企業が支払う利子には、税務上の損金として認められる範囲に制限が設けられています。その代表的な制度が「過大支払利子税制」です。特に国際的な取引やグループ内融資を行う企業にとっては、思わぬ課税リスクにつながることもあります。本記事では、過大支払利子税制の概要や適用基準、注意点をわかりやすく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
過大支払利子税制についてわかりやすく解説
過大支払利子税制とは、企業が支払う利子のうち一定額を超える部分について、税務上の経費(損金)として認めない制度です。これは、グローバル企業などが意図的に支払利子を増やして課税所得を圧縮し、税負担を軽減することを防ぐためのものです。
具体的には、支払利子の合計が「調整所得金額」の20%を超えると、その超過部分は損金にできません。国内外を問わず一定の規模以上の企業が対象です。
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過大支払利子税制の適用除外基準
一定の条件を満たす法人は「過大支払利子税制(超過利子額の損金不算入)」の適用が免除されます。以下のいずれかに該当する法人については、過大支払利子税制の適用はなく、超過利子額の損金不算入は行われません。
少額基準による免除 | その事業年度における対象純支払利子等の金額が2,000万円以下である場合 |
グループ単位での基準による免除 | 内国法人と特定支配関係がある他の内国法人との合計でみた「対象純支払利子等」から「対象純受取利子等」を差し引いた金額が、調整所得金額の20%以下である場合 |
このように「単体での判定」と「企業グループ単位での判定」のいずれかで基準を満たしていれば、制度の適用は免除されます。
適用除外規定を受けるには別表の添付が必須
過大支払利子税制の適用除外を定める措置法第66条の5の2第3項は、「適用しない」と明記されています。これは、納税者の判断で適用を選べる「できる規定」ではありません。したがって、適用除外の条件に当てはまる場合は、自動的にこの制度の対象外となります。
ただし、この適用除外を受けるためには、同条第4項で求められている別表の添付が必要です。具体的には、申告書に「別表17(2)」等を添付する必要があります。もしこの別表が添付されていないと、たとえ除外の条件を満たしていても、制度の適用除外は認められません。
法改正後の過大支払利子税制
この制度は、2013年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。さらに2019年度の税制改正では、次のような重要な見直しが行われました。
項目 | 改正内容の概要 |
適用開始時期 | 2013年4月1日以後開始事業年度から適用 2019年度税制改正により重要な見直しあり |
対象の拡大 | 改正後は第三者(例:外国金融機関)への支払利子も対象に ただし、国内金融機関など受取側が日本で課税される場合は対象外 |
調整所得の見直し | 調整所得から以下を除外 ①受取配当等の益金不算入額 ②外国子会社配当等の益金不算入額。これにより損金算入限度額が縮小する傾向あり。 |
損金算入限度額 | 改正前は調整所得の50%だったのに対し、改正後は調整所得の20%。BEPS指針(10~30%)に基づく引き下げ 超過利子額が生じやすくなり、損金不算入のリスクが高まる |
適用除外基準 | グループ全体の合算純支払利子等が合算調整所得の20%以下であれば、制度の適用を免除 対象は持株割合50%超の内国法人グループ |
損金算入の繰越 | 超過利子額は最大7年間繰越可能 改正後もこの点は変更なし 将来の利益に応じて損金算入可能な場合があるため、適切な繰越管理が重要 |
過大支払利子税制は、グループ内での資金調達を行っている企業にとっては影響が大きいと言われています。そのためこのような法改正による知識のアップデートは欠かせません。
自社が制度の対象となるか不安な方や、税務リスクを回避したい方は、ぜひ一度税理士に相談するのがおすすめです。
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過大支払利子税制の改正による懸念点
大綱の内容が明らかになるまでは、過大支払利子税制の見直しによって、主に次のような影響が懸念されていました。
- 金融機関からの借入利子が損金算入制限の対象となる場合、金融機関の貸出(企業の借入)に悪影響を及ぼす可能性があること
- 債券利子が損金算入制限の対象となる場合、債券市場に影響が出る恐れがあること
