会計処理において「修繕費」と「修理費」の違いは、税務上の経費計上や資産計上の可否に直結するため、正しく理解しておく必要があります。適切な判断ができていないと、思わぬ税務リスクを招くこともあるでしょう。本記事では、それぞれの定義や税務上の扱いの違いをはじめ、判断のポイント、具体的な仕訳例について解説します。判断に迷ったときのヒントを得たい方は、ぜひご覧ください。
目次
修繕費と修理費の違いとは?
「修繕費」と「修理費」は、似たような支出に見えても、会計や税務の処理上では大きく異なる可能性があります。修繕費と修理費は同じ意味で使用されるケースもありますが、修理費を固定資産に対して機能の向上や使用可能期間の延長ととらえ、資産計上されるケースもあるでしょう。まずは、両者の違いを以下の比較表で整理してみましょう。
区分 | 修繕費 | 修理費 |
支出の目的 | 原状回復・維持管理 | 性能向上・使用可能期間の延長 |
処理方法 | 当期の費用として計上 | 資産として計上し減価償却 |
税務上の扱い | 損金算入可能 | 減価償却により段階的に損金算入 |
修繕費について
「修繕費」とは、建物や設備などの固定資産を元の状態に戻すための支出を指します。例えば、老朽化した屋根の補修や、故障したエアコンを同等品に交換するケースなどが該当します。
この支出はあくまで維持管理を目的としており、原則として発生時の費用(経費)としてそのまま損金計上することができます。
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修理費について
一方の「修理費」とは、固定資産に対して機能の向上や使用可能期間の延長といった価値を高める目的で行う支出です。修繕費と同様に使用されることもありますが、場合によっては資産計上が必要なことがあります。
例えば、照明設備をLEDに変更する、省エネ型のエアコンに入れ替える、建物に耐震補強を施すといった場合がこれにあたります。
この支出は、資本的支出とされ、固定資産として資産計上し、減価償却によって年ごとに費用化していく必要があります。
修繕費か修理費かを判断する5つのポイント
修繕費と修理費の違いは一見すると分かりづらいですが、会計や税務上の処理を正確に行うためには明確な判断が欠かせません。
以下の5つの視点をもとに整理することで、どちらに該当するかの判断がしやすくなるでしょう。
- 支出の目的が「原状回復」か「機能向上」か
- 資産の価値が増加しているかどうか
- 使用可能期間が延びているかどうか
- 支出金額が20万円未満であるか
- 一括償却資産の特例に該当するか
支出の目的が「原状回復」か「機能向上」か
修繕費と修理費を見分ける際、最も基本となるのが支出の目的です。
老朽化や故障により機能が低下した部分を、元の状態に戻すための支出であれば「修繕費」に該当し、設備の性能を高めたり、新たな機能を追加したりする場合は「資本的支出」に該当するため、資産計上が必要です。
支出の背景にある目的を明確にすることが重要です。
資産の価値が増加しているかどうか
支出によって資産自体の価値が上昇している場合は、資本的支出として処理するのが原則です。例えば、旧型の機器を最新モデルに取り替えたことで資産評価額が上がる場合、その支出は単なる維持管理ではなく資本的支出とみなされます。
価値の増加が一時的か継続的かを見極めることで、適切な会計処理に繋がります。
使用可能期間が延びているかどうか
支出によって設備や建物の使用可能期間、すなわち耐用年数が延長される場合は、資本的支出として資産計上が必要になります。
例えば、屋根の全面葺き替えや耐震補強など、構造に影響を及ぼす大規模な工事は、資産の寿命を延ばすものと判断されます。単なる維持と延命措置の違いに注目しましょう。
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支出金額が20万円未満であるか
1件あたりの支出が20万円未満であれば、たとえ内容的に資本的支出に近いものであっても、実務上は「修繕費」として処理できる可能性が高くなります。
これは国税庁が示す判断基準の一つであり、小額であれば税務上の簡便な取り扱いが認められる傾向があるためです。
一方で、20万円を超える場合には、金額の多寡に加えて支出の内容や目的がより厳密に問われるため、資産計上すべきか慎重な判断が求められるので注意しましょう。
少額減価償却資産の特例に該当するか
取得価額が30万円未満の資産については、「少額減価償却資産」として一括で経費処理できる特例が適用されることがあります。
本来は修理費として資産計上すべき支出でも、この特例を使えば、まとめて費用処理できる可能性があります。税務上の制度を理解しておくことで、より柔軟な会計対応が可能になるでしょう。
