事業運営において、コピー機や社用車などの資産を、リースで導入することがあるでしょう。購入する場合と比べて費用を抑えられるため、多くの企業で活用されている方法です。一方で、取引の仕方で処理方法が変わる点に注意が必要です。誤った処理を行うと、決算書の数値に影響を与え、税務申告で問題が生じる可能性があります。そこで本記事では、リース資産の減価償却に関する基本的な考え方や、会計処理を分かりやすく解説します。
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目次
リース資産で減価償却が必要なケース
リース資産を利用する際は、契約内容に応じて3つの取引に分類され、減価償却が必要なケースと不要なケースがあります。適切な処理を行うため、種類別に内容を把握しましょう。
取引の種類 | 特徴 | 減価償却 |
所有権移転ファイナンス・リース取引 | 契約終了後に所有権が借手に移転する取引 | 必要 |
所有権移転外ファイナンス・リース取引 | 契約終了後も所有権が貸手に残る取引 | 必要(一定の条件を満たす場合は不要) |
オペレーティング・リース取引 | 上記以外のリース取引(レンタルに近い取引) | 不要 |
ファイナンス・リース取引は実質的に資産を購入したものとみなされるため、減価償却が必要です。一方、オペレーティング・リースはレンタルに近い取引として扱われ、毎月のリース料の支払い時に経費として計上します。
誤った会計処理を防ぐためにも、契約内容を正確に把握し、分類に応じた対応を心がけましょう。複雑な場合は、専門家への相談をおすすめします。
リース資産における減価償却の計算方法
会計処理は、取引の仕方で使用する科目や計算方法が異なります。正しく処理すれば、会社のお金の流れや資産の状況を正確に把握できるでしょう。
ここでは、契約ごとにどのような科目を使うのか、帳簿への書き方を説明します。基本を押さえておけば、決算や税金の手続きもスムーズに進められます。
所有権移転ファイナンス・リース取引
所有権移転ファイナンス・リース取引では、会社で購入したものとして会計記録を行い、通常の資産と同様に計算します。コピー機300万円(耐用年数5年)を定額法で処理するケースは、以下の通りです。
項目 | 金額・内容 |
取得価額 | 300万円 |
耐用年数 | 5年 |
年間の減価償却費 | 60万円(300万円×0.200) |
毎年60万円ずつ経費として計上し、5年間でほぼすべての費用を計上します。計算方法は会社で購入した資産と同じで、取得価額に償却率を掛けて年間の経費を求めます。ルールを覚えれば計算はシンプルなため、すぐに実践できるでしょう。
所有権移転外ファイナンス・リース取引
所有権移転外ファイナンス・リース取引は資産の購入に準じて、計算を行います。コピー機300万円(リース期間7年)をリース期間定額法で処理するケースは、以下の通りです。
項目 | 金額・内容 |
取得価額 | 300万円 |
リース期間 | 7年 |
年間の減価償却費 | 42万8,571円(300万円÷7) |
注意点は耐用年数ではなく、リース期間に基づいて計算する点です。所有権移転外のケースは「耐用年数ではなくリース期間を使う」と覚えておきましょう。
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リース資産における仕訳
リースで借りた設備や機器を帳簿に記録する際は、処理の仕方で方法が異なります。ここでは、それぞれの契約における仕訳の方法を、具体例を使って分かりやすく解説します。基本的なルールを押さえれば、迷いなく処理できるでしょう。
所有権移転ファイナンス・リース取引
仕訳の方法を、以下の例を使って解説します。
- 前期にコピー機300万円をリースで導入
- コピー機は耐用年数5年・残存価額はゼロ
- 減価償却費は60万円(300万円×0.200)
間接法を使うケース
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 60万円 | リース資産減価償却累計額 | 60万円 |
直接法を使うケース
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 60万円 | リース資産 | 60万円 |
間接法と直接法で使う勘定科目は異なりますが、いずれも会社で購入した資産と同じ処理です。ポイントを理解しておけば、安定して仕訳を行えるでしょう。
所有権移転外ファイナンス・リース取引
仕訳の方法を、以下の例を使って解説します。
- 前期にコピー機300万円をリースで導入
- コピー機はリース期間7年・残存価額はゼロ
- 減価償却費は42万8,571円(300万円÷7)
間接法を使うケース
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 42万8,571円 | リース資産減価償却累計額 | 42万8,571円 |
直接法を使うケース
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 42万8,571円 | リース資産 | 42万8,571円 |
ポイントは、リース期間に基づいて計算する点です。最終的に資産は手元に残らないため、0円になるまで処理する必要があります。
なお、オペレーティング・リース取引は以下の仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
支払いリース料 | 〜〜円 | 現金預金 | 〜〜円 |
基本的な内容を把握しておけば、処理は簡単に行えます。上記の例を参考に会計処理を行いましょう。
リース資産のメリット
リース資産の活用は複数のメリットがあり、会社の経営方針次第では活用が有効なケースもあります。ここでは、リース資産における3つのメリットを解説します。リース資産の活用を考えている方は、参考にしてみましょう。
