グループ内取引を通じた過大な利子支払いによる節税を防ぐため「過大支払利子税制」が設けられています。近年の税制改正では、その対象や損金算入の基準が見直され、超過利子額の取り扱いが厳格化されました。しかし、法改正によってどのようなポイントに気をつけるべきか、お悩みの方も多いはず。そこで本記事では超過利子額の制度改正の背景や改正ポイント、これらを踏まえた法人税申告書の記載ポイントを詳しくご紹介します。
目次
そもそも「超過利子額」とは?
「超過利子額」とは、一定の税制に基づき損金として認められなかった利息部分のことを指します。これは過大支払利子税制と呼ばれる制度に基づき、支払った利息のうち一定額を損金として扱えないケースに該当します。
この制度の背景には、グループ内での過剰な利子のやり取りを利用した節税行為を防ぐという目的があります。例えば海外子会社やグループ企業に対して過大な利息を支払うことで日本国内の課税所得を不当に圧縮する行為を防止するためです。
そのため支払利子のうち一定の条件に該当する部分は「超過利子額」として損金不算入となります。特にグローバル企業やグループ会社間の取引がある法人にとっては、慎重な対応が求められる分野です。
過大支払利子税制の適用免除基準
一定の条件を満たす法人は「過大支払利子税制(超過利子額の損金不算入)」の適用が免除されます。
この制度は本来、企業グループ内などで行われる過大な利子の支払いを通じた租税回避行為を抑止するためのものです。しかし、すべての法人に一律に適用されるわけではありません。
中小規模の法人や、利子のやり取りが少ない法人には、制度の適用が除外されるケースがあります。以下のいずれかに該当する法人については、過大支払利子税制の適用はなく、超過利子額の損金不算入は行われません。
少額基準による免除 | その事業年度における対象純支払利子等の金額が2,000万円以下である場合 |
グループ単位での基準による免除 | 内国法人と特定支配関係がある他の内国法人との合計でみた「対象純支払利子等」から「対象純受取利子等」を差し引いた金額が、調整所得金額の20%以下である場合 |
このように「単体での判定」と「企業グループ単位での判定」のいずれかで基準を満たしていれば、制度の適用は免除されます。
関連記事:払いすぎた税金は取り戻せる?対象になるケースは?注意点も解説 | 会社設立の基礎知識
過大支払利子税制改正の背景
過大支払利子税制は「内国法人がグループ内の外国法人に対して過大な利子を支払い、損金算入によって国内課税所得を不当に減少させる行為」を防ぐために設けられていました。そのため、対象は「国外の関連者に対する支払利子」に限られていました。
しかし、近年では第三者を通じた間接的な租税回避のケースも増加しています。OECDが2015年に公表した税源浸食と利益移転の最終報告書の内容も踏まえ、日本でも制度見直しが必要と判断されたのです。
その結果、2019年度の税制改正で過大支払利子税制の対象・計算方法が抜本的に改正されました。そして、より広範囲な支払利子が損金不算入となる可能性が生じています。
過大支払利子税制の改正概要
この制度は、2013年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。さらに2019年度の税制改正では、次のような重要な見直しが行われました。
対象
これまでの制度では、国外の関連者に対する支払利子等のみが「対象純支払利子等」に含まれていました。しかし、BEPS勧告では、国内外・関連者/非関連者を問わず全ての支払利子を対象とすることが求められていました。
今回の見直しではこの考えを踏まえ、制度の対象が第三者への支払利子(例:外国の金融機関など)にも拡大されています。ただし、国内金融機関など支払先である受取人側が日本で課税対象としている場合は、現行制度と同様に制度の対象外です。
つまり通常の経済活動に基づく借入(国内銀行からの融資など)については、基本的に影響を受けない設計となっています。
調整所得
損金算入限度額の計算に使用する「調整所得」についても見直しが行われました。BEPSの指針では、免税所得を調整に含めないことが推奨されています。これを受けて日本の制度でも、以下の金額が調整所得から除外されることとなりました。
- 受取配当等の益金不算入額
- 外国子会社からの配当等の益金不算入額
これにより、従来よりも調整所得の金額が小さくなる傾向があり、結果として損金算入できる上限額も縮小します。
損金算入限度額の基準
改正前の制度では損金算入限度額は「調整所得の50%」とされていましたが、今回の改正で20%に大幅引き下げとなりました。
これはBEPSが示す「10%~30%の固定比率が望ましい」という国際的な基準を踏まえたものです。つまり、日本もこれに沿った形で制度を整備したことになります。
適用除外基準
制度の適用免除に関しても、新たな基準が設けられています。持株割合50%超の内国法人グループ全体で、「グループ企業の合算純支払利子等の額が合計が合算調整所得の20%以下」という条件を満たす場合には、制度の適用が免除されます。
この新たな除外要件は、過度な課税を防ぐための措置となるでしょう。
損金算入
改正後も「超過利子額」は最大7年間の繰越が可能です。この点は従来制度と変わりません。つまり改正によって当期で損金不算入となった利子も、将来の利益状況によっては損金算入できる可能性があります。繰越管理を適切に行えば、将来的な税負担を軽減できるでしょう。
参考:国際課税に関する改正
超過利子額の損金算入に欠かせない法人税申告書とは?
