令和7年3月に公布された改正法により、新たに「防衛特別法人税」が導入されます。本税制は防衛力強化に必要な安定財源を確保することを目的としており、すべての内国法人が対象です。法人実効税率の引き上げや税効果会計への影響など、企業実務への波及も大きく、今後の対応が求められます。本記事では、防衛特別法人税の概要から計算方法、導入の背景、実務上の注意点までをわかりやすく解説します。
目次
防衛特別法人税はいつから始まる?
令和7年3月31日に公布された「所得税法等の一部を改正する法律」により、新たに「防衛特別法人税」が創設されました。
本改正により、令和8年4月1日以後に始まる事業年度から法人税が課される法人は「防衛特別法人税」の納税義務を負います。対象となる法人は、事業年度ごとに防衛特別法人税の確定申告書を提出しなくてはいけません。
防衛特別法人税の額は、各事業年度の所得税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税額から500万円を差し引いた金額に、税率4%を乗じて計算されます。基本的な項目については以下の表をご参照ください。
項目 | 内容 |
対象法人(納税義務者) |
|
課税開始事業年度 | 令和8年4月1日以後に開始する各事業年度 |
税率 | 4% |
基礎控除額 | 年500万円 |
計算式 | (基準法人税額 -基礎控除額500万円) × 税率 4% |
なお基準法人税額とは、確定申告書の提出が必要な内国法人に適用されるものです。各事業年度の所得に基づき、法人税法などの法令に従って算出した法人税額(附帯税を除く)を指します。
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防衛特別法人税導入の背景
防衛特別法人税が導入された背景を以下の表にまとめました。
背景区分 | 内容 |
地域の安全保障環境の悪化 |
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防衛費の増額方針 |
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財政の逼迫と財源確保 |
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こういった背景から、日本政府は防衛力強化に必要な安定財源を確保するため、防衛特別法人税を創設しました。単なる時限的措置ではなく、将来的にも継続が見込まれる恒久的な税制として位置づけられています。
関連記事:(税制改正特集)防衛力強化に係る財源確保、今後の検討事項
防衛特別法人税の計算例
防衛特別法人税の計算例を2つのパターン別にご紹介します。
法人税額 | 防衛特別法人税額 | 計算式 | 備考 | |
ケース① | 1,000万円 | 20万円 | (1,000万円 − 500万円) × 4% | 基礎控除適用後、課税対象500万円に対して課税 |
ケース② | 400万円 | 0円 | ― | 基礎控除額(500万円)以下のため課税なし |
ケース②の場合は基礎控除が500万円以下のため、防衛特別法人税はかかりません。防衛特別法人税は基礎控除の判定や他の税額控除との関係、さらには税効果会計への影響など、実際には複雑な判断が必要です。
正確な申告や適切な対応を行うためにも、税理士などの専門家のサポートを活用して余計な税負担や会計ミスを防ぎましょう。
防衛特別法人税の確定申告のやり方
防衛特別法人税確定申告書は、課税事業年度終了後2ヵ月以内に提出が必要です。たとえ基準法人税額や課税標準法人税額がゼロであっても、申告書の提出義務は免れません。その場合も、別表一次葉一の該当欄に「0」と記載して提出する必要があります。
また、外国税額控除や予定申告に使用する各様式には、防衛特別法人税に関する欄が設けられています。金額の有無にかかわらず、防衛特別法人税の確定申告書は必ず提出しましょう。
令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度からは、法人税の中間申告書の提出が必要な法人企業は注意が必要です。法人税と同様に、防衛特別法人税の中間申告書も提出しなければなりません。
防衛特別法人税による影響
防衛特別法人税は、企業活動と国民生活の双方に中長期的な影響を及ぼす重要な税制です。この税制により企業の税負担が増し、特に大企業は利益減少や投資抑制のリスクに直面する可能性もあります。
また、間接的に雇用や賃金にも波及する場合もあるので注意が必要です。
例えば法人税が増加すれば企業の手元資金が減り、新規設備投資や雇用の拡大を控える動きが出ることも考えられます。一方で防衛力の強化で安全保障が向上すれば、国全体の安定につながり結果的に国民生活に好影響をもたらす可能性もあります。
