不動産事業と一口にいっても、さまざまな事業内容があります。未経験で不動産事業を起業・開業したいと考えている方の中には、どのような仕事があるのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで、この記事では不動産事業に関する基礎知識や起業・開業の成功率について、失敗事例なども含めて詳しく解説していきます。これから不動産での起業・開業を検討しているという方は、ぜひとも参考にしてみてください。
目次
不動産を未経験で起業・独立開業はできる?どんな仕事?
不動産事業はどんな仕事?
不動産事業で起業・開業する場合、大きく分けて「仲介業」と「賃貸業」の2種類があります。他にもさまざまな業務形態がありますが、まずはこの2種類について理解しておきましょう。
不動産仲介業
不動産仲介業とは、不動産の「売主と買主」や「貸主と借主」の間に立つことで、契約や手続きをサポートするビジネスのことを指します。不動産取引では、契約書の作成や価格交渉、物件に瑕疵(欠陥)がないかの確認など、不動産に関する専門知識が求められる場面が多々あります。これらの手続きを不動産業者がサポートすることによってスムーズに取引を進めることができ、その報酬として仲介手数料を受け取るという仕組みです。
また、不動産仲介業には「売買仲介」と「賃貸仲介」があります。売買仲介では、不動産を売却・購入する際に必要となる、物件の査定・ローン審査・不動産の引き渡し業務などをサポートします。一方、賃貸仲介では物件の掲載・内見対応・契約書作成などが主な業務内容です。
不動産仲介業は仕入れを行う必要がなく、うまく契約が成立すれば短期間で大きな利益を得られる可能性があります。しかし、不動産仲介業で起業・開業するには事務所や国家資格が必要になるため、手間と時間がかかることを覚えておきましょう。
不動産賃貸業
不動産賃貸業とは、所有する不動産を第三者に賃貸することで収入を得るビジネスのことを指します。いわゆる「大家さん」「地主さん」と呼ばれるもので、借主さえいれば継続的・安定的な収入が見込めることから、サラリーマンの副業としても人気を集めています。
また、不動産仲介業のように事務所を構える必要がなく、賃貸物件を取得できれば事業を開始することが可能です。融資を活用できれば自己資金が少なくても始められるため、起業・開業までのハードルが高くない点が魅力といえるでしょう。
一方、不動産賃貸業では得られる賃料収入に限界がある点がデメリットとして考えられます。例えばアパートを賃貸していた場合、満室になった場合の家賃が最も大きい金額となり、それ以上の収入を得ることはできません。また、需要のある物件の目利きができなければ、空室リスクが高まる点にも注意が必要です。
不動産の起業で必要な資格
不動産で起業・開業する場合、不動産賃貸業であれば特に資格は必要ありません。もちろん、利益を得るには不動産賃貸業に関する知識が必要ですが、貸し出せる物件さえ所有していれば誰でも事業を始めることが可能です。
一方で、不動産仲介業を行うには宅地建物取引士の資格が必要となります。宅地建物取引士は、不動産取引に関する重要事項の説明や、契約書への記名押印などを独占業務として行います。資格を取得するためには試験に合格する必要がありますが、合格率は15%前後となっているため取得難易度は高いといえるでしょう。
なお、自分が宅地建物取引士の資格を持っていなかったとしても、資格を持った人を雇うことで起業・開業するという手段もあります。しかし、資格者が退職した場合には事業の継続が困難となってしまうため、自分が資格を取得しておいたほうが無難といえるでしょう。
未経験で起業・独立開業はできる?
結論、未経験でも不動産で起業・開業することは可能です。ただし、クリアしなければならない課題が多く、決して楽な道のりではありません。例えば、以下のような課題が想定されます。
- 人脈不足
- 資金調達に苦労する
- 宅地建物取引士の資格が必要
不動産事業を行ううえで、人脈形成は非常に重要です。経験者であれば、起業前からの人脈を活用して仕事をすることが可能ですが、未経験者は人脈形成が大きな課題となります。
また、取引実績のない創業期は金融機関からの融資を受けることが困難です。民間の金融機関ではなく、日本政策公庫や補助金・助成金を活用することも検討していきましょう。
さらに、一人で不動産仲介業を始める場合、宅地建物取引士の資格取得が必須となります。試験合格には多くの勉強時間を要するため、不動産仲介業で起業・開業を検討している方は早めに取り組むようにしましょう。
不動産事業は儲かる?
