副業による収入が増え、税金負担が大きくなってきた場合は、会社設立を検討するタイミングかもしれません。サラリーマンでほかに勤務先があったとしても、自分の会社を設立できます。会社を設立することで、節税効果を始めとしたさまざまなメリットが期待できますが、デメリットについても確認しておくことが大切です。この記事では、副業で会社を設立する方法について説明します。
目次
サラリーマンが副業で会社設立するために必要なステップ
サラリーマンが副業を法人化するためには、複数のステップを踏む必要があります。事前に流れを把握しておくことで、よりスムーズな会社設立が可能です。
会社設立すべきタイミングを見極める
副業を法人化するための第一歩として、まずは会社設立に適したタイミングを見極めてから実際の手続きを始めましょう。
副業から会社設立へとつなげるタイミングとしては、次のような状況が挙げられます。
会社を設立することで税制上優遇されるタイミング | 所得が900万円を超える直前に会社設立することで、個人事業に課せられる所得税の税率よりも低い法人税が適用される |
勤務先で副業への方針転換があったタイミング | これまでは副業禁止の勤務先で、政府の「働き方改革実行計画」推進もあって副業や兼業が許可された場合 |
会社を設立することで事業展開が期待できるタイミング | 副業が好調な場合、今後の事業展開を広げるためにも会社を設立したほうが有利である |
身内を代表取締役に据えられるタイミング | 配偶者や子どもなどを会社の代表取締役に据えると、自分が社長になった場合よりも勤務先に会社設立を知られにくい |
事業で消費税の納付が必要になったタイミング | 新規開業した会社や個人事業主は、課税売上高が1,000万円を超えた2年後から消費税を納めなくてはならないが、副業から法人に移行することで最大2年間の納税義務が免除される |
会社設立に適したタイミングは複数ありますが、1つか2つ該当していたとしても、法人化する踏ん切りはなかなかつかないかもしれません。
しかし、上記のタイミングの中でも、所得が900万円を超える直前か、事業で消費税の納付が必要になった場合など、税金が関係しているタイミングでは特に会社設立をおすすめします。
必要書類を準備する
会社を設立するためには複数の書類が必要です。
会社の形態は株式会社・合同会社、さらに取締役会の有無により取締役会非設置会社や取締役会設置会社などに分かれます。
下記は、株式会社を設立する場合に必要な書類例です。
【株式会社の設立に必要な書類】
- 定款:会社の基本的なルールを記載した書類
- 登記申請書:会社名・所在地・登記の理由・登録免許税・添付書類などを記載した書類
- 登録免許税の収入印紙を貼った台紙:登録免許税を納めるための収入印紙を貼り付けた台紙
- 登記すべき事項:会社を設立する際に登記しなければならない項目であり、登記申請書と別紙に記載するか、データを保存したCD-RやDVD-Rなどでの提出が可能
- 就任承諾書:代表取締役として選定されたことを証明する書類
- 払込証明書:資本金や出資金の払い込みを証明する書類
- 印鑑(改印)届出書:会社の実印とも呼べる代表者印の届け出を行う書類
- 印鑑証明書:発起人と取締役の個人の印鑑証明書
登録免許税の金額は、資本金の1,000分の7と定められています。ただし、その税額が150,000円未満であれば、収入印紙代は150,000円です。
また、必要書類の印鑑証明書は個人のものであって、会社の代表者印の証明書とは異なる点に注意しましょう。
登記すべき事項は、株式会社と合同会社とでは記載の必要な内容が異なっています。
- 【登記すべき事項の例】
会社名 - 本店と支店の所在地
- 資本金額
- 発行可能株式総数
- 発行済み株式の総数と種類とその数
- 取締役・監査役など役員の氏名
- 代表取締役の住所と氏名
- 公告方法
上記は、株式会社の場合に必ず記載の必要な登記すべき事項です。
公告とは、会社を設立した事実を、株主・取引先・金融機関などに広く知らせることを指します。
国から発行される機関紙・官報による官報公告、オンラインで情報公開する電子公告、そして新聞公告のうち1つを公告方法として選択可能です。
定款を作成する
前述した通り、定款とは会社の基本ルールであり、会社設立時には書類、もしくは電子定款による保存が義務付けられています。
定款を作成したあとは、公証役場において必ず認証を受けなければなりません。認証済みの定款は、会社だけでなく、公証役場においても1部ずつ保存されます。
資本金を支払う
会社設立のために必要な資本金を発起人の銀行口座に振り込みます。
