親族に仕事を頼んでいるけれど、外注費で計上しても大丈夫?そんな疑問を抱える個人事業主や中小企業経営者は少なくありません。形式上は業務委託契約を結んでいても、実態が雇用に近いと判断されると、外注費ではなく給与扱いとなり、思わぬ税務リスクにつながることもあります。この記事では、親族への業務委託が外注費と認められる条件や、給与扱いとなった場合のリスク、実務上の注意点などをわかりやすく解説します。
目次
親族への業務委託における外注費の定義
法人が親族に業務を委託した場合、その支払いが税務上外注費として認められるかどうかは、実態が雇用にあたるか否かがポイントです。たとえ契約書では業務委託であっても、実際の働き方が社員と変わらなければ給与とみなされる可能性があります。
外注費として認められるための条件は、主に以下の通りです。
- 業務の内容や進め方、勤務時間などが、会社側から細かく指示・管理されていないこと
- 業務に必要なパソコンなどの機材・道具は親族自身が負担していること
- 親族が他のクライアントからも業務を受託するなど、独立した事業者として活動していること
- 報酬が時給ではなく、納品された成果物や業務の完了に応じて支払われる成果報酬型であること
- 雇用契約ではなく、業務委託や請負契約として契約書を締結しており、業務内容・報酬・指揮命令の有無などが明確に記載されていること
- 親族が業務の対価として、会社に対して正式な請求書を発行していること
税務署はこれらの要件がそろっているかどうかを総合的に判断します。特に親族間の取引は厳しくみられがちなため、第三者が見ても外注とわかるように契約書や請求書などを揃えておきましょう。
関連記事:外注費は人件費になる?経費計上の可否や節税効果について
外注費と給与の違いについて
外注費と給与は税務上の取り扱いが異なり、1つ目は所得の区分が違います。
外注費は、原則として受け取る側にとって事業所得または雑所得として扱われ、一方で給与はその名のとおり給与所得です。
2つ目は消費税の取り扱いの差です。
外注費は課税仕入れとして扱われるため、支払った側は仕入税額控除を適用できます。
一方で、給与は消費税の対象外(不課税取引)となるため、仕入税額控除の対象にはなりません。
3つ目は源泉徴収の義務の違いです。
給与は所得税の源泉徴収が必要ですが、外注費の場合は原則として源泉徴収の必要はありません。ただし、デザイン料や講演料といった特定の報酬に該当する場合は、外注費であっても源泉徴収が必要です。
これらの違いを理解しておくことは税務処理の適正化につながります。
法人が消費税の課税事業者である場合、外注費として処理すれば仕入税額控除の対象となり、消費税の負担を軽減できる可能性があります。
ただし、実態が雇用契約に近いにもかかわらず、形式的に外注費として処理していた場合は税務調査で給与と判断されてしまうかもしれません。
その場合、源泉所得税の納付義務が生じたり、消費税の仕入税額控除が否認されたりするため注意しましょう。
関連記事:給与と報酬の判断基準とは?税務上の違いや申告ミスのリスクを解説!
親族への業務委託が給与と判断された場合の影響
親族への業務委託が、税務調査などで給与と判断された場合、企業には追加の税負担やペナルティが発生する可能性があります。ここでは、具体的な内容を見ていきましょう。
源泉所得税の追加納付
外注費と処理していた支払いが給与と認定されると、本来であれば源泉徴収すべきだった所得税および復興特別所得税の納付義務が発生します。
企業は過去にさかのぼって税額を再計算しますので、不足分を納める必要があります。また、納付の遅れに対しては延滞税も課されるかもしれません。
たとえば、親族に毎月一定額を外注費として支払っていた場合でも、その実態が給与と判断されれば、企業側は支払い額に応じた源泉所得税を支払う義務が生じますので、予想外の税負担となるリスクがあります。
消費税の仕入税額控除の否認
外注費に含まれる消費税は、原則として仕入税額控除の対象です。しかし、支払いが給与と判断された場合、給与は消費税の対象外(不課税取引)のため、既に控除した仕入税額が否認されます。
そのため、本来控除できなかった消費税を追加で納付する必要が生じ、あわせて過少申告加算税や延滞税が課されるかもしれません。
特に消費税の課税事業者にとっては影響が大きくなるため、外注費処理は慎重に行いましょう。
加算税や延滞税などの課徴金
税務上の誤りにより源泉所得税の納付漏れや、消費税の控除に誤りがあった場合には、本来の税額に加えて加算税や延滞税などのペナルティが発生します。
主なペナルティは以下の通りです。
- 過少申告加算税:申告した税額が本来より少なかった場合に課される税
- 不納付加算税:源泉徴収すべき税金を納付していなかった場合に課される税
- 延滞税:納付の遅延期間に応じて課される税
- 重加算税:仮装や隠蔽などの意図的な行為があったと認定された場合に課される税
このように実態に即した処理を怠ると、後々大きな税務リスクを招く可能性があるため、親族への業務委託は慎重に対応しましょう。
関連記事:業務委託契約の節税対策|税負担を軽減するポイントと注意点
外注費として認められるための対策
親族に業務を委託し、その報酬を外注費として適正に処理するためには、形式的な準備だけでなく、実際の働き方においても雇用とは明確に区別されていることが大切です。
よって、契約書だけでは不十分であり、業務の進め方や報酬の支払い方法など、実態面でも外注としての体制が整っている必要があります。ここでは、外注費として認められるために必要な具体的な対策を紹介します。
業務委託契約の締結
親族に業務を委託する場合は、業務委託契約を締結しておきましょう。契約書には以下のような内容を記載してください。
- 具体的な業務内容
- 報酬の算定基準(時間給ではなく成果物に基づく支払いが望ましい)