不動産事業で起業・開業した場合、実際いくら儲かるのでしょうか。ここでは、資本金や会社の規模に応じてどれくらいの売上があるのかを見ていきましょう。
まず、公益財団法人不動産推進センターが発表した「不動産業統計集」を参照し、平成30年度における資本金別の売上高をご紹介します。
資本金 | 売上高 |
1,000万円未満 | 約909万円 |
1,000万円~1億円 | 約1,636万円 |
1億円~10億円 | 約861万円 |
この売上高から、事務所の賃料・光熱費・人件費・広告宣伝費などのコストを差し引いた額が利益となります。
次に、代表取締役の平均年収は一体いくらくらいになるのか、会社の規模別に見ていきましょう。労務行政研究所が集計した「2021年役員報酬・賞与等の最新実態」を参照すると、以下の結果となっています。
従業員数 | 代表取締役の平均年収 |
300人未満 | 3,295万円 |
300〜999人 | 4,410万円 |
1,000人以上 | 6,771万円 |
このように、従業員数が増えるほど代表取締役の平均年収も上昇していることが読み取れます。収入を増やしていくためには、従業員を雇用して規模を拡大させていくことが重要だといえるでしょう。
不動産事業の起業成功率はどれくらい?
不動産事業の起業成功率は、開業場所などのさまざまな要因によって左右されるため一概にはいえません。不動産事業は都市部だけでなく、地方でも必要不可欠な業種であることから全国的に需要があります。また、地域によって物件需要や競合の数も異なるため、開業場所は非常に重要といえるでしょう。
なお、一般財団法人不動産適正取引推進機構が発表した「令和3年度末 宅建業者と宅地建物取引士の統計について」のデータを参照すると、宅建業者数は以下のとおりとなっています。
| 宅建業者数 | 新規免許件数 | 廃業等件数 |
令和2年度 | 127,149業者 | 5,970件 | 4,397件 |
令和3年度 | 128,597業者 | 6,609件 | 5,155件 |
このように、起業・開業する宅建業者が多い一方で、廃業してしまう宅建業者も多くなっていることがわかります。起業・開業後、不動産事業を継続していくことは決して容易ではないといえるでしょう。
不動産事業の失敗事例
たとえ不動産事業に従事した経験があったとしても、起業・開業後に失敗してしまう可能性はあります。しかし、事前に失敗する要因を知っておくことで、そのリスクをできる限り抑えることが可能です。ここでは、不動産事業で失敗する主な要因を事例とともにご紹介していきます。
信用度・知名度が低い
信用度・知名度は、顧客が不動産業者を選択する際の重要な要素です。不動産会社に勤めていた方が独立した場合、これまで会社が培ってきた信用度・知名度を利用することができなくなるため、案件獲得に苦労することが多くなります。
よくある失敗事例として、不動産会社で営業成績トップだった方が独立した際に、会社というバックアップがなくなったことで顧客を獲得できなくなるというケースがあります。こうした失敗事例は、大手の不動産会社で成果を出していた方ほど陥りやすいといえるでしょう。
資金不足
資金計画を十分に検討しないまま起業・開業してしまうと、資金不足によって経営難に陥るおそれがあります。独立する際には開業資金だけでなく、開業後の資金もある程度準備しておくことが重要です。
よくある失敗事例としては、営業力があって売上は好調なものの、経理や支出管理を行った経験がないことから、いつの間にか赤字になってしまうというケースです。この事例では、支出管理を怠っていたことで賃料や広告宣伝費などの経費が収入を上回ってしまい、廃業せざるを得ない状況に陥ってしまいました。
不動産で起業・開業する際は慎重に資金計画を検討し、支出管理もこまめに行うようにしましょう。
不動産業界で起業・独立開業する際の大まかな流れ
開業資金を準備する
上述のとおり、不動産業界で起業・開業するためにはある程度の開業資金が必要です。事業内容にもよりますが、一般的には500~1,000万円程度の資金が必要といわれています。自己資金が少ない場合は、日本政策金融公庫の融資や活用できる補助金・助成金がないか確認してみましょう。
