創業時には多額の資金が必要となりますが、金融機関からの融資以外にも活用を検討したいのが、国や地方自治体が実施している補助金です。その中でも、創業時に活用できる「地域創造的起業補助金」という補助金があることをご存知でしょうか。こちらの補助金ですが、現在は名称変更されて内容も異なるものとなっています。そこで、今回は地域創造的起業補助金の基礎知識や申請方法などについて、詳しく解説していきます。
目次
創業補助金とは
創業補助金とは、創業等にかかる経費の一部について支援を受けられる制度のことです。正式には「創業・事業承継補助金」という名称であり、新たな需要や雇用の創出を促すことで、日本経済の活性化を図ることを目的として創設されました。こちらは2017年5月8日~2017年6月2日まで募集されていた補助金であり、現在は募集が終了しています。
補助対象事業
創業補助金では、以下のすべての要件を満たしている事業が対象とされています。
- 既存技術の転用や隠れた価値の発掘を行う新たなビジネスモデルにより、需要や雇用を創出する事業であること(新技術、設計・デザイン、アイディアの活用等を含む)。
- 産業競争力強化法第2条25項に規定される「特定創業支援事業」を受ける者による事業であること。
- 外部資金による調達が十分に見込める事業であること。
- 地域の需要・雇用を支える事業や海外市場の獲得を狙う事業を、国内で開始すること。
- 公序良俗に違反する事業や、公的資金の用途として不適切ではないと判断される事業であること。
補助対象経費
創業補助金の補助対象経費は、以下の要件をすべて満たすものに限られます。
- 使用目的が、事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
- 交付決定日以降、補助事業期間内に契約・発注したことによって発生した経費
- 証拠書類等によって金額や支払等が確認できる経費
具体的には、人件費・店舗等借入費・設備費・原材料費・知的財産権等関連経費などについて補助を受けることが可能です。
補助内容
創業補助金の補助金額・補助率は以下のとおりとなっています。なお、申請には産業競争力強化法に規定される特定創業支援事業を受けることや、創業計画完了までに1名以上の新規従業員を雇用する必要がありました。
類型 | 補助金額 | 補助率 |
外部資金調達がない場合 | 50万円~100万円 | 1/2 |
外部資金調達がある場合 | 50万円~200万円 |
創業時に必要とされる経費について、上記の範囲内で補助を受けることが可能です。なお、2017年の募集では応募総数739件、採択総数 109件という結果になっています。
地域創造的起業補助金とは
地域創造的起業補助金とは、創業・事業承継補助金の運営会社が変わったことによって名称が変更された補助金です。つまり、補助金の名称が変更されただけで、ほとんど同じ内容といえます。2018年4月27日~2018年5月22日の期間で募集されていましたが、2019年では募集がなく、毎年必ず実施されるとは限らない補助金となっています。
募集要件
ここでは、2018年に実施された地域創造的起業補助金の募集要件についてご紹介していきます。
- 地域創造的起業補助金の募集開始日以降に、新たに創業する方
募集開始日以降、補助事業完了日までの期間に個人開業・会社設立を行った方が対象です。 - みなし大企業に該当していないこと
発行済み株式総数や出資価格、役員数について一定の要件に該当する場合には大企業としてみなされ、申請することができません。 - 補助事業完了日までに、新たに従業員を1名以上雇用すること
雇用契約書や給与明細などの証明書類を提出する必要があります。 - 産業競争力強化法にもとづく認定市区町村における創業であること
地域創造的起業補助金の公式サイトに記載されている市区町村で創業する必要があります。 - 産業競争力強化法にもとづく認定特定創業支援事業を受ける者であること
認定特定創業支援事業についての詳細は後述します。
これらの要件をすべて満たすことで、地域創造的起業補助金の申請を行うことができます。なお、地域創造的起業補助金は通常の補助金と違い、認定を受けた市区町村を通じて申請することが特徴です。
補助内容
地域創造的起業補助金の補助内容は、以下のとおりです。
類型 | 補助金額 | 補助率 |
外部資金調達がない場合 | 50万円~100万円 | 1/2 |
外部資金調達がある場合 | 50万円~200万円 |
このように、補助内容は創業・事業承継補助金と同一の内容になっています。なお、補助金を申請するためには、対象経費の支払い証明書類を提出しなければなりません。
地域創造的起業補助金は名称が変更された?
