、CTやX線装置など開業に必要な歯科医療機器を選定していきましょう。導入したい歯科医療機器はたくさんあるかもしれませんが、事業計画書を確認しながら無理のない範囲で検討することが重要です。まずは必要最低限の機器を導入して、リースなども利用しながら徐々に充実させていくことをおすすめします。
スタッフの募集・採用活動を行う
歯科医を開業するためには、人材の確保も重要な課題です。自分以外にも歯科医師が必要なのか、歯科衛生士や歯科助手、歯科技工士なども雇う必要があるのかを慎重に検討していきましょう。勤務先で一緒に働いていた方を雇うことができれば、心強い味方になってくれるかもしれません。
また、採用には求人サイトなどを活用する場合が多いですが、歯科医などの医療分野に特化したサイトが人気を集めています。
保健所に開設届けを提出する
歯科医が開業する際には、保健所に開設届を提出しなければなりません。提出先は歯科医院の所在地を管轄する保健所であり、開設後10日以内に届出を行う必要があります。この「開設後10日以内」の起算日となるのは、実際に診療を始めた日ではありません。内装工事や歯科医療機器の導入が完了し、いつでも診療を始められる状態になった日のことを指します。期限に遅れないよう、忘れずに提出しましょう。
保健所の検査・保健医療機関指定を受ける
保健所に開設届を提出すると、書面だけではなく実地検査が行われる場合があります。保健所の職員が医院を訪れ、設備の安全性や内装などが法令を遵守しているか検査します。実地検査の結果に問題なければ、地方厚生局に保険医療機関指定の申請をしましょう。申請が完了すると指定医療機関コードが発行され、保険診療が実施できるようになります。
なお、保健所に開設届を提出してから審査が完了するまでには、通常2か月程度の期間を要します。開業日に診療がスタートできるよう、余裕を持って3か月前には届出を行うようにしましょう。
広告を行って集客する
無事に歯科医院を開業できたとしても、集客できなければ経営が成り立ちません。ホームページを制作したり広告を打ったりするなど、集客につながる施策を実施していきましょう。また、近年では開業日前に、歯科医院の雰囲気や設備を見てもらう内覧会を実施する医院も多くなっています。良い口コミが広がるよう、積極的にPR活動を行っていきましょう。
失敗しない歯科医開業を目指すなら専門家に相談を検討
今回は、歯科医が開業するまでの流れや必要資金などについて、注意点も踏まえてご紹介してきました。歯科医が開業するためには、多額の資金や歯科医としての技術を磨く期間が必要です。歯科医開業に失敗しないよう、早い段階から開業準備を進めていきましょう。また、歯科医として開業することに不安があるという方は、専門家への相談も検討してみてはいかがでしょうか。