法人を設立したばかりの方や、初めての決算期を迎える方にとって、白色申告という言葉は耳慣れないかもしれません。個人事業主の制度というイメージを持たれますが、実は法人にも関係があります。会計や税務の知識が十分でない段階では、できるだけ簡易な方法を選びたいと考える方も多いでしょう。本記事では、法人の白色申告制度の基本から押さえておきたい注意点まで、これからの経営に役立つ情報を整理してお伝えします。
目次
法人でも白色申告はできる?
法人も、一定の条件下では「白色申告」を選択できます。個人事業主と同様に、白色申告は帳簿や提出書類の要件が比較的緩やかで、会計に不慣れな設立初年度の法人が選ぶケースも少なくありません。
ただし、法人である以上、たとえ赤字であっても法人税の申告義務があります。申告対象となるのは、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税などで、利益の有無にかかわらず、決算日から2ヵ月以内に確定申告書を提出しなければなりません。
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法人の白色申告と青色申告の違い
法人が行う申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。それぞれの違いを理解しておくことで、自社にとってどちらが適しているかを判断しやすくなります。
基本的な違いを以下の比較表で確認しましょう。
項目 | 白色申告 | 青色申告 |
記帳方式 | 単式簿記 | 複式簿記 |
節税効果 | 低い | 高い (欠損金の繰越控除など) |
承認申請 | 不要 | 必要 (所定期限までの申請が必要) |
関連記事:青色申告から白色申告に変更した方が得?検討するべきケースと注意点を紹介
記帳方式の違い
白色申告では、現金出納帳や収支の一覧といった簡易的な帳簿で足りるため、会計知識がなくても対応しやすいのが特徴です。
一方、青色申告では複式簿記による正確な帳簿管理が求められ、仕訳帳や総勘定元帳の作成も必要です。正確な記帳によって経営の状況が明確になるほか、後述する節税措置の前提にもなります。
節税効果の違い
白色申告では、欠損金の繰越控除や特別償却などの制度は利用できませんが、青色申告では、一定の要件を満たすことでこれらの制度を活用できます。
例えば、青色申告では赤字を最長10年間繰り越して翌期以降の利益と相殺できる「欠損金の繰越控除」や、資産の取得に関する特別償却などが認められています。
申請手続きの違い
白色申告では、事前の申請手続きは不要です。法人を設立した後、青色申告の承認申請を行わなかった場合は、自動的に白色申告として扱われます。
一方、青色申告を利用するには、「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。申請期限は、通常は設立1期目は設立日から3ヵ月以内です。翌事業年度の場合は、青色申告によって申告書を提出しようとする事業年度開始の日の前日までに提出しましょう。
法人が白色申告を選ぶメリット・デメリット
法人でも白色申告を行うことは可能であり、特に設立初年度などに選ばれるケースがあります。ここでは白色申告の主なメリットとデメリットを整理し、どのような法人に適しているかを検討するための参考にしてください。
白色申告のメリット
白色申告には、主に以下のようなメリットがあります。
項目 | 内容 |
手間が少ない | 簡易帳簿で申告できるため、会計知識が少なくても対応しやすい |
白色申告は、会計の専門知識がなくても対応しやすく、事前の申請も不要なため、法人設立直後の限られたリソースでも比較的スムーズに申告を行える点が特徴でしょう。
帳簿も簡易な形式で対応できるため、会計ソフトの導入や税理士への依頼が必ずしも必要ではなく、コストや事務負担を抑えたい小規模法人や創業初期の企業にとって実務上の負担が軽くなります。
関連記事:白色申告の帳簿の付け方解説|手書きやエクセルは可?記載例も
白色申告のデメリット
一方で、白色申告には以下のようなデメリットがあります。
項目 | 内容 |
節税効果が薄い | 欠損金の繰越控除や特別償却などの税制上の優遇措置を利用できない |
融資や補助金に不利 | 帳簿の簡易性ゆえに信頼性が低く見られ、金融機関や補助金申請時の審査で不利になる場合がある |
将来の移行に手間がかかる | 青色申告へ切り替える際に、複式簿記や正規の帳簿作成を新たに学ぶ必要がある |
白色申告には、制度上利用できない控除や特例が多く存在します。欠損金の繰越控除や特別償却、圧縮記帳といった制度は適用されず、税務上の対応に差が生じます。
また、簡易な帳簿しか備えていないことにより、補助金の申請や金融機関の融資審査において、事業の財務状況を十分に説明できず、不利な評価を受ける可能性もあるでしょう。
さらに、将来的に青色申告へ移行する際には、複式簿記の導入や正規の帳簿作成が求められ、対応には一定の知識や準備が必要となる点には注意してください。
関連記事:青色申告のメリット5つ|デメリットや適用をおすすめできる人とは?
