令和7年1月より要件を満たす人は基礎控除58万円、給与所得控除の最低額が65万円へと引き上げられています。人手不足の解消などのメリットがある一方、源泉徴収などの変更点について適切に対応することが求められるでしょう。今回は、税制改正による変更点や、基礎控除などの引き上げが決定した背景、人事・労務担当の方が押さえておきたいポイントなどを解説します。
目次
103万円の壁についておさらい
年収103万円の壁とは、給与収入103万円を基準に、所得税が課されるのかが決定することを示します。所得税の計算では「基礎控除48万円」と「給与所得控除55万円」を足した103万円を収入から引くのが特徴です。
平成7年に103万円の壁が設けられました。消費者物価指数が86.9であった平成元年から、6年間で約10%上昇したことが理由としてあげられます。
年収が103万円を超えると所得税や住民税などの支払い額が増加するため、従業員の手取り額は減ります。
103万円以内に抑えていた場合より長時間働いても、手取り額が同一であったりマイナスになったりするケースもあるのが特徴です。税負担を軽減させるために、「本当はしっかりと働きたいが働けない」労働者の発生などが、疑問視されてきました。
基礎控除などが令和7年1月から引き上げられた理由
令和7年1月から、基礎控除などが引き上げられています。背景には、以下の通り物価高などの社会情勢の変化によって、人々の生活に与えるマイナスの影響が大きくなったことがあげられます。
人手不足・収入の制限 |
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生活物価の上昇 |
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低所得者や中所得者の税負担を軽減するために、以下の通り上乗せ特例なども創設されています。
- 基礎控除などの見直し:基礎控除「58万円」、給与所得控除の最低保証「65万円」に変更
- 上乗せ特例:生活保護基準などを考慮し、課税最低所得を160万円へ・令和7・8年の税負担の軽減
制度上の仕組みのため、住民税の改正は令和8年度から適用されます。
令和7年11月までの源泉徴収などは、従来通りであると知っておくのもポイントです。年末調整で、改正後の基礎控除分が還付されます。
令和7年度税制改正による変更点
税制改正では基礎控除などが見直されたことで、事業者・従業員ともに恩恵を受けられる可能性が高いと言えます。変更された内容について、ここから詳しく見ていきましょう。
基礎控除・給与所得控除の見直し
基礎控除額の変更点について詳しくは、以下の表にまとめました。
合計所得金額※()内は収入が給与のみ | 改正前 | 改正後(令和7・8年分) | 改正後(令和9年分以後) |
132万円以下 (200万3,999円以下) | 48万円 | 95万円 | 95万円 |
132万円超336万円以下 (200万3,999円超475万1,999円以下) | 88万円 | 58万円 | |
336万円超489万円以下 (475万1,999円超665万5,556円以下) | 68万円 | ||
489万円超655万円以下 (665万5,556円超850万円以下) | 63万円 | ||
655万円超2,350万円以下 (850万円超2,545万円以下) | 58万円 |
給与所得控除の変更点は以下に示します。
給与額 | 改正前 | 改正後 |
162万5,000円以下 | 55万円 | 65万円 |
162万5,000円超180万円以下 | (収入✕40%)−10万円 | |
180万円超190万円以下 | (収入✕30%)+80,000円 |
特定親族特別控除の創設
特定親族特別控除とは、19歳以上23歳未満の親族などを扶養している方が以下の控除を受けられる制度です。
所得額※()内は収入が給与のみの場合 | 控除額 |
58万円超85万円以下 (123万円超150万円以下) | 63万円 |
85万円超90万円以下 (150万円超155万円以下) | 61万円 |
大学生年代の子どもの年収が150万円から188万円に達するまでの間、控除額は段階的に下がっていくのが特徴です。詳しくは、国税庁の公式サイトで閲覧できます。
扶養親族などの所得要件の改正
扶養控除などの要件も変更されており、具体的には以下の通りです。
区分 | 所得要件※()内は収入が給与のみの場合 |
| 58万円以下(123万円以下) |
勤労学生 | 85万円以下(150万円以下) |
大学生年代の子どもを扶養している場合、以前の制度では所得税63万円・住民税45万円の控除を受けられました。
一方、子どもの年収が103万円を超えると、控除は適用できませんでした。今回の税制改正によって、子どもの年収が150万円以下である場合は控除を受けられます。
関連記事:【扶養内でフリーランスとして働く】知っておきたい基礎知識を徹底解説
給与の源泉徴収のポイント
給与の源泉徴収では、年度によって押さえておくべきポイントが変わります。内容を正しく理解しておくと、冷静に対処できるでしょう。ここから詳しく紹介します。
関連記事:源泉徴収する・しないの基準とは?対象の報酬・給与や計算法を解説!
