iDeCoや企業型DCなどの確定拠出年金に拠出した掛金は60歳以降に受け取りが可能です。受取方法は全部で3種類あり、方法によって受け取り時にかかる税金の計算方法が異なります。2025年度の税制改正により、確定拠出年金の掛金を一時金として受け取る場合の税金に関するルールが変わりました。今回は2025年度の税制改正によって実施された、確定拠出年金の変更点について解説します。
目次
確定拠出年金とは
確定拠出年金とは、拠出した掛金および運用益の合計額によって将来の給付額が決定する年金制度です。国民年金や厚生年金に対して、確定拠出年金は私的年金と呼ばれます。
制度の概要
確定拠出年金は個人型確定拠出年金(iDeCo)と企業型確定拠出年金(企業型DC)の2種類に分けられます。
iDeCoは掛金の拠出、金融商品の選択、運用のすべてを加入者自身が行う制度です。掛金として拠出した額は全額所得控除の対象になります。
企業型DCは掛金の拠出を事業主、金融商品の選択および運用を加入者が行う制度です。全従業員が自動的に加入するタイプと、従業員自身が加入するか選択できるタイプ(選択型DC)の2種類に分けられます。
前述のように、企業型DCの掛金を拠出するのは事業主側です。ただし、加入者自身が掛金を上乗せする「マッチング拠出」という制度を利用できるケースもあります。
iDeCoと企業型DCの両方とも、拠出した掛金および運用益は原則として60歳まで引き出せません。60歳から75歳に到達するまでの間に受け取りを開始する必要があります。
関連記事:確定拠出年金は節税にならない?知っておきたいiDeCoや企業型DCの節税効果を徹底解説!
関連記事:個人事業主も厚生年金に入れる?自営業者の加入条件や支払い方法を解説
受け取り時にかかる税金
確定拠出年金の給付金は所得とみなされるため、所得税や住民税などの課税対象です。
受け取り方は3種類から選択できますが、方法によって所得区分が異なります。所得区分によって所得の計算方法が違うため、税金の額も変わります。
選択できる受取方法、およびそれぞれの所得区分は以下の通りです。
受取方法 | 所得区分 | 適用される控除 |
一時金受け取り | 退職所得 | 退職所得控除 |
年金受け取り | 雑所得 | 公的年金等控除 |
一時金と年金を併用する | 一時金部分:退職所得 年金部分:雑所得 | 一時金部分:退職所得控除 年金部分:公的年金等控除 |
なお、勤め先から給付される退職金の受取方法も同じ3パターンが存在します。それぞれに異なるメリット・デメリットがあるため、自分に合う方法を選ぶことが大切です。
関連記事:退職金のお得な受け取り方は?「一時金」「年金」の選ぶポイント
確定拠出年金の節税効果
確定拠出年金は、掛金の拠出時・運用益の発生時・給付金の受け取り時のタイミングによって以下のような節税効果を得られます。
タイミング | 節税効果 |
掛金の拠出時 | 加入者自身が拠出した掛金の全額が所得控除の対象 |
運用益の発生時 | 運用益が非課税 |
受け取り時 | 一時金の場合は所得控除、年金の場合は公的年金等控除が適用される |
ただし、2025年度の税制改正によって受け取り時にかかる税金のルールも変わりました。詳しくは次の章で解説します。
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【2025年度税制改正】確定拠出年金の受け取り時にかかる税金のルールが変更
2025年度の税制改正により、確定拠出年金に関して3つの変更がありました。なかでも特に注意するべきなのが、受け取り時にかかる税金のルールに関する内容です。以下で詳しく解説します。
「5年ルール」が「10年ルール」に変更
税制改正により、いわゆる「5年ルール」と呼ばれる仕組みが「10年ルール」に変わりました。
「〇年ルール」は退職金を2回以上受け取る場合に発生する仕組みです。それぞれ退職所得控除を活用するためには、受け取り時期を一定期間以上あける必要があることを意味します。
