赤字になった年度に申請できる「繰戻還付」は、資金繰りの改善につながる便利な制度ですが、この制度を利用すると「税務調査が来る」といった不安の声も聞かれます。果たして本当に調査リスクは高まるのでしょうか。本記事では、繰戻還付の基本的な仕組みや注意すべきポイントを整理し、制度を安心して活用するためのヒントをお届けします。
目次
繰戻還付とは?
繰戻還付とは、赤字となった年度(欠損年度)の法人税を、黒字だった前年度の所得と相殺し、前年度に納めた法人税の一部または全部を還付してもらう制度です。
資金繰りが厳しい時期において、早期にキャッシュを回収できる制度として、多くの中小企業に注目されています。税務上の救済措置として活用することで、経営の安定化にも繋がるでしょう。
ただし、繰戻還付の適用を受けるには、以下の条件をすべて満たしている必要があります。
- 青色申告書を提出していること
- 資本金1億円以下の中小企業であること(大企業は原則対象外)
- 欠損金が生じた事業年度の確定申告を期限内に行うこと
- 還付を受けたい前年度に法人税を納めていること
これらの条件を1つでも満たしていない場合は、繰戻還付の申請ができません。制度の利用を検討する際は、事前に適用要件をしっかり確認しましょう。
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繰戻還付を行うと税務調査が来るって本当?
繰戻還付を申請したからといって、必ず税務調査が入るわけではありませんが、税務署のチェック対象になりやすい制度であると考えられます。その背景には、以下のような理由があります。
- 税金の「還付」が伴う制度であるため、申告内容の正確性を重視して確認される
- 前期が黒字、今期が赤字といった急激な利益変動が、利益操作を疑われる可能性がある
- 不正な還付や過大な経費計上を防ぐため、定期調査のタイミングと重なりやすい
実際には、事前に税理士などの専門家と申告内容を精査し、正しく手続きを行っていれば調査を過度に恐れる必要はありません。
とはいえ、通常より税務調査の可能性が高まる制度であることは認識しておきましょう。万が一の調査にも対応できるよう、事前の準備と記録の整備が重要です。
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繰戻還付で税務調査対象となりやすいケース
繰戻還付は、資金繰りの面で有効な制度である一方、還付が発生する性質上、税務署による申告内容の確認が慎重に行われやすい制度でもあります。
特に、申告内容に不自然な点がある場合は、調査の対象となる可能性が高まるでしょう。以下で、実際に税務調査のきっかけになりやすい代表的なケースをご紹介します。
赤字計上の理由が不自然な場合
繰戻還付を申請した事業年度に急激な赤字が発生している場合、その理由の整合性が問われるでしょう。
例えば、売上の大幅な減少や、突発的な費用計上があるにもかかわらず明確な根拠が示されていないと、意図的な利益操作を疑われる可能性があります。
赤字の原因を裏付ける資料や説明が十分に用意されていないと、税務署の調査対象になる可能性があるので注意しましょう。
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減価償却の方法や金額に誤りがある場合
減価償却費は会計上も税務上も重要な経費のひとつであり、赤字の要因となっている場合は特に慎重な処理が求められます。
そのため、償却方法の選択や耐用年数の設定、計算ミスがあると、繰戻還付の妥当性が疑われる要因になるでしょう。資産台帳や明細の管理がずさんな企業は、税務署からの確認が入りやすくなります。
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修繕費・広告宣伝費などグレーな経費の計上
修繕費や広告宣伝費は、企業の判断によって金額やタイミングをある程度調整しやすいため、税務署が注目するポイントの1つです。
例えば、実態は資本的支出であるにもかかわらず費用処理していたり、広告費の使途が曖昧だったりする場合、内容確認のため調査が行われる可能性があるでしょう。
役員報酬の急な増減や賞与が不自然
役員報酬や賞与の額が急に変動していると、利益操作の意図があるのではと疑われることがあるでしょう。
特に、赤字決算に合わせて役員報酬を急減させる、または翌期に一括で報酬を戻すような処理が行われている場合は、税務署が注視する対象となります。
前期の黒字が過大に見える場合
繰戻還付は前期の黒字に対して還付を求める制度であるため、その黒字額が本当に正当なものだったのかもチェックされます。
仮に前期に売上の先送りや経費の未計上などがあった場合、それが今期の赤字とセットで調査対象となることがあるでしょう。前期の申告内容も含めた整合性が重要です。
他の税務処理にも不備が見られる場合
繰戻還付の申請そのものには問題がなくても、他の税務処理に不備があると調査のきっかけになることもあるでしょう。
