新規開業・スタートアップ支援資金は、創業者または事業開始後おおむね7年以内の事業者を対象とした融資制度です。対象者の範囲が広いため、創業期および創業から間もない頃の資金調達手段として高い人気を誇ります。そんな新規開業・スタートアップ支援資金ですが、創業者と事業実績がある場合で審査でチェックされる要素が異なる点に注意が必要です。
今回は新規開業・スタートアップ支援資金の審査について詳しく解説します。
目次
【新規開業・スタートアップ支援資金】創業融資の場合の審査
新規開業・スタートアップ支援資金は新たに事業を開始する場合の創業融資としても利用可能です。
以前は創業者および税務申告2期を終えていない事業者のみを対象とした「新創業融資制度」が存在しました。しかし新創業融資制度は2024年3月に廃止されています。新規開業・スタートアップ支援資金が創業融資の代表的な制度といえる状態です。
今回は、新規開業・スタートアップ支援資金を創業融資として利用する場合の審査でチェックされるポイントを4点紹介します。
申込者の経歴
新規開業・スタートアップ支援資金に限らず、創業融資で重視される要素の1つが申込者の経歴です。
日本政策金融公庫の創業計画書フォーマットでは、経営者の略歴等を記載する箇所があります。具体的な記載項目は以下の5つです。
- 経営者の略歴(勤務先、担当業務、役職、身につけた技能等)
- 過去の事業経験(事業経験なし、現在も継続中、すでにやめているの3つから選択)
- 取得資格
- 許認可
- 知的財産権等
この中でも特に重要なのが創業予定の事業に関する経験です。創業予定の事業に関連する経験が豊富なほど審査で有利になると考えられます。
創業計画の内容
創業計画書には、創業予定の事業に関する具体的な計画として以下の事項を記載する必要があります。
- 事業内容
- 取り扱い商品・サービスの内容
- セールスポイント
- 販売ターゲット・販売戦略
- 競合・市場など自社を取り巻く状況
- 必要な資金(設備資金・運転資金それぞれ記載)
- 資金調達の方法および金額
- 事業の見通し(月平均)
創業計画で特に重視される要素は以下の3つです。
- 事業に対する情報収集や準備の程度、意欲・熱意
- 必要な資金や事業の見通しの根拠および妥当性
- 返済能力(問題なく返済できるだけの収益力を見込めるか)
根拠がなく主観・希望的観測に基づいた金額を書いても評価につながりません。それどころか「実現可能性が低い」「事業に対する準備が足りない」と審査に悪影響を及ぼす恐れがあります。
自己資金
自己資金とは事業のために経営者自身が用意するお金です。
新規開業・スタートアップ支援資金に自己資金の要件はありません。日本政策金融公庫は自己資金について「自己資金は重要な要素ではあるが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要」と述べています。
参考:よくあるご質問 創業をお考えの方-Q9 自己資金はいくらあれば融資を受けられますか。|日本政策金融公庫
したがって、自己資金の額が少なくても創業計画全体の質が高ければ審査に通過できる可能性はあります。
しかし同時に、自己資金が重要な要素であるのは事実です。実際、自己資金が多いほど審査で有利になりやすく、高額の融資を受けやすい傾向にあります。
必須要件でないとはいえ、なるべく多くの自己資金を用意するのが理想です。
関連記事:自己資金なしでも創業融資を受けることは可能?自己資金なしで起業・創業を成功させるポイントを解説!
関連記事:自己資金と資本金の違いとは?自己資金の範囲はどこまで?
