株式公開買付(TOB)とは、企業が他の企業の株式を証券取引所を通さずに、直接買い集める手法です。一般的には、他社の経営権を握るために行われるケースが多く、経営側にとっては事業の拡大に繋がる重要なアプローチとなります。
TOBには、相手企業と話し合いの上で進める「友好的買収」もあれば、予告なく仕掛ける「敵対的買収」も存在します。投資家にとっては、資産の価値やリスクに直結する問題になるため「なぜTOBが行われたのか」をしっかりと考察することが大切です。
目次
株式公開買付(TOB)とは
株式公開買付(TOB)とは、特定の企業が他の上場企業の株式を、証券取引所を通さずに直接買い取る手続きのことです。TOBを行う目的としては経営権の取得や事業の拡大などが挙げられます。
一般的に、TOBは経営戦略の一環として行われるケースが多いです。友好的なTOBから敵対的なTOBまで様々な形態があり、投資家は「なぜTOBが行われたのか」を考えることが、投資の判断をする上で重要です。
株式公開買付の目的
TOBの目的は企業の経営権を取得することです。株主に対して魅力的な買付価格や条件を提示できれば、迅速に株式を集めやすくなります。
TOBを実施することで、企業は短期間で事業統合が可能になり、市場の状況に左右されずに経営戦略を進められます。しかし、買付価格を高めに設定する必要があるため、資金面での負担は大きいです。
株式公開買付の主な流れ
投資家にとってTOBの流れを理解することは、投資価値を判断する上で欠かせません。TOBの主な流れは以下の通りです。
公開買付者が買付価格などを提示する
TOBは、買付者が「どの株式を」「いくらで」「いつまでに」「どれくらいの量を」買うのかを公告することから始まります。通常は上場企業や投資ファンドが買付者となります。
広告によって、株主や市場に対して買付の内容が明確になり、取引の透明性を確保することが可能です。提示される買付価格は市場価格よりも高く設定されることが多いため、この段階でTOBに注目が集まりやすいです。
対象企業が公開買付けに対する意見を表明する
次に、買収される側の企業の取締役会が、TOBに対する意見を発表します。買収に対して「賛成」「反対」といった立場を明確に示すのが目的です。
企業が反対の立場を取る場合は、理由や、代替案も公表されるケースが多いです。株主にとっては、企業側の意見が株式を売却する際の判断材料となるため、必ずチェックしなければいけません。
株主が売却を検討・実行する
取締役会の意見が示された後は、株主が提示された条件をもとに、自身が保有する株式を売却するか判断します。TOB期間中に売却を申し出れば、買付者に株式を渡せます。大株主や機関投資家は、売却価格やメリットを踏まえた上で慎重に判断するケースが多いです。
株式公開買付けの結果が出る
TOBの買付期間が終了すると、買付者は買付結果を公表します。目標とする株数を集められた場合は、買収が成立し、企業の経営体制に大きな変化が生じるでしょう。
一方で、必要な株式数を確保できなかった場合は、TOBは不成立となり、計画そのものを断念せざるを得ません。TOBの結果は、株価や市場の動きにも大きく影響します。
関連記事:M&Aを行う際に独占禁止法はどう関係する?事例と注意点を徹底解説
株式公開買付における代表的な戦略
TOBは「友好的TOB」と「敵対的TOB」に分類されます。特に敵対的TOBについては、企業が有利な立場で買収を行うために、対策を行わなければいけません。ここでは、株式公開買付における代表的な戦略について詳しく解説します。
逆買収(パックマンディフェンス)
逆買収とは、TOBを仕掛けられた企業が、逆に買収者の株式を取得しようとする戦略です。攻められる側が一転して攻める側に回るという構図から、1980年代に流行したゲーム「パックマン」になぞらえてこの名前が付けられました。
逆買収を実行するためには、資金を十分に用意して、市場に対して影響を与えなければいけません。買収元企業の株価が上昇すれば、逆買収によるプレッシャーによって敵対的TOBを断念させられる可能性もあります。
ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、買収には関係のない企業の介入によって、敵対的TOBを阻止する戦略です。対象企業の経営陣と良好な関係を築きながら、買収者に代わって株式を取得するのが第三者企業の役割です。
ホワイトナイトは、敵対的TOBによって経営の主導権が奪われるリスクを回避できる点がメリットです。また、ホワイトナイトの存在によって「安心して株を購入できる」と考える株主は多く、株価の安定にも繋がりやすいです。
焦土作戦(クラウンジュエル)
焦土作戦(クラウンジュエル)とは、自社が保有する価値の高い資産や、収益性の高い事業を売却する戦略です。企業の魅力を意図的に低下させ、買収のメリットを失わせる目的があります。
