法人課税信託は、信託財産に法人税が課される特殊な仕組みで、報酬制度や資産管理スキームに活用されてきました。従来は課税の繰延べなど一定のメリットがありました。しかし令和7年度税制改正により、信託内の株式に対する課税タイミングの見直しなど制度内容が大きく変わります。本記事では、法人課税信託の概要から、今回の改正による影響点、今後の注意点までをわかりやすく解説します。
目次
日本における主な信託の種類
日本の税法では、信託は大きく分けて以下の3つの種類に分類され、それぞれ異なる税金の扱いが適用されます。
課税対象者 | 信託自体への課税 | 損益の認識タイミング | |
受益者等課税信託 | 受益者 | なし | 発生時 |
集団投資信託 | 受益者 | なし | 分配金受領時 |
法人課税信託 | 受益者(信託) | あり(受託者) | 発生時 |
信託の税金は、原則として受益者課税信託という仕組みが基本です。これは、信託財産から得られた利益に対しては、その利益を受け取る人(受益者)に税金がかかるという考え方です。
しかし今回解説する「法人課税信託」に該当する場合は、少し扱いが変わります。この場合、利益を受け取る受益者ではなく、信託財産を管理・運用する側である受託者に税金がかかります。
具体的には法人課税信託の財産から生じる所得は、受託者自身の他の財産から生じる所得とは切り離して、法人税が課税されます。例えると、法人課税信託自体が一つの会社であるかのように扱われるイメージです。
信託から得られる所得に対して、その信託の受託者に法人税が課されます。またたとえ受託者が個人の場合であっても、個人の所得税ではなく法人税が適用されます。
法人課税信託を基本からわかりやすく解説
法人課税信託とは、受益者がいない信託であり、その所得に対して法人税が課される信託です。受益者が不在または未特定のため、信託財産から発生する収益について受益者課税ができず、代わりに受託者(法人)に課税されます。
例えば遺言信託などで受益者やみなし受益者が存在しないとしましょう。そうなると、この信託は「法人課税信託」に分類され、受託法人に法人税が発生します。
本来の信託では、収益が受益者に帰属するとみなされ、収益の発生時点で受益者に課税されます。しかし受益者がいない信託ではその課税先がなく、信託財産を保有・管理する受託者に法人税が課されるのです。
「課税されるべき受益者がいない信託」に対し、課税の空白を防ぐために受託者に課税される特別な仕組みと理解しましょう。
法人課税信託扱いとなる信託
法人課税信託に分類されるのは、以下のいずれかに該当し、かつ集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託のいずれにも当てはまらない信託です。
受益証券発行信託 | 特定の受益証券発行信託として取り扱われない信託が該当 |
受益者が設定されていない信託 | 信託の変更をする権限を実際に持っており、かつその信託財産から給付を受けられる「みなし受益者」も含まれる |
法人が委託者として関与する特定の信託 | 法人が委託者として信託をすると本来法人税が課されるべき利益について、税金逃れが行われるケースがあるため、それを防ぐ目的で信託自体を法人課税信託として扱う |
投資信託及び投資法人に関する法律に基づく投資信託 | ほとんどの投資信託は集団投資信託に該当するため、投資信託が法人課税信託になるケースはまれ |
資産流動化法に基づく特定目的信託 | 特定目的信託では、社債的受益権を活用した「日本版スクーク(イスラム債)」の発行が可能 |
令和7年の法改正による法人課税信託の変更点
令和7年には、法人課税信託は法改正によっていくつかの点が変更となりました。以下では、その法改正による重要な変更点について解説します。
受益者が指定された場合は受託法人から受託財産の簿価を引き継ぐ
令和7年度の税制改正では、法人課税信託を用いた株式交付型スキームへの規制が強化されました。
受益者がいない法人課税信託で後から受益者が指定された場合、信託財産の帳簿価額をそのまま引き継げます。この改正、経済的利益も非課税となる点が問題視されたことが背景となっています。
受益者が指定された時点で給与所得税が発生する
税制改正では、法人課税信託の適正な課税を図るため、受益者が指定された時点で所得税(給与所得)を課す仕組みに見直されます。
法人課税信託の信託財産である株式は、信託が法人課税信託でなくなると、その取得に伴う経済的利益は給与所得として課税され、発行法人が源泉徴収を行うこととなるでしょう。
先に老齢一時金を受給している場合の複排除規定の調整期間を変更する
退職所得控除の適切な適用を目指し、老齢一時金を先に受給した場合の勤続年数重複排除規定が見直されます。
これにより、DC一時金を受給している場合は、調整対象期間が現在の「5年以内」から「10年以内」に延長されることになりました。もし確定拠出年金を先に受け取ったケースでも、退職手当との公平な課税が実現する見込みです。
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法人が活用できる信託
以下では、法人が活用できる信託の一例をご紹介します。
顧客分別金信託 | 証券会社などが投資家から預かった資金を自社資産と分けて信託銀行などに管理させる 万が一証券会社が倒産しても、投資家の資金が保全されて返還される |
担保権の信託 | 債務者が担保権だけを信託銀行などに移し、担保権の管理や実行を信託先に任せる |
株式交付信託 | 従業員や役員に対して自社株式を付与する制度に信託を活用し、財産形成やインセンティブ付与を効果的に行う |
特定金銭信託 | 企業などがまとまった資金を信託銀行に預け、有価証券などへの投資・運用を目的とした信託商品 |
受益証券発行信託 | 信託した財産をもとに「受益証券」という有価証券を発行し、その証券を通じて取引や資金調達をしやすくする |
資産流動化の信託 | 企業などが保有する不動産や金銭債権などを信託し、それに基づいて発行された信託受益権を有価証券として投資家に売ることで、資金調達や資産の流動性向上を図る |
有価証券管理信託 | 自分で管理するのが難しい有価証券を信託銀行などに信託し、保全・管理や利子・償還金の受け取りなどの事務を代行 |
信託は企業の資産運用や事業戦略において大きなメリットをもたらす可能性がありますが、目的に合った信託を選定することが大切です。
また信託の種類によって、法人税、所得税、相続税、贈与税など、税金がどのようにかかるかが変わってきます。もし不安なことがあれば、税理士などの専門家に相談しましょう。
法人課税信託に関する注意点
法人課税信託を活用した報酬設計や資産管理スキームは、今後の税制改正によって大きな影響を受ける可能性があります。
特に令和7年の改正では、信託内の株式に対する課税タイミングの見直しや、受益者指定時の給与課税の導入など、実務に直結する重要な変更が加えられました。これにより、従来の信託スキームが想定外の課税リスクを抱えるおそれもあります。
制度の理解不足や運用ミスによる税務リスクを避けるためにも、信託スキームの設計や見直しに際しては、税理士などの専門家に相談し、最新の制度に即した対応を講じることが重要です。
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まとめ
法人課税信託は、特定の要件を満たすと信託財産に法人税が課される仕組みで、従来は柔軟な資産管理や税務戦略に活用されてきました。しかし令和7年の税制改正により、受益者の指定時に課税が発生するなど、税務上の取り扱いが大きく変わります。
これにより、従来のスキームが思わぬ課税リスクを抱えるケースも想定されます。法人課税信託を利用している、または活用を検討している方は、早めに税理士などの専門家へ相談し、制度変更への適切な対応を進めることが重要です。
小谷野税理士法人では、法人課税信託における専門的な対応に特化した税理士が在籍しています。もし「法人課税信託改正後の対応に不安がある」という方は、お気軽に一度小谷野税理士法人にご相談ください。