創業・事業承継補助金が、2018年には地域創造的起業補助金に名称変更されたことは既に述べてきました。しかし、令和元年度予算では地域創造的起業補助金も新たな名称へと変更されています。それが「創業支援等事業者補助金」です。
ただし、創業支援等事業者補助金は、地域創造的起業補助金と異なる特徴を持っています。創業補助金における最新の名称は「創業支援等事業者補助金」であることを覚えておきましょう。
創業支援等事業者補助金とは
創業支援等事業者補助金とは、創業支援事業を行う民間の支援事業者を対象とし、創業支援の取り組みに要する経費の一部を補助する制度です。経済産業省が管轄する補助金であり、新たな雇用の創出を促すことで地域経済の活性化を図ることを目的としています。
つまり、創業支援等事業者補助金は、これから創業する方を対象としているのではなく、創業支援を行っている民間事業者を対象とした補助金です。なお、創業支援を行う民間事業者は、市区町村と連携した取り組みを行う必要があります。
補助額は50万円~1,000万円、補助率は2/3以内となっており、地域創造的起業補助金と比較して補助内容が引き上げられている点も特徴です。
創業支援等事業者補助金を受給するための条件
創業支援等事業計画の法律認定を受けた事業
創業支援等事業者補助金を受給するためには、産業競争力強化法の認定を受けた創業支援事業計画にもとづいて事業に取り組む必要があります。産業競争力強化法では、市区町村が民間の創業支援事業者と連携し、創業支援や創業機運の醸成などを実施する「創業支援等事業計画」を国が認定することと規定しています。
特定創業支援等事業または創業機運醸成事業
創業支援等事業者補助金で設けられているもうひとつの条件は、「特定創業支援事業」または「創業機運醸成事業」のいずれか、もしくは両方の事業を行っていることです。市区町村と連携している創業支援事業者がこれらの事業を行うことで、創業支援等事業者補助金を受給することが可能となります。なお、両事業の詳細については次項で解説していきます。
特定創業支援等事業とは
特定創業支援等事業とは、産業競争力強化法にもとづき認定された創業支援等事業計画における創業支援等事業のうち、「経営・財務・人材育成・販路開拓に関するすべての知識の習得が見込まれる支援」を創業者等に向けて行う事業のことを指します。つまり、創業に必要な基礎知識・経営戦略・経営マネジメント・宣伝広告などについて、体系的に学ぶための創業支援事業です。
なお、特定創業支援等事業による支援を受けて要件を満たした創業者は、地方自治体に申請することでさまざまな優遇措置を受けることができます。
- 登録免許税の軽減
会社の設立登記にかかる登録免許税について、軽減措置を受けられます。 - 新創業融資制度における優遇措置
創業前または税務申告を2期終えていない事業者において、自己資金要件を満たしている方として申請することが可能です。 - 創業関連保証の特例対象
通常は創業2か月前から対象となりますが、特例で事業開始6か月前から利用対象となります。 - 新規開業資金における優遇措置
融資を受ける際に特別利率が適用され、金利負担を抑えることが可能です。
創業者にとってもこのようなメリットがあるため、予備知識として覚えておきましょう。
創業機運醸成事業とは
創業機運醸成事業とは、創業に無関心な方に対して、創業への関心や理解を高める取り組みのことを指します。そもそも創業に興味を持つ方が少ないという問題がある中、創業機運の醸成を推進することで地域の活性化を図ることが目的です。
具体的な取り組みとして、中小企業庁は以下の3つの事業を行っています。
- ビジネスプランコンテスト
創業に無関心な層にも来場してもらえるようなビジネスプランコンテストの実施。 - 起業家教育
起業家としての能力やマインドを持った若者を育成するための教育。 - スタートアップカフェ
ワーキングスペースとして、創業に無関心な方でも利用できる施設の提供。
