2027年4月1日から新たに導入・本格適用が開始される「IFRS16号」を基礎とした新リース会計基準は、企業の財務報告の透明性向上を目的とし、リース契約に関わる会計処理を変化させます。
本記事では、具体的な仕訳方法や会計処理が変更されたかについて詳しく解説しながら、対応方法について見ていきましょう。
目次
新リース会計基準(IFRS16号)の概要
IFRS16号を基礎とした新リース会計基準は、従来のリース会計基準を大幅に変更し、使用権資産であるリースの定義や期間が変化します。以下より、新リース会計基準で変更となるリース資産と負債のバランスシート計上方法、そのほか財務諸表の構造などについて詳しく解説していきます。
IFRS16号とは
IFRS16号とは、国際財務報告基準(IFRS)という世界共通の会計基準の中でリース取引に関する会計処理を定めた基準です。IFRS16号の適用により、リース取引の会計処理は統一され、企業間の財政状態が明確かつ比較がしやすくなります。
IFRSを適用している企業については、2019年1月1日よりすでに適用されています。そして2027年4月1日より改正される新リース会計基準では、このIFRS16号の強制適用が決定されています。
そのため、まだIFRSを適用していない企業については、新リース会計基準の変更点とともにIFRS16号の仕組みについて今から知っておく必要があります。
新リース会計基準における基本的な変更点
新リース会計基準でIFRS16号が本格適用されると、以下のようなリース会計に変更点が生じます。
1.オンバランス処理の導入
従来のリース会計基準では、原則として借手側のオフバランス処理が認められていましたが、IFRS16号ではほぼすべてのリース契約の処理がオンバランスの対象です。使用権資産およびリース負債が貸借対照表に計上されることになりました。
2.リース契約の定義の拡張
リースの判断基準が「原資産を使用する権利を一定期間にわたって対価と交換に移転する契約または契約の一部分」になり、現行の会計基準よりもリース範囲が拡大されます。
3.使用権資産の認識
リース契約に基づいて得られる使用権資産は、リース負債の計上額に不随費用等を加減して求めます。
4.リース負債の認識
リース負債の計上額は、原則として未払リース料から未払利息相当分を控除して求めます。従来の基準と違ってIFRS16号ではすべてオンバランスの対象となるため、企業はリース負債額を計上するために新たな会計処理が必要となります。
5.減価償却および利息費用の処理
減価償却は使用権資産に対して行われ、利息費用はリース負債に基づいて計算されます。使用権資産とリース負債を別個に認識することで、損益計算書への影響が大きく変わるでしょう。
6.契約の変更に対する再評価
リース契約の変更があった場合、新基準に基づいた再見積もりを行い、必要に応じて調整仕訳が求められます。リース負債や使用権資産の再認識が必要となるでしょう。
オンバランス処理が求められる背景
新基準で全てにおいてオンバランス処理が求められる背景には、企業の財務情報の透明性と正確性を向上させるという目的があります。
従来の基準ではオペレーティングリースがオフバランスとして扱われており、リースに関する情報が財務諸表に反映されていない状態でした。結果として、一部のリース契約に関する資産や負債が財務状況の評価で見落とされる可能性が危惧されていました。
新基準のIFRS16号によって、リース契約が企業の財務状況に大きな影響を与えることが改めて認識されたのです。そして結果的にすべてのリース契約をバランスシートに反映させる方針が採用されました。
使用権資産とリース負債の認識
使用権資産は企業がリース契約に基づいて他者の資産を使用する権利を表しており、リース負債の計上額に不随費用等を加減して計算されます。一方でリース負債はリース契約に基づく将来の支払い義務を示し、金額は未払リース料から未払利息相当分を控除し金額で計上されるのが通常です。
使用権資産とリース負債を分けて会計処理することで、企業のリース契約による資産と負債の管理が分かりやすくなり、財務諸表の透明性や正確性を高められるようになります。
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リース会計におけるオンバランス処理とは?
