個人事業主として補助金や助成金を受け取った際、「どの勘定科目で処理すべきか?」、「税金はかかるのか?」と悩む方は多いはずです。誤った会計処理は、思わぬトラブルを招く可能性もあるため注意が必要です。本記事では、個人事業主が補助金を受け取った際にどの勘定科目で処理すればよいのか、基本的な考え方や仕訳のルールをわかりやすく解説します。
目次
個人事業主が受け取れる補助金・助成金とは?
個人事業主として事業を継続・発展させていくうえで、補助金や助成金などの制度を上手に活用することは大きな助けになるでしょう。
ただし、これらの制度にはいくつか種類があり、目的や支給条件も異なります。以下に、個人事業主が受け取れる主な支援金の種類とその特徴を整理したのでご確認ください。
名称 | 説明 | 主な支給主体 | 具体例 |
補助金 | 審査に通った事業者が対象で、原則後払い・使途が決まっている支援金 | 経済産業省、中小企業庁、地方自治体 |
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助成金 | 条件を満たせば受給でき、主に雇用や環境整備を目的とした支援金 | 厚生労働省、都道府県労働局 |
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給付金 | 一定の条件を満たせば申請可能で、返済不要・使途制限が少ない支援金 | 経済産業省、国税庁、地方自治体 |
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協力金 | 行政の要請(休業や時短など)に協力した事業者に支払われる金銭的支援 | 各都道府県、政令指定都市 |
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支援金 | 災害・感染症・地域振興など幅広い目的で支給される柔軟な支援金 | 経済産業省、内閣府、地方自治体 |
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これらの制度は、資金繰りの改善や事業継続の支えとなる重要な資金源になり得ます。うまく活用すれば、広告費、IT投資、人材採用、設備導入など、さまざまな場面での事業強化に繋がるでしょう。
ただし、制度によって支給対象、使途の制限、申請のタイミングや手続き方法が異なるため、必ず最新の募集要項・交付要綱を確認する必要があります。
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個人事業主が補助金を受け取ったときの勘定科目は?
補助金や助成金を受け取った際、その処理をどうするかで悩む個人事業主の方は少なくありません。特に勘定科目の選定は、会計処理や税務申告に直結する重要なポイントです。
以下で、補助金の会計処理に使われる代表的な勘定科目について解説します。
勘定科目 | 説明 |
雑収入 | 補助金・助成金の基本処理に用いる汎用的な収益科目 |
未収入金 | 支給決定済みだが未入金の補助金を計上する際に使用 |
事業主借 | 私的支援金が事業口座に入金された際の調整用として使用 |
補助金収入/助成金収入 (任意科目) | 補助金を区別管理したい場合の独自設定科目 |
雑収入
補助金や助成金を会計処理する際に、最も一般的に使用されるのが「雑収入」です。
特定の収入科目に該当しない事業関連の収入として処理され、税務署からもこの方法が基本として案内されています。判断に迷った場合は、まずこの科目で処理するのが無難でしょう。
未収入金
補助金の支給が決定しているにもかかわらず、まだ入金されていない場合には「未収入金」を使用します。
これは発生主義に基づく処理であり、入金された時点で「未収入金」と相殺する必要があります。期をまたぐ補助金処理ではよく使われます。
事業主借
事業とは関係のない私的支援金(生活支援金など)が事業口座に誤って入金された場合には、「事業主借」を使用します。
個人事業主に特有の科目であり、事業とプライベートの資金を明確に分けるために使われます。
補助金収入/助成金収入
補助金の種類や使途を他の収益と区別して管理したい場合には、「補助金収入」や「助成金収入」といった任意の勘定科目を設けることも可能です。
会計ソフトでの設定や、税理士との運用ルールに一貫性を持たせることが前提になります。
補助金の仕訳例
補助金や助成金を受け取ったとき、会計上どのように仕訳をすべきかは、状況によって異なります。入金のタイミングや補助金の使い道によって処理方法が変わるため、具体的なケースごとに見ていきましょう。
補助金を受け取った場合
補助金が振り込まれた場合は、「普通預金」などの入金口座を借方に、「雑収入」などの収益科目を貸方に計上します。
例)IT導入補助金50万円が振り込まれた場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
普通預金 | 50万円 | 雑収入 | 50万円 | IT導入補助金の入金 |
補助金の支給決定通知を受けたが未入金の場合
支給が決定している補助金であっても、入金前であれば「未収入金」を使って処理します。これは発生主義に基づく仕訳で、入金時には「未収入金」を取り崩す必要があります。
例)小規模事業者持続化補助金30万円が決定したが、入金は翌月予定の場合
【決定通知時の仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
未収入金 | 30万円 | 雑収入 | 30万円 | 小規模事業者補助金決定通知 |
【入金時の仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
普通預金 | 30万円 | 未収入金 | 30万円 | 小規模事業者補助金入金 |
支援金が個人口座に誤入金された場合
生活支援金などの私的な給付金が事業用口座に入金された場合は、「事業主借」で処理し、事業とプライベートの区分を明確にします。個人事業主ならではの注意点です。
例)生活支援給付金10万円が事業用口座に入金された場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
普通預金 | 10万円 | 事業主借 | 10万円 | 生活支援金(私的収入)入金 |
補助金で購入した資産に対して圧縮記帳は使える?