令和7年分
令和7年分の給与の源泉徴収業務で、押さえておきたいのは以下の点です。
- 従業員への対応:扶養控除などの対象の親族がいる方に申告書の作成を依頼
- 年末調整:改正後の数値を適用
以下の通り、申告書の提出には期限が設けられているため、しっかりと把握しておく必要があります。
- 扶養控除など:原則、令和7年12月1日以後最初の給与日まで
- 特定親族特別控除:その年最後の給与日の前日まで
改正後の数値を正しく記載しているのかについて、チェックするのもポイントです。年末調整の詳しい方法については、令和7年8月末以降を目安に、国税庁の公式サイトに掲載されます。
令和8年分以降
令和8年分以降の場合、知っておきたいのは以下の点です。
- 申告書のチェック:申告書に控除対象扶養親族の記載が必要
- 源泉徴収:改正後の税額表を適用
令和7年6月末頃を目安に、令和8年分以降の申告書が国税庁の公式サイトに掲載される予定です。控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち以下のいずれかに該当する方を示します。
- 年齢16歳以上の居住者or非居住者のうち、①年齢16歳以上30歳未満②70歳以上③30歳以上70歳未満で、留学で国内に重世を有しない方or障害者or居住者から生活費・教育費を38万円以上受けている方
令和8年1月1日以降に支払う給与では、令和8年分の数値を適用するのがポイントです。
公的年金などの源泉徴収のポイント
公的年金などの源泉徴収においても、年度によって対応すべきポイントが変わります。ここから詳しく見ていきましょう。
令和7年分
令和7年分の場合、12月に以下の基礎控除額を適用した年間税額と、源泉徴収している税額を精算する必要があります。
年齢 | 12月 | 各月 |
65歳以上 | (公的年金などの月割額✕25%)+10万円 (165,000円未満となる場合は、165,000円) | (公的年金などの月割額✕25%)+65,000円 (135,000円未満となる場合は、135,000円) |
65歳未満 | (公的年金などの月割額✕25%)+10万円 (125,000円未満となる場合は、125,000円) | (公的年金などの月割額✕25%)+65,000円 (90,000円未満となる場合は、90,000円) |
合計所得が88万円超132万円以下で、精算後も源泉徴収税額がある場合、従業員が確定申告すると還付金を得られる可能性があります。給与の場合とは異なり、公的年金の源泉徴収では所得金額からの影響がなく、計算しやすいと言えます。
令和8年分以降
公的年金などに関して、令和8年分以降の源泉徴収では以下の点が変更されます。
- 申告書:合計所得85万円以下の方は、控除対象扶養親族の記載が必要
- 控除額:「(基礎控除額+人的控除額−調整控除額)✕計算の元となった月数」で算出
令和8年分より、申告書の記載方法の変更などに対応する必要があるため、よく理解しておくとよいでしょう。
人事・労務担当の方がやるべきこととは
人事・労務を担当している方がやるべき具体的な内容は、以下の表にまとめました。
計算方法のチェック |
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従業員向けの案内 |
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雇用契約の見直し |
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資金計画の再設計 |
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特に中小企業にとっては、人材確保や経営戦略に大きな影響を与える可能性があるため、早めに対策を取っておくのが賢明です。
税制改正の内容に関する相談は税理士へ
令和7年の税制改正によって、基礎控除などが引き上げられた背景や変更点などを解説しました。基礎控除等の引き上げで人手不足の解消が期待できるため、事業者にとってもメリットがあります。
一方で、撤廃の方向性に進んでいるものの、社会保険への加入が必要な106万円の壁は残っている点などについても、押さえておく必要があります。税制改正に適切に対応したり、経営状況を改善したりする相談は、税理士へ依頼するのが賢明です。
小谷野税理士法人は、税制改正に対応した経営戦略の策定や、税負担の軽減サポートなどの実績が豊富にあります。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。