夫婦でマイクロ法人を設立すると、税金や社会保険料の節約、将来の事業拡大への備えなどさまざまなメリットが得られます。一方で、設立や維持にかかる費用、手続きの煩雑さ、税制変更といった業務負担やリスクも無視できません。
本記事では、夫婦でマイクロ法人を設立する際のメリット・デメリットや法人化を検討すべきかどうかの判断基準について解説していきます。
目次
マイクロ法人とは
「マイクロ法人」とは、少人数(主に1人〜2人)で運営される小規模な株式会社や合同会社などの法人を指す通称です。法律上の明確な定義はありませんが、個人事業主やフリーランスが、税金や社会保険料の負担を減らす目的で設立するケースが多く、事業拡大を主な目的としない点が特徴です。
複数の事業や収入源を持つ場合、マイクロ法人を活用することで節税などのメリットが得られることがあります。特に個人事業と法人を併用する「二刀流」スキームは、それぞれのメリットを活かせる方法として注目されています。
法人化と個人事業主の違い
法人化(いわゆる法人成り)とは、個人事業として行っていたビジネスを、法人という形態に変更することです。個人事業主と法人では、働き方に大きな違いはありませんが、起業する際の手続きや税制面で違いがあります。
個人事業主は、税務署に開業届を提出するだけで始められます。一方、法人を設立するには、定款作成、公証人による認証、登記申請、法人番号の取得など複数の手続きが必要です。
また、課税の仕組みにも違いがあります。
個人事業主の所得には累進課税の所得税が課され、所得が増えるほど税率も高くなります。これに対し、法人の所得には法人税が適用され、利益の金額によっては法人化した方が税負担を抑えられる可能性があります。
夫婦でマイクロ法人を設立する場合の特徴
夫婦でマイクロ法人を設立する場合、夫婦の2人あるいは家族のみで会社を構成するのが一般的です。この場合、夫婦のどちらかが代表となり、もう一方が役員や従業員となる形がとられます。
夫婦で個人事業を営んでいる場合や、一方が個人事業主でもう一方が専業主婦(夫)やパートタイマーの場合に、マイクロ法人を設立することで税金や社会保険料の負担を分散・軽減できる可能性があります。
たとえば個人事業の他に小さな事業を夫婦で立ち上げ、その事業をマイクロ法人として設立するといった方法もあります。
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夫婦でマイクロ法人を設立するメリット
夫婦でマイクロ法人を設立すると、さまざまな税金や社会保険料の負担軽減、家族への給与支払い、将来の事業拡大への備えができるなどのメリットがあります。
ここでは、夫婦でマイクロ法人を運営する際に得られる主なメリットについて、「節税」「給与支払い」「社会保険」「将来の備え」の4つの観点からわかりやすく解説します。
1.節税効果がある
夫婦でマイクロ法人を設立する大きなメリットの1つは節税効果が期待できることです。個人事業主の場合、所得が増えるにつれて所得税率が高くなる超過累進課税が適用されます。
一方、法人の所得にかかる「法人税」は、一定の割合(比例税率)で課されます。そのため、ある程度の利益が出てくると、個人より法人のほうが、税率が低くなるケースがあります。
この税率の違いを利用して、所得を個人と法人に分散させることで全体の税負担を軽減できる可能性があります。
さらに、法人になることで経費として計上できる範囲が広がるため、課税所得を抑えることにもつながります。
2.配偶者への給与を支払うことができる
所得分散や法人税の仕組みを活かすことで、トータルの税負担を軽くできる可能性があります。
夫婦でマイクロ法人を設立すると、配偶者に対して給与(役員報酬や従業員としての給与)を支払うことができます。
個人事業主の場合、家族に支払った給与は原則として経費になりませんが、法人から支払われる役員報酬や従業員への給与は、会社の経費として計上できます。これにより、夫婦間での所得分散が可能となり、世帯全体での所得税や住民税の負担を軽減できます。
特にこれまで専業主婦(夫)だった配偶者に適切な額の給与を支払うことで、さらなる節税効果が期待できます。
3.社会保険料を節約できる
夫婦でマイクロ法人を設立する大きなメリットとして、社会保険料の節約が挙げられます。個人事業主が加入する国民健康保険は、所得に応じて保険料が決まり、扶養家族の人数なども保険料に影響することがあります。
一方、法人の役員や従業員として社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する場合、保険料は原則として給与額に基づき計算され、扶養家族がいても保険料は増えません。特に、これまで個人事業主として国民健康保険や国民年金の保険料を負担していた配偶者が、マイクロ法人の社会保険の扶養に入る、または役員報酬を低く設定して社会保険に加入することで、社会保険料の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
4.将来の事業拡大に備えられる
夫婦でマイクロ法人を設立しておくことは、将来的な事業の拡大や変化にも柔軟に対応できるという意味で大きなメリットになります。
法人化することで個人事業よりも社会的信用が高くなるため、たとえば以下のような場面で有利になることがあります:
- 金融機関からの融資を受けやすくなる
- 「法人との取引のみ」としている企業との契約が可能になる
- 雇用や外注の受け入れ体制が整えやすくなる
また、法人は赤字を最長10年間繰り越せる繰越欠損金を利用することができます。これにより、将来の利益と相殺することが可能となります。たとえば今後、設備投資や新規事業などで一時的に赤字になっても、数年後の黒字と相殺することで、税金の負担を抑えることができるのです。
「今は小さく始めて、将来の成長に備える」という観点からも、マイクロ法人は有効な選択肢のひとつです。
