個人事業主として飲食店を営む方にとって、設備投資や販路拡大、従業員の雇用など、さまざまな場面で資金が必要です。個人事業主の負担を軽減するため、国や自治体では多くの補助金・助成金制度を設けています。この記事では、2025年に個人事業主の飲食店が利用できる主な補助金・助成金について、対象経費や申請条件を紹介します。
目次
飲食店経営者が活用できる主な補助金
飲食店を経営する個人事業主が活用できる主な補助金には、中小企業新事業進出補助金、ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、IT導入補助金、事業承継・M&A補助金などがあります。
中小企業新事業進出補助金
中小企業新事業進出補助金は、「事業再構築補助金」の後継制度で2025年から公募が始まりました。中小企業等が既存事業とは異なる新たな市場や、高付加価値分野への進出を図る取り組みを支援します。
例えば、飲食店が冷凍食品の製造・販売に挑戦したり、建設業者がドローンを活用したDXサービスを他業種へ展開したりするなど、既存の強みを活かした新市場開拓が対象です。
企業の挑戦を支え、企業の生産性向上や賃上げにつなげることを目的としています。
【中小企業新事業進出補助金の概要】
事業目的 | 中小企業等の新市場・高い付加価値のための事業進出にかかる設備投資などを支援し、新規事業の挑戦を促進する |
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基本要件 | ・「新事業進出指針」で定める「新事業進出」に該当すること ・補助事業終了後3~5年で付加価値額の年平均成長率4.0%以上の事業計画を策定すること ・以下いずれかを達成すること ①給与支給総額が最低賃金の成長率以上に増加 ②給与支給総額が年平均2.5%以上増加 ・毎年、地域別最低賃金より30円以上高い水準の最低賃金を設定すること ・補助事業終了後3~5年で地域別最低賃金より30円以上高い水準であること ・次世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」を公表していること |
補助対象経費 | 機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費など |
補助上限額 | 【20人以下】2,500万円(3,000万円) 【21~50人】4,000万円(5,000万円) 【51~100人】5,500万円(7,000万円) 【101人以上】7,000万円(9,000万円) |
補助率 | 1/2 |
参考:中小企業新事業進出補助金とは?|中小企業新事業進出補助金
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、中小企業が取り組む革新的な製品・サービスの開発や、生産工程の改善などに必要な設備投資を支援する制度です。
飲食店がセントラルキッチンを導入したり、新しい技術を取り入れたりすることで、生産性の向上や業務効率化につながります。
なお、ものづくり補助金は比較的規模の大きな設備投資を予定している飲食店に向いています。
【ものづくり補助金の概要】
事業目的 | 中小企業・小規模事業者が、生産性向上を目的として、革新的な製品・サービスの開発や海外展開に必要な設備投資等を行う際に、その費用の一部を補助する |
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基本要件 | 補助事業終了後3~5年間で以下を満たすこと ・事業者全体の付加価値額の年平均成長率3.0%以上 ・従業員および役員の給与支給総額の年平均成長率を2.0%以上 または 給与支給総額の年平均成長率が、最低賃金の年平均成長率以上 ・最低賃金を30円以上高く設定すること ・従業員数が21名以上の事業者は、「次世代育成支援対策推進法」に基づく一般事業主行動計画を策定・公表すること |
補助対象経費 | 機械装置・システム構築費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費 、外注費 、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費 、海外旅費 、通訳・翻訳費、 広告宣伝・販売促進費など |
補助上限額 | 【5人以下 】750万円 【6~20人】 1,000万円 【21~50人】1,500万円 【51人以上 】 2,500万円 |
補助率 | 中小企業2分の1、 小規模企業・小規模事業者及び再生事業者3分の2 |
ものづくり補助金について、詳しくは以下のサイトや記事もご確認ください。
関連記事:ものづくり補助金とは?公募要項や採択事例などをわかりやすく解説
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が経営計画に基づき実施する販路開拓や業務効率化の取り組みを支援する制度です。飲食店では、新たな顧客層を獲得するための広告宣伝や、業務改善のための設備導入などに活用できます。
【小規模事業者持続化補助金の概要】
事業目的 | 働き方改革、被用者保険の適用拡大、賃金引上げ、インボイス制度導入など、制度変更への対応を支援する。経営計画に基づく販路開拓や業務効率化の取組みに対する経費の一部を補助する |
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基本要件 | ・資本金又は出資金が5億円以上の法人に直接又は間接に100%株式保有されていないこと ・直近過去3年分の各年または各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超えていないこと ・過去に持続化補助金で採択を受けた場合、事業効果報告書を原則本補助金の申請までに提出していること ・「卒業枠」で採択され事業を実施した事業者ではないこと。 |
補助対象経費 | 機械装置等費、広報費、ウェブサイト関連費、展示会等出展費、旅費、開発費、資料購入費、借料、委託・外注費など |
補助上限額 | 通常枠:上限50万円 特別枠:最大200万円 |
補助率 | 3分の2(賃金引上げ特例に申請する赤字事業者は4分の3) |
小規模事業者持続化補助金について、詳しくは下記のサイトもご確認ください。
参考:小規模事業者持続化補助金|小規模事業者持続化補助金事務局