金融機関から融資を受ける際は資本金を支払ったという証拠の提示が必要なため、払込証明書は大切に保管しましょう。
また、現在では、資本金1円からの法人化が会社法により認められていますが、1円での起業は現実的には困難です。
事業内容にもよるものの、融資を受けられる金額は資本金の2~3倍が目安と言われています。
登記書類を準備・申請する
必要書類をそろえたら、登記申請を行います。登記は、資本金を支払ってから2週間以内に法務局の窓口、もしくはオンラインから申請可能です。
会社の設立日は、登記申請を行った日付けですが、すぐに登記が完了するわけではありません。
申請の内容や法務局の混雑状況によりますが、登記完了までに要する日数はおよそ7~10日程度です。
規模の大きな法務局の場合は、約1ヵ月程かかる場合もあります。
そのため法人口座の開設も、登記が完了し、登記簿を取得したあとに行いましょう。
副業用の銀行口座を開設する
会社の登記が完了したあとには、印鑑証明と登記簿謄本を取得し、副業のための法人口座を開設します。
法人口座は事業を進める上で重要であるため、必ず1つ以上は開設しましょう。
税務署で会社設立に必要な手続きを進める
会社設立の手続きをすべて終えたあとは、税務署にて、法人に必要な税に関する届出を行います。
税務署への届け出を適切に行わなければ、会社としての信用を失う可能性があるため注意しましょう。
また、節税効果を十分に得られないといった損失を被るリスクもあります。
関連記事:副業は住民税でバレる?申告方法や会社にバレない方法を解説
サラリーマンが副業で会社設立することで節税できるポイント
副業を法人化することで、さまざまな節税効果が期待できます。実際にはどのような節税を行えるか紹介しましょう。
法人税で節税できる
副業の会社を設立することで、税率に上限のある法人税が適用されます。
個人事業主に課せられる所得税は累進課税制度により、所得が多ければ多いほど税率が上がる仕組みです。
例えば、所得税の場合、900万円未満は税率23%であるのに対し、900万円以上からは税率33%と10%上昇します。
一方、資本金が1億円以下の会社であれば、法人税の税率は年800万円超にかかる23.20%を上限に、以降は一定です。
参考:No.2260 所得税の税率|国税庁
参考:No.5759 法人税の税率|国税庁
給与所得で節税できる
会社を設立することで、役員報酬として受け取った給与に給与所得控除が適用されます。
給与所得控除は収入金額により定められており、550,000円から1,950,000円が上限です。
そのため会社設立し役員報酬を受け取ることで、より効果的に節税できます。
退職所得で節税できる
法人化すると、退職金(退職手当)を経費にできます。。
また、退職金に課せられる税金は、退職所得控除を差し引いたあとの金額の2分の1です。
退職所得は税金の計算もほかの所得とは別に行われるため、所得税の節税効果がさらに高まります。
参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
家族と所得を分け合って節税できる
会社を設立し、家族を役員とすることで、所得を分け合い税金を抑えることができます。
所得税は累進課税制度であるため、経営者本人の役員報酬が高額であればあるほど税率も高いです。
そこで、家族を役員とし、経営者本人の役員報酬を抑えれば、その分を家族への給与として支払えます。
一人ひとりの所得税額を低くなることから、結果的に所得税の税率は下がり、家族にも給与所得控除が適用されるため節税に効果的です。
赤字を繰り越して節税できる
事業で赤字が出た場合、会社を設立していれば、欠損金を10年間にわたって繰り越せます。
個人事業でも赤字の繰り越しはできますが、期間は法人化している場合よりも短く、3年です。
ただし、この繰越控除は確定申告を青色申告で行っていることが前提であるため、まずは手続きを行いましょう。
欠損金の繰越控除は赤字のリスクを軽減できるとともに、黒字の年度の収入を抑え、節税も可能となる制度です。
参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁
経費計上の範囲が広がる
法人は個人事業よりも経費計上の適用範囲が広がり、より税金を抑えられます。
会社でも個人事業主でも、事業にかかった費用は基本的にすべて経費計上が可能です。
法人の場合はそれらの経費に加え、役員報酬や役員賞与にかかった費用も経費の適用範囲に入れられます。
収入から経費が差し引かれることで、課税対象が減少し、節税効果が高まるのです。
関連記事:副業の税金対策とは?いくらからかかる?副業で節税できる方法を詳しく解説!