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夫婦でマイクロ法人を設立するデメリットと注意点
マイクロ法人の設立にはさまざまなメリットがありますが、デメリットともいうべき注意すべき点もあります。
ここでは、夫婦でマイクロ法人を設立する場合に考慮しておきたい代表的なデメリットについて、「費用の負担」「手続きの煩雑さ」「制度変更のリスク」という3つの観点から解説します。
1.設立・維持費用がかかる
夫婦でマイクロ法人を設立する場合、個人事業の開業とは異なり、設立に際して費用が発生します。株式会社として設立する場合は、登録免許税や定款認証手数料などで20万円以上、合同会社として設立する場合は登録免許税などで6万円以上が必要です。
また、設立後も法人住民税の均等割が赤字でも最低年間7万円程度かかるほか、社会保険料の会社負担分、税理士に依頼する場合の顧問料など、維持にも一定の費用がかかります。これらの設立費用やランニングコストが、マイクロ法人設立によって得られる節税効果や社会保険料の削減額を上回る可能性も考慮する必要があります。
2.法人化による手続きが増加する
法人化すると、個人事業主と比較して手続きが複雑になります。設立時には定款作成や登記申請などの手続きが必要で、専門知識が求められる場面もあります。設立後も税務申告や社会保険の手続きなど、個人事業主よりも事務作業の負担が増加します。
特に、法人と個人の両方で事業を行う「二刀流」の場合、それぞれの経理処理や確定申告が必要となり、事務作業はさらに煩雑になります。これらの手続きを自身で行う場合はかなりの時間と労力がかかり、本業に支障が出る可能性も考えられます。税理士などの専門家に代行を依頼することも可能ですが、その分の費用が発生する点も考慮しなければなりません。
3.税制変更や制度変更のリスクがある
マイクロ法人を設立する際のメリットとして期待される税制や社会保険制度は、将来的に変更される可能性があります。
たとえば、法人税率の変動、社会保険料の算定方法の変更、扶養に関する制度の見直しなどが行われることで、現時点でのメリットが小さくなる、あるいはデメリットが生じることも考えられます。
税制や社会保険制度は毎年見直されるため、マイクロ法人を設立して節税や社会保険料削減の効果を得られていても、将来にわたってその効果が継続するとは限りません。制度変更のリスクがあることを理解し、常に最新の情報を確認しながら経営判断を行う必要があります。
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夫婦でマイクロ法人を選ぶべきかの判断基準
夫婦でマイクロ法人を設立すべきかどうかは、現在の所得水準や配偶者の働き方、将来の収入見通しや家族構成など、複数の要素を踏まえて判断する必要があります。
ここでは判断材料として重要となる「所得の状況」「扶養の有無」などに注目し、マイクロ法人を選ぶかどうかの判断基準をわかりやすく解説します。
個人事業主の場合の判断基準
個人事業主として活動している夫婦がマイクロ法人化を検討する際、もっとも基本的な判断材料となるのが所得金額です。
個人事業は、所得が高いほど所得税の累進課税の影響が大きくなるため、法人化による節税メリットが生まれやすくなります。特に課税所得が800万円を超えるような場合は、法人税率が所得税率を下回り、税負担が軽減される可能性があります。
また、夫婦それぞれが個人事業主として一定以上の所得を得ている場合は、マイクロ法人を通じて適正な役員報酬を設定し、所得を分散することで節税が可能になります。ただし、こうした効果は一時的ではなく、継続的に高い所得が見込める場合にのみ成立する点に注意が必要です。
年間所得が高い場合の判断基準
世帯全体の年間所得が高い場合にも、マイクロ法人設立のメリットが高まります。所得税は所得が高くなるにつれて税率が上昇するため、法人化によって所得税より低い法人税率を適用できれば、税負担の軽減が期待できます。さらに夫婦それぞれに報酬を分配することで、世帯全体の手取り額を増やすことができる可能性もあります。
法人化の効果を最大限に活かすには、報酬の配分バランスや社会保険料のシミュレーションを行い、具体的な数字で比較検討することが大切です。
配偶者が扶養に入っている場合の判断基準
現在、配偶者が所得税や社会保険の扶養に入っている場合も、マイクロ法人を設立することで保険料負担が軽減される可能性があります。
個人事業主が加入する国民健康保険や国民年金は、扶養家族が多いほど保険料が高くなる傾向がありますが、法人の社会保険制度(健康保険・厚生年金)では、原則として扶養家族の人数による保険料増加はありません。
たとえば、専業主婦(夫)で国民年金保険料を自己負担していた配偶者が、マイクロ法人の代表の「扶養」として被扶養者となることで、その分の保険料負担を軽減できる可能性があります。
ただし、社会保険料の負担は法人にも発生するため、節税効果と保険料負担のバランスを総合的に検討することが重要です。
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まとめ
夫婦でマイクロ法人を設立することは、税金や社会保険料の節約、配偶者への給与支払いや社会保険加入によるメリット、そして将来の事業拡大への備えといった多くのメリットが考えられます。
特に個人事業として一定以上の所得がある場合や配偶者が扶養に入っている場合は、経済的なメリットを享受できる可能性が高いです。
しかし、法人の設立や維持には費用がかかり、手続きも個人事業より複雑になります。税制や社会保険制度の変更リスクもあります。
夫婦でマイクロ法人を設立すべきかどうかの判断は、これらのメリットとデメリット、そして現在の家計や事業の状況を総合的に考慮して慎重に判断することが重要です。まずは専門家である税理士に相談し、具体的なシミュレーションを行うことをお勧めします。