白色申告を選んだ法人が青色申告に切り替えるには
白色申告を選んでいた法人でも、一定の手続きを踏めば次の事業年度から青色申告に切り替えることは可能です。
青色申告の制度を利用するために、申請期限や切り替えに必要な準備をしっかり把握しておきましょう。
青色申告承認申請書の提出
青色申告に切り替えるには、税務署へ「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。当事業年度中に青色申告にする場合の提出期限は以下のいずれか早い日です。
- 事業年度開始日から3ヵ月以内
- 設立から3ヵ月以内かつその事業年度終了日まで
これらの期限を過ぎてしまうと、その事業年度は白色申告のままとなり、青色申告の特典は一切受けられません。
申請は法人設立後早い段階で行うのが理想ですが、現在白色申告を行っている場合でも、次の期に向けて計画的に準備すれば切り替え可能です。
申請書は国税庁のWebサイトから入手でき、郵送または税務署窓口で提出します。確実に青色申告を適用するためには、申請の期限管理を徹底しましょう。
切り替えのタイミング
申請期限までに間に合わなかった場合、青色申告への切り替えは「次の事業年度」から適用されるのが一般的でしょう。準備としては、以下のような点を押さえておく必要があります。
- 帳簿の形式を複式簿記に変更する
- 貸借対照表や損益計算書の作成に対応する体制を整える
- 会計ソフトの導入を検討する
- 税理士など専門家への相談を行う
特に、複式簿記は取引ごとに仕訳が必要となるため、Excelでは限界があります。クラウド会計ソフトの導入や、専門家によるサポートが有効でしょう。
切り替えは節税効果を得るうえでも有利に働くため、準備には十分な時間と体制をかけることをおすすめします。
法人の白色申告に関してよくある疑問
白色申告は制度上シンプルな仕組みですが、法人の場合には個人事業主と異なるルールや注意点もあります。法人の白色申告に関してよく寄せられる疑問を取り上げ、それぞれわかりやすく解説します。
白色申告でも法人税はかかりますか?
はい、白色申告であっても法人税はかかります。申告形式が白色か青色かにかかわらず、所得が出ていれば法人税、地方法人税、法人事業税、法人住民税などの納税義務が発生します。
白色申告だから税金が免除されるといった制度は存在しませんので、毎期きちんと収支を把握し、必要な申告と納税を行うことが求められます。税務署への信頼を維持するためにも、制度に則った正しい申告を心がけましょう。
赤字でも申告は必要ですか?
はい、赤字であっても法人には確定申告の義務があります。たとえ1円の売上もなく赤字であったとしても、決算日から2ヵ月以内に法人税の確定申告書を税務署へ提出しなければなりません。
無申告のまま放置してしまうと、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課される可能性があり、税務上の信用も低下する可能性があるため注意しましょう。
会計ソフトは必要ですか?
白色申告では複雑な帳簿作成が求められないため、Excelや手書き帳簿でも対応可能です。しかし、取引が多い法人や今後青色申告へ移行を検討している場合は、初めから会計ソフトを導入しておく方が安心でしょう。
クラウド会計ソフトであれば、帳簿の自動作成や税務書類の出力も簡単にでき、記帳ミスのリスクを大幅に減らせます。事務負担を軽減しつつ、将来的な対応も視野に入れて選ぶと良いでしょう。
白色申告に不安が企業様は専門家に相談を
白色申告は手続きが簡易で取り組みやすい反面、節税効果が乏しく、将来的な信用面や経営基盤の強化という観点ではデメリットも多くあります。特に、帳簿管理や申告手続きに不安がある法人様にとっては、申告ミスや機会損失を招くおそれもあります。
今後の方針に迷っている場合や、青色申告への切り替えを検討している場合は、早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
小谷野税理士法人では、法人の設立直後の申告サポートから、青色申告への切り替え支援、節税対策まで幅広く対応しています。設立初年度の申告や将来の節税対策に不安がある企業様は、小谷野税理士法人にぜひご相談ください。