事業を営む中で、思いがけない事情で資産を失ってしまうことがあるかもしれません。そんな場合に備えて知っておきたいのが「雑損控除」です。たとえば、災害や盗難、横領などによって生活に必要な資産を損失した場合、雑損控除を活用することで税負担を軽減できます。本記事では、雑損控除の基本から損失額の計算方法、申告手続き、注意点までをわかりやすく解説します。
目次
雑損控除とは?
雑損控除は地震・火災・洪水などの自然災害や盗難・横領などによる損失に適用できる所得控除です。実際の損失額から保険や補填金を差し引いた額に基づいて控除ができる仕組みです。ここでは雑損控除の対象となる要件と資産について解説します。
雑損控除の対象となる要件
まず、突発的・偶発的な理由による損害であることが前提であり、以下の要件を満たしていなければいけません。
- 損失の原因が具体的な災害(例:地震、台風、火災など)によるものであること。または、空き巣被害、車上荒らしなど他人に金品を不正に取られること。
※単なる経済的な損失や納税者自身の意思による資産の廃棄、詐欺や恐喝も対象外です。 - 損失を被った資産は、納税者自身が所有しているものであること。
- 損失を受けた資産が、日常生活や生計の維持に必要なものであること。
- 生計を共にする家族が所有する場合、その家族の総所得金額が一定の基準を満たしていること。
控除の対象となる資産
控除の対象となる資産には、以下のようなものが挙げられます。
- 生活に必要な住宅(家屋や設備など)
- 家電製品(例:冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど)
- 家具(例:テーブル、椅子、ソファー、収納家具など)
- 自家用車
ただし、以下に該当する資産は雑損控除の対象外となります:
- 事業用資産(損失が発生した場合は、雑損失や修繕費として経費計上する可能性がある)
- 高価な貴金属(例:金のペンダントやダイヤモンドの指輪など)
- 趣味や娯楽に使用する品物(例:絵画、骨董品、ゴルフ用品など)
- 贅沢品(例:高級時計、ブランドバッグなど)
雑損控除は、生活にかかる部分にのみ適用されるもので、事業用の資産は対象外です。自宅と事務所を兼用している場合は、自宅とみなされる部分のみが適用範囲になります。
控除の対象となる損害
控除の対象となる損害には、具体的には以下のようなケースが該当します。
- 地震、台風、火事などの自然災害による物理的損害
- 盗難によって失われた資産
- 横領による損失
また、損害の発生時点や原因についての明確な証拠が必要です。加えて、被害の程度に応じて、以下のような費用も控除の対象となる場合があります。
- 修理や復旧のために支出した金額
- 被害拡大防止のための対策費用
ただし、一定のケースについては適用外とされる場合があるため、申告前に詳細を確認しておきましょう。
参考:No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)|国税庁
関連記事:確定申告の所得控除15種類と適用条件を徹底解説 | 会社設立の基礎知識
雑損控除の計算方法
雑損控除によって控除される金額は、以下のいずれかの多い方です。
A:(差引損失額)-(総所得金額等)×10%
B:(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
差引損失額とは、税務上では実際に損害を被った金額のことを指します。差引損失額がいくらになるのかは、被害割合や減価償却費、保険金の受取額が関係します。
この差引損失額をもとに総所得金額からの差額を比較して、A・Bいずれか金額の多い方が、雑損による所得控除額となります。雑損控除として申告する際は、資産の取得額からこれらの費用を差し引いて、実際の控除対象となる損失額を算出する必要があります。
以下より、差引損失額と雑損控除額の計算方法について順に解説をしていきます。
差引損失額の計算方法
差引損失額を算出するためには、対象となる資産の取得額や被害割合、保険金の受取額などが関係します。ここでは具体的な数字を例に、差引損失額の求め方について順を追って計算をしていきます。
仮に被害にあった資産の状況が以下の条件だったとします。
- 資産の取得額:500万円
- これまでの減価償却費:300万円
- 被害割合:40%
- 保険金の受取額:20万円
まず、資産の帳簿価額(未償却残高)を算出します。その際の計算式は以下のようになります。
資産の取得額 − 減価償却費 = 帳簿価額(未償却残高) 500万円-300万円=200万円 |
次に帳簿価額に被害割合をかけて損害額を求めます。
帳簿価額 × 被害割合 = 損害金額 200万円 × 40%=80万円 |
さらに保険金で受け取った額は控除の対象外になりますので、上記で算出した損害額から保険金の受取額を差し引きます。
損害金額-保険金の受取額=差引損失額 80万円-20万円=60万円 |
これらの計算により、実際の控除対象となる差引損失額は60万円となります。
ここでの計算で難しいのは減価償却費の算出でしょう。資産の耐用年数から減価償却費を算出する必要があります。耐用年数は資産ごとで異なるので、損害をうけたのが複数の資産ともなればなおさらです。
減価償却の対象となる資産の管理や計算は複雑なため、できれば専門家や税理士に相談をしながら算出することをおすすめします。