サラリーマンが副業で会社設立するメリット
会社を設立するための手続きは、煩雑な傾向にあります。時間と手間をかけて手続きを行い、副業を法人化することで、具体的にはどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
社会的な信用度が高まる
一般的に個人事業主より法人のほうが、社会的な信用度は高いです。個人事業主は基本的に開業届を提出するだけで事業を開始できます。
対して、会社を設立する場合は登記や定款の作成と申請など、さまざまな手続きが必要です。
個人事業の開業よりも法人化するほうが条件は厳しく、資本金や出資金によって設立することから、会社のほうが体力のある事業を進めていると見なされやすい傾向があります。
資金調達しやすくなる
法人は、個人事業主よりも幅広い資金調達が可能です。
社債の発行のほか、株式会社であれば株を発行し、投資家から資金を募れます。
また、金融機関からの融資も、個人事業主と比較すると法人のほうが審査に通りやすいです。これは個人事業主に比べ、法人のほうが高い信用度を持っていることが影響しています。
助成金や補助金を利用しやすくなる
会社を設立すると、助成金や補助金の選択肢が増えるため利用しやすいです。
個人事業主の場合も利用できる助成金や補助金はありますが、支給額が法人に比べて少なかったり、審査に通る条件が厳しかったりすることがあります。
決算月を自由に選択できる
会社を設立すると、決算月を自由に選び、繁忙期を避けられます。個人事業主の場合は決算月を選べないため、どの事業者もすべて同じ12月が決算月です。
業種によっては、決算月が事業の繁忙期と重なっている場合もあるでしょう。
法人の場合、繁忙期を回避したり、年末調整や確定申告を行う月をずらしたり、会社にとって有利に働く月に設定できます。
関連記事:会社設立のメリットとは?デメリットも含めて失敗しない会社設立の方法を徹底解説
サラリーマンが副業で会社設立するデメリット
副業の法人化には、メリットだけでなくデメリットも存在します。デメリットも確認した上で会社を設立しましょう。
会社設立のために資金が必要
会社設立を設立するためには、資本金・出資金、そして法人化するための費用など、資金が必要です。
現在は法的に1円から起業が可能ですが、実際には1円の起業は難しいでしょう。
また、会社を設立するための手続き費用として、印紙代・定款認証の費用・登録免許税など、合計200,000~300,000円程かかります。
社会保険に加入しなければならない
会社を設立すると社会保険に入らなければなりませんが、サラリーマンの場合は勤務先でも社会保険料を支払っていることから二重加入が必要です。
社会保険に二重加入する際の健康保険料は、合計した給与から計算が行われ、それぞれの会社の給与から天引きされます。その場合であっても保険証は1枚であり、手続きは自分で行わなければなりません。どの会社の健康保険証を選ぶかは個人の自由です。
また、複数の会社ごとに社会保険に加入するのであれば、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」の手続きを行いましょう。
法人住民税は赤字でも支払い義務がある
会社の場合、赤字でも黒字でも法人住民税を支払わなくてはなりません。
個人事業が赤字になると税金はかかりませんが、会社で赤字が出ても法人住民税の均等割という定額の税金を負担する必要があります。
業績によっては、会社員が副業として会社設立をすると、経済的な負担を大きくなる可能性があるでしょう。
決算業務が複雑化する
法人の決算業務は、個人事業主の確定申告と比較すると工程が多いうえに、専門的な知識を求められます。
そのため会社の規模が大きくなった際には、簿記の資格を持つ従業員の雇用が必要となるでしょう。
経営者本人が決算業務に携わることに負担を感じる場合は、税理士に相談し、決算業務を代行してもらうという手段もあります。
サラリーマンが副業で会社設立する際の注意点
サラリーマンが副業を法人化する際は、勤務先のルールや状況によっては気をつけなければならない点もあります。
副業で会社を設立する際の注意点は次の通りです。
副業禁止に気をつける
勤務先によっては副業を禁止している場合もあるため、会社設立をする際には事前に確認したり許可を取ったりする必要があります。
政府が推奨していることもあって、現在では副業や兼業を認めている会社や企業も増加傾向です。
しかし、業種によっては勤務先の就業規則により、副業や兼業を禁止しているケースもあります。
その場合、副業で会社設立したことが知られると、懲戒処分を受ける怖れがあるため気をつけましょう。
副業で会社設立したらバレないための対策をする
勤務先に副業で会社設立したことを知られたくない場合には、バレないための対策をしなくてはなりません。特に、社会保険の二重加入は、勤務先に副業がバレるきっかけになる可能性が高いです。
また、住民税は給与から天引きされているため、前年よりも高額になった場合、勤務先に会社設立を知られる原因となる可能性があります。
設立した会社の役員報酬は、確定申告の際に普通徴収を選び、勤務先の会社から天引きされないように気をつけましょう。ほかにも、副業での会社設立について家族がほかの人に話してしまったり、同僚につい打ち明けてしまったり、嬉しくてSNSに書き込んだりすると、そこから勤務先にバレやすいです。
副業での会社設立を勤務先に知られたくない場合は、家族としっかり相談し、事情を話して口止めしなければなりません。自身も他言しないようにすることが大切です。
会社設立が必ず成功するとは限らない
副業を法人化することで節税効果が高まったとしても、必ずしも会社設立が成功するとは限りません。万一にも経営に失敗すると、初期投資を回収できずに終わる可能性もあります。
そのような事態に陥らないためにも、会社設立する際には事業計画をしっかりと立ててましょう。
また、節税に対する専門知識を持つ税理士に相談するのも有効です。
サラリーマンが副業で会社設立する前には税理士に相談を!
会社設立のタイミング選びに始まり、登記申請や定款の作成と認証手続きなど、副業の法人化にはやることがたくさんあります。
融資や助成金・補助金の活用を含め、資金調達も行わなければなりません。また、副業しているサラリーマンが自分の会社を設立する理由の1つに、節税があります。
ほかに勤務先を持ちながら、会社設立により高い節税効果を得るためには、税の知識が不可欠です。
こうしたことからも、サラリーマンが副業で法人化する際には、税のプロである税理士にまず相談することをおすすめします。
私たち小谷野税理士法人では会社設立サポートを提供し、法人化へのさまざまなアドバイスを行っています。
会社設立を考えている場合には、1度お問い合わせください。お力になれる自信があります。