中小企業庁の公式サイトに具体的な事例集が掲載されているため、これから創業機運醸成事業に取り組むことを検討している場合は参考にしてみてください。
創業支援等事業者補助金の申請方法
認定申請
創業支援等事業者補助金を利用するにあたって、まずは認定申請を行う必要があります。公募期間内に以下の必要書類をそろえて、事務局に提出しましょう。
- 事業計画書
- 市区町村による認定創業支援等事業計画の該当箇所
- 市区町村による確認書
- 対象経費チェックリスト
- 経費明細書
- 反社会的勢力ではないことの誓約書
これらの書類は、電子媒体での提出にも対応しています。また、補助事業計画を複数申請することや、複数の事業者でひとつの補助事業計画を申請することも可能です。
採択審査
必要書類の提出を終えると、採択審査に移行します。なお、審査を通過するためには以下の要件を満たしていなければなりません。
- 書類の提出に不備がないこと
- 市区町村と連携して創業支援事業に取り組む創業支援等事業者のうち、代表となる法人であること
- 認定創業支援等事業計画の内容と整合性がとれていること
- 特定創業支援事業・創業機運醸成事業のいずれか、もしくは両方を行っていること
- 補助事業の遂行能力があると見込まれること
また、以下の審査項目において一定の基準を満たしていない場合、採択される可能性が低くなってしまいます。
- 事業内容の妥当性・実効性
事業内容が具体的に記載されており、計画遂行のために必要な経費や活動基盤が備わっているかといった項目を判断されます。 - 創業支援等事業の新規性や、地域との連携性
申請する地域において新規性のある取り組みであり、市区町村と認定創業支援等事業者が連携した事業内容であることが求められます。 - 当該事業を支援する政策的意義
日本の開業率向上に資する事業計画であり、創業支援の普及や継続的な実施ができる内容になっているかという点が評価されます。
事業計画を策定する際は、これらの審査項目に対応した記載があるかを確認しながら進めるようにしましょう。
交付決定
審査が完了すると、採択されたかどうかに関わらず結果が通知されます。通知が届くまでに、およそ1か月~2か月程度の期間を要するため、スケジュールはしっかりと把握しておきましょう。
また、無事に採択されたとしても、その時点で補助金が支給されるわけではありません。採択された後に交付申請書を提出することで、補助金額等が記載された交付決定通知書を受け取ることができます。
補助事業の実施後、交付申請
交付決定を受けたら、いよいよ補助事業を実施していきます。提出した事業計画書どおりに補助事業を進めていきましょう。なお、決められた補助事業期間内で対象経費の支払いを完了する必要があります。たとえ対象経費であったとしても、補助事業期間外に支出してしまうと補助を受けられない可能性があるため注意が必要です。対象経費の支払証明書類は必ず保管し、補助金の交付申請とともに提出しましょう。
旧名:地域創造的起業補助金→新名:創業支援等事業者補助金は今後も名称変更される可能性があるので注意
創業補助金は内容に似た部分があるものの、事務局の変更に伴い名称が変更されている補助金です。2018年の募集では地域創造的起業補助金でしたが、令和元年度には創業支援等事業者補助金へと変更されています。このことから、今後も名称が変更される可能性は十分にあり得ます。申請要件に該当する方々は活用の機会を損失しないよう、公募状況をこまめに確認するようにしましょう。
補助金を有効活用したいなら専門家へ相談
創業や新たな取り組みにチャレンジする場合、資金調達は大きな障壁となります。しかし、本稿でご紹介してきた創業補助金を活用することができれば、事業をスムーズに軌道へ乗せることができるでしょう。創業に関する補助金は国だけでなく、各地方自治体によっても実施されているため、常にアンテナを張り巡らせておくことが重要です。補助金を有効活用したいとお考えの方は、専門家への相談も検討してはいかがでしょうか。