オンバランス処理は、IFRS16号に基づいてリース契約した物を資産として計上する仕組みです。以下よりオンバランス処理の仕組みについて詳細を解説していきます。
使用権資産の詳細とその認識基準
使用権資産は、リース契約で取得する物の使用権利を指す概念です。リース契約が開始されると、企業は使用権資産を契約によって規定された期間と条件に基づいて資産として計上することになります。
さらに、この使用権資産は物理的な利用権を表しているため、契約期間中に徐々に減価償却をすることになります。
リース負債の仕訳方法
リース契約によって、企業はその使用権に対する対価(リース料)をリース会社に支払う義務を負います。この支払義務をリース負債といいます。
このリース負債の仕訳方法としては、まずリース負債としてリース契約に基づく将来の支払額を現在価値で算出して計上します。また、計上する際の額はリース契約の利率や購入オプションなどの追加情報も含めて計上します。
リース契約の期間中には、リース負債が正しく減少していることを示す仕訳が必要になります。具体的には、定期的なリース支払いを実施する際に支払いの一部をリース負債から差し引き、利息部分を費用として計上します。
減価償却の計上と利息費用の処理
リース契約を通じて取得した使用権資産は、法定耐用年数やリース契約の期間に基づいて減価償却が行われます。減価償却の会計処理により、企業は使用権資産の価値を段階的に財務諸表へ反映させることができます。
また、リース負債に基づく将来の支払義務が発生するなかで、リース負債に対する利息費用も定期的に計上する必要があります。
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IFRS16号で必要となる具体的な仕訳方法
IFRS16号の仕訳方法として特に注目したいのは、リース開始時、減価償却および利息費用の計上、契約変更時の再見積りです。以下よりそれぞれの仕訳方法について解説をしていきます。
リース開始時の仕訳
リース開始時には、まずリース負債は契約に基づく将来の支払額を現在価値に割り引いて計上します。次にリース負債に相当する金額を使用権資産として認識し、リース契約の開始時点で両者を同じ金額で仕訳してバランスシートに反映します。
仮に5年間のリース契約を締結した場合は、まず月々の支払額を基に総支払額を算出します。リース契約した使用権資産の総支払額が100,000円、初期費用や前払いリース料等が合わせて20,000円ある場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
使用権資産 | 120,000円 | リース負債 | 120,000円 |
途中期間における減価償却と利息費用の処理
リース契約の期間内は、使用権資産を契約期間や法定耐用年数に従って減価償却をします。仕訳方法としては、毎月または毎期ごとに減価償却費用を損益計算書に反映させるのです。
たとえば、120,000円の使用権資産を5年間で毎年24,000円ずつ減価償却していく場合は、以下のような仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 24,000円 | 使用権資産 | 24,000円 |
一方で、リース負債の残高に利率を掛けることで利息費用を算出した仕訳も行い、損益計算書への反映も行います。
たとえばリースの利息費用が毎月500円、元本返済分が5,000円だった場合、具体的には以下のような仕訳になります。
借方 | 貸方 | ||
リース負債 | 5,000円 | 現金預金 | 5,500円 |
支払利息 | 500円 |
契約変更時の再見積りと調整仕訳
リース契約の内容に変更が生じた場合は、契約変更に伴う再見積りを実施し、変更内容に基づく調整仕訳が必要になります。
たとえば契約の延長をしたり、毎月のリース料が増減した際には、リース負債や使用権資産の額も変更が生じます。変更内容に応じて減価償却も含めて再度仕訳を行うことになります。
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IFRS16号のオンバランス処理の導入で得られるメリット
新リース会計基準が施行されると、オンバランス処理の採用により企業の財務状況が明確化され、透明性と信頼性が向上すると言われています。では、実際にオンバランス処理によるメリットにはどのようなものがあるのか具体的に見ていきましょう。
財務状況の透明性向上