例えば、帳簿の記載ミスや整合性のない試算表、未提出の附属書類などがある場合、それらを確認する過程で繰戻還付の内容も詳しく調べられる可能性があります。
税務調査に備えて準備すべきこと5つ
繰戻還付を申請する際は、万が一の税務調査に備えて、事前に必要な資料や情報を整えておくことが重要です。以下5つのポイントを押さえておけば、調査が入った場合も落ち着いて対応できるでしょう。
- 赤字計上の根拠資料を整備する
- 会計帳簿・仕訳データを正確に記録
- 経費の使途が分かる領収書や請求書を保管
- 前期の申告書一式の控えを準備
- 税理士との事前レビュー
赤字計上の根拠資料を整備する
赤字の正当性を示す資料は、税務署への説明で最も重要なポイントです。
売上の減少が一時的な取引停止によるものか、経費の増加が突発的な修繕や事業投資によるものかなど、客観的に説明できる書類(契約書・見積書・議事録など)をあらかじめ準備しておくことで、利益操作の疑念を払拭できます。
会計帳簿・仕訳データを正確に記録
正確な帳簿と仕訳は、すべての税務対応の基本です。
税務署は、取引の整合性や計上タイミングをチェックするため、会計ソフトの出力データや元帳・補助簿の整合性を確認します。日々の記帳ルールを徹底し、記録の正確性と再現性が担保しましょう。
経費の使途が分かる領収書や請求書を保管
支出の正当性を証明するためには、領収書や請求書だけでなく、使用目的が分かるメモや報告書もあわせて保管しておくと安心です。
特に交際費や広告宣伝費などグレーゾーンになりやすい経費は、使途の説明が不十分だと否認されるリスクが高いため、支出の背景を明確に記録しておきましょう。
前期の申告書一式の控えを準備
繰戻還付は前期の申告内容を基に還付金額を計算する制度のため、前期の申告書類の整備が不可欠です。
決算書や各種別表、勘定科目内訳書などをすぐに提示できるようファイリングしておけば、税務署の質問にも即座に対応でき、信頼性が高まるでしょう。
税理士との事前レビュー
申告前に顧問税理士によるレビューを受けておくことで、申告内容の不備や税務上のリスクを事前に発見・是正できるでしょう。
特に、赤字の原因や繰戻対象の選定、必要書類の確認は専門家の目で確認することが安心に繋がります。調査対応も含めたサポート体制を整えておくとより安全です。
繰戻還付を受けるまでの流れ
繰戻還付を申請するには、一定の手続きと書類の提出が必要です。制度を正しく活用するためにも、以下の手順を参考にしながら、申請の流れを把握しておきましょう。
順序 | 内容 | ポイント |
1 | 欠損金が発生した期の決算確定 | 決算書や内訳書などを整備し、赤字の原因を説明できるようにしておく |
2 | 還付請求の意思表示 | 「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を必ず用意する |
3 | 法人税の確定申告と同時に提出 | 「別表一・四・七」など必要な計算表を添えて、申告書一式を期限内に提出 |
4 | 税務署による確認 | 書面照会や調査が入ることもあるため、帳簿・証憑の準備が重要 |
5 | 還付金の入金 | 問題がなければ、申告後おおよそ2〜3ヵ月で還付される |
繰戻還付の申請で最も重要なのは、法人税の確定申告と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出することです。これを提出し忘れたり、期限を過ぎてしまったりすると、原則として還付を受けることはできません。
また、還付金の振込までは一定の審査期間があり、その間に税務署から照会が入る場合があります。提出書類の不備や内容の整合性に問題があると、還付が遅れたり、最悪の場合否認されたりすることもあるため、事前の準備と確認を怠らないようにしましょう。
参考:令和5年4月から令和6年3月の間に提供した法人税等各種別表関係(令和5年4月1日以後終了事業年度等分)|国税庁
繰戻還付による税務調査リスクが不安な方は専門家に相談
繰戻還付は、赤字年度に前期の法人税の還付を受けられる有効な制度ですが、その分、税務署の目が向きやすい制度でもあります。申告内容に不備があった場合、税務調査に発展したり、最悪の場合は追徴課税を受ける可能性もあるでしょう。
こうしたリスクを避け、制度を正しく活用するためには、税務の専門家による事前のチェックとサポートが重要です。申告書の整合性確認や証憑類の整備など、専門的な視点からのアドバイスが、将来的なトラブルの予防に繋がるでしょう。
小谷野税理士法人では、繰戻還付の申請支援はもちろん、税務調査を見据えた帳簿整理や書類の準備、万が一の調査対応まで、一貫したサポートを行っています。
中小企業から上場企業まで、数多くの税務実績をもとに、安心して制度をご利用いただける体制を整えていますので、繰戻還付に関して少しでも不安がある場合は、ぜひ一度、小谷野税理士法人へご相談ください。