企業が固定資産を途中で売却する際、減価償却費はどうなるのでしょうか。この場合、減価償却費は仕訳が必要になり、売却した損益を計上します。この記事では、固定資産を売却した際の減価償却費の処理方法について解説します。どのような方法で仕訳・計上すれば良いのかを押さえ、今後の会計にお役立てください。
目次
固定資産を売却|減価償却と減価償却費の概要・計算方法
固定資産は企業が長期間使用する資産のことで、売却した場合は取得価額や減価償却の履歴、価格を洗い出した上で計上しなければなりません。ここでは、減価償却の詳細と固定資産を売却したときの計算方法について解説します。
減価償却と減価償却費とは?
まずは、減価償却と減価償却費について解説します。
■減価償却
減価償却とは、経年劣化を理由に価値が低下する固定資産において、購入費用を段階的に経費に計上することです。
■減価償却費
減価償却費は、固定資産を取得した際の費用を、耐用年数に応じて毎年相当額を費用計上するときの勘定科目を指します。
算出方法はさまざまで、中小企業では定額法、定率法、生産高比例法を用いるのが一般的です。定額法や定率法の詳細についてはこちらの記事でまとめているので、併せてご覧ください。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
資産売却時の計算方法
減価償却中の固定資産を売却する場合、定額法と定率法のいずれかを使って減価償却費を算出します。定額法・定率法の算出方法は以下の通りです。
【定額法】 【定率法】 |
どちらを採用するかは資産の種類によって変わります。建物や建造物、建物の付属設備は定額法で計算するのが一般的です。
固定資産を売却した場合の減価償却費の仕訳方法
固定資産を売却する場合、売却価額が帳簿価額を上回るのであれば「固定資産売却益」を計上しましょう。一方、帳簿価額を下回る場合は「固定資産売却損」の科目で仕訳してください。
仕訳する際は、帳簿価額と売却価額との差額をそれぞれの科目で計上します。例えば100万円で取得した固定資産があるとしましょう。減価償却累計額が40万円で、80万円で売却する場合は、20万円の売却益が生じます。仕訳は下表の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 800,000円 | 固定資産 | 1,000,000円 | 固定資産を売却 |
減価償却累計額 | 400,000円 | 固定資産売却益 | 200,000円 |
100万円で取得した固定資産で、減価償却累計額が20万円、60万円で売却する場合は、20万円の売却損になります。仕訳は下表の通りです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 600,000円 | 固定資産 | 1,000,000円 | 固定資産を売却 |
減価償却累計額 | 200,000円 | ー | ー | |
固定資産売却損 | 200,000円 | ー | ー |
売却結果によって勘定科目に変化が生じることから、仕訳する際は注意しましょう。
廃棄した場合は「除却」をする
固定資産を廃棄する場合は「除却」という会計処理が必要です。除却とは、固定資産を廃棄または取り壊すなどして、事業活動で使用しなくなる際に行う会計処理のことです。除却処理を行うことで、固定資産台帳からその資産を取り除き、帳簿上の価値をゼロにできます。
減価償却の途中で廃棄し、その際に廃棄費用がかかるときは、「固定資産除却損」の勘定科目を使用します。減価償却累計額と固定資産除却損を足した金額が、取得金額と同額になるよう処理しましょう。
車や不動産の売却時における特別なケース
車や不動産といった固定資産の売却を検討する方の中には、どのような方法で減価償却するのか分からない方も多いでしょう。ここでは車・不動産の売却時における仕訳について解説します。
車の売却
事業用に購入した車を売却した場合は、車減価償却累計額。例えば100万円の車を耐用年数4年間とし、定額法で減価償却したとします。3年乗り続け、4年目に20万円の価額で売却した場合は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 200,000円 | 固定資産(車) | 1,000,000円 |
車減価償却累計額 | 750,000円 | ー | ー |
固定資産売却損 | 50,000円 | ー | ー |
合計 | 1,000,000円 | 合計 | 1,000,000円 |
車を売却した場合の仕訳では、車減価償却累計額に注目することが大切です。
不動産の売却
個人の場合、不動産売却によって得た売却益は譲渡所得に区分されます。譲渡所得は給与所得などとは計算方法が異なるため注意しましょう。譲渡所得の税金の算出方法は以下の通りです。
- 減価償却費を算出
- 取得費を算出
- 譲渡所得を算出
- 譲渡所得の税金を算出
事業用ではない土地を3,000万円、木造住宅を1,000万円で購入した不動産を、経過年数5年後に6,000万円で売却したとしましょう。上記4項目を順に算出した場合は以下の通りです。
減価償却費=建物購入代金1,000万円×0.9×木造の償却率0.031×経過年数5年
この場合の減価償却費は139万5,000円になります。
次に取得費を算出します。
取得費は不動産の購入代金に、購入において生じた手数料や所有中に支払った費用を加えたものです。
取得費=土地の購入代金3,000万円+(建物の購入代金1,000万円ー減価償却費139万5,000円)+購入時の諸費用(無と仮定します)
取得費は3,860万5,000円になります。
次に譲渡所得を算出しましょう。
譲渡所得=売却価格6,000万円ー(取得費3,860万5,000円+譲渡時の費用(無と仮定))
譲渡所得は2,139万5,000円になります。
最後に譲渡所得の税金を計算します。譲渡所得の税金は譲渡所得時に生じる所得税と住民税です。
譲渡所得の税金=譲渡所得×譲渡所得の税率
譲渡所得税率は不動産を所有していた期間によって変動するので注意しましょう。5年以下であれば短期譲渡所得に、5年超の場合は長期譲渡所得に該当し、以下の税率で算出します。
- 短期譲渡所得:39.63%
- 長期譲渡所得:20.315%
今回の例は5年となり、短期譲渡所得に該当します。計算式は以下の通りです。
譲渡所得税=譲渡所得2,139万5,000円×39.63(%)
不動産を売却する場合は、上述した流れに沿って譲渡所得の税金を算出し、適切に納付するよう心がけましょう。
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減価償却について押さえよう
減価償却資産の売却や廃棄を行う際は、減価償却計算と適切な帳簿処理が求められます。売却益や売却損の処理を正確に行うことで財務状況を適切に反映させ、税務上のリスクを回避できるでしょう。
各会計処理や手続きについて相談や不明点があるときは、いつでもお気軽に小谷野税理士法人へご相談ください。