従来のリース会計によるオフバランス処理では、リース契約が隠れた負債として扱われており、企業の資本構成や流動性を正確に評価するのが難しい状況でした。
しかし新リース会計基準では、リース資産とリース負債が財務諸表上に明確に示されることで、企業の経済的状況がより正確に反映されるようになります。投資家や金融機関も企業のリース関連負担を正確に把握しやすくなり、リスク評価や投資判断の精度向上が見込まれます。
企業間での比較可能性の向上
リースの会計処理が統一されることで、異なる企業間の財務諸表が同じ基準に基づいて作成されるようになり、企業間で取引でどのような違いがあるかを確かめる「比較可能性」を行いやすくなります。従来のオフバランス処理では情報がばらつき比較や分析が困難でしたが、同業他社とのリース契約の条件や資産管理の状況を公正に分析できるようになります。これにより、経営方針の見直しや投資先としての魅力を再評価する指標が見える化します。
リースに関する実務管理の向上
バランスシートにリース資産と負債が計上されることで、毎月の支払いスケジュールや資産の減価償却、利息計算が一元管理され経理業務が効率化する可能性があります。会計処理の手間を削減すると同時に計算ミスのリスクも軽減され、より正確な会計管理が可能となります。
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IFRS16号が財務諸表に与える影響
新リース会計基準によるIFRS16号の強制適用に伴い、財務状況の透明性向上や財務分析の精度が向上するなどのメリットがある一方、企業側として気をつけなくてはいけない点もあります。
以下より、IFRS16号が財務諸表に与える影響や懸念点について解説していきます。
財務比率や指標への影響
使用権資産とリース負債がバランスシートに計上されることにより、負債比率の上昇や自己資本比率の低下が予測されます。資産の構造にも影響を及ぼし、資産総額の増加から企業の財務状況の見え方が大きく変化する可能性もあります。
これにより、投資家や債権者は企業の経済的健全性を再評価する動きもでてきます。結果として、企業が資金調達を行う際の条件や信用力に直接的な影響を与えるかもしれません。
損益計算書への具体的影響
IFRS16の導入により、リース契約に伴う支払利息や減価償却費用が新たに計上されるため、営業利益や税引前利益に変動が生じる可能性があります。オペレーティングリースの費用が営業外費用として計上されなくなるため、営業利益に直接的な影響を与えるでしょう。
また、利益の計上方法が変わることによって企業の財務状況に関する見え方が変化し、株主への配当金や内部留保の計画に影響を及ぼす可能性もあります。
開示要件とその対応の重要性
新リース会計基準では開示要件が厳格化されます。企業側はリース契約に関する情報をより詳細に開示することが求められます。場合によっては、リース資産や負債の金額だけでなく、契約の条件、将来の支払予定額などについても開示を求められるかもしれません。
IFRS16ではリースの認識に関する基準が大幅に変更されているため、その点において企業は変更点を正しく理解しなければなりません。認識が不十分だとリースに関連する財務情報の正確性が損なわれ、財務諸表全体に影響を与えます。
そうなってしまうと投資家や金融機関からの信頼も損ない、今後の資金調達にも支障をきたすかもしれません。税務上でも問題が生じるほか、監査人からの指摘などのリスクも生まれます。
新リース会計基準(IFRS16号)のまとめ
2027年4月1日より強制適用される新リース会計基準は、これまでのリース会計に大きな変化をもたらします。主に使用権資産とリース負債のオンバランス処理が求められる点は、企業にとって財務状況にも影響を与える大きな変更点です。
企業の財務状況の正確性と透明性が向上するとともに、財務諸表を作成する際の仕訳にも注意が必要です。もし誤った仕訳をしてしまうと、自社の損益を正しく把握できないばかりか、投資家や金融機関などからの信頼の低下にもつながります。
新リース会計基準については、まだこれから情報開示・改定されていくこともあり得るため、できれば税務の専門家に相談をすることをおすすめします。税理士はプロとして常に税制改正へのアンテナを張り知識を更新しているので、まずは自社のケースについてどのように対応をすべきか一度相談をしてみてはいかがでしょうか。
新リース会計基準による影響を含め、各種仕訳や会計、税金に関する業務を受け付けている小谷野税理士法人にぜひお気軽にご相談ください。