令和元年に導入された軽減税率制度は飲食店事業者にとって、日々の取引や帳簿付けに大きな影響を与えています。特にデリバリーなどの提供形態によって税率や事業区分が異なる点は、実務での混乱を招きやすいポイントです。また、確定申告に向けた帳簿整理には、税率ごとの「区分経理」も求められます。本記事では軽減税率制度の概要やデリバリーの軽減税率、簡易課税における事業区分、正確な帳簿管理のポイントを解説します。
目次
軽減税率制度をおさらい
軽減税率制度とは、原則として10%である消費税の税率を、定められた一部の品目だけ8%とする制度です。消費税(地方消費税の税率)は、令和元年10月1日に8%(1.7%)から10%(2.2%)に引き上げられました。
また同時に、税率引き上げによる負担軽減策として、低所得者層への配慮を目的に軽減税率が導入されました。
「外食」は軽減税率には入らない
一般的に外食は軽減税率の対象外となります。以下では、外食の定義やその範囲について詳しく見ていきましょう。
要件
ここでの「外食」とは、飲食店事業者が行う食事の提供を意味します。具体的には、次の要件を両方満たすものが該当します。
- テーブル・椅子・カウンターその他の飲食に用いられる設備のある場所において(場所要件)
- 飲食料品を飲食させる役務の提供(サービス要件)
範囲
飲食店業の事業者が行う食事提供には、飲食料品をその場で飲食させる事業を営む者が行うすべての食事が該当します。つまり、食品衛生法の飲食店営業を営む者でない場合も、上記の要件を満たす場合は外食扱いとなるのです。
参考:3外食等の範囲|国税庁
デリバリーは軽減税率に入る?
そばの出前、宅配ピザの配達などのデリバリーは顧客の指定した場所まで飲食料品を届ける「飲食料品の譲渡」に該当します。
そのため、軽減税率の適用対象となります。つまり、ウーバーイーツや出前館などで料理を注文した場合も軽減税率が適用されることになります。
参考:Ⅲ 外食の範囲 (社員食堂での飲食料品の提供)|国税庁
消費税の確定申告の作成には「区分経理」が必要
最近では、商品の種類によって税率が違う「軽減税率」が始まったので、売上も仕入れも、軽減税率と標準税率に分けて計算しなければなりません。もし古い税率が適用される取引があれば、それも分けて計算する必要があります。
そのため毎日の帳簿付けで、どの税率が適用されるかきちんと分けて記録しておくことが大切です。帳簿をつけ、確定申告書を作るまでの流れは、会社の形によって様々ですが、例えば次のような手順が考えられます。
- 日々の売上・仕入れで適用される税率を計算する
- 売上については発行した請求書の控えなどを、仕入れについては受領した請求書を適用される税率ごとに整理する
- 税率ごとに区分した証ひょう類から帳簿を作成する
帳簿が完成したら勘定科目ごとに税率別の1年間の合計金額を集計します。そして「課税取引金額計算表」を作成し、消費税の確定申告書を作成しましょう。
関連記事:個人事業主が初めて確定申告をする際に知っておきたいこと
簡易課税の事業区分とは?
簡易課税制度とは、消費税の納税額を計算する際、中小事業者の事務負担を軽減するために設けられた特例措置です。
通常、消費税の納税額は「受け取った消費税額(売上税額)」から「支払った消費税額(仕入税額)」を差し引いて計算されます。これを「原則課税」といいます。
しかし、この原則課税では、仕入れにかかった消費税額を正確に把握し、その根拠となる帳簿や書類をきちんと保存しなくてはいけません。これが特に中小企業や個人事業主にとって大きな事務負担となることがありました。
簡易課税では売上にかかった消費税額に、事業の種類に応じて定められた一定の割合を掛けて算出します。これにより仕入れに関する詳細な管理が不要となり、消費税の計算が大幅に簡素化されました。
そして簡易課税制度において、消費税の納税額を計算する際に用いる「みなし仕入率」は、事業の種類によって異なります。この事業の種類を「事業区分」と呼び、現在は6つの区分に分類されています。
関連記事:簡易課税制度とは?消費税の計算方法やメリット・デメリットまとめ
デリバリーの事業区分
通常、店舗に飲食スペースを設けず、自社で製造した飲食物を宅配のみで販売する場合、それは飲食店業の「第4種事業」には分類されません。
このケースは製造業に該当し、「第3種事業」となります。例えば店内で飲食を提供せず、宅配専門でピザを配達しているお店がお客様の自宅にピザを届けた売上高は、第3種事業扱いです。
ただし普段から店内で椅子やテーブルなどの飲食設備を使って飲食物を提供している場合、出前による提供も飲食店業に含まれます。
