従業員に支給される通勤手当の非課税限度額は、所得税法によって定められています。通勤方法や距離に応じて限度額が異なるため、正しく理解しておかないと「思わぬ課税対象」となることもあるでしょう。本記事では、公共交通機関・自家用車・自転車など、それぞれの通勤手段における非課税限度額の仕組みや計算方法、注意点について解説します。
目次
交通費・通勤手当の非課税限度額とは
交通費と通勤手当は似ているようで実は性質が異なり、税務上の扱いにも違いがあります。それぞれの違いや、課税対象かどうかについて詳しく見ていきましょう。
交通費は全額非課税
交通費は、出張や顧客訪問など、従業員が業務上の目的で移動する際にかかる費用です。従業員が立て替えた実費分を会社が精算する形が一般的で、全額が所得税の課税対象外となります。
そのため、交通費は給与には含まれず、所得税や社会保険料の計算にも影響しません。経費としては「交通費」や「旅費交通費」などの勘定科目で処理されます。
関連記事:【税理士監修】交通費の請求書で精算するには?書き方や計算の仕方、注意点
通勤手当は一定額まで非課税
通勤手当は、従業員の自宅から職場までの交通費を補助する手当で、一定の金額までは非課税です。支給額が限度額を超える場合、超過分は所得税および住民税の課税対象となります。
非課税限度額は、利用する交通手段や通勤距離によって異なります。
- 公共交通機関を利用する場合:最大月15万円までが非課税
- 自家用車・自転車などを利用する場合:通勤距離に応じて非課税限度額が設定されている
実際にかかった交通費を基に精算する実費支給や、あらかじめ決めた定額を支給する定額支給など、通勤手当の支給方法は企業によって異なります。しかし、いずれも非課税限度額を超えると超過分に所得税が課税される点には注意が必要です。
正しく制度を理解し、法律や税務上のルールに従って通勤費や交通費を取り扱いましょう。従業員の通勤負担を適切にサポートしながら、税務リスクの回避にもつながります。
関連記事:非課税とは?非課税となる取引の種類や注意点を詳しく解説
通勤手当の非課税限度額はいくら?
通勤手当に適用される非課税限度額は、通勤の手段や距離によって異なります。公共交通機関、自家用車・自転車、またその組み合わせによって、それぞれ適用される限度額の基準が設けられています。
また、通勤距離や手段に応じて限度額の計算方法が異なるため注意しましょう。
電車・バスなどの交通機関を利用する場合
電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤する場合、月額15万円までの通勤手当が非課税です(平成28年に10万円から引き上げられました)。非課税限度額内であれば、所得税の課税対象になりません。
ただし、通勤距離や経路が合理的である場合に限られ、以下のような場合は対象外です。
- 本来の最短・最安経路ではなく、遠回りや高額な経路を選んだ場合
- 新幹線通勤でグリーン車を利用した場合のグリーン料金部分
定期券の区間や利用ルートが適切かどうかを、事前に確認しておきましょう。
自家用車・自転車を利用する場合
自家用車や自転車での通勤は、片道の通勤距離が長くなるほど非課税となる通勤手当の上限額も高くなります。
- 2〜10km未満:月額4,200円
- 10〜15km未満:月額7,100円
- 55km以上:月額31,600円
上記が一例ですが、あくまで所得税法上の非課税限度額であり、実際の燃料代や車両の維持費と一致しない場合もあります。非課税限度額を超える場合、超過分は課税対象となり所得や年収に加算される点に注意しましょう。
また、法人名義の原則として駐車場代は非課税の対象外です。しかし、従業員が個人名義に借りた駐車場台相当額を個人に支給する場合は、給与課税となるでしょう。
参考:No.2585マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁
交通機関とマイカーと併用する場合
電車やバスなどの公共交通機関と自家用車・自転車を併用して通勤する場合、それぞれの通勤手段に応じた非課税限度額を合算して計算します。ただし、合計の非課税限度額は月15万円までと定められており、この上限を超える分は課税対象となります。
例えば「自宅から最寄り駅までは自家用車、駅から会社間は電車を利用する」というケースでは、それぞれの費用を国税庁の基準に沿って算出し、合計額が15万円以内であれば非課税扱いです。
なお、他の通勤手段同様、通勤経路や手段が合理的であることが非課税である前提条件です。
通勤手当を計算する方法
通勤手当の計算は、利用する通勤手段によって異なります。
公共交通機関を利用する場合
購入した定期券の金額が基準です。1ヵ月ごとや3ヵ月、6ヵ月分の定期券を購入している場合には、その総額を月割りにして支給されます。定期券がない場合は「片道運賃×2×出勤日」で計算します。
自家用車を利用する場合
会社ごとに就業規則で計算方法を定めるのが一般的です。以下は計算方法の一例です。
- ガソリン単価を使う場合:往復分の通勤距離×勤務日数×ガソリン単価
- ガソリン単価と燃費を使う場合:往復距離×出勤日数×ガソリン単価÷燃費
- 距離単価を使う場合:往復距離×距離単価×出勤日数
自転車を利用する場合
支給額は企業の規則によって異なり、主に距離ごとの定額制が一般的です。
また、年収や扶養判定にも通勤手当が影響する可能性があります。通勤手当が非課税限度額(例えば月15万円)を超えた分は課税対象となり、年収に含めて計算される点に注意しましょう。企業は計算方法を明確にし、従業員へ正しく周知することが求められます。
関連記事:給与と報酬の判断基準とは?税務上の違いや申告ミスのリスクを解説!
通勤手当を計算・支給するときの注意点
通勤手当を計算・支給する際には、非課税限度額を超えないよう注意が必要です。限度額を越えた分は課税対象となるため支給額の設定は慎重に行いましょう。ここでは、特に気をつけるべき3つのポイントを解説します。
支給要件を明記しておく
通勤手当の対象者や支給金額などの支給要件は、就業規則に明記しておくのが基本です。明確にしておくことで、従業員間での誤解や不正申請を防げ、社内のコンプライアンス強化にもつながります。
また、通勤経路の変更があった場合などにも、常に最新の情報で正しく計算できるよう定期的に見直しを行いましょう。こうしたルール作りは、経理処理の効率化にもつながります。
社会保険料の計算に注意する
通勤手当は全額が社会保険料の計算対象です。社会保険料は、基本給や各種手当、通勤手当などを含めた「報酬総額」から算出されます。
所得税では通勤手当の非課税限度額が設けられていますが、社会保険料の計算においては、非課税・課税にかかわらず通勤手当の全額が含まれます。そのため、通勤手当を給与と区分して支給したり、明確に区分して管理したりしても、社会保険料の負担額が軽減されることはありません。
一方、臨時に支給される報酬は、社会保険料の算定対象には含まれません。また、出張時の交通費は実費清算にあたるため、報酬とはみなされず、社会保険料の対象外となるため注意しましょう。
テレワークでは実費分を支給する
テレワークが普及する中、定期券代などを従来通り支給すると過剰支給となるケースも。出勤日数に応じて実費清算や日割り支給に切り替えるなど、勤務実態に応じ柔軟に対応する企業が増えています。
また、自宅勤務が中心となる場合でも、業務上必要な外出に関する交通費は別途支給されることもあります。
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まとめ
通勤手当の非課税限度額は、通勤方法や距離によって異なります。公共交通機関を利用する場合は1か月あたり最大15万円まで、自家用車や自転車の場合は距離に応じた限度額が設定されています。
上限を超える金額は所得税の課税対象となるため、企業側は支給額を正しく把握し、適切に管理・運用することが大切です。