前述のように、iDeCo等の一時金は税法上「退職所得」の扱いです。すなわち、iDeCo等と会社からの退職金の両方を一時金として受け取る場合、退職金を2回受け取るとみなされます。
5年ルールは一度目の退職金受け取りから5年以上が経過していれば、二度目の退職金でも退職所得控除の満額適用を受けられるという意味です。
しかし、税制改正によって5年ルールが10年ルールへと変更されました。退職所得控除の満額適用を受けるには、iDeCo等の一時金の受け取り後、退職金受け取りまでに10年以上あける必要があります。
その他の変更点
2025年度の税制改正における確定拠出年金に関する変更点は3つと紹介しました。前述した「10年ルール」のほか、さらに2つの変更が存在します。
1つはiDeCoの拠出限度額の引き上げです。iDeCo掛金の上限が以下のように引き上げられました。
変更前 | 変更後 | |
第1号被保険者 (自営業者やフリーランスなど) | 月額6.8万円 | 月額7.5万円 (国民年金基金等の共通枠) |
第2号被保険者 | 企業型DCあり:月額2万円 企業型DCなし:月額2.3万円 | iDeCoと企業型DC合計で月額6.2万円 |
第3号被保険者 (扶養されている配偶者等で年収額が一定未満) | 月額2.3万円 | 月額2.3万円(変更なし) |
もう1つは加入可能年齢および掛金を拠出できる期間の拡大です。厳密には税制改正ではなく、iDeCo改正における変更事項となります。
変更前の制度では、iDeCoに新たに加入できるのは60歳未満まで、掛金を拠出できる期間は20歳から65歳まででした。今回の変更により、掛金を拠出できる期間は70歳までに延長となります。
また、60歳以上70歳未満の人のうち、以下いずれかに該当する人はiDeCoの加入が可能です。
- iDeCoの加入者または運用指図者だった
- 私的年金の財産をiDeCoに移換できる
老齢基礎年金やiDeCoの老齢年金を受給していないことも条件となります。
60歳になった後のiDeCo加入や、60歳になった後も掛金の拠出を続けることが可能になりました。
確定拠出年金の受け取り時にかかる税金を抑える方法
5年ルールから10年ルールに変わりましたが、年数が変わっただけで「〇年ルール」の仕組みがなくなったわけではありません。先にiDeCo等を受け取り、10年経ってから退職金を受け取れば両方で退職所得控除の適用を受けられます。
とはいえ、10年以上の期間をあけるのは容易ではありません。iDeCo等の一時金を60歳になってすぐに受け取っても、退職金の受け取りを70歳まで待つ必要があるためです。
70歳までの就業機会確保が努力義務化されているとはいえ、60歳または65歳での退職金支払いが一般的です。すでに退職金の支払い時期が確定している場合、支払い時期を70歳にずらすのは難しいと考えられます。
以上を踏まえると、両方を一時金として受け取る方法では税負担が重くなる可能性が高くなります。特に会社から支給される退職金が多い人は、退職所得控除の枠を使わないよう、iDeCo等の給付金は別の方法で受け取るべきでしょう。
ただし、どの方法が最適かは個々の事情によって異なるため一概にはいえません。自分に合う方法を確実に選ぶためには、具体的な金額を当てはめた細かなシミュレーションが必要となります。
確定拠出年金の受け取り方によって税金がどのように変わるか検討するのが理想
2025年度の税制改正により、確定拠出年金における5年ルールが10年ルールに変わりました。iDeCo等の一時金と退職金の両方で退職所得控除の満額適用を受けるには、退職金受け取りまでに10年以上あける必要があります。
今回の変更により、両方を一時金として受け取る場合の税負担が重くなる人が多いでしょう。確定拠出年金の給付金の受取方法として、年金受け取りまたは年金と一時金の併用を選んだ方がトータルの税額を抑えられる可能性が高いです。
どの方法が正解かは、確定拠出年金の受け取り方法やタイミング以外にも、そのほかの給付金との兼ね合いもあるため一概にはいえません。それぞれのメリット・デメリットを押さえつつ、発生する税金のシミュレーションをした上で、自分に合う方法を選ぶのが理想です。