申込者の信用情報
申込者の信用情報もチェックされます。
信用情報とはクレジットカードや融資・ローンなど信用取引に関する情報です。日本政策金融公庫の融資に限らず、信用取引の審査では申込者の信用情報が確認されます。
信用情報の中でも重視されると考えられる要素は以下の2点です。
- 他社からの借入状況
- 返済遅延・滞納・保証履行・債務整理・破産等など異動(事故)情報の有無
他社からの借入が多い場合、返済負担が重くなりすぎると判断されて審査に通過できない可能性が高いでしょう。
また、2の異動(事故)情報が登録された状態は「信用情報に傷がある」「ブラックリストに登録されている」と呼ばれます。信用情報に傷がある場合、新たな融資契約を締結するのは難しいと考えられます。
関連記事:CICとは?個人事業主の融資審査で重要となる信用情報について解説
関連記事:JICCとは?法人の融資審査でチェックされる信用情報について解説
【新規開業・スタートアップ支援資金】事業実績あり・法人成りの場合の審査
新規開業・スタートアップ支援資金の対象者は、記事の冒頭でも触れたように事業開始後おおむね7年以内の事業者です。
個人事業主・法人問わず利用は可能ですが、日本政策金融公庫の融資に申し込む際には、以下の書類を提出する必要があります。
【個人事業主の場合】
- 最近2期分の申告決算書
【法人の場合】
- 最近2期分の確定申告書および決算書
- 最近の試算表(決算後6ヵ月以上経過している、または事業を始めたばかりで決算を終えていない場合)
はじめて申し込む場合は、企業概況書や本人確認書類、法人の場合は履歴事項全部証明書等も必要です。
個人事業主・法人ともに最近2期分の事業実績は必ず確認されます。審査に向けて事業実績からどのような情報を確認するか、どこが重視されるかを知っておくのが理想です。
事業実績がある場合の審査で重視されると考えられる要素について解説します。
関連記事:新規開業・スタートアップ支援資金は個人事業主も対象!概要や特徴を紹介
財務状況
財務状況とは、資金調達や資金運用など文字通り財務に関する状態のことです。融資審査では財務状況の中でも特に以下の7点を重視すると考えられます。
- 現預金の残高
- 売掛金等の残高
- 債権の回収可能性(不良債権の有無)
- 棚卸資産の回転期間、不良在庫や架空在庫の有無
- 他社からの借入状況
- 買掛金等の残高
- 自己資本比率
どれか1つでも不自然な点やマイナス評価につながる要素があると、審査で不利になる恐れがあります。不良在庫や不良債権は融資に申し込む前に可能であれば解消するのが良いでしょう。また、自己資本比率が平均よりも低い場合は、自己資本比率を高めるための施策をとるのが理想です。
関連記事:自己資本比率とは?計算方法と業種別の目安
関連記事:新規開業・スタートアップ支援資金とは?自己資金なしでの利用可否を解説
収益力
収益力は返済能力に直結するため審査で必ずチェックされます。収益力の判断に用いると考えられる要素は主に以下の3つです。
- 経常利益が黒字であるか
- 総資産利益率(ROA)
- 簡易キャッシュフロー
1の「経常利益が黒字であるか」については、融資において損益計算書で確認できる利益の中で最も重要なのは経常利益です。特別損失が原因で税引前当期純利益が赤字になったとしても、経常利益が黒字であれば大きな影響は出ないと考えられます。
2の「ROA」とは、企業が保有する総資産を効率的に運用できているかの指標です。ROAが高ければ資産を有効活用して収益をあげていると判断できるため、高評価につながります。
3の「簡易キャッシュフロー」は、利益から生み出されるキャッシュの概算値です。一般的には「税引後当期純利益+減価償却費」で計算します。
収益力が低ければキャッシュを生み出せず、返済原資を確保できません。したがって収益力が低い場合は審査に通過できない可能性が高くなります。
会社の将来性
会社の将来性は決算書のほか、事業計画や返済計画などを用いて総合的に判断される部分です。
もし財務諸表上の数値が悪くても、近い将来に改善の見込みがある旨を説明できれば高評価を得られる可能性があります。反対に一見好調でも持続性や成長性を期待できなければ、将来性は低いと判断されてしまいます。
今後の事業展開や新事業について質問されるケースも多いです。どのような質問に対しても根拠に基づいた的確な回答ができるよう準備しましょう。
懸念事項の有無
財務状況、収益力、会社の将来性に問題がみられなくても、懸念事項が存在する場合は審査に通過できない可能性が高くなります。
融資審査における懸念事項の具体例は以下の通りです。
- 税金や社会保険料の滞納がある
- 現在の財務状況には問題がないものの、過去に借入金の返済遅延を起こしたことがある
- 代表者の信用情報に傷がある
税金や社会保険料の滞納については、融資申込までに解消すれば審査で特に問題視されない可能性があります。
一方で、過去の返済遅延や信用情報の傷を意図的に解消することはできません。そして、これらは返済能力に問題有りという判断につながる恐れのある要素です。
懸念事項が存在する場合は審査が厳しくなる可能性が高いと考えておくべきでしょう。
新規開業・スタートアップ支援資金の審査に向けて準備や対策を進めよう
新規開業・スタートアップ支援資金の審査は、創業者とそれ以外でチェックされる要素が大きく異なると考えられます。そのため、まずは自身がどちらに該当するかの判断が必要です。
審査で重視されると考えられる要素を知ることで、融資審査の準備や対策を進めやすくなります。今回紹介した内容を押さえ、新規開業・スタートアップ支援資金の審査に通過する可能性を上げるためにできることを行いましょう。
新規開業・スタートアップ支援資金の審査についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。