個人事業主が補助金を使って設備などの固定資産を取得した場合は、圧縮記帳を使えないため、事業主貸・事業主借勘定を使用して、仕訳をする必要があります。
例)店舗改装費100万円のうち50万円が補助金で支給された場合
【改装費支払い時の仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
建物 | 100万円 | 普通預金 | 100万円 | 店舗改装費用 |
【補助金の交付決定通知がされた際の仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
未収入金 | 50万円 | 事業主借 | 50万円 | 改装補助金が確定 |
【改装費のうち、補助金分を減額する仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
事業主貸 | 50万円 | 建物 | 50万円 | 補助金分を相殺 |
【補助金が実際に入金された際の仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
普通預金 | 50万円 | 未収入金 | 50万円 | 補助金入金 |
個人事業主が補助金の会計処理で注意すべき4つのポイント
補助金を受け取る際は、勘定科目の選定だけでなく、税務・会計上の正しい処理が求められます。処理方法を誤ると申告漏れや補助金の返還リスクに繋がる可能性もあるため、個人事業主として押さえておきたい以下4つの注意点を解説します。
- 原則課税対象であることを理解する
- 消費税の対象外であること
- 入金時期に応じた正しい処理が必要
- 支給条件や使途制限の遵守が重要
原則課税対象であることを理解する
補助金や助成金は、原則として所得税の課税対象となります。非課税と誤認して処理すると申告漏れになり、税務調査で追徴課税を受けるリスクがあります。
補助金の名称や性質によっては例外もありますが、多くの場合は雑収入などとして正しく収益計上する必要があるので注意しましょう。
消費税の対象外であること
補助金は消費税の課税対象ではありません。対価性のない支援金として扱われるため、課税売上に含めて処理すると、消費税の納税額が過大になってしまいます。
適切な税区分(対象外・不課税など)で処理し、誤って課税処理しないように注意しましょう。
入金時期に応じた正しい処理が必要
補助金は、支給決定と入金のタイミングが異なることが多いため、それぞれに応じた会計処理が必要です。
決定通知時には「未収入金」、実際の入金時には「普通預金」で処理し、帳簿の整合性を保ちます。特に決算期をまたぐ場合には重要な対応になるので注意しましょう。
支給条件や使途制限の遵守が重要
補助金は、申請時に定められた目的や使途に従って使用しなければなりません。条件を逸脱すると、返還を求められたり、今後の申請資格を失うこともあるので注意しましょう。
交付要綱や公募要領を十分に確認し、証憑類の保管も含めた丁寧な対応が求められます。
補助金の勘定科目に迷う個人事業主は専門家に相談を
補助金や助成金の処理には、課税の有無や仕訳方法、科目の選定など複雑な判断が求められます。少しのミスで申告漏れや税務調査のリスクを招くこともあるため、不安な場合は専門家への相談が安心でしょう。
小谷野税理士法人は、補助金制度や税務実務に精通したプロフェッショナル集団で、制度の選定から仕訳処理、申告書の作成まで一貫してサポートしています。
補助金の取り扱いに不安がある方や、正確な処理を確実に行いたい方は、小谷野税理士法人にぜひご相談ください。