基礎控除はいくらに引き上げられた?令和7年度の税制改正についても解説
令和7年度の税制改正では、基礎控除の金額が引き上げられることになりました。基礎控除が引き上げられたことで、私たちの税負担はどのように変化するのでしょうか。
本記事では、令和7年度の税制改正の概要や基礎控除のしくみ、新たな基礎控除の適用時期などについて解説していきます。
目次
令和7年度の税制改正の概要
令和7年度の税制改正では、基礎控除の引き上げや特定親族特別控除の創設に加え、防衛特別法人税などの新しい税制度の導入、企業版ふるさと納税の延長といった様々な面からの見直しが行われました。以下では、今回の税制改正の目的や主な変更点について解説していきます。
令和7年度の税制改正の目的
令和7年度の税制改正の目的は「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の促進とさらなる発展です。この目的を達成するために、具体的には下記のような問題に対処することを見据えています。
- 物価の上昇に伴う税負担
- 就業調整対策
- 老後の資産形成の促進
- 国際環境の変化
- 防衛力を強化するための財源
- 中小企業の成長支援
これらの問題に対処するための策として、基礎控除や給与所得控除の引き上げ、新たな控除の創設といった個人所得課税の見直しがされました。さらに中小企業者等の法人税軽減税率の見直しや防衛特別法人税の創設といった法人課税の改正が行われたのです。
令和7年度の税制改正による主な変更点
令和7年度の税制改正の主な変更点は以下の通りです。
- 個人所得課税の見直し
- 新しい税制度の導入
- 法人課税の見直し
- 国際課税制度の見直し
- その他の改正
まず、個人所得課税の見直しでは、基礎控除と給与所得控除の額が引き上げられています。これらに加え、19〜22歳の子等に係る新たな控除として特定親族特別控除が創設されることになりました。新しい税制度の導入では、防衛力を高めるための財源確保のための防衛特別法人税や高度な資源循環投資促進税制が導入されます。
法人課税については法人税軽減税率が引き上げられ、中小企業経営強化税制についても拡充されることになりました。また、地域未来投資促進税制の期限が延長となり、内容も見直されています。国際課税制度では、グローバル・ミニマム課税の法制化および外国人旅行者向け免税制度が見直され、より安定した税収と国際競争力の強化の実現を目指す内容に変更されました。
その他の改正としては、新リース会計基準の導入や確定拠出型年金の限度核の引き上げ、電子取引データに関する重加算税の見直しなどが挙げられます。どの内容も、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の促進とさらなる発展を目指すために欠かせない内容と言えるでしょう。
今回引き上げられた基礎控除ってなに?
今回の税制改正の変更点である個人所得課税の見直しでは、基礎控除額が引き上げられました。以下では、基礎控除とはどのような仕組みなのか、基礎控除を受けるためにはどのような手続きが必要なのか、基礎控除の概要について解説していきます。
所得と控除
基礎控除は納税者の所得から一定額を控除できる制度です。そもそも所得とは、給与所得の場合は、1年間の収入の合計額から給与所得控除を差し引いた金額を指しています。
一方の控除は決まった金額を差し引くことを意味しており、個人の所得や経済状況に応じて無理なく納税できるように、基礎控除や扶養控除といった様々な種類の所得控除が整備されています。具体的な所得控除の種類は以下の15通りです。
- 基礎控除
- 扶養控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 勤労学生控除
- ひとり親控除
- 寡婦控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 雑損控除
それぞれの控除には利用するための要件が設けられていますが、基礎控除については年間の合計所得額が2,500万円以下のすべての人が対象となっています。
基礎控除を受ける方法
基礎控除は年末調整または確定申告を行うことで利用可能です。会社に勤務している場合は年末調整時に基礎控除申告書を勤務先に提出しましょう。個人事業主の場合は確定申告を行う際に、基礎控除の額を記載する欄に自分の所得額に応じた基礎控除額を記載してください。
関連記事:個人事業主に適用される所得控除はいくつある?控除の種類や注意点を解説
令和7年度の税制改正により基礎控除が引き上げられた
基礎控除額は、1年間の合計所得金額別に設定されています。今回の税制改正では、合計所得金額の区分が変更となっただけでなく、基礎控除額も引き上げとなっています。以下より、新たな基礎控除が適用される時期や具体的な金額について解説していきます。
適用時期
新たな基礎控除が適用されるのは令和7年分の所得からです。つまり、2025年1月からの所得については新たな基礎控除額が適用されます。
基礎控除の金額
これまで基礎控除額の区分は1年間の合計所得金額が2,400万円からでしたが、今回の税制改正により2,350万円以下という区分が設けられています。
今回の改正によって、設定される基礎控除の金額と区分は以下の通りです。
1年間の合計所得金額 | 基礎控除額 |
2,350万円以下 | 58万円 |
2,350万円超 | 48万円 |
2,400万円超 | 32万円 |
2,450万円超 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
上記からも分かるように、1年間の合計所得金額が2,350万円以下の人については基礎控除額が10万円引き上げられています。その他の区分については基礎控除額の引き上げはありません。
給与所得控除も併せて引き上げとなった
給与所得控除は会社員やパートなど給与所得者が利用できる制度で、1年間の給与収入額に応じて一定額を控除できる仕組みのことを指します。これまで、給与所得控除の最低保証額は55万円でしたが、今回の税制改正によって65万円まで引き上げられたのです。具体的な区分ごとの給与所得控除額は以下の通りです。
給与収入額 | 給与所得控除額 |
190万円以下 | 65万円 |
190万円超 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
所得税の計算方法は?