法人税申告書は法人が1年間の事業活動で得た利益に対して、納めるべき法人税の金額を計算し、税務署に報告するための書類です。損金算入が認められなかった支払利息がある場合、一定の条件を満たせばその一部を損金として算入できます。
超過利子額の損金算入額は、法人税申告書の別表4に記載します。別表4は、法人税の申告時に必ず作成・提出が求められる重要な書類です。
法人の所得金額(課税所得)の計算根拠を示すため、税務署にとっても法人にとっても申告内容の中核をなす書類となります。
関連記事:【税理士監修】法人税申告書とは?別表の概要や必要書類、作成手順まで詳しく解説!
法人税申告書の作成方法
以下では、法人税申告書の作成方法について解説します。
申告書の作成に必要な書類を準備する
まずは、法人税申告書の作成にあたって、以下の基本書類を揃えましょう。
- 決算報告書(貸借対照表・損益計算書など)
- 勘定科目内訳書
- 法人事業概況説明書
これらは申告内容の根拠資料となるため、漏れなく準備しましょう。
「別表二」で株主構成を記載する
「別表二(同族会社等の判定に関する明細書)」は、法人が同族会社または特定同族会社に該当するかどうかを判定するための重要な書類です。該当する場合、使用人兼務役員の給与に関する制限など、税務上の扱いが変わります。
この判定を行わないと、法人税の計算に進めないため、最初の段階で対応しておきましょう。
「別表六」などを作成し、「別表四」に反映する
次に、減価償却費・交際費・繰延資産など個別項目を扱う「別表六」以降の別表を作成します。これらは、会計上の利益と税務上の所得との差異を調整するために用います。
その後、作成した情報をもとに「別表四(所得の金額の計算に関する明細書)」に記入していきます。別表四では、会計上の利益を基に課税所得を算出します。
「別表四」の記載ミスは法人税額の誤算につながるため、正確な記入を心がけましょう。
「別表七」で欠損金の処理を行う
続いて「別表七(欠損金又は災害損失金の損金算入に関する明細書)」を作成します。これは、過去の赤字(欠損金)を現在の所得と相殺する場合や、将来に繰り越す場合に使用します。
青色申告法人で過去に欠損金が発生している場合や、災害損失を計上した場合にも必要です。別表七で処理を行った場合、別表四での調整も忘れずに行いましょう。
「別表五(一)」で積立金・資本金を計算する
別表五(一)は利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書の役割を果たします。会計と税務の差異として将来解消される項目を管理・記載するのが目的です。
この別表は繰延税金負債や評価差額などの処理にも関係してくるため、後々の申告にも影響する重要な資料です。
「別表一」で法人税額を確定させる
これまで作成した別表の内容を集約して「別表一(確定申告書)」を作成し、ここで法人税額を最終的に確定します。税額の算出にあたっては「別表五(一)」「別表五(二)」にある「未納法人税」や「未納地方法人税」などの欄にも記入します。
税額を「別表五(一)」および「別表五(二)」に記載する
最後、確定した法人税額などを「別表五(一)」および「別表五(二)(租税公課の納付状況等の明細書)」に反映します。ここで未納税額や過納税額、納付予定額などを整理します。
関連記事:【保存版】決算報告書の種類と書き方
法人税申告書の作成ポイント
超過利子額の損金算入を正しく申告するための法人税申告書の作成ポイントを解説します。
ミスなく正確に記載する
法人税申告書は「決算書」に基づいて作成されます。つまり、正しい決算書を作成することこそが申告の精度を左右するのです。
上場企業の場合、会計監査を受ける義務があるため、決算書の正確性はある程度担保されています。一方、非上場企業では監査が任意のため、決算書に誤りが含まれている可能性もある点に注意が必要です。
特に非上場企業では、法人税申告書を作成する過程で、決算書の内容に齟齬や不明点がないかを顧問税理士と確認しましょう。また、必要があれば経理担当者に修正を依頼するなど検討してみてください。
提出が必要な申告書の種類を確認する
法人税申告書には多数の別表があり、すべての企業が同じ書類を提出するわけではありません。自社の事業形態や税務状況に応じて、必要な書類を適切に選ぶ必要があります。
顧問税理士がいる場合は、専門家の判断で作成・選別してもらうのが確実です。税理士がいない場合は、税務署への相談や、申告対応可能な会計ソフト・税務ソフトの活用を検討しましょう。
添付書類の準備も忘れずに行う
法人税申告書を提出する際には、以下の添付資料を同時に提出する必要があります。これらの資料は、法人税額の正確性を裏付ける役割を果たします。
- 決算報告書(貸借対照表・損益計算書など)
- 勘定科目内訳明細書
- 法人事業概況説明書
- 適用額明細書(※租税特別措置を適用する場合)
書類の作成中にミスや不整合に気づくこともあるため、余裕を持ったスケジュールで準備することが大切です。
紙提出の場合は部数を確認する
法人税申告書を紙で提出する場合、企業の資本金額などに応じて提出部数が異なります。なお、税務署から送られてくる申告書類には、前期の申告状況を踏まえた部数に関する注意書きが同封されている場合があります。
最新の資本金額などをもとに、提出部数の確認を忘れずに行いましょう。
まとめ
超過利子額の損金算入に関する規定は、その計算方法や適用要件など、非常に専門的で複雑な内容を含んでいます。税法の知識がない方が正確に理解し、適切に申告するのは難しい場合があります。
法人税の申告書を作るには、別表の作成や添付書類の用意など、多くの手間と時間がかかります。さらに、紙で書類を作成していると、計算間違いなどが起こりやすくなります。
超過利子額の損金算入を正しく申告するためには、税理士などプロの専門家に相談するのがおすすめです。小谷野税理士法人では、超過利子額の損金算入に関する知識や実績が豊富な税理士が在籍しています。