初期コストを抑えられる
初期コストを抑えられるため、新しい設備の導入にまとまったお金は不要です。リース資産は基本的に月払いのため、以下の点に優れています。
- 資金繰りの見通しが立てやすい
- 事業の安定につながる
- 手元にお金を残しておける
残ったお金は給料や商品の仕入れなど、会社運営に充てられます。また、銀行からの借入をしなくても設備を導入できるため、利息や手続きの負担を軽減できるでしょう。手元になるべく多くのお金を残しておきたい方は、初期コストを抑えた事業運営をおすすめします。
一時的に利用できる
リース資産は、必要な期間に応じて設備を使えるため、短期間のプロジェクトや季節業務に適しています。例えば、以下のような資産です。
- イベント用の音響設備
- テントなどのイベント資材
- 照明機器
高額な設備でも必要な時のみ利用できるため、コストを抑えられます。契約期間も柔軟に設定でき、事業の規模や内容に合わせて柔軟に活用できるのが特徴です。用途にあわせて無駄なく設備を導入できるのは、リース資産のメリットです。
最新の設備や機器を使える
リース資産は、最新の設備を簡単に入れ替えられます。購入した設備は古くなっても使い続ける必要がありますが、契約終了時に新しいモデルに変更できる点はメリットです。技術進化の早い以下の機器には最適と言えます。
- パソコン
- コピー機
- 業務用タブレット
最新の機器を取り入れれば、作業効率の向上やメンテナンス費用の削減にもつながります。常に最新の環境を維持しやすいのは、リース資産の強みです。
リース資産のデメリット
リース契約にはメリットがある一方、使用用途次第ではデメリットになるケースもあります。事前にデメリットとされる特徴を理解しておけば、会社に合った導入方法を選択できるでしょう。ここでは、リース資産における3つのデメリットを解説します。
トータルコストが上がる
リース資産は、基本的に購入代金よりもトータルコストが上がります。料金には設備だけではなく、リース会社の手数料や利息が含まれます。そのため、長期間の契約になるほどコスト面の負担が大きいです。
また、契約終了後も使用したい場合は、追加費用が発生する可能性があります。初期費用の安さだけではなく、最終的なコストを比較するのが大切です。設備の使用期間や予算に応じて、適切な方法で借入をしましょう。
資産を手元に残せない
先述した通り、契約形態次第では資産を返却する必要があります。資産は会社のものにはならず、帳簿上も資産として残りません。購入した場合であれば、設備は会社の資産として計上でき、将来的な売却や継続利用も可能です。
契約終了後も引き続き使いたい場合は、再リースや買取などで対応する必要があります。長期保有したい設備は、あらかじめ購入を検討するのもおすすめです。
柔軟に契約変更できない
契約内容は柔軟に決められますが、1度結んだ契約は、簡単に変更できません。以下の通り、柔軟な対応が求められるケースには向かないでしょう。
- 計画変更の予想されるプロジェクト
- 将来の見通しがたたない場合
中途解約する場合は、残りの期間分の違約金が発生します。事業を縮小して設備が不要になった場合でも、支払いは続くため注意が必要です。契約前に事業計画をしっかりと検討し、適切な契約期間を設定するよう心がけるのが大切です。
新リース会計基準が2027年にスタート
2027年4月から、リース契約の会計ルールが変わります。原則としてすべてのリースを会社の資産として帳簿への記録が必要で、適用対象となる上場企業や大会社等は2027年4月以降、オペレーティング・リースも減価償却の対象です。ただし以下のケースは対象外です。
- リース期間が12ヵ月以内
- 少額リースに該当するケース(300万円以下)
- 新品時の資産価値が少額である(目安:5,000米ドル以下)
参考:新リース会計基準について|公益社団法人リース事業協会
短期リースや少額リースに該当する契約は、減価償却の対象外とされ、今まで通り費用処理できます。また、重要性が乏しいものも、例外的に対象外となるケースがあります。より詳しい内容を知りたい方は、以下の記事を参照してみましょう。
関連記事:【2027年4月強制適用】新リース会計基準とは?変更点や必要な対応について解説
よくある質問
ここでは、リース資産に関連してよくある質問の解説をします。
減価償却は任意ですか?
任意ではありません。リース資産は会社の資産として扱う必要があり、一定額を減価償却費として計上する必要があります。実際には所有していなくても、会計上は資産として扱う決まりがあるためです。
ただし、法人の場合は一定の条件下で、任意償却が可能です。
一方、オペレーティング・リースの場合は減価償却の必要がなく、リース料をそのまま費用として処理します。
固定資産の扱いにはならない?
リース資産でも、契約の内容次第では固定資産として扱われます。ファイナンス・リースの場合は、固定資産に計上して減価償却の対象となるのが特徴です。
一方、オペレーティング・リースは固定資産には計上せず、リース料を毎月の費用として処理するだけで済みます。
リース資産は途中解約できる?
原則として途中解約はできません。契約期間中の解約を前提としていないため、契約途中で解約する場合は違約金が発生する場合があります。契約前に事業計画や利用期間をよく検討し、契約内容を十分に確認しておくのが大切です。
リース資産の減価償却に迷ったら税理士に相談しよう
リース資産の減価償却は、契約の種類を正しく判断し、適切な勘定科目と仕訳方法を選ぶのが大切です。所有権移転の有無により計算方法が変わるため、契約の内容を把握しておきましょう。
複雑なケースや判断に迷う場合は、専門家のサポートを受けるのがおすすめです。税理士に相談すれば、会計処理のミスを防ぎ、経営に役立つ正確な財務情報を得られます。小谷野税理士法人では無料相談を行っているため、まずはお気軽にご利用ください。