例えば、買収者が特定の事業や技術に価値を見出している場合は、それを先に手放すことで、相手がTOBを行う理由がなくなります。しかし、焦土作戦は企業の価値に悪影響を及ぼす可能性があるため、安易に行うべきではありません。
関連記事:事業売却は会社売却と何が違う?それぞれのメリット・デメリットを解説
毒薬条項(ポイズンピル)
毒薬条項は、敵対的TOBに対する牽制として知られている戦略です。一定の条件を満たした場合において、既存株主に対して新株や新株予約権などを配布して、買収者の持株比率を少なくさせます。
買収者が企業の支配権を握るためには、さらなる出資が必要になります。経済的な負担が大きくなるため、買収そのものが見送られるケースも多いです。実際に毒薬条項が発動されるケースは少ないですが、敵対的TOBに対する抑止力として理解しておきましょう。
株式公開買付のメリット
TOB(株式公開買付)は、買収を仕掛ける企業と、それに応じる側の株主の双方にメリットがあります。ここでは、TOBの立場ごとの主なメリットについて紹介します。
買収成立までの見通しが立ちやすい(買付者)
TOBでは、事前に買付価格や買付期間、対象となる株式数などの条件が明示されるため、買収プロセスの全体像を予測しやすくなります。買付者が中長期的な経営戦略に沿った買収スケジュールを立てやすくなるのは、株式公開買付のメリットといえるでしょう。
株価変動の影響を受けづらい(買付者)
一般的な市場取引は、株価の変動に左右されるリスクが常に存在します。しかし、TOBは事前に設定された価格で取引を行うため、市場の不安定な動きに惑わされずに株式を取得できます。
市場価格よりも高く株式を売却できる(株主)
株主にとってのメリットは、TOBの際に市場価格より高い価格で株式を売却できる点です。
一般的に、買付者は株価に対して上乗せした価格を提示するため、株主にとって魅力的な取引内容であるのは間違いありません。
投資家にとってTOBは短期間で高い利益を得られる機会であり、資産運用の手段としても注目されています。
株式公開買付のデメリット・注意点
TOBは数多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、TOBの主なデメリット・注意点について紹介します。
取引市場に比べ買付コストがかかる(買付者)
TOBの実施には、通常の市場取引とは比較にならないコストが発生します。例えば、株主に売却を促すための買付価格の設定や、法的手続き、財務・法律アドバイザーへの報酬、広報活動費など、多岐にわたる出費が発生します。
また、公開買付届出書の提出や、情報開示義務の遂行など、法的・実務的な負担も大きく、中長期的な目線でリスクやコストを管理した上で、TOBを行うべきか判断しなければいけません。
敵対的TOBは成功率が低い(買付者)
TOBの中でも、対象企業の同意を得ずに進める「敵対的TOB」は、難易度の高い取引形態です。経営陣が反発し、防衛策を講じた場合には、買収が成立しない可能性が高くなります。
例えば、先ほど述べた毒薬条項やホワイトナイトが導入されると、買収コストは大幅に上昇し、プロジェクト全体の見直しを迫られることも少なくありません。コストだけがかかってしまうケースも多いのが実情です。
意図しない株式の売却を迫られる可能性がある(株主)
TOBに応じなかった株主にも影響が及ぶケースがあります。日本の会社法では、「株等売渡請求式」は議決権の90%以上を取得した場合に、残りの株式を強制的に取得する「スクイーズアウト」という手続きを実施できます。
そのため、本来売却を望んでいなかった株主であっても、意思に反して保有株式を手放さなければならない事態に直面するかもしれません。特に少数株主にとっては、このような強制的措置が予期せぬ不利益となることがあるため、TOBの条件を事前に把握することが重要です。
関連記事:営業権とは?M&Aにおける評価方法や償却方法について解説
まとめ
株式公開買付(TOB)とは、ある企業が特定の企業の株式を、証券取引所を通さずに株主から直接買い取る手法を指します。買収や資本提携などを通じて企業の価値を高めたいと考えている場合に用いられるケースが多いです。
TOBのメリットは、株式の取得が短期間で行える点や、一定数の株式をまとめて確保できる点にあります。一方で、買収が敵対的と受け取られた場合、企業イメージが損なわれる可能性もあるため、慎重に行わなければいけません。
TOBは、M&Aや事業再編の場面において重要な役割を果たす手法の1つです。ビジネスに携わる方や投資家は仕組みを正しく理解しておきましょう。
また、TOBによって発生する譲渡損益は申告分離課税の対象となります。このようなケースでの納税処理、特に損益通算は複雑になるため、できれば専門家である税理士に相談をすることをおすすめします。