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が業務効率化やDXを推進するためにITツールを導入する際、費用の一部を補助する制度です。インボイス制度の対応やサイバーセキュリティ対策の強化を目的としたITツールの導入も補助対象に含まれます。
なお、飲食店では、予約管理システムやPOSレジ、在庫管理システムなどの導入に活用されています。
【IT導入補助金(通常枠)の概要】
事業目的 | 中小企業・小規模事業者の労働生産性向上を目的に、業務効率化やDX推進のためのITツール導入を支援する |
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基本要件 | ・中小企業・小規模事業者であること ・労働生産性向上のためにIT導入支援事業者の登録ツールを導入すること |
補助対象経費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費など |
補助上限額 | ITツールの業務プロセスが1~3つまで:5万円~150万円 4つ以上:150万円~450万円 |
補助率 | 1/2以内 ※3ヵ月以上、地域別最低賃金+50円以内で雇用している従業員数が全従業員の30%以上の場合は2/3 |
事業承継・M&A補助金
事業承継・M&A補助金は、事業の承継を契機に新たな取り組みにチャレンジする中小企業等を支援する制度です。
M&Aを検討している場合には、M&Aにかかる専門家費用のほか、事業承継後の新規投資なども補助の対象となることがあります。
【事業承継・M&A補助金の概要】
事業目的 | 事業承継、事業再編、事業統合(M&A)をきっかけとして、経営革新や事業転換に挑戦する中小企業を支援する |
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基本要件 | 買い手支援類型 ・経営資源を譲り受けた後、生産性向上が見込まれること ・経営資源を譲り受けた後、地域経済を牽引する事業を行う見込みがあること ・M&Aに際し、DD(デュー・ディリジェンス)を実施していること 売り手支援類型 ・地域経済を牽引する事業が、再編・統合により第三者に継続される見込みがあること |
補助対象経費 | 謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料、廃業費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用 など |
補助上限額 | 最大600万円以内 |
補助率 | 買い手支援類型:3分の2以内 売り手支援類型:2分の1または3分の2以内 |
事業承継・M&A補助金について、詳しくは以下のサイトや記事もご確認ください。
参考:事業承継・M&A補助金
関連記事:事業承継補助金・引き継ぎ補助金とは?対象経費や対象者について解説
飲食店の雇用に関する主な助成金
飲食店の経営において従業員の雇用は重要です。採用や育成、労働環境の整備には多くの費用がかかりますが、負担を軽減するために、さまざまな助成金制度があります。
ここでは雇用調整助成金とキャリアアップ助成金を紹介します。
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、景気の悪化など経済的な理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業者が、従業員の雇用を維持するために行う休業・教育訓練・出向等に対し、休業手当や賃金の一部を助成する制度です。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた際には、多くの飲食店が活用した実績があり、2025年も通常制度として利用可能です。
【雇用調整助成金の概要】
事業目的 | 景気の変動や産業構造の変化など、経済的理由により事業活動が縮小した場合に、休業・教育訓練・出向などの一時的な雇用調整を実施し、従業員の雇用を維持した事業主に対して助成する |
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基本要件 | ・雇用保険の適用事業主であること ・最近3ヵ月の売上高・生産量の月平均が前年同期比で10%以上減少していること ・最近3ヵ月の雇用者数の月平均が前年同期比で中小企業は10%超かつ4人以上、中小企業以外は5%超かつ6人以上増加していないこと ・以下のいずれかを満たすこと ①【休業】労使協定に基づく全一日または1時間以上の実施 ②【教育訓練】職業能力向上を目的とし、本人のレポート提出などが必要 ③【出向】3ヵ月以上1年以内に出向元へ復帰予定の出向であること |
補助上限額 | 支給対象となる休業手当 × 助成率(中小企業:2/3、大企業:1/2) ※1人1日あたり上限8,635円 上記に加え、訓練費1,200円/人・日が加算 |
雇用調整助成金について、詳しくは以下のサイトもご確認ください。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するために、正社員への転換や処遇改善などの取り組みを行った事業主に対して支給される制度です。
飲食店においても、パートタイマーやアルバイトを正社員に登用したり、賃金規定を見直して非正規雇用者の給与を引き上げたりする場合に活用できます。なお、申請にはキャリアアップ計画の作成・提出が必要です。
【キャリアアップ助成金(正社員コース)の概要】
事業目的 | 非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を促進し、雇用の安定とキャリアアップを支援する |
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基本要件 | ・有期雇用労働者等を正社員化する取り組み (就業規則や労働協約の制度規定は必須) ・キャリアアップ計画を作成し、事前に届出ること ・正社員化後、6ヵ月継続就業を経て第1期申請を行うこと |
補助上限額 | 対象が重点支援対象者の場合 中小企業 有期 正社員:40万円 × 2期(合計80万円) 無期 正社員:20万円 × 2期(合計40万円) 大企業 有期 正社員:30万円 × 2期(合計60万円) 無期 正社員:15万円 × 2期(合計30万円) ※重点支援対象者以外の場合は助成額が異なる |
雇用調整助成金について、詳しくは以下のサイトもご確認ください。
関連記事:新規事業に活用可能な注目の補助金・助成金をご紹介!