基礎控除が10万円引き上げられたことにより、1年間の合計所得金額が2,3500万円以下の人の所得税の負担額は少なくなりました。では、具体的に所得税はいくら納めれば良いのでしょうか。以下では、所得税の税率や計算方法について解説していきます。
1.所得金額を求める
所得税を計算する際にまずやるべきことは所得金額の計算です。所得金額は収入から必要経費を差し引くことで計算できます。例えば、個人事業主の場合、収入が500万円、必要経費が100万円だとすると500万円-100万円で所得額は400万円です。
給与所得者の場合、収入が500万円だとすると給与所得控除は144万円になるので500万円-144万円で所得額は356万円になります。給与所得控除は所得額に応じて変わるため、上記で解説した表を参考に求めましょう。
2.課税所得金額を求める
課税所得金額とは、税金が課せられる所得のことです。この課税所得額を基に所得税を計算します。課税所得額は所得から各種控除を差し引くことで計算可能です。例えば、上記の給与所得者の例で解説すると、所得額の356万円から基礎控除額の58万円を差し引いた金額が課税所得額となります。
356万円-58万円=298万円 |
つまり、上記の例では298万円に対して所得税が課せられます。
個人事業主で青色申告を利用している場合は、事業所得などから最大65万円の青色申告特別控除も利用可能です。自分がどの所得控除を利用できるのか、予め調べておきましょう。
3.所得税額を求める
所得税額は課税所得額×所得税率-控除額で求めましょう。所得税は超過累進課税制度を採用しているため、一定のラインを超えた部分に関してはより高い税率が課せられるようになっています。そのため、税金が高くなりすぎないように調整する目的で、一定額を控除できる仕組みになっているのです。この控除額は、課税所得額に応じて定められています。
具体的な所得税額は、国税庁が発表している速算表を用いて計算できます。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~649万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
先ほどの例を用いて考えると、課税所得金額298万円に係る所得税率は10%で控除額は9万7,500円です。
298万円×10%-9万7,500円=20万500円 |
つまり、このケースで課せられる所得税額は20万500円ということになります。
関連記事:個人事業主の所得はいくらが得?税金対策のボーダーライン
4.所得税額から税額控除を差し引く
税額控除とは計算した税金から直接差し引ける控除のことで、以下のような種類があります。
- 配当控除
- 分配時調整外国税相当額控除
- 外国税額控除
- 住宅借入金等特別控除
- 政党等寄附金特別控除
税額控除は基礎控除のように誰でも利用できるわけではありません。例えば、住宅借入金等特別控除は住宅ローンを組んでマイホームを購入または増築、改築した場合、配当控除は配当所得がある場合など、それぞれ利用できる条件があります。上記のような控除の対象である場合は、所得税額から差し引くことが可能です。
まとめ:基礎控除は58万円に引き上げられ税負担が変化した
所得から一定額を差し引くことができる所得控除という制度には、扶養控除や配偶者控除、寡婦控除といった様々な種類があります。なかでも基礎控除は、1年間の合計所得金額が2,500万円以下の人であれば誰でも利用できる控除で、それぞれの経済状況に応じた納税をするための大きな役割を担っています。
令和7年度の税制改正では、個人所得課税の見直しが行われ基礎控除額が48万円から58万円に引き上げられました。今回の改正によって、1年間の合計所得金額が2,350万円以下であればこれまでよりも10万円多く控除できるようになったのです。
所得控除にはそれぞれ利用するための要件が設けられていますが、基礎控除はその中でも対象となる人が多い制度であるため、今回の税制改正による変更点を把握しておきましょう。