正しい経営判断をするためには実効税率理解が重要です。表面的な税率だけでなく実際の負担率が分かれば、正確な資金計画が可能です。特に中小企業においては制度上の優遇措置もあるため、活用すれば節税効果も期待できます。本記事では実効税率の概要や仕組み、そして令和7年度(2025年度)の税制改正における影響について解説します。今後自社での税務戦略の見直しをご検討の方はぜひ参考にしてください。
目次
法人実効税率とは?
以下では、法人実効税率との違いや計算方法などについて解説します。
概要
法人実効税率とは、企業が実際に負担する税金の割合を示すものです。法人税、地方法人税、法人住民税、事業税などを考慮し、損金算入される事業税の影響も反映させた実質的な税負担率を指します。
2種類の実効税率
実効税率には「法定実効税率」と「実際の税負担率」の2種類があります。法定実効税率は、法律上の税率を合算した理論上の数値です。
一方で、実際の税負担率は、利益に対する実際の納税額を基に算出します。この両者のズレを把握することで、見えない税負担を可視化しやすくなります。
対象となる税金
実効税率は、法人税だけでなく複数の税金の合計で構成されます。法人税のほか、地方法人税、住民税(法人住民税)、事業税、地方法人特別税などが該当します。
地方法人税は法人税の一部に対して課税され、住民税は法人税額に連動する「法人税割」と均等割があります。事業税は所得に応じて課税され、特に中小企業は外形標準課税が免除される場合が多いです。
これらをすべて合算して計算することで、より実態に近い税負担率、いわゆる実効税率が導き出されます。
計算方法
法定実効税率は、「法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率÷(1+事業税率)」で計算できます。
例えば、東京都の外形標準課税適用法人の場合、標準税率のみで計算すると約29.74%、これに超過税率を加味すると約30.62%となります。ただし、実際の税負担割合は、企業の規模や所在地によって変動します。
関連記事:【税理士監修】法人税率の「実効税率」とは?年所得800万円以下の中小企業の計算式はどうなる?
実効税率の重要性
実効税率が重要とされる3つの理由について解説します。
正確な経営判断がしやすくなる
実効税率を把握すると、企業は税引後の利益をより正確に予測し、投資判断や事業計画を策定しやすくなります。
表面税率のみに基づいた判断では、事業税の損金算入効果や各種税額控除といった要因が考慮されません。結果として過大または過小な利益予測につながる可能性があります。
実効税率を用いることで、より現実的な利益見込みに基づいたリスクの少ない経営判断ができるでしょう。
税金の影響を考慮した財務分析ができる
企業の収益性や効率性を分析する際、税金は重要な要素のひとつと言えます。実効税率は税引前利益だけでなく、実際に企業の手元に残る税引後利益に基づいた財務指標の分析が可能です。
例えば、売上高税引後利益率や自己資本税引後利益率などを比較すると、企業間の収益性をより公平に評価できます。表面税率だけでは、企業が享受している税制上の優遇措置や事業規模による税負担の違いなどが反映されません。そのため、本質的な収益力を誤って評価するリスクがあるので要注意です。
国際比較によって実質的な税負担の違いが理解できる
異なる国に拠点を置く企業や、海外進出を検討する企業にとって、各国の税制の比較は重要な検討事項です。しかし表面税率は国によって課税ベースや税率構造が異なるため、単純な比較では実質的な税負担の違いを把握できません。
実効税率で各国の税制における損金算入の範囲や税額控除制度などを比較して、より実態に近い税負担の比較ができます。これにより、国際的な事業展開における税務上のリスクやコストを正確に評価し、最適な進出戦略や投資判断に繋げられるでしょう。
関連記事:【税理士監修】法人税率の変動:各国との比較を交えた推移についての解説|会社設立の基礎知識
中小企業に適用される法人実効税率の仕組み
中小企業には特例が多く、法人実効税率は大企業よりも低く抑えられます。例えば中小企業では法人税率の軽減や外形標準課税の対象外など、税制上の優遇措置が設けられています。
資本金1億円以下の中小企業は通常は23.2%のところ、年800万円以下の所得に対して15%の軽減税率が適用されます。また地方法人税や住民税、事業税も控除や免除の対象となる場合があり、総合的な税負担が軽減される仕組みです。
その結果、表面上の法定実効税率よりも、実際の負担率はかなり下がるケースもあります。このように中小企業の実効税率は制度によって大きく左右されるため、自社の適用状況を正確に把握するのが望ましいです。
さらに特定の業種や地域、雇用状況によって、追加の優遇措置が適用されることもあります。
参考:法人税率の軽減について【適用期限:2026年度末(2027年3月31日)まで】|中小企業庁
令和7年度税制改革による中小企業の法人実効税率の影響
令和7年度(2025年度)の税制改正は、中小企業の法人実効税率に直接的な影響を与える重要な変更が含まれています。以下に、主要な改正点とその影響をわかりやすく解説します。
防衛特別法人税の創設
令和7年度税制改正では、防衛力強化のための財源確保策として「防衛特別法人税」が新設されました。
この防衛特別法人税は、令和8年4月1日以後に適用されます。事業年度から課税標準法人税額から年500万円の基礎控除額を控除した金額に対して4%の税率が課されます。
軽減税率の見直し
中小企業に適用される法人税の軽減税率についても見直しが行われました。所得の金額が年10億円を超える事業年度で、年800万円以下の所得に適用される税率が15%から17%に引き上げられました。
この軽減税率の見直しによって、該当する中小企業の実効税率が上昇し、税負担が増加する可能性があります。
外形標準課税の適用拡大
外形標準課税の適用対象法人についても改正が行われ、将来的に適用対象が拡大される可能性があります。
外形標準課税は企業の所得だけでなく、資本金や従業員数などの外形的要素に基づいて課税されます。そのため、適用される企業の実効税率が上昇することが考えられます。
税務戦略の見直しには税理士との連携が必要
中小企業が令和7年度(2025年度)税制改正を踏まえて実効税率を抑えるためには、税務戦略の見直しが重要です。
しかし税務戦略の見直しは複雑で専門性が高い分野でもあります。そのため、スムーズに税務戦略の見直しを進めるためには税理士法人との連携がおすすめです。
税理士との連携によって最新の税制情報に基づいた具体的なアドバイスや節税効果の高い制度の提案を受けられます。さらに税務調査リスクを抑えた合法的なスキームの策定まで、総合的に支援してもらいたい企業におすすめです。
自社の経営状況に合った最適な税務戦略を実行したい方は、税理士への相談を検討しましょう。
まとめ
実効税率は単なる数字にとどまらず、企業の財務戦略に直結している重要な指標と言えます。特に中小企業においては、税制上の優遇措置や軽減税率を活用すれば大幅な税負担軽減が可能です。
また適切な税額計算や投資戦略、役員報酬の見直しなどを通じて、実効税率を最適化することが企業の競争力向上にも繋がります。そして2025年度税制改正を踏まえて、今後の税負担増に備えた早期の対策を講じなくてはいけないでしょう。
税理士法人と連携し、最新の税制情報をもとに戦略的な経営計画を立てることで、未来のリスクを最小限に抑えられます。小谷野税理士法人では実効税率のお悩みに特化した税理士が在籍しております。
「自社の経営状況に合った税務戦略の見直しがしたい」とお考えの方は、ぜひ一度「小谷野税理士法人」までお問い合わせください。