地域独自の補助金・助成金
国による補助金や助成金に加えて、都道府県や市区町村など地方自治体でも、地域経済の活性化や地域特有の課題に対応するための独自の補助金・助成金制度があります。
地域独自の制度は、その地域の事業者を対象としています。国の制度に比べて申請要件が緩やかだったり、地域の実情に即した支援内容が盛り込まれていたりすることが特徴です。
ここでは、一部を紹介します。
- 港区「新製品・新技術開発支援事業補助金」※令和7年の募集は終了
- 東京都「中小企業デジタルツール導入促進支援事業」
- 東京都「創業助成金」
参考:新製品・新技術開発支援事業補助金|港区立産業振興センター
参考:令和7年度中小企業デジタルツール導入促進支援事業|東京都中小企業振興公社
関連記事:新規事業に活用可能な注目の補助金・助成金をご紹介!
補助金・助成金活用のための情報収集方法
補助金や助成金は多岐にわたるため、自社の事業内容や目的に合った制度を見つけるには情報収集が欠かせません。ここでは効率的な情報収集方法を紹介します。
地方自治体のウェブサイトを確認する
自治体では、地域経済の活性化や雇用促進、特定産業の支援などを目的に、独自の補助金・助成金制度を設けています。地域に特化した支援制度は、お住まいの都道府県や市区町村の公式サイトを確認しましょう。
メールマガジンの登録やSNSアカウントのフォローにより、公募開始などの情報を早く入手できることもありますので、活用しましょう。
国の提供するポータルサイトを利用する
国の補助金や助成金に関する情報は、中小企業庁、経済産業省、厚生労働省など各省庁のウェブサイトで公開されています。
また、これらの情報をまとめて検索できる、中小企業庁の「ミラサポplus」や「Go!Techナビ」などもおすすめです。検索して公募スケジュールや情報が確認できるため、国の補助金や助成金を活用したい場合に有用です。
民間の情報サイトを活用する
補助金・助成金情報をまとめた民間のポータルサイトも数多く存在します。これらのサイトでは、国や自治体の制度を幅広く紹介しており、飲食店向けに特化した情報が掲載されていることもあります。
また、過去の採択事例が紹介されていることもあり、事業計画作成の参考にもなるでしょう。複数のサイトを見比べながら、最新かつ信頼性のある情報を提供しているサイトを選択してください。
補助金・助成金に強い税理士に相談する
補助金や助成金の申請は手続きが煩雑で専門的な知識が必要なため、税理士に相談することをおすすめします。事業内容や資金に応じて、最適な制度を提案してもらえるほか、申請書類の作成や提出手続きのサポートも受けられます。
また、日本政策金融公庫の融資など、資金調達手段のアドバイスをもらうことも可能です。
関連記事:飲食店向け補助金を上手に活用しよう!成功の鍵を握る申請のメリットやコツ・事例・注意点などを解説
まとめ
飲食店経営者にとって、補助金・助成金は事業の成長や安定に向けた重要な資金調達手段です。
中小企業新事業進出補助金、ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、IT導入補助金、事業承継・M&A補助金などは、店舗の設備投資や販路拡大、新規事業展開に活用できます。
こうした制度を有効活用するには、地方自治体や国のポータルサイト、民間情報サイトでの情報収集が大切です。
手続きに疑問や不安などがありましたら、補助金に詳しい税理士や専門家のサポートを受けることをおすすめします。