この場合、簡易課税の事業区分は第4種事業となります。例えば、普段は店内で蕎麦を提供しているお店が、出前で蕎麦をお客様の自宅に配達した場合は飲食店業として第4種事業扱いです。
以下では飲食店が店内飲食・出前・テイクアウトで販売した場合の簡易課税の事業区分をまとめました。
提供方法 | 事業区分 |
店内での飲食 | 第4種事業 |
店内に飲食設備あり・出前 | |
店内に飲食設備なし・出前 | 第3種事業 |
テイクアウト |
帳簿を正しくつけるには?記帳のコツを解説
続いて、正しく帳簿をつけるための記帳のコツを解説します。
こまめに記帳する習慣をつける
帳簿のミスを減らす一番のポイントは、こまめに記録し、確認することです。決算の直前になってまとめて記帳しようとすると、作業量が膨大になり、ミスも増えやすくなります。もし帳簿が合わなかったら、1年分の記録を見直すことになり、とても手間がかかります。
期末に焦らないように、普段からしっかりと帳簿付けを行いましょう。毎日が難しい場合は月末に一度、その月の収入と支出をまとめて残高が合うか確認するだけでも違います。
清算はキャッシュレス化する
経費の精算をキャッシュレスにするのも、ミスを減らす有効な方法です。例えば、会社の支払いに法人カードを使えば、申請ミスや計算ミス、現金の受け渡し間違いなどを防げます。従業員用のカードを発行すれば、経費を一元管理できてさらに便利です。
会計ソフトと法人カードを連携させれば、さらにミスが少なくなります。会計ソフトの中には、クレジットカードの利用明細を自動で取り込み、自動で仕訳してくれるものもあります。
これらを活用すれば業務効率が上がるだけでなく、経費の計上漏れや入力ミスも防げます。
会計ソフトの導入を検討する
帳簿付けのミスを減らすには、会計ソフトを導入して自動化するのが効果的です。表計算ソフトや手書きで帳簿を作成していると、どうしてもミスが起こりやすくなります。
手書きや手入力での帳簿付けは専門知識が必要ですし、書き間違いや抜け漏れ、計算ミスなどが起こる可能性も高まります。
会計ソフトを使えば手作業での計算や転記が不要になり、過去の取引データを探す際も手間がかかりません。
関連記事:消費税の簡易課税方式はどうやって節税する?基礎知識や節税のポイントを解説
デリバリーの軽減税率・事業区分に関するよくある質問
最後にデリバリーの軽減税率・事業区分に関するよくある質問をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
ケータリングは軽減税率に入る?
顧客が指定した場所での加熱調理や給仕を伴う飲食料品の提供は、軽減税率の対象外です。また、ここで言うケータリングは以下のようなケースも該当します。
- 相手が指定した場所で飲食料品の盛り付けをする
- 相手が指定した場所で飲食料品が入る器を配膳する
- 相手が指定した場所で飲食料品を盛り付けた器を、すぐに食事できる状態で配置する
参考:3外食等の範囲|国税庁
料理代行サービスは軽減税率に入る?
軽減税率の適用対象となる「飲食料品の譲渡」には「相手が指定した場所での加熱、調理または給仕等の役務を担う飲食料品の提供」は含まれません。顧客の自宅で料理を行うサービスはこちらに該当するため、軽減税率の対象外です。
参考:消費税の軽減税率制度に関するQ&A(家事代行)|国税庁
キッチンカーの事業区分は?
飲食店業は通常第四種事業に分類されますが、提供方法によっては他の事業区分になることがあります。例えば店内で食事を提供する場合は第4種事業ですが、店舗を持たない宅配専門店やキッチンカーなどのテイクアウト専門店は第3種事業扱いです。
ただしもし自社で調理せず、仕入れた食品をそのままの形で販売しているだけであればまた違った区分となります。この場合は、第1種事業(卸売業)または第2種事業(小売業)に区分されます。
まとめ
消費税の軽減税率制度は、適用税率や事業区分が提供方法や業態によって細かく異なるため、適切な帳簿管理が欠かせません。特に確定申告においては、税率別の「区分経理」が求められ、ミスがあると申告内容に影響が出る可能性もあります。
また簡易課税制度を利用する場合でも、事業区分を誤ると納税額の算定ミスにつながりかねません。こうした制度を正しく活用するためには、税務や会計の専門知識が求められます。
日々の取引内容に不安がある方や、制度の適用に悩んでいる方は、早めに税理士へ相談するのがおすすめです。簡易課税制度や事業区分の判断でお困りごとがあれば、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。