- 調整所得金額から受取配当金が除かれると、収益の多くを子会社からの配当に依存している持株会社では損金算入限度額が縮小し、結果として損金にできない利子の金額が増加する可能性があること
これらの懸念点について順に見ていきます。
まず1については、大綱では国内法人が国内金融機関に支払う借入利子については原則として損金算入制限の対象外とされています。したがって、国内金融機関からの借入については引き続き損金算入が認められ、見直しによる大きな影響は生じないと考えられます。
次に2については、以下に関しては全額損金算入が認められます。
- 非関連者から支払われる債券利子のうち、支払時に源泉徴収されるもの
- またはその利子を受け取る者が日本の課税所得として計上するものなど
そのため、このような債券利子については、従来どおり損金算入が可能であり、見直しによる大きな影響はないでしょう。一方で、それらに該当しない特定債券利子等については、損金算入制限の対象となる可能性があります。もし調整所得金額の20%に近い水準で利子を支払っている法人などでは、国外での債券発行を控える動きが出るかもしれません。
3については、調整所得金額の算定にあたり、受取配当等の益金不算入額や外国子会社配当等の益金不算入額が除外されます。
加えて、損金算入限度額にかかる割合も従来より引き下げられ20%とされます。懸念されていた通り、収益の多くを子会社からの配当に依存する持株会社では損金算入できない金額が増加する可能性があります。
過大支払利子税制の注意点
以下では、過大支払利子税制における税務上の注意点を解説します。
利子支払額と調整所得のバランスを把握する
損金算入限度額は調整所得の20%のため、それを超える支払利子は損金不算入となります。特に多額の借入や通貨スワップを活用している場合は、期中から見込み調整を行いましょう。
調整所得の構成に注意する
調整所得には、受取配当や外国子会社配当等の益金不算入額は含めないため、実際の課税所得よりも小さい数値になります。支払利子や受取配当を多額に計上している企業は、限度額が大きく圧縮されやすい点に注意が必要です。
グループ全体での合算管理をする
適用除外を受けるには、グループ企業全体の純支払利子等が調整所得の20%以下であることが条件です。そのため、単体ではなく、連結や実質的なグループ全体での財務管理が求められます。
関連記事:グループ通算制度とは?連結納税との違いやメリット、単体申告について
過大支払利子税制に関するよくある質問
過大支払利子税制に関するよくある質問をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
過大支払利子税制を通貨スワップの支払金に適用するとどうなる?
過大支払利子税制は通貨スワップの支払金にも適用される可能性があり、企業の税負担が増加するリスクがあります。特に現在のように円と他の主要通貨との間で大きな金利差がある場合は要注意です。
通貨スワップを通じて将来外貨と交換に円を受け取る契約を結ぶ場合、通常の為替取引よりも多額の支払が生じることになります。この金額は、利子に準ずる支払として過大支払利子税制の対象となる可能性があるのです。
過小資本税制との違いは?
過大支払利子税制と過少資本税制は、どちらも企業の利子支払による税負担軽減を防ぐための制度ですが、適用基準と仕組みに違いがあります。
過少資本税制は、企業が自己資本に比して過大な借入を行っている場合に適用されます。借入金と資本の比率を基準として、一定の水準を超えた利子支払を損金として認められません。
両制度が同時に適用される場合は、いずれか一方で計算された損金不算入額のうち金額が大きい方が優先して適用されます。これらの制度により一部の支払利息が損金不算入となると、支払利息の全額が原則として源泉所得税が課税されるので要注意です。
関連記事:源泉徴収税の納付方法を徹底解説!源泉所得税と所得税の違いも理解しよう
まとめ
過大支払利子税制は、企業が支払う利子のうち一定割合を超える部分を損金として認めない制度です。
これは租税回避を防ぐ重要な役割を担う制度でもあります。特に海外との取引が多い企業や、グループ内での資金調達を行っている企業にとっては影響が大きいと言われています。
そのため、制度の正しい理解や法改正による知識のアップデートは欠かせないでしょう。自社が制度の対象となるか不安な方や、税務リスクを回避したい方は、ぜひ一度税理士に相談するのがおすすめです。
小谷野税理士法人では、過大支払利子税制に関する知識や実績が豊富な税理士が在籍しています。