会社を設立する
不動産で起業・開業する際には、会社を設立するのか個人事業主として開業するのかを選択することになります。もちろん個人事業主として不動産事業を行うことは可能ですが、会社と比較して社会的信用度に欠けるというデメリットがあります。社会的信用度に欠けてしまうと、顧客から警戒されてしまうことに加え、金融機関から融資を受けることも困難となるでしょう。不動産という高額な商材を扱う以上、会社を設立しておくほうが無難といえます。
事務所を開設する
不動産仲介業などを行う場合、事務所の設置が必要となります。事業内容によって事務所に求められるポイントは変わってきますが、先ほどもふれたように立地は非常に重要です。人の通行量や競合他社の有無など、チェックすべきポイントが多数あるため、物件探しは早めに着手することをおすすめします。なお、事務所開設には初期費用や備品費用がかかりますが、自宅で開業する場合には費用を抑えることが可能です。
宅地建物取引士を確保する
宅建業の免許を取得するためには、専任の宅地建物取引士を設置する必要があります。従業員5人に対して一人の宅地建物取引士を設置する必要がありますが、自分が資格を取得していれば問題ありません。資格を持っていない場合は宅地建物取引士を確保する必要があるので、こちらも早めに着手しておきましょう。
宅地建物取引業免許の申請を行う
起業・開業の準備が整ったら、事務所を管轄する都道府県知事に対して宅地建物取引業の免許申請を行います。また、ふたつ以上の都道府県にまたがって事務所を設置する場合には。都道府県知事を経由して国土交通大臣へ免許申請をしなければなりません。
申請には、破産などの欠格事由に該当しないことを証する書面や、事務所の写真および平面図などが必要となります。免許申請時点で事務所の情報を求められるため、事務所の賃貸借契約などは先に済ませておきましょう。また、申請には3万3,000円の手数料がかかります。
免許申請後、2週間~1か月程度で審査が完了します。宅建業免許を交付する旨のはがきが届くので、窓口か郵送にて宅建業免許証を受け取って手続き終了となります。
不動産事業を一人で起業・独立開業する際の注意点
不動産事業を一人で起業・開業した場合、仕事の進め方を自由に選択できることや、人件費がかからないといったメリットがあります。上司の確認をとる必要もなく、スピーディーな意思決定を行える点も魅力といえるでしょう。
しかし、一人で不動産事業を起業・開業する場合には以下のような注意点もあります。
- 自分が体調を崩しても代替がきかない
- 売上に限界がある
- 集客に苦労する
当然のことながら一人で経営を行っていると、もし急病で倒れてしまった場合でも代わりに対応してもらうことができません。事業の継続に大きな影響を及ぼす可能性があるため、採用についてはしっかり検討していく必要があるでしょう。
また、不動産取引では営業以外にもさまざまな事務手続きを行わければなりません。一人でこなせるタスク量には限界があるため、事業規模を拡大させたいのであれば従業員を雇用する必要が出てくるでしょう。
そのほか、一人で起業・開業するとこれまで利用していた会社の信用度・知名度が使えなくなるため、集客が難しくなります。
不動産事業で起業・開業を検討している方は、このような注意点があることも踏まえたうえで、慎重に検討していくことが重要です。
不動産事業を起業・独立開業したい場合は専門家にも相談を検討
どの事業形態を選択するかにもよりますが、不動産事業で起業・開業するためには開業資金や資格の取得など、さまざまな事前準備が必要となります。しかし、不動産事業はうまく軌道に乗せることができれば、短期間で大きな利益を得ることも可能です。本稿でご紹介した注意点なども踏まえ、少しでも起業の成功率が上がるよう準備を進めていきましょう。また、不動産事業の起業・開業に不安があるという方は、専門家への相談も検討してみてはいかがでしょうか。