関連記事:少額減価償却資産とは?一括償却資産との違いやメリット、注意点も解説
修繕費の仕訳例
以下で、実務上「修繕費」として処理される代表的なパターンを紹介します。
主に原状回復や維持管理を目的とする支出が対象で、当期の費用として損金算入できます。具体的な場面ごとの仕訳例を確認しながら、処理のイメージを掴んでおきましょう。
原状回復を目的とした修繕の場合
建物や設備が老朽化・破損した際に、それを元の状態に戻す目的で行う補修工事などは「修繕費」として処理されます。あくまで使用開始時の状態への復旧であり、機能の向上を伴わない点がポイントです。
例)30万円で外壁のひび割れを補修・再塗装した場合
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 30万円 | 普通預金 | 30万円 |
性能を変えない部品交換の場合
機械や設備の一部が故障した際に、同等の部品に交換するだけであれば「修繕費」に該当します。性能の向上や新たな機能の追加がないことが判断基準です。
例)50,000円で壊れたポンプ部品を同じ仕様の新品に交換した場合
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
軽微なトラブル対応・消耗品交換の場合
配管のパッキンや蛇口、換気扇のフィルターなど、経年劣化に伴う消耗部品の交換は、維持管理の範囲内とされ「修繕費」となります。
例)15,000円でトイレの水漏れ対応としてパッキンを交換した場合
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 15,000円 | 現金 | 15,000円 |
維持管理や定期的なメンテナンスの場合
設備の不具合を未然に防ぎ、正常な運転を維持する目的で行うメンテナンスも「修繕費」として扱われます。性能の維持や安全確保を目的とした定期点検は、資産の原状を保つ支出と考えられるため、費用処理が可能です。
例)60,000円で空調設備の年次メンテナンスを実施した場合
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 60,000円 | 普通預金 | 60,000円 |
関連記事:メンテナンス費用の勘定科目は?会計処理時の注意点も解説
資本的支出修理費の仕訳例
一方、資産の性能向上や耐用年数の延長を目的とした支出は「資本的支出」として扱われ、資産計上と減価償却が必要になります。以下で、修理費に該当する典型的なケースについて解説します。
利便性や操作性の向上を図った場合
既存の設備に新たな機能を追加したり、操作性を向上させるための改修を行った場合、それは単なる修繕ではなく資本的支出として扱われます。
例)40万円で手動シャッターを電動式に変更した場合
借方 | 貸方 | ||
建物付属設備 | 40万円 | 未払金 | 40万円 |
性能アップや耐用年数の延長を伴う更新の場合
設備更新により旧式から高性能な機種に入れ替えることで、耐用年数の延長や機能向上が認められる場合は、資本的支出として資産計上が必要です。
例)80万円で旧式の空調を最新省エネ型に入れ替えた場合
借方 | 貸方 | ||
工具器具備品 | 80万円 | 普通預金 | 80万円 |
資産価値を高める大規模改修の場合
修繕や更新の範囲を超え、資産価値自体を向上させるような工事は、資本的支出として扱われます。例えば、耐震性の向上を目的とした建物の構造補強などは、大規模かつ資本的支出と判断される典型例です。
例)200万円で建物の耐震補強工事を実施した場合
借方 | 貸方 | ||
建物 | 200万円 | 普通預金 | 200万円 |
機能改善や省エネ目的の設備変更の場合
省エネ性や性能の高い設備への更新は、資産としての性質が変化したとみなされ、資本的支出として資産に計上されます。例えば、省エネ性能の高い給湯設備へ変更する工事などが典型例です。
例)12万円で給湯設備に変更した場合
借方 | 貸方 | ||
建物付属設備 | 12万円 | 現金 | 12万円 |
修繕費と修理費の違いでお悩みの方は専門家に相談
修繕費と修理費の判断は、支出の目的や内容によって線引きが非常に難しく、会計処理・税務処理の両面で重要なポイントとなります。
特に、原状回復と機能向上の境界が曖昧なケースでは、処理を誤ると税務調査で経費計上を否認される可能性も否定できません。結果として、追徴課税やペナルティにつながるおそれもあります。
少しでも判断に迷う場合は、税務の専門家に相談し、リスクのない対応を進めることをおすすめします。
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