防衛特別法人税は、税負担の増加という短期的な課題を伴う制度です。しかし一方で、国家の安全保障を強化することで、長期的には経済と生活の安定を目指しています。
関連記事:(税制改正特集)法人課税改正について
法人実効税率への影響
防衛特別法人税の創設により、法人実効税率が引き上げられます。具体的な引き上げ幅は以下の通りとなるでしょう。
- 外形標準課税対象法人:約0.9%増
- 外形標準課税対象外法人:約0.84~0.85%増
年800万円超の所得に対する東京都の一般法人向け税率を用いて算出した例をご紹介します。
区分 | 現行法(2026年3月31日までに開始する事業年度) | 改正案(2026年4月1日以後に開始する事業年度) | ||
標準税率 | 東京都の税率 | 標準税率 | 東京都の税率 | |
外形標準課税対象法人 | 29.74% | 30.62% | 30.64% | 31.52% |
外形標準課税対象外法人 | 33.58% | 34.59% | 34.43% | 35.43% |
上記は、法人事業税・特別法人事業税の損金算入を考慮し、防衛特別法人税における年500万円の基礎控除は考慮していません。法人種別に応じた税率引き上げの影響を正確に把握し、早めの対応を心がけましょう。
実務上の注意点
以下では、防衛特別法人税導入後の実務上の注意点について解説します。
適用税率の切替時期における見積もり
繰延税金資産や繰延税金負債を計算する際は、将来の適用税率を正しく見積もる必要があります。
適用指針第45項では「回収または支払が見込まれる期の税率」で算出するとされています。そのため、将来の一時差異や繰越欠損金と相殺される税額を正確に見積らなければいけません。
税効果注記の見直し
税制改正の成立時期や法定実効税率の変更は税効果注記の内容や繰延税金資産の計算に影響を与えるため、正確な対応が必要です。税制改正が「決算日までに成立したか」「決算日後に成立したか」によって、会計処理や注記すべき内容が変わります。
また法定実効税率が変更されると、繰延税金資産の金額も見直され、税効果会計適用後の法人税等の負担率にも影響を及ぼします。
社内報告体制の整備
税率引上げにより繰延税金資産・負債が増加し、損益計算書に影響が出る可能性があります。
特に、3月決算法人では、決算期末時点の業績見通しや、次期の予算・事業計画に影響する可能性が高いです。早いうちから影響額のシミュレーションを行い、経営層への社内報告や方針の見直しを早めに進めるのが望ましいでしょう。
グループ通算制度を採用している場合の対応
グループ通算制度を適用している場合、繰延税金資産を計算する際には注意が必要です。国税と地方税で回収可能性に差がある場合は、その影響を考慮した税率を用いる必要があります。
理由は、繰延税金資産の回収可能性が税目ごとに異なると、実際の税負担と差が生じる可能性があるためです。特に重要な影響がある場合には、より正確な会計処理が求められます。
スプレッドシートの見直し
税効果会計を手作業で行っている場合、シート内の税率適用ロジックが今回の改正に対応しているか確認が必要です。
繰延税金資産や繰延税金負債の金額は、その回収や支払が見込まれる期の法定実効税率に基づいて算定しなければいけません。そのため、税率の更新漏れがあると誤った金額が計上されるリスクがあります。
シート内の「回収または支払事業年度ごとの税率設定」が旧税率のままになっていないかなど、改めてチェックしましょう。
防衛特別法人税に関するよくある質問
防衛特別法人税に関するよくある質問をまとめたので、こちらもぜひ参考にしてください。
税収はどれくらい増える?
政府の試算では、初年度の令和8年度に約5,280億円、令和9年度には約8,210億円の増収が見込まれています。平年度では、年間で約7,710億円の税収増になる見通しです。
適用期間はいつまで?
防衛特別法人税は現時点で終了時期は明示されておらず、恒久的な税制として扱われる可能性があります。
過去の復興特別法人税は3年間の時限措置でした。しかし防衛力強化という継続的な目的を踏まえると、防衛特別法人税も数年以上にわたり適用されると考えられます。
まとめ
税制改正は日本の経済状況や社会情勢を踏まえて毎年見直されるため、その内容は複雑で多岐にわたります。事業を行いながら改正内容を正確に把握し、適切な対応を取るのは容易ではありません。
税理士は最新の税制改正情報をいち早く把握し、それが個人や企業に与える影響を具体的に分析・助言できる専門家です。不要な税負担やリスクを回避し、安心して事業運営を続けるためにも、税制改正に関するご相談はぜひ税理士にお任せください。