雑損控除額の計算方法
次に実際に申告する雑損による所得控除額を計算します。
先ほど、差引損失額から総所得金額をもとに算出するAと、災害関連支出の金額をもとに算出するB、いずれか多い方が申告できるとお伝えしました。以下より具体的な数字を用いてそれぞれの控除額を求めてみましょう。
たとえば以下の条件だった場合、どちらの金額が控除対象となるか計算してみます。
差引損失額:80万円
総所得金額:500万円
災害関連支出の金額:10万円
<Aの計算式>
(差引損失額)-(総所得金額等)×10% 800,000-(5,000,000×10%=500,000)=30万円 |
<Bの計算式>
(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円 100,000-50,000=5万円 |
この場合、Aの金額で雑損控除を申告することになります。
雑損控除として申告するには、これらの計算に必要な情報や書類をそろえておく必要があります。雑損控除は確定申告の際に行いますので、それまでに前もって計算をしておくとよいでしょう。
関連記事:税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説! | 会社設立の基礎知識
雑損控除の申告手続き
雑損控除を受けるためには、確定申告での手続きが必要です。先ほど求めた雑損控除額と必要書類をそろえた上で、所定の様式に従って記入・提出することが求められます。
ここでは、雑損控除の申告方法、必要書類の内容、確定申告書への具体的な記入方法について詳しく解説します。
確定申告で雑損控除を申請する方法
雑損控除の申告は確定申告を通じて行いますが、申告の際には損失を立証するための資料も必要です。具体的には、災害の被害を示す写真や修理費用の明細書、保険金の支払い証明書などが求められます。これらの書類を揃えて、申告書とともに税務署に提出します。
また、税務署からの問い合わせに対応できるように、関連書類は保管しておくことが大切です。
雑損控除の申告に必要な書類
雑損控除の申告に際しては、通常の確定申告書以外にも以下の書類が必要となります。これらの書類は事前に準備しておきましょう。
- 損失金額を証明する資料
- 災害の被害を示す写真
- 修理費用の明細書
- 保険金の支払い証明書 など
- 損失のあった資産に関する明細書
- 雑損失の金額の計算書(災害関連による損失がある場合)
確定申告書の記入方法
確定申告書には「第一表」「第二表」の2枚があり、雑損控除を申告する場合には「雑損控除の明細書」という別紙の提出も必要です。
各記載箇所と記載内容は以下のとおりです。
<確定申告書(第二表)>
確定申告書(第二表)の雑損控除に関する事項㉖に「損害金額」と「保険金などで補填される金額」、「差額損失額のうち災害関連支出の金額」にそれぞれの金額を記入します。
たとえば損失が100万円であれば、該当の欄に1,000,000と記入します。続けて受け取った保険金や国からの補助金などで補填された金額と「差引損失額のうち災害関連支出の金額」を記入します。
<確定申告書(第一表)>
確定申告書(第一表)の「雑損控除」欄には、実際の控除額を記載することになります。先ほどの「雑損控除額の計算方法」で算出したいずれか高い金額をここに記入することになります。
<雑損失の金額の計算書>
雑損失の金額の計算書は、災害関連による損失がある場合にのみ提出をします。確定申告書(第二表)の「差引損失額のうち災害関連支出の金額」に記入する際は、こちらの計算書も合わせて提出をしましょう。
また、雑損控除を受けるためには、必要に応じてその理由となる書類を別途準備し、申告書とともに提出する必要があります。被害の証明となる写真や修理費の明細、保険金の受取証明書などを用意し、控えとしてファイルしておくことが望ましいです。
記入が完了したら、必ず誤りがないかを再確認してください。不備があると申告が受理されない可能性がありますので、丁寧な確認が必要です。万が一わからない点があれば、税務署や専門家に相談することをおすすめします。
雑損控除の確定申告について不安なことがあれば、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。
まとめ
雑損控除は、自然災害や盗難による損失を補填し、経済的負担を軽減する有効な制度です。控除の対象は生活に必要な個人資産に限定され、事業用資産は雑損失や修繕費として分けて計上することになるでしょう。特に自宅兼事務所を構える事業主にとっては、個人資産と事業用資産の仕訳は大変になるでしょう。
また、申告時には損失金額を計算したり、必要書類をまとめたりと煩雑な作業に追われることになります。誤った金額や書類が足りないまま申告を行ってしまうと、税務署からの指摘を受けることにもなりかねません。場合によっては、本来控除されるべき金額を上回る加算税を課される可能性もゼロではありません。
このような煩雑な作業を要するケースは、思い切って税理士にまかせてしまうのも1つの解決方法です。税理士であれば損失資産の正しい仕訳や、より控除額が多くなる申告方法についてのアドバイスができます。また、確定申告における代行業務も行っているので、必要書類を渡して依頼することも可能です。