- 納期や契約期間
- 再委託の可否
また、税務署に外注費として認められるためには、雇用契約のような指揮命令関係や時間的な拘束がないことを明確にし、親族が独立した事業者として業務を請け負っている形を整えましょう。
外注先としての実態整備
外注先としての独立性を示すためには、形式だけでなく実態もしっかり整えておくことが大切です。たとえば、以下のようなポイントを意識しましょう。
- 業務に必要な機材やソフトウェアを親族側が自身で用意している
- 業務の進め方やスケジュールを会社の指揮命令ではなく自身の判断で決めている
- 業務の結果に対して請求書を発行しており、その記録が残っている
- 親族が他のクライアントの業務も請け負っている
これらの点を日頃から記録しておくと、万が一税務調査が入った際にも、適切な外注であることをしっかりと説明できるでしょう。
関連記事:【税理士監修】法人の税金対策を徹底解説!節税方法から法人化まで
税務調査のポイント
税務調査では、親族への業務委託が適正に処理されているかどうかが重点的に調べられます。
形式上は外注契約であっても、実態が給与とみなされるケースもあるため、調査官は契約書や業務内容に関して詳細にチェックします。税務調査でチェックされるポイントは以下の通りです。
- 契約書の内容
- 実際の業務の進め方
- 報酬の妥当性
- 請求書などの証拠
- 他の取引先との比較
税務調査では、親族との業務委託契約が実態に沿って行われているか確認されます。契約書には、業務内容や報酬額、指揮命令の有無といった項目を具体的に記載しましょう。
また、親族が会社から勤務時間や作業内容などの細かい指示を受けていないか、業務に必要なパソコンや通信費などを誰が負担しているかなども判断材料です。
報酬額については、その業務内容に対して適正かどうかが見られます。もし、同じような業務を他の業者に依頼した場合と比べて、明らかに高すぎたり安すぎたりすると、不審に思われる可能性があります。
さらに、親族からの正式な請求書の発行や、支払い記録の保管状況もチェックされるポイントです。
請求書に不備があったり、支払の記録が曖昧であったりすると、業務委託の実態が疑われる要因となるため注意しましょう。
家族経営における税務上の留意点
家族経営の場合、親族への支払いが給与として扱われるのか外注費として認められるのかは、税務上、慎重な判断が求められます。
生計を一にする親族への支払いについては所得税法上の特例が適用されることがあり、個人事業主か法人かによっても異なります。ここでは、それぞれのケースで注意すべきポイントを見ていきましょう。
個人事業主の場合
個人事業主が、生計を一にする家族に給与や報酬を支払っても、原則は必要経費として認められません。ただし、青色申告者であれば、青色事業専従者給与に関する届出書を税務署に提出し、一定の要件を満たすことで経費として認められます。
一方、白色申告の場合は、事業専従者控除として一定額を所得から控除することが可能です。ただし、いずれの申告形態でも、税務調査においては家族が本当に事業に従事しているのか支払金額が業務内容に見合っているかといった点が厳しくチェックされます。
法人の場合
法人が親族である役員や従業員に給与を支払う場合、適正な金額であれば損金(経費)として計上できます。しかし、同族会社においては特に注意が必要です。
業務内容に見合わない高額な報酬や、他の従業員とのバランスを欠いた給与は、過大役員報酬として税務上否認されるリスクがあります。これは税務調査で重点的にチェックされるポイントの1つです。
また、親族に対する業務委託費を外注費として処理していた場合でも、実態が雇用契約と判断されれば給与扱いとなり、源泉徴収の義務や消費税の控除否認などの問題が生じます。
家族構成や業務の実態をふまえ、第三者から見ても合理的といえる報酬設定を行いましょう。
関連記事:給与と報酬どちらが得?支払う側と受け取る側2つの視点で解説
法人が親族に業務委託するときのよくある質問
最後に法人が親族に業務委託するときのよくある疑問について、それぞれ回答していますので参考にしてください。
親族との契約は口頭でも問題ない?
口頭契約でも法律的には有効とされていますが、税務上は書面で契約内容を明確にしておくことを推奨します。親族間の取引は第三者から見て客観性に欠けると判断されやすいため、契約書を作成しているかどうかは重要なポイントです。
他のクライアントから受注がなくても外注費として認められる?
他のクライアントから受注がない場合でも、直ちに外注費として否認されるわけではありません。
ただし、取引先が一社のみで親族の場合は雇用を疑われる可能性があります。他の仕事の有無にかかわらず、業務の進め方や報酬の支払い方法など外注先としての実態を整えておくことが大切です。
まとめ
法人が親族へ業務委託を行う場合、外注費として認められるか、給与と判断されるかによって税務上の取り扱いは大きく異なります。
外注費として処理するには、契約書を適切に作成し、業務の遂行方法や報酬の支払い方、指揮命令の有無などを明確にしたうえで、独立した事業者としての実態があることを客観的に証明する必要があります。
税務調査では、契約書の内容、業務の実態、報酬の妥当性、請求書の有無などが総合的に判断されますので、形式だけでなく、実態に基づいた証拠がそろっていることが大切です。
もし給与と判断された場合、源泉所得税の追徴課税、消費税の控除否認、加算税・延滞税などのリスクが発生します。
また、家族経営においては、生計を一にする親族に関する税制上の特例もあるため、個人事業主か法人かによって判断基準が異なる点にも注意しましょう。
親族への業務委託や